巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監

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第十章 嫁sの実家

10ー18 レイズ家 その二

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 俺とイスマエルは手をつなぎ、レイズ家従者の案内で離れに向かった。
 母屋の玄関を出たところから、俺は周囲に結界を張っており、仮に結核菌が浮遊していても俺とイスマエルには到達しないようにしている。

 九分九厘イスマエルの治癒能力で曾祖母であるスヴェトラとその御付きの者達のグルジーサポーク癒すことができるだろう。
 だが問題は、その後に面倒な措置が必要なことだ。

 イスマエルが治癒魔法の行使を願い出たときから覚悟はしていたが、今夜は徹夜の作業をしなければならなくなるだろう。
 結核菌は何も無いところからいきなり生じるものではない。

 当然に感染源が存在するのであり、根源はハイデルバーグの貧民街にあった。
 エクソール公爵の統治時代から、掃き溜めのような貧民街がハイデルバーグの南西部にあった。

 結核菌は人獣共通感染症であって、動物もしくは魔物に潜んでいた病原菌が、人にも感染するようになって広がったものである。
 俺が調べた限りでは、貧民街で飼われているアマルゴートと呼ばれるヤギが、感染源になっている様だ。

 アマルゴートは、地球産のヤギに比べると5割増しの体躯を有する家禽であり、おとなしい性質である上に、繁殖率も高いので、その肉、乳、羊毛を得るために、貧民街では日本の曲屋まがりや同様に、人の住む家とほぼ同じ程度の面積を隣り合った羊舎として割り当て、複数を飼育している者が多いのだ。
 但し、肉や乳は多少の臭みがあるので上流階級からは嫌われており、町家でも貧民の食べ物として避けられていることが多い。

 畜産の場合、当然に魔物の存在が問題となるのだが、ハイデルバーグ郊外まで出ると弱小魔物が出現することも稀にあるが、そもそも王都に近い人口密集地域とあって、魔物そのものの絶対数が少ないのでアマルゴートの飼育ができるのである。
 俺の領地であるカラミガランダ辺りは以前に比べると相当に開発が進んでいるが、それでもこのレイズ伯爵領に比べると3倍以上の数の魔物が山野に潜んでいるので、屋外での畜産はリスクが高い。

 カラミガランダの話は別として、この家禽であるアマルゴートの体内で増殖していた結核菌がヒトに感染するようになったのはここ百年ほどのことであり、ハイデルバーグでの患者数は既に住民の10%前後に及んでいる。
 従って、スヴェトラと御付きの者二人を癒しただけではレイズ家の感染は防げないし、場合により結核菌そのものが次第に強化される恐れもある。

 治すならば地域全部の患者を隔離し、一挙に治癒しなければならない。
 ハイデルバーグだけで3万人を超える人口を擁しており、三千人からの患者を治癒魔法で癒すのは難しいし、幼いイスマエルにずっとやらせるわけにも行かないから代替策を講じておく必要がある。

 俺が今夜徹夜しなければならない理由はその代替策の構築のためだ。

 ◇◇◇◇

 離れではスヴェトラの御付きの者とひと悶着があった。
 御付きの者は、ヘレニスとマルレアーズの二人。

 ヘレニスは、スヴェトラの輿入れ時にスヴェトラの実家からついてきた古手の侍女であり、50歳。
 マルレアーズは、旧レイズ子爵領の住民であり、一昨年にスヴェトラ付きとして雇われた18歳の娘である。

 どちらも、グルジーサポークに感染し、特にヘレニスは慢性的に微熱を発しており、咳も酷いようだ。
 放置すればヘレニスも左程長くは無いだろう。

 そうしてそのヘレニスが、母屋から案内してきた従者が声をかけても頑としてドアを開けなかったのだ。
 死病として恐れられているグルジーサポークへの対処は、接近しないことが肝要なのである。

 従って、これまでも必要なの品は全て玄関脇にバスケットの中に置かれていたのだが、今日はドアを開けて、スヴェトラの孫娘の婿とその子を中に入れろという話なので、頑強に抵抗したのだった。
 仕方がないので、マスクと保護メガネ、それに手袋を造り、更には地球の医者が着るような手術着をイスマエルに着用させた。

 勿論俺も同じ装備にして、母屋の従者を5mほど後ろに下がらせ、離れの玄関のドアとカギを魔法で開けた。
 驚きながらも近づかないように奥へと下がるヘレニスとマルレアーズを他所よそに、勝手に離れの二階へと進む。

 一旦は感染を恐れて下がったものの、二人の前進を止めようと執拗しつように二人の侍女が行く手を遮ろうとするが無駄である。
 俺とイスマエルは、魔法で二人の侍女を排除してスヴェトラの寝室に辿り着いたのである。

 カナリアの祖母、イスマエルの曾祖母に当たるスヴェトラは、52歳(地球で言えば67歳ぐらい?)なのだが、髪は脱色していて真っ白だ。
 カナリアの家系は金髪であり、歳を経るとこのように白髪になるのかもしれない。

 室内は薄暗く、その所為か肌艶はあまり宜しくは無い。
 食が細いのか、栄養状態が悪そうで、少し黒ずんだ皮膚にしわが増え、シミ・そばかすが浮いている。

 スヴェトラは横たわっており、俺とイスマエルが入っても寝たままである。
 呼吸はゼェゼェというような耳障りな音を出しているから、たんが詰まっているのかもしれないな。

 俺とイスマエル寝室に入ってしまうと、流石に二人の忠実な侍女は抵抗を諦めたようだ。
 イスマエルが俺を見上げながら言った。

「お父様、すぐに始めて宜しいでしょうか?」

 俺は近くにあった椅子を引き寄せ、その上にイスマエルを載せてあげた。
 そうしてやらないとイスマエルの身長ではスヴェトラの全身が見えないのだ。

「これでひいお婆様がよく見えるだろう。
 私はお前の背後にいる。
 助けが必要ならいつでも言いなさい。」

 イスマエルはしっかりとうなずくと、詠唱を始めた。
 詠唱無しでも治癒魔法は発動できるのだが、聖属性魔法と光属性魔法の合成魔法を発動する場合、詠唱して魔法陣を形作った方が魔力の節約になり、効果も高いので効率が良いのだ。

 イスマエルが発動した淡い銀色と金色の魔法陣はスヴェトラの胸の上方に位置し、それから一つに合わさった。
 その途端、柔らかな光でスヴェトラの全身が包まれ、一瞬だけ煌めくように発光した。

 瞬時に、スヴェトラの体内で悪さをしていた結核菌が全て消滅した。
 但し、結核菌だけではなく、人体にとって有害な雑菌も根こそぎ壊滅したので、スヴェトラの身体は一時的に無菌状態となった。

 抗菌薬耐性菌のMRSAの対処法として知られる無菌療法と異なり、体内の抗体は無事なので左程の問題は無いが、今後しばらくの間は、菌の体内侵入に伴う抗体反応で微熱が出たりすることはあるかもしれない。
 いずれにしろスヴェトラの呼吸は平常に戻り、今は安らかな顔で寝ている。

 後は、食事療法に気を付けていれば、年齢相応の健康体に戻るだろう。
 いや、イスマエルが顔色で心配したのかスヴェトラの身体にかなり上質のヒーリング波動も併せて掛けていたから、年齢以上に若返る可能性もあると思っている。

 それでも精々10年前後の若返りだろうとは思う。
 余り若返ると、カナリアの母ヴェネッサと変わらなくなりそうなんだが・・・。

 まぁ、大丈夫だろう。
 今夜遅く若しくは明日にはスヴェトラも目覚めるはずだ。

 それから同じ寝室にあった、カウチに比較的病状が進んでいるヘレニスを横たわらせ、イスマエルが、同様の治癒魔法をかけ、さらにマルレアーズにも同じ措置を行った。
 次いで、俺が特大の魔法陣を空中に描いて、離れとその周囲の除菌作業を行った。

 恐らく外から見ると離れを中心にかなりの広範囲が一瞬光ったのが見えたはずだ。
 ヘレニスとマルレアーズに説明し、三人の病が完治したこと、様子を見るために三日ほど養生をしてから母屋に戻るように伝えたのだった。

 勿論、これまで禁止されていたであろう見舞いも今後は差し支えないと言っておいた。
 それから養生のために以後の食事についていくつかの注意事項を与えておいた。

 俺とイスマエルは手をつないで母屋へ戻った。
 念のため装備したマスクや手袋等は焼却処分にした。

 実は、地球での時間が比較的自由に取れるようになったことで、あちらこちらの医科大学で色々な知識を取得し、スキルを磨いておいたから、俺自身が結構医療の真似事もできるようになっているんだ。
 こう見えても俺は色々と努力をしているんだぜ。

 俺とイスマエルが戻ってから、治癒魔法の報告を聞いて母屋の方が大騒ぎになった。
 レイズ伯爵、ヴェネッサ夫人、嫡子カスペルそれにカナリアは、早速に離れに行って見舞いがてらスヴェトラの顔を見に行った。
 
 レイズ伯爵の嫡男の嫁ゾラは三人目の子を妊娠中とのことで、明日以降にしなさいと周囲から言われ、渋々母屋に残ったようだ。
 その後夕刻から晩さん会が始まった。

 スヴェトラは不在だが、健康体になれると俺が保証したので、それまでの重苦しい雰囲気が抜けて、盛大に宴が催された。
 それがひと段落してから、俺はレイズ伯爵にお願いをした。

 レイズ伯爵の陣屋の片隅に教会を建てることと、ハイデルバーグの貧民街に守護のためのゲートを設けさせてほしいと言ったのだった。
 ハイデルバーグにはエクソール公爵の居城であった城塞はあるのだが、レイズ伯爵はその城を使ってはいない。

 反逆者の城としてそのまま残すつもりらしく、自らは城の外に陣屋を設けてそこに住んでいる。
 その代わりに城には伯爵の手勢の騎士団が常駐している様だ。

 ハイデルバーグでも旧レイズ子爵領でも、信仰されている神は何故かテセウスという名であり、アルノス神ではないようなのだ。
 現在、アルノス神以外にこのホブランドの神は存在しないはずなので、人が勝手に作った神なのだろうが、『イワシの頭も信心から』という言葉がある通り、信仰対象は人それぞれなので俺が干渉すべきではない。

 しかしながら、貧民街を中心に広がっているグルジーサポークは次第にレイズ伯爵領に広がりつつあるから、これを抑えるための方策として、癒しの場所として教会とゲートを利用したかったのだ。
 その場所として存在しない神様の教会を利用したのでは、御利益も無いだろうから、この地域では数の少ないアルノス神の教会を新たに造って、そこに魔道具の治癒装置を設置するためにお願いしたのだった。

 さもなければ、これから先イスマエルが滞在中は、イスマエルが倒れるまで領民の病気治療に専念しなければならない事態が生じることになる。
 魔道具については、これから何とか滞在中に作り上げると言ったら、レイズ伯爵が呆れていたが、それでも、陣屋の一部に教会を建設することと貧民街の一部にゲートを造ることには同意してくれた。

 その夜早めに寝かせたカナリアを置いて、俺は一人で亜空間の工房に潜り込み、その夜に二つの治癒魔道具を造り上げた。
 いずれもゲートに取り付けられるようロの字をした薄い金属板の装置であり、右側足元付近に魔石が取り付けられるような秘密の箱がついているのが特徴である。

 そうして明け方には、レイズ伯爵の陣屋の外に石造りの小さな教会が建てられ、同時期、貧民街の出口に当たる道路に立派な石造りの門が出現した。
 教会の場合は教会への出入りをするだけで、門の場合はそこをくぐるだけで、それぞれ魔道具が作動し、結核菌等の病原菌を退治するようになっている。

 そうしてそのことは翌朝になって領主であるレイズ伯爵から高札と役人の口で町中に知らされたのである。
 その直後から教会とゲートには多数の人が押しかけた。

 小さな教会に拝礼するだけで、死病とされたグルジーサポークが治ると聞いて多くの不安な人や病人の家族が病人を連れて訪れたのである。
 特に貧民街の方は、飼っているアマルゴートを連れてゲートを通過する人々の姿があった。

 これは役人の指示で、飼っているアマルゴートは必ず月に一度はこのゲートをくぐらせなければならないと通達されたからである。
 この後、レイズ領では急速にグルジーサポークの患者が減少していった。

 この一年後にはハイデルバーグの奇跡とされて、ファンデンダルク侯爵が建てたアルノス教会には近隣から多くの巡礼が訪れる聖地となったのである。
 特にこの教会のひな壇には小さな幼女を模した笑顔のアルノス神様が祭られていることでつとに有名となったのである。

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