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第十章 嫁sの実家

10ー16 閑話 後始末

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 ジュリアを助けたのは良かったんだが、一つ失敗をしていた。
 無駄かもしれないが、こんな場合には変装をして現れようと思っていたのに、すっかり忘れていた。

 ヤキが回ったというのか、あるいは迂闊過ぎたというべきか・・・。
 いずれにしろ、ジュリアの裸をしっかりと見てしまったが、同時に俺の顔もしっかりとみられてしまったようだ。

 まぁ、何もしないという方法もあったが、俺のお節介の虫が動いてしまったんだな。
 これを意図していたわけじゃぁ無いんだが、ジュリアとメリンダにも監視の目をつけていた。

 目をかけているというほどでもないが、二人が俺を慕ってくれているのは知っていたからな。
 元々俺は、この世界の人間ではあるんだが、どちらかというと息抜きがてらに地球を訪れているのであって、行きずりの旅人に近い存在だ。

 それゆえに遊びと割り切っている女性とはベッドを共にしたこともあるが、そうじゃない女性とは一線を超えないようにしている。
 男女の関係になれば、遊びと割り切っている筈の女でも欲が出るようだから、多くてもセックスは五回までと決めている。

 傍から見れば遊んで飽きたら女を捨てていると思われても仕方のないような生きざまだ。
 だが、ここでしばらく長居はしてもいずれホブランドに戻り、次に来る際は、かなり間が空くか、或いは、別人になっているはずだ。

 だから慕ってくれていても、女の子には悪いが結婚はしないと決めている。
 既に、俺の帰る場所はホブランドであって、地球ではないと考えている。

 だから知り合いに何かあれば助けてやろうという程度の緩い監視だったのだが、実際のところ、こんな場面に遭遇するとは思ってもいなかった。

「闇魔法を使う男が居て、監視対象者ジュリアを操ってホテルに入ろうとしています。」

 そのように、監視ゴーレムのδ10127号から、連絡があった時にはさすがに驚いたもんだ。
 俺は、その時、屋敷のプールで水泳をしていて海パン一枚だったから、慌てて着替えてから跳んできたというわけだ。

 まぁ、間一髪というところで助けられてよかったと思うが、正直なところ、この立ち位置は非常にまずいわけだ。
 良くわからん男は、警告を与えたにもかかわらず、何やら魔法を発動しようとしたので、虚数空間に放り込んで始末した。

 脅威を排除したのは良いが、ここはホテルであり、男が一人消えてしまった状況では後々困ることになる。
 特に疑われるのはジュリアになるだろう。

 意思を操られていたにせよ、男と一緒にホテルの部屋に入ったのだから、警察や私立探偵あたりが動くと非常にまずい立場に置かれることが予想される。
 三流週刊誌が騒いで、煽り立てる様子が見えるようだ。

 まぁ、死体なき殺人で、証拠は・・・。
 うん、奴が脱ぎ捨てた衣類が俺の足元に残っているんだが、こいつもいずれ焼却処分だな。

 当面はつじつま合わせに使うかもしれないから、取り敢えずは保管しておこうと思いインベントリに収納しておいた。
 恥ずかしがってベッドの上で身体を丸めているジュリアには、俺のジャケットをかけてやった。

「僕は、トイレに行っているからその間に服を着てくれ。
 そのままじゃ、話もできん。」

「あ・・・。」

 ジュリアが小さな声を上げたがそれには構わず、俺はバスルームへ入った。
 五分ほども経っただろうか、ジュリアがバスルームをノックして、服を着ましたと報告してくれた。

 このままという手もあるんだが、それではジュリアが困った立場になるのは目に見えている。
 少なくとも一旦手を出した以上は、この状況を少なくとも偽装するぐらいまでは面倒見るしかないだろう。

 俺とジュリアは、部屋のソファに向かい合って座っている。
 ジュリアは未だに顔を赤らめているから、裸を見られたことに余程こだわっているみたいだな。

「正直なところ経緯は良くわからんが、あの男に君が意思を操られていたようなので、強制的に割り込んだ。
 男は、・・・、その、始末した。
 二度と君の前に現れることは無いんだが、実はその為に君に疑いがかかる恐れがある。
 だから、このホテルのレストランにこれから食事をしに行かないか?
 少なくともここで食事をして泊まらずに帰ったという証拠だけは残しておきたい。」

「あの、私とヘンリーさんで食事ですか?
 あの男はいませんけれど、それが何か役立つんですか?」

「細かい説明は省くが、僕と君がレストランで食事をすると、周囲の者はさっきの男と君が食事をしていると思うように見える。
 その上で、カギを返してチェックアウトすればだれも疑う者はいないはずだ。
 で、奴の名前は何というのかな?」

「あの、あの、・・・。
 キャンパスで何度か見かけたことがありますので、多分同じUCLAの学生だとは思いますけれど、今日はゼミからの帰りがけに声を掛けられて、その後は私の意思に反してここまで来てしまいましたので、私はあの男の名前を知りません。」

「あ、そうか・・・。
 ちょっと待ってね。」

 俺は男の身元の確認に動いた。
 フーン、宿帳にはアルベルト・Y・オーエンスと記載しているな。

 うん、学生証でもそうなっているか・・・。

「彼の名はアルベルト・オーエンス、UCLAの学生のようだが、聞き覚えは?」

 ジュリアはブンブンと首を横に振って否定した。

「じゃぁ、僕はヘンリーじゃなくって、これから暫くの間はアルベルトって呼んでくれるかな。
 じゃぁ、さっきも言ったように、これから食事に行こうか?」

「あの、ヘンリーさん、そのアルベルトという男を始末したと言いましたけれど・・・。
 もしや、殺したということですか?」

「うん、まぁね。
 あいつはとても危険な能力を持っていたので、人が生きて行けないような場所に送り込んだ。
 だから多分死んだんじゃないかとは思うけれど、僕も行けるような場所じゃないから正確にはわからないな。
 そのようにしたのは間違いなく僕だから、僕が殺したと言っても間違いじゃない。
 どう?
 嫌いになったかい?」

「いいえ、私を助けるためにしてくれたことですから・・・。
 でも、私の目ではあの男がぱっと消えたように見えました。
 その途端、それまで動かなかった私の身体が自由に動くようになって・・・。
 それに、ヘンリーさんもカギのかかっている筈のこの部屋に突然現れたんじゃないのですか?
 これって魔法か何かなんですか?」

「ウーン、それも詳しくは説明できないな。
 ジュリアがアルベルトの意のままに動いたことも、ジュリア自身ではどうにもならなかったはずだし、説明もつかないでしょう?
 奴を消したのは僕の意思だけれど、それを証明することは誰にもできない。」

 少しの間、二人は無言でいた。

「あの、・・・。
 食事に行く前につかぬことをお聞きします。
 ヘンリーさん、私の裸、しっかりと見ましたよね?」

 俺はジュリアの視線を微妙に避けながら答える。

「まぁね、見えちゃった・・かな?」

「あんな状況ですから仕方のないことではあるんですけれど、嫁入り前に男の人に裸を見られるなんて、私、お嫁に行けなくなりました。
 ヘンリーさん、責任を取って私と結婚してくれませんか?」

「おいおい、そいつはまた随分と凄い発想だな。
 大昔ならそういう話もあったかもしれないけれど、22世紀も半ばのアメリカじゃ、女性の裸なんて至る所に溢れているよ。
 僕が雑誌でそんなヌードを観たらその子と結婚しなくちゃいけないのかな?」

「論理が飛躍していることは十分承知です。
 でも、でも、あの・・・、その、直前までいった女の身としては、できればヘンリーさんに嫌な思い出を上書きしてほしいんです。」

「あのね、それもチョット飛躍しすぎ。
 男を消しゴムかなんかと思っているんならその考えを止めなさい。
 それに、君の思っているようなことをすれば、子供だってできるかもしれない。」

「子供ができたら、責任を取ってくれますよね。
 それが私の望みです。」

「あのね、そんなことで男は女を抱いたりはしないの。
 好いて好かれて、リビドーが作用して男女の関係になるのであって、計算づくで男をベッドに誘うもんじゃない。」

「あら、じゃぁ、官能的な姿でベッドに誘って、ヘンリーさんが応じるならそれでもいいのですか?」

「うーん、僕の場合は、事情があって結婚ができない。
 それでも良いなら一夜を共にするのもありだけれど、君の考えは男との一夜の火遊びで済むものじゃないんだろう?」

「はい、ヘンリーさんとの結婚が目標であり、それが有効ならベッドにでも潜り込みます。
 でも結婚できない事情というのは何でしょうか?
 教えていただけませんか?」

「ウーン、この際だから君にだけ言っておこう。
 誰にも言わないでほしいが、僕には妻と子がいるよ。
 だから君とは結婚できない。」

 明らかにびっくりした表情で、ジュリアのお目々が真ん丸だな。

「嘘でしょう?
 だってネットでは独身って・・・・。」

「戸籍上ではそうなっているね。
 でも、実際には妻と子が居るの。
 ということで、この話はおしまい。
 食事に行こう。」

 半分ごまかしながらではあるものの、嘘はついていない。
 地球には居ないが、ホブランドにはたくさんの妻と子供がいるんだ。

 ジュリアをせかして部屋を出たのだが、その前に奴の衣装をコピーし俺の体型に合わせて作り直して身に着けた。
 一瞬の間に俺の服装が変わったので、またもや、ジュリアの可愛いビックリ顔が見えたが、あとはちょっと弱い認識疎外を掛ける。

 ジュリアには影響しないが周囲の目から見ると俺の顔が記憶できるほどは見えない。
 でもその代わり衣服がやたら目に付くことになる。

 ジュリアにはアルベルトと呼び掛けるように言い聞かせて、ホテル内のレストランに行き、二人を印象付けた。
 ウェイターやウェイトレスには、俺の着衣とジュリアの顔が印象に残ったはずだ。

 そうしてチェックアウトのためにロビーに行った。
 このホテルは前金制(米国ではチェックイン時にクレジットカードを提示し、その際に取られてしまう)のようでカード決済が普通なのだが、奴のカードを見るととてもこのホテルの宿泊代が払えるほど残ってはいないことをレストランで確認している。

 どうやら奴はカードを見せて残金がマイナスになるのを承知で払ったらしい。
 そういえば、奴のズボンのポケットには3000ドルほどの紙幣が入っていたな。

 やむを得ないのでその同じ金額を電子的に入金しておいた。
 これで取り敢えずは金の面から割れることは無いだろう。

 ジュリアとひょんなことからデートをし、その夜は彼女のL.A.での拠点であるコンドミニアムの入り口までタクシーで送り届けた。
 その後UCLAに届け出ているアルベルトの住所から、奴のねぐらを探し当て、部屋に入り、3Dテレビの音量を大きくするなどして隣の住人にアルベルトの存在を印象付けた。


 隣から一度「うるせぇ!」という怒鳴り声とともに壁がどんと叩かれたから間違いなく覚えている筈だ。
 無論、この部屋には俺の指紋その他の痕跡は一切残さない。

 それから奴のメモにあった大家さんのところへ行って、急用でフェニックスに戻り、一週間程は戻らないとだけ伝えてアパートを出た。
 大家さんには暗示をかけてあるので夜遅くにアルベルトが訪ねて来てフェニックスに行くと伝えてきたことだけが記憶に残った。

 そうしてその日を境にアルベルト・Y・オーエンスという男の痕跡は消えたのである。
 三か月ほど経ってから、アルベルトの身内が消息不明になったアルベルトの行方を捜し始めたが、その所在は優秀な私立探偵でもつきとめられなかった。


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