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第十章 嫁sの実家

10ー15 閑話 地球とガルドクルトディーヴァ その二

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 仮初かりそめにも、魔王ガルドクルトディーヴァと呼ばれた我が、情けないことに碌な魔力も持たずにこの地球という異界に転移したのが果たして僥倖だったのか否かよくわからない。
 流石にこの異界の常識を知らぬから、我が乗っ取った身体をアルベルトの意思に任せてしばらくは様子を伺った。

 この地球という世界に多数ある国の一つがアメリカ合衆国と言う国であり、その中の更に一部を治めるステートでアリゾナという地域の比較的大きな町からアルベルトがこのロサンゼルスと言う大都市にやってきたようだ。
 なんとロサンゼルスの人口は、450万ほども有るというから凄まじい。

 我が治めていた魔国は10万の人口を誇り、単一の都市であるから、アズベルディラ世界でも十指に入る大都市であったはずである。
 まぁ、国としても10万しかないので左程大きな勢力ではなかったやも知れぬ。

 だが魔国の存在したあの大陸では、大国とは言ってもヨークフェスト王国で国内すべての住民をかき集めても百万に届かぬ人口であったはず。
 にもかかわらず、都市一つの人口で450万とは、我の知る常識から完全に外れておる。

 そうしてアメリカ合衆国自体は、現在4億人を超える人口があるそうな。
 アズベルディラ世界の4つの大陸を合わせても5千万の人口があったかどうか疑わしいものだ。

 この地球という世界は余程人が溢れかえっているらしい。
 アルフレッドは学生の身分であって定職は無い。

 親から仕送りをしてもらっている脛齧りすねかじりなのだ。
 学生と言うのはどうも気楽なようで、毎日勉強をしているというわけでもなく、定職ではないもののアルバイトと言う臨時雇いで小遣いを稼いでいる様だ。

 家からは十分な額の仕送りが来ているから生活や学費に不足は無い。
 が、アルベルトの思う学生生活では、勉強だけでなく遊びも今のうちにしておかねば、就職したならば遊べなくなるらしい。

 「遊ぶ」という概念がイマイチ良くわからなかったが、要は贅沢をしながら楽しく過ごすことらしく、その中には女遊びも入っている様だ。
 アルベルトは、このロサンゼルスでもいかがわしいとされる地域に入って商売女と遊んだこともあるようだが、本命は別にあるようだ。

 アルベルトが抱きたいと思っている女は、同じ大学に通う同学年のジュリア・デッカーという女であり、アルベルトより二つ下の21歳である。
 アルベルトは2年浪人して大学に入った工学部の3回生、ジュリアは現役組で入った経済学部の3回生であるらしい。

 学部が違うと何かと接点が無いのだが、1回生の折にとあるパーティで見染めてしまったわけである。
 単純な話、全くの片思いであり、そもそもジュリアとは挨拶すら交わしたことが無いようだ。

 良く良く調べてみると、ジュリアはアズベルディラ世界で言う大商人のご令嬢であるのに比して、アルベルトはさほど貧しくはないものの地方の小役人の倅にしか過ぎない。
 アズベルディラ世界ならば、商人よりも小役人の方が社会的地位は高いのだが、この地球世界と言うところは、明らかに貧富で社会的地位も変化する。

 一部の例外を除いては、血筋よりも金をたくさん持っている方が社会的地位では上なのだ。
 従って、アズベルディラ世界で平民が貴族の令嬢を慕っているようなもので、滅多なことでは彼の願望は叶えられまい。

 ところで、そのジュリアの顔が或いはアルベルトのひいき目だけの良い顔かと思っていたのだが、実際に拝んでみると、掛け値なしに美人であった。
 スタイルも抜群であり、アルベルトが抱きたいと思うのも当然の女であることは間違いない。

 我もこの地球に来て二月余り、魔力も幾分溜まって、いくつかの魔法も力をセーブしながら使えるようになった。
 そうしてジュリアほどの美姫ならば、我が側室に迎えてもおかしくは無い女と確信するに至った。

 異界とは言えど、こうして新たなる命を得たも同然であるならば、この世界に根を張るのも良かろう。
 子孫を造るなれば、相手は見目麗しき女が良いのは言うまでもない。

 闇魔法を使って意思を奪い、ホテルにでも連れ込んで一度抱いてさえしまえば、我の女にするのは、いとたやすき事だ。
 而して、ある時、ジュリアの大学の帰り道を狙って近づき、話しかけて瞬時に闇魔法で意思を奪った。

 ジュリアは、我の言うまま望むままに動く。
 二人連れ添って、最寄のホテルまで10分ほど歩いた。

 このホテルは四つ星ホテルであり、相応に高い。
 さりながら、アルベルトの長年の思いを叶え、我の側室とすべき女を抱くには少々高いホテルであっても構わないだろう。

 調べると二人で泊まるだけでも、750ドルを超え、食事をすると間違いなく1000ドルを超えることになりそうだ。
 アルベルトのアルバイト料は時給で12~13ドル程度、これまで1日に3時間ほどアルバイトをしていたようだが、概ね3か月分ほどのバイト料が消えることになる。

 まぁ、我もちょいと副業で絶対にばれない盗みでもすれば金はいつでも手に入る。
 現に今も、アルベルトの口座に左程の残金が無いということがわかっているから、通りすがりの富裕そうな人間の財布や近くの店のレジから20ドル札や100ドル札を抜き取って、2000ドルほど、ポッケ代わりの亜空間に収納している。

 ホテルに宿泊するには何の支障もないわけだ。
 フロントに行き宿泊の手続きをした。

 外はまだ夕焼けではあるがホテルのベッドに入るのに、特に問題は無い。
 事が終わってからレストランで食事でもするつもりでいた。

 ボーイが部屋まで案内してくれ、チップを渡して早々に追い払った。
 そうして、ジュリアに服を脱げと言う。

 ジュリアはおとなしく命令に従って一糸まとわぬ裸になった。
 この世界では、事に及ぶ前にシャワーを浴びてからというのが普通かも知れぬが、アズベルディラ世界ではシャワーを浴びる機会はほとんどなかった。

 そもそも男女で湯あみしていないことを気にする者はいなかったと言えよう。
 我もそのまま裸になり、ジュリアをベッドに押し倒した。

 弄ぶもてあそぶつもりで乳房と太ももを撫でたその瞬間、異様な気配を感じて跳び起きた。
 ジュリアはそのままベッドに仰向けに寝たままだ。

 振り返ると、そこに男が居た。
 こちらの世界で言う東洋人の顔つきである。

 ホテルのスタッフの服装ではない。
 こいつもジュリアと同様に金の匂いがプンプンとする高尚な衣服を身にまとっている。

 それよりもカギのかかったホテルの部屋に、何故こいつが居る?
 我は裸のまま怒鳴った。

「誰だ?
 何故ここにいる?」

「男女がお互いに同意して行為に及んでいるなら俺も干渉はしないんだが、お前、異能を使ったな。
 意思を奪い、相手を意のままにするのはここではご法度だ。
 諦めるならそれでよし。
 さもなければ消すぞ。」

 どうやらこの男は我を恫喝している様だ。
 身の程知らずとはこ奴のことだろうな。

 我は、氷魔法を駆使して男を氷結させようと魔力を練った。
 途端に暗転した。

 一瞬にして我の身体であるアルベルトは何処かに転移させられたようだ。
 しかも、あろうことかそこには吸うべき空気が無い。

 空気が無ければ肉体が死ぬことは知っている。
 それでも我の魔法ならば幾分かは耐えられるはずなのだが、何故か魔力は感じられるのに一切発動しない。

 何なのだここは?
 おかしい。

 異界にしても何かを感じられるはずなのに一切が無の世界なのだ。
 無論のこと、魔素も無い。

 こんな空間では身体だけではなく我の魂すらも虚無にかえりそうだ。
 我は必死に頑張ったがついにアルベルトの身体が耐えられずに生気を失った。

 そうして間もなくアルベルトの身体に宿った我の魂もその場に在りながら霧散していった。
 正しくあの男の言ったとおりの消滅だった。

 ◇◇◇◇

 私は、ジュリア・デッカー。
 今日の大学でのゼミを終えての帰り道、知らない男性から声を掛けられた。

 全く知らないというわけではなく、学部は違うけれどUCLAの学生だから、顔は見かけたことがある程度で親しい間柄ではない。
 話しかけられてすぐに異常に気付いた。

 私の意思では身体が動かなくなったのだ。
 名前も知らぬ男の言うがまま歩き出した。

 夕刻前で外は明るく人通りも多いので、一声助けを呼べば誰かが助けてくれるはずなのに、その動作ができないし、声も出ない。
 十分ほど歩いてホテルの前についた。

 ロサンゼルスでも有名な高級ホテルで四つ星だったはず、UCLA受験の際はここに宿泊したから知っている。
 何故ホテルにと疑問に思うまでも無く、この男の狙いは私の身体だと思い至った。

 それがわかっているのに、私は男の言うがままに動いている。
 表情筋ですらまともに動かせずに笑顔を張り付けたままだ。

 第三者から見れば仲の良いカップルが普通にホテルに泊まりに来たと思うだろう。
 そうじゃない。

 私は魂で悲痛な叫びをあげながら、笑みを浮べたまま、ボーイの案内でホテルの一室に着いてしまった。
 ボーイにチップを渡して追い払い、ドアを閉めた名すら知らぬ男は、私に命じた。

「服を脱げ。」

 絶対に脱ぎたくはないのに、私の意思とは裏腹に身体が動き、私はその男の目の前で一糸まとわぬ裸になってしまった。
 この後の展開は、経験は無いけれどわかっている。

 私は意思に反して犯されてしまう。
 それだけは何としても避けたいのだが、何もできない。

 男も裸になって、私をベッドに押し倒した。
 私は犯される。

 鳥肌が立ったがそれだけで、私の身体は全く云うことをきかない。
 どうにもならないから、私は半分諦めていたと思う。

 その時男が跳ね起きた。
 なんだろう?私の乳房や太ももには触られたけれど、まだ私の身体は綺麗なままのはず。

 その時に、私の余り動かせない視界の片隅に、ヘンリー・クロシェールさんの顔が見えた。
 私のあられもない恰好を恥じるよりも、何故ここに彼が居るの?という疑問の方が大きかった。

 その後の展開は早かった。
 まず名前の知らぬ男が言った。

「誰だ?
 何故ここにいる?」

 ヘンリーさんが言った。

「男女がお互いに同意して行為に及んでいるなら俺も干渉はしないんだが、お前、異能を使ったな。
 意思を奪い、相手を意のままにするのはここではご法度だ。
 諦めるならそれでよし。
 さもなければ消すぞ。」

 私からは名の知らぬ男の後ろ姿しか見えないのだけれど、一瞬男が濃い紫色の光を発したように思ったがその瞬間に男は忽然と消えた。
 そうして男が消えた途端に、私の身体は動くようになった。

 私も跳ね起き、身体を丸めて彼の視線から裸を隠そうとした。
 すると彼がすぐに彼の上着を私の身体にかけてくれた。

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  8月27日、一部の字句修正を行いました。

    By サクラ近衛将監
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