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第十章 嫁sの実家

10ー6 コーレッド家 その二

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 ファンデンダルク辺境伯の側室ケリーでございます。
 前回に続いてお話を・・・。

 旦那様が馬なし馬車の製作で稼ぎ出す年間で白金貨24枚という額は、かなり大きく、実は裕福な村の人口を支えるに十分な金額なんです。
 但し、年に八台の生産に限定しているのは、旦那様が色々とお忙しいので片手間に作り上げているという理由からなのですよ。

 それはそうですよね。
 辺境伯という上級貴族の当主が、毎日職人のように物造りをされているのであれば、貴族当主本来のお仕事ができませんもの。

 それにしても白金貨24枚は、金貨2400枚相当になるので、ヴォアールランドの本宅及び王都別邸に働く侍従やメイド、それに私達家族全員の分の衣料費と食費をそれだけで稼いでおしまいになるのです。
 もちろん王都で従来売られていたような高額なドレスや宝飾品などを多数揃えるのは無理でございますけれど、ファンデンダルク領では、王都で売られていた貴族用の衣料品に勝るドレスを造り、宝飾品も作っていますから、私たちは多分従来の十分の一以下でより質が高く洗練されたデザインの品を入手できているのです。

 これらの製品も旦那様の指導により生み出されたものであり、中でも優雅で肌触りの良い各種下着類は我が領内の特産品として領外に大量に移出されているのです。
 旦那様は他にもいろいろと生み出され、それが全て大量の金貨に化けていますから、ファンデンダルク家の家計はものすごく豊かなのです。

 貴族というものは見栄を張る生き物ですが、旦那様がいる限り必要経費に不安はありません。
 それでも正室のコレット様を中心にして定期的に嫁達の会議を開き、無駄遣いを抑えると同時にノブレス・オブリージュの使途として何に充てるべきかを打合せしています。

 旦那様からは領内の経済を回すために一定のお金を使うようにと言われているのです。
 半端な金額ではありませんよ。

 正室・側室ともに年間で紅白金貨5枚(10億円相当?)を割り当てられているのです。
 まとめ役のコレット様の話によれば、使わないと貯まる一方のお金なんだそうです。

 民に還流してこそ回る経済とも伺っておりますから、いかに有効にかつ効率的に使うかが問題なわけで、非常に贅沢ともいえる問題に毎月私どもは頭を悩ませています。
 コーレッド家では、逆に予算が足りず、節約するのに色々頭を悩ましていたというのに・・・。

 ◇◇◇◇

 今日は、かねてよりの懸案であった実家への御里帰りです。
 御里帰りという風習はジェスタ国には無かったのですけれど、旦那様が国王様と宰相様に掛け合い、承諾を貰って来たのです。

 貴族の娘は、嫁入り後は余程のことがない限り、実家に戻ることはありません。
 嫁いだ後は、親の死に目にも中々会えないのが普通なんです。

 実家に戻るのは離縁された時だと私は聞いて育ちました。
 ですから最初その話を聞いたときは離縁のお話かと思い、側室一同が真っ蒼になりました。

 でも私達の早とちりで離縁のお話ではなく、孫の顔を見せに一時的に帰るのだと聞いて安心しました。
 旦那様はやはりお優しいのです。

 普通であれば、私たちが旦那様と共に王都参詣の折、実家の祖父母又は両親が、貴族当主としてたまたま王都に滞在していれば、孫の顔を見ることができるくらいであり、祖父母などは、隠居してしまえば殆ど孫の顔を見ることができないのが普通なのです。
 これまでは実家に帰ろうとすれば、仮に隣の領地であろうとも二日がかり三日がかりなのですから、遠く離れた領地ならば行き来も大変であるのです。
 
 仮に、ベルゼルト魔境に隣接するエベレット子爵領からジェスタ国最南端の地を治めるクレグランス辺境伯領まで旅をすると、どんなに急いでも間違いなく10日はかかります。
 貴族の場合、見栄というものがありますので王都参詣など公式の旅においては、家臣・従者を多数引き連れて途中の宿場町で大枚の金を落とすのが慣例となっており、遠隔地への旅行の場合はとにかく金がかかりすぎるのです。

 リューマ卿は、王家近親者として一年に一度の王都参詣の際には、慣例に習って300名近い行列で王都に向かいますけれど、王家への報告など急を要する場合には少数の伴の者だけを連れて王都との間を往復なされるのです。
 それも馬なし馬車という疲れを知らぬ乗り物があったればこそできる話であり、カラミガランダと王都との間は場合によっては1日で往復できてしまうのです。

 私の実家であるコーレッド領も、通常であれば片道6日から7日の旅行日が必要なのですけれど、馬なし馬車を使うと王都別邸に一泊して、翌日の夕刻までにはコーレッド領についてしまいます。
 貴族としての矜持のようなものもあって、相応の騎士と従者が伴になりますので、大小の馬なし馬車七台を連ねての旅行になりますが、人員は旦那様も含めて40名と至って少ないのです。

 まぁね、王都参詣のように300名も引き連れてコーレッド伯爵領を訪問されてしまったなら、もてなす側の実家の家計が大変なことになってしまいます。
 既にバイフェルン伯爵領、ヘイエルワーズ子爵領での実績があるように、旦那様は実家に一泊だけされて、私と子供たち三人はその後半月近く実家で滞在することになるのです。

 これだけの時間があればお爺様お婆様とも子供たちをゆっくりとお話させることもできますし、子供たちに実家の領内を見せてあげることもできるというものです。
 子供たちはとても賢く育っていると思います。

 旦那様の方針もあって、側室であれ正室であれ、子供たちには一切の分け隔てなく育てています。
 上の子5人、フェルディナンド、アグネス、サムエル、ビアンカ、マクシミリアンは、いずれも4歳で、次の子たちエミリア、セシリア、イスマエル、ロベルト、トリスタン、クリスティア、フィデル、イサク、セレスディアはいずれも3歳、これらの子たちはこの年頃の子たちにしては聡明すぎると我が家のメイドたちに噂されています。

 勿論その下にも二歳の子や一歳の子もいるのですけれど、兄弟姉妹皆がとても仲良しで、皆がフェルディナンドやアグネスの采配で、学び、遊びそして面倒を見ているのです。
 子供たち全員が集まって色々と振る舞う様子は,とても可愛く、7歳にして入学する幼年学校の幼児版のようでもあります。

 そうそう、旦那様の領地では学校を作って、幼いうちから学習をさせています。
 身分にかかわりなく無償で施される学習機会は商人達や騎士達にも好評です。

 商人であれば、文字を覚え、算術を覚えることが商売をする上での大事な武器になるのです。
 騎士達は、同じく文字を覚え地理を覚えることで領内の知識が手に入り、必要に応じて文官としての道も開けるのです。

 貴族の子は10歳で王都にある王立学院に入る慣例になっていますけれど、ファンデンダルク家の子は、5歳で領内の学院に入って学問を学ぶことになっています。
 貴族の子女は、10歳になる前にそれぞれの家で教育はなされ、相応の知識は身に着けて王立学院に行くことになり、王立学院では貴族同士のつながりの中で友人を見つけ或いは婚約者を見つけることになるのです。

 王立学院は10歳から14歳までの四年間を学びますけれど、貴族の娘の場合、結婚は成人を迎える16歳が多く、その前に婚約者を見出すことになります。
 私の場合、王立学院で伴侶になれそうな殿方にはお会いできませんでした。

 普通の場合、年上の男性が対象になり、学院では精々三つ上までの方としかお会いできない所為でもあります。
 そもそもが、嫁入り先はお父様の都合で決められることが多く、特に派閥で敵対する家との交際は絶対に許されないのが不文律なのです。

 幸いにして私は派閥の幹部からご指名を受けて、旦那様との見合いを果たし、正室候補であったコレット様からも許しを得て、ファンデンダルク卿の側室となることができたわけです。
 母が言うように本当に素晴らしい出会いであったと思います。

 コーレッド伯爵領では、きっと両親、それにお爺様とお婆様が首を長くしてお待ちのはずです。
 旦那様のお話では、バイフェルン家とヘイエルワーズ家では少々問題があって訪問を早めたけれど、残りの側室の実家訪問については特段の事情がない限り三か月おきにするとのことでした。

 この次はエリーゼ様のウェイン伯爵領になる予定で、概ね三か月半後になると伺っていますわ。
 あぁ、もう懐かしのコーレッド領に入りましたわ。

 久方ぶりのあの山、この森の景色、私が育ったコーレッド領の北端の村フレミアンに違いありません。
 さてさて、当座は実家でゆっくりと落ち着くとしても、子供たちをどこへ連れて行ってあげましょうか?

 もしかすると子供好きなお爺様やお婆様が既に計画を立てていらっしゃるかも。
 お会いしたら是非に相談してみましょう。

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 6月24日、一部字句修正をしました。

   By サクラ近衛将監
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