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第十章 嫁sの実家

10ー5 コーレッド家 その一

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 側室マリアが子供たちとともに無事帰宅してから三か月後、俺は側室ケリーの実家であるコーレッド伯爵の領地であるリゴレッテを訪れることにした。
 最初のバイフェルン伯爵家及びヘイエルワーズ子爵家については、種々問題があったので急いで対応したが、他の嫁sの実家については今のところ特段の問題は起きていない。

 従って、少し時期を遅らせたわけである。
 ケリーは、コーレッド伯爵家の四女であったが、縁あって俺の側室としてマリアやエリーゼと同じ時期に側室として嫁いできた。

 同じ時期とは言いながら、側室としての婚儀の日は三日ずつずれている。
 マリア、ケリー、エリーゼの順だったが、何故にその順番になったのかは良くは知らない。

 或いは嫁ぐ用意ができた順番だったのか、はたまた、コレット当たりの差し金であったのかは知らない。
 いずれにしろ俺にとっては、側室はみな同列だ。

 正室だけ違うのかと言うと、俺の意識の中では左程でもない。
 家柄がどうのこうの言っても最終的な評価はその人物の人柄で決まると俺は思っている。

 親が偉いから、あるいは先祖が偉いからその子孫も偉いなどとは絶対に言えないだろう。
 こんなところが平成の日本に生まれ育った俺の、この世界の常識とかなりずれた感覚なのかもしれない。

 ホブランドは、絶対王政が君臨する中世の世界そのものだ。
 そんな中で身分制のデメリットを論じても意味がないのは重々承知している。

 そもそも俺自身が叙爵されて、今では辺境伯に任じられている。
 デュホールユリ戦役の後では内々に侯爵の陞爵まで打診されたのだが、敢えて断った。

 平民からの成り上がりであり。過去に例がないことと、侯爵に陞爵すると、曰く因縁のあるエクソール公爵領の大部分若しくは失脚した王弟派貴族の領地等との入れ替えの可能性が多分にあったからだ。
 どの領地に替えられてもそれなりの成果を上げられるとは思うが、せっかく育てたカラミガランダとランドフルトの職人達や商人達、そうして農民達と縁が切れるのが惜しいのだ。

 せっかく俺の領地に根付いた職人達などを仮に引き抜いてしまえば、カラミガランダとランドフルトの領地は寂れるに違いない。
 俺の場合、この二つの領地以外にも切り取り勝手次第のベルゼルト魔境の二大都市もある。

 シタデレンスタッドとウィルマリティモの城塞都市は、俺が造った国王承認の飛び地の領地だ。
 それを奇貨として、別の飛び地を押し付けられてもたまらん。

 あちらこちらに代官を派遣するとなれば人事管理が大変になるのは目に見えているからな。
 従って、俺としてはウィルマリティモにおける海軍の育成と、シタデレンスタッドにおけるダンジョンでの食糧安全保障を重視する観点から現状の維持をお願いしたわけだ。

 宰相と国王には渋々ながらも認めてもらったが、シタデレンスタッド及びウィルマリティモ、更にはカラミガランダとランドフルトの合計人口が50万人を超えた時点では侯爵に陞爵するぞと念押しされてしまったよ。
 因みにベルム歴729年晩春月までの統計では、四つの領地合わせて約20万強だからまだ余裕はあるんだが、実のところ毎月千人から千五百人前後の移入人口が増えていると報告を受けている。

 年間にすると約2万人近いよそ者が徐々に外から入ってきており、加えて最近の出生率の増加から考えると10年後には間違いなく50万を超えると予想されている。
 これも俺の領地が豊かになり子供を育てる十分な金を生み出せるようになった所為でもある。

 住民が安心して子供を産み育む環境の醸成は喜ばしい限りであり、根付いた住民を締め出すわけにも行かないから、将来的に侯爵に陞爵することもやむを得ないかと考えているところだ。
 その頃には俺も三十路を超えているだろうから、それなりの風格も・・・、いや無理かな?

 そう言えば、正室コレットとシレーヌの嫁入りの場合は、同じ日の婚儀で良かったのだが、ケリー達三人の側室は俺にはよくわからない理由で三日おきの婚儀となり、連チャンで婚儀と初物食いをしてしまったわけだ。
 まぁ、俺も彼女達も夜の秘め事に関しては十分に満足していたから何も問題はない。

 その三つの婚儀は王都で為されたわけで、その際には三人の側室の家族も王都まで出向いて婚儀に出席していた。
 従って、その際にコーレッド伯爵の奥方様とも顔を合わせて入る。

 通常嫁入りは夫の領地で行われることが普通であるようだ。
 隣り合って余程近いなど特別な場合を除き、滅多に嫁の両親が婚儀に出席することはないのだが、俺の場合は色々あってこの時期既に嫁いでいるコレットやシレーヌとともに王都別邸に居ることが多かったのだ。

 結局は五人目の側室カメリアを迎えるまでは、王都別邸が俺たちの新婚生活のメインだった。
 六人目の側室ケイトからは、カラミガランダにある領都ヴォアールランドの本宅に迎え入れるようになったわけだが、ここでも儀式めいたものがあった。

 五人目までは王都での婚儀に際して両親や親族なども出席できたのだが、ケイトからは生まれ故郷である領地で両親や親族とお別れの儀式を済ませ、迎えに出たランドフルトの騎士二十名とバーナード男爵領の騎士二十名が護衛する中、ランドフルトから派遣されたメイド三名執事一名、それにバーナード男爵領からの御付きメイドがケイトの周囲を固めて、ランドフルトまでの嫁入り道具とともに花嫁道中を繰り広げたわけだ。
 俺の領地に入るところで、俺が花嫁を出迎え、本宅に到着した翌日に輿入れの儀式が教会で為されたことから、この婚儀の際にはケイトの身寄りは誰もいなかったわけだ。

 しかしながら、これが普通の嫁入りなのだそうだ。
 下手をすると顔もほとんど知らない婿の元へ嫁いで行かねばならないのだから、物凄く可哀そうな気もするが、それが普通の貴族の婚儀と言われれば止むを得まい。

 その意味では事前に逢瀬を重ねることのできた俺達の場合は非常に稀なケースのようだ。
 俺が王都に滞在したからこそ簡単にできたことであり、普通の貴族当主ならば精々三年に一度の王都参詣ぐらいしか王都での逢瀬は作れない。

 当主ではなくて未だ職責を担っていない嫡男等の場合は、自由な行動がとれるの逢瀬も作れる。
 しかしながら、婿が当主である場合、実際問題としては、嫁候補なり側室候補なりに会うことさえ実はかなり難しいんだ。

 俺がコレットに言われてやった側室候補とのデートは、実は領地持貴族ではなくて、法衣貴族によく使われる慣行であったらしい。
 まぁ、できるならばそれに越したことはなく、その間に問題があれば排除するという正室コレットの計らいであったようだ。

 今回のケリーの実家帰省に関しても、これまでの嫁sの実家訪問と同様の体制である。
 同行者の数、警護の人数、それに車両の数も変化はない。

 同伴する子供は、次女ビアンカ四歳、七男トリスタン三歳、十一男マリオ二歳である。
 皆数え年であり、マリオなどは生まれてから14か月ほどしか経っていない。

 地球なら一歳二か月になるわけだが、ホブランドでは生まれてすぐに一歳、翌年の初春を迎えると二歳になるので、ホブランドの一年(16か月)を経ずして二歳になるのである。
 マリオの場合、ようやくヨチヨチ歩きに毛が生えた程度だ。

 流ちょうな会話は到底無理だが、片言の言葉を少し発し、思念での会話は既にかなりできている。
 兄弟姉妹から色々と教えてもらっている様なので、多分この子も他の子と同様に発育・知育が速いだろうと思われる。

 ◆◇◆◇◆◇

 私はケリー。
 正式な名は、ケリー・ナーロ・アグティ・ダヴァ・ファンデンダルクなのです。

 夫のリューマ殿が伯爵であった際は、ケリー・ナーロ・アグティ・ヴィン・ファンデンダルでした。
 正式名というのは滅多に使われることはないのですが、例えば外国の要人などの訪問があった場合であって、自ら名乗る必要がある時には使用されることがあるのです。

 「ナーロ」とは側室の意味があり、側室に優劣はありませんので、たとえ複数の側室が居ても「ナーロ」です。
 この「ナーロ」の位置に「ポィズ」があれば、正室の意味合いです。

 勿論、嫁ぐ女の身としては「ポィズ」が冠されるのが望ましいのは間違いありません。
 しかしながら、私がリューマ殿と初めてお会いした際には既に本妻候補として第二王女様が居ましたから伯爵の四女でしかない私には望むべくもありませんでした。

 私の側室入りは、父から命じられたことであって、私の意向が入ったものではありません。
 勿論、貴族の娘として生まれてきた以上、父親の命に従って何処へでも嫁いでゆく覚悟はできておりました。

 初めて夫となるリューマ殿にお会いした時、びっくりしたのは5人もの貴族の娘が同じ場に居たことでした。
 そこに居合わせた娘皆が側室候補であり、互いにライバルなのだと気づきました。

 男爵、子爵、伯爵の娘であって、年齢は12歳から15歳まででしたから、私の年齢15歳はぎりぎりであったのでしょうか?
 集団でのお見合いのような形でお会いしたリューマ殿は、平民から二度の叙爵を賜って伯爵になったと聞いていましたが、実のところ驚くほどお若い殿方でした。

 伯爵の嫡男であればともかく、私の長兄よりもお若い方が伯爵位を頂いているなんてこれまで聞いたことがありません。
 ご当主が早逝されて、嫡男が若くして伯爵に着くという事例は稀にございますが、今回はそうではないのです。

 リューマ卿が自らの力で偉業を成し遂げられ勝ち得た叙爵なのです。
 リューマ卿は、冒険者であり、かつ錬金術師でもあるそうで、襲来した黒飛蝗から王都を守った英雄様でもあるのです。

 事前の伯爵という身分からみて年の離れたオジサマを想定していただけに、目の前に居るリューマ卿は私の目からはとても素敵な殿方に見えました。
 リューマ卿は誰に対しても偉ぶらず、そして優しい方でした。

 お見合いの最中さなかにほんのわずかの間だけリューマ卿と連れ立って庭を歩く機会がございました。
 私だけではありませんよ。

 参加者五人全員が、一人ずつ、リューマ卿と庭をわずかな時間散策し、お話をするのです。
 私の場合、殿方と二人で歩くなどそれまでにしたこともなかったですから、実際のところ緊張していて何を話したかよく覚えていないのですが、庭先の飛び石が続く小径で、私がちょっと躓いてしまい、危うく転びかけたところをリューマ卿が淀みのない動きで私を支えてくださいました。

 私も貴族の娘として万が一の場合のために懐剣を使った武術を習っていましたので、その際のリューマ卿の滑らかな動きには目を見張りました。
 そうしてただ一言、「おみ足は大丈夫ですか。」と言ってくれたのです。

 その途端に私は、恋をしてしまいました。
 リューマ卿の視線、発する言葉、その手の動き、足の運び、すべてが私の感性に働きかけていました。

 そうして私が席に戻り、他の方も同様にリューマ卿との庭の散策をなして五人全員との散歩が終わると、次の試練がありました。
 既にリューマ卿と婚約を交わされているコレット嬢とシレーヌ嬢から質問が浴びせかけられたのです。

 貴族の子女及び才女として、どう動くべきかを問うものであり、12歳のライバルでさえ淀みなく答えていたのには正直なところ驚きました。
 私も卒なく答えたつもりでしたが、すべてが終わって本当に失敗は無かったのかと少し不安になりました。

 二日後、父から私を含めて五人すべての娘が側室候補になったと知らされ、ほっと安堵のため息をつきました。
 少なくともライバルと同じスタートラインには立てたのです。

 それから半年以上、月に二度のリューマ卿との逢瀬がありました。
 逢うたびにどんどんリューマ卿に惹かれて行く自分がわかりました。

 お会いするのが楽しみで待ち焦がれている私を見て、母が笑って言いました。

「ケリーがそんなに情熱家だとは知らなかったわ。
 でもいいお人に出会えて良かったわね。
 貴族の嫁入りというものは、嫁いでから幸せになるよう努力するものだけれど、側室とは言え、あなたが恵まれた人に嫁ぐのはとても稀有なことなのですよ。
 旦那様を大事になさい。」

 そうして待ちに待った嫁ぐ日、普通ならばお父様の領地から旅立ち、御付きメイドとともに当主の領地へ嫁ぐのですけれど、リューマ卿はここしばらくは王都別邸に滞在されるので、婚儀は王都の教会で執り行われることになり、お父様お母様も列席しての婚儀となりました。
 私の前には、コレット様、シレーヌ様が半年以上も前に嫁がれ、それにマリア様が三日前に嫁がれ、私の婚儀の三日後にはエリーゼ様の婚儀も予定されています。

 婚儀の日、厳粛な中にも嬉しさと強い緊張感が共存する中で、所定の儀礼をおこない、私は正式にリューマ様の側室になりました。
 披露宴があり、その夜、初夜を迎えました。

 とても不安でしたけれど、リューマ様は既に経験あるお方です。
 彼に任せれば良いと身を委ねた私です。

 ちょっとだけ涙で**にサヨナラし、その日から二日間はしっかりと愛し、愛されました。
 その二日間、リューマ様は間違いなく私だけのものだったのです。

 三日目には婚儀を済ませたエリーゼ様に旦那様を託しました。
 驚いたことに、多分同じ時期に嫁いだ三人(マリア、私、エリーゼ)とも、その親密な二日間で妊娠しました。

 ですからおよそ10か月後にはそれぞれが第一子を産むことになったのです。
 私達の旦那様は素晴らしい方です。

 領地で色々な産業を興し、農業も様々な改革をしています。
 女性や子供には優しい方なのですよ。

 私だけではなく誰にでも優しいというのがちょっと気になりますが、ちゃんと閨の順番があって、私の時にはしっかりと愛してくれますから、私は大満足ですけれどね。
 元々伯爵に叙爵されたときに旦那様に与えられた領地は、一つは王家の領地、今一つは爵位を返上された子爵の領地でしたがいずれも農業の盛んな穀倉地帯でした。

 でもそれを旦那様がさらに発展させて税収を上げているのです。
 従来よりも税率は下げているのに税収が上がるというのはそれだけ生産性が上がっているからなのですが、穀物だけではなく、ワイン作りや陶芸、ガラス工芸など様々な産業を発展させました。

 自らは馬なし馬車を作り上げ、年に八台を限定生産し、国王派の派閥を中心に順次売りつけています。
 その値段実に1台当たり白金貨三枚です。

 私も領地経営に多少の知識がありますけれど、父の領内で作られた小麦は、1ボレム当たり概ね大銅貨1枚ほどの価値があります。
 多少の違いはありますけれど、一人当たりの小麦の年間消費量は100から120ボレムほどでしょうか。

 ですから年間では小麦粉代として大銅貨120枚(大銀貨1枚と銀貨二枚)程度が必要なわけですが、四人家族ならその四倍。
 小麦粉だけでなく野菜や肉も必要ですので年間では一人当たりの食費で大銀貨二枚半程度が必要とされています。

 四人家族ならば年間で金貨一枚が食費として必要になるのです。
 私の実家コーレッド伯爵領では人口はおおよそ12万ほどですので、食費として年間では金貨三万枚(白金貨で三百枚)が必要なわけですけれど、旦那様お一人で馬なし馬車をおつくりになって白金貨24枚相当を稼ぎ出してしまうのですからびっくりです。

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 6月17日及び7月12日、一部の字句修正を行いました。

  By サクラ近衛将監
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