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第八章 魔の兆し?

8-6 デ・ガルドの殲滅~邪神の加護を持つ者

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 俺は、デ・ガルドの動向に留意している。
 彼らはオブレンコ枢機卿の命により出立準備を成していた。

 現状ではデ・ガルドの派遣要員全員に監視ゴーレムを個別に張り付けている状態だ。
 注意をしなければならない隊員は、二人だろう。

 アルベッキオとハルトムートだな。
 アルベッキオは空間魔法の使い手であり、周辺の空間に違和感を持っているようだ。

 同じくハルトムートは、闇精霊ティーネブリスの召喚能力を持っており、その闇精霊から注意喚起を受けているようだ。
 但し、ティーネブリスも違和感を伝えてきているだけでその正体を把握しているわけでは無い。

 原因は、俺が配置している監視ゴーレムの存在だろう。
 百分の一秒遅れの亜空間に存在する監視ゴーレムは、異能を有する彼らの能力をもってしても探知外なのだが、それでも通常とは異なる雰囲気が違和感を生じさせる。

 だが、その状態が常態化してしまうと、彼らも気にしなくなった。
 小さな異常であってもそれが常であれば、特段の不利益を被らない限りは無視するようになってしまうのは人の常である。

 トレーニングで足首におもりの入ったアンクレットを付けたなら、当初は違和感を感じ、その重量が気になるだろう。
 しかしながら、常時その状態ならば人は慣れてしまうものなのだ。

 この二人も二日目には異常と捉えずに無視するようになった。
 違和感のあった時点でリーダーであるオブレンコに伝えていれば、あるいはその後の展開が違っていたかもしれない。

 デ・ガルドの選抜メンバーは以下の通りだ。

 ミハイル・ジゥ・オブレンコは、カルデナ教団第4階位の枢機卿であり、デ・ガルドを束ねる者なのだが、今回は派遣チームのチームリーダーとして出撃する。
 アブレスキー(男)は、洗脳能力(大)を持ち、今回の出撃ではサブリーダーの地位にある。

 サリババ(男)は、アンチ聖魔法による病魔生成能力を有する。
 ハルトムート(男)は、闇精霊ティーネブリスの召喚能力を有する。

 アルベッキオ(男)は、空間魔法の使い手である。
 ヒルデブラント(男)は、聖魔法の使い手である。

 ヤーコブ(男)は、念動力(PK)の使い手である。
 ビルギット(女)は、火属性魔法よりも強力な炎の使い手(パイロキネシス)である。

 ハンネローレ(女)は、水属性魔法よりも強力な液体の使い手(アクアキネシス)である。
 イルムヒルト(女)は、地属性魔法の使い手である。

 マルガレーテ(女)は、風属性魔法の使い手である。
 ヨーゼフ(男)は、光属性魔法の使い手である。

 ルーカス(男)は、魔物召喚術師であり、優秀なテイマーでもある。

 派遣されるのは以上の13名だが、このほかにも、ブレーブス(男:認識疎外・隠形の特殊能力を有する)と、限定的テレパスであるクラウス・アウグス(アウグス兄)が既にジェスタ国に潜入している。
 なお、今回テレパスの片割れであるギュンター・アウグス(アウグス弟)は留守番である。

 今回のデ・ガルドの派遣要員で選出されたメンバーの能力は、中々に優れたものがあるから俺の部下にできれば役立つだろうが、生憎と幼少の頃から受けた宗教的な洗脳を覆すのは難しい。
 カルデナ教団への信仰心を失えば、彼らは躊躇なく自裁を選ぶだろう。

 俺の力で無理やり洗脳することはできるが、その場合生ける屍を抱えることを覚悟しなければならないだろうな。
 操ることはできるが、自由意思のない生けるゾンビだ。

 それならばむしろ楽に死なせてやった方がいいだろう。
 どうも、地球世界で俺の身内が誘拐された時にも感じたことだが、この異世界に来てから俺は人の命に対する尊厳とか敬愛の念が薄れてきているようだ。

 端的に言えば、悪人は生きる価値もないとさえ判断している。
 無論、その者に更生の余地があればそれなりの配慮はするのだけれど、最近はそれが面倒と感じているのも事実なんだ。

 権力と強大な魔法の力を持って偉ぶっているわけでは無いんだが、余りにも更生の余地が無い奴が多すぎて半分諦めた感じかもしれないな。
 そうなると余り無駄なことはしないで簡単に処理してしまうことになる。

 で、今回は、まさしくその典型だ。
 更生が見込めない狂信者集団は、むしろ殉教させた方が世のためにも本人たちのためにも良いだろうと判断した。

 但し、いつものことながら、そこに至るまで俺の頭の中ではかなりの葛藤があった。
 だから彼らがカルデナ神聖王国を発ってから三日ほどは一応悩んだものだ。

 だが最終的には彼らを抹殺した。
 彼ら13名は隣国であるアレシボ皇国の半ばまで達していたが、その夜、彼らの野営地に隕石が落ちた。

 隕石は燃えながら高速で地表に衝突し、猛烈な爆発と衝撃を引き起こした。
 その結果として、彼らの野営地を中心として直径3ケールの範囲に深さ二百尋に及ぶ大きなクレーターが生じたのだった。

 無論、野営地に居た13名は跡形もなく燃え尽きあるいは爆散した。
 生存者は誰もいない。

 隕石は、俺が発動したメテオ(小)である。
 たった一つの隕石でも燃え尽きずに地上に落ちれば大きな被害を産む。

 大規模なものを発動させたなら、今回よりも大きな隕石が複数降り注ぐから、おそらくは俺の造ったシタデレンスタッドでさえ破壊しつくされるだろう。
 次いで元凶の一つであるリグレス伯爵領に居たハミュエル司祭とジェスタ国に潜入していたブレーブスとアウグス兄を監視ゴーレムに殺害させた。

 ハミュエル司祭の奴隷となっていた修道女及び侍祭の五人はいずれも奴隷のくびきを外し、自由にさせた。
 彼らはその夜の内に密かに領都を抜け出していた。

 一応の監視は付けているが、俺やジェスタに敵対しない限りは放置するつもりだ。
 仮にカルデナ教団の目に留まれば再度奴隷化されることは明白だから、彼らは世を忍んで別の場所で生きるだろう。

 あるいは俺の領内に逃げ込むかもしれないな。
 彼らは俺がハミュエル司祭の申請を拒否したことを知っているからである。

 彼らには、「カルデナ教団からの逃亡者」と言う称号がついているが、これは入域拒否の理由にはならない。
 以前と違って、俺のシタデレンスタッドにも自由に入れるはずだ。

 更に、同じ夜にカルデナ神聖王国の法王猊下と神聖王国内に居た枢機卿14人が一斉に急死した。
 一切の外傷はなく、死因は不明であり、治癒魔法の使い手は、検視の結果として、心の臓の停止による病死と判定した。

 カルデナ神聖王国はこの後に急速に国力を低下して行く。
 その主たる原因は、法王以下幹部クラスの逸失であり、彼らが握っていた秘密情報が次代に受け継がれなかったことが大きな理由でもある。

 一方で、彼らを動かしていた陰の存在が憤怒の形相で動き出した。
 邪神の欠片を持つエベテリオス侍祭である。

 俺はエベステリオスが邪神の欠片を持っていることには気づかなかったが、奴の強大な洗脳力には気づいていたから、大勢居る侍祭の中でも特別に奴にだけは監視ゴーレムをつけていた。
 そうして彼がその能力を隠匿しつつ、カルデナ神聖王国の幹部連中を陰で操っていたことを知っていた。

 奴は、故有って、表立って目立つことを避け、あくまで影のフィクサーとしてカルデナ神聖王国で立ち回っていた。
 当然のことながら、法王とその配下である枢機卿たちの動きも十分に承知していた。

 しかしながら、40年近くに渡って秘密裏に築き上げてきた組織が、一夜にして瓦解したのを目の当たりにして、普段の冷静さを失い憤慨した。
 怒りは時として知性を置き去りにする。

 邪神の欠片を身に持つ彼は、邪神の加護を受けているがゆえに長命であり、再度神聖王国で立て直しを図るという方策があった。
 しかしながら、40年にもわたる影日向の苦労を水の泡にされたことに対する憤りが非常に強かったためにその方策を取らず報復に動いたのだった。

 憤慨の余り、自らの魔力を周囲に噴出させつつ、彼は、夜明けの空をジェスタ国に向かってまっしぐらに飛んだ。
 その飛行経路にあった集落は、突然に発生した暴風に巻き込まれ、大いなる被害を受けていたが、当のエベテリオスにそのような些細な事柄に配慮する余裕など全く無かった。

 当然のことながら、配置していた複数の監視ゴーレムがエベテリオスの魔力発動を感知し、その動きを追跡した。
 残念ながら、監視ゴーレム自体はさほどの高速で動き回るようにできていないので、追尾は不可能だったが、それでも動き出して瞬時のうちにその方向及び速力をリューマに知らせたのだった。

 エベテリオスの目的は、おそらくは俺を殺すことであり、しいてはジェスタ王国の滅亡にあるのかもしれない。
 いずれにせよ奴の悪業を放置するつもりはない。

 そもそもが奴も排除の対象になってはいたのだが、順番が後になっていただけだ。
 奴が動き出してから、監視ゴーレムを通じて鑑定を掛けてみて初めて奴が邪神の加護を受けし者であることが解かった。

 邪神の加護を受けし者がどれほどの能力を有する者かは知らないが、これまで敢えて矢面に立たなかったのだから、実際の攻撃能力はさほど高くは無いのではないかと推測している。
 仮に神にも等しい力を持っているならば、フィクサーとして動かずにトップで君臨していたはずだ。

 おそらくは防御力に難点があるか若しくは個別戦闘力に自信が無く、かつ、性格的に慎重なのだろう。
 むしろ激情に駆られてこっちに向かって来るだけ対処はしやすい。

 陰に回って、闇魔法で市井の者を操り、ゲリラ的に小規模なテロを繰り返されると正直なところ防ぎようがない。
 操られた者を捕えてもその後のテロの防止には役立たない。

 闇魔法を使える者ならば道具としての人を次々に生み出すことができる。
 特に宗教闘争に関わる戦いでは、元を絶たねばテロは止められない。

 狂信的な殉教者は、年齢・性別・出自等に関わりなくどこにでも存在するものだ。
 まぁ、そんな話はともかく、災いの元凶がやってくるのだから、取り敢えず対応しなければならないが、ジェスタ国に入り込んでからでは無辜の民に被害を生じさせる恐れもある。

 従って、迎撃場所として俺が選んだのは、エシュラック王国とアレシボ皇国の境界付近にある砂漠地帯だった。
 その地域がエベステリオスの直線的飛行経路に当たり、かつ、飛行経路の中では最も人口密度の少ない場所であるからだ。

 運が良いことに交易路からも少し離れている。
 俺は飛空艇で急遽移動し、地上に降りてエベステリオスが飛来して来るのを待ち受けた。

 対抗策としてはいろいろ考えてはいるが、念のため究極の方策を使うことも想定している。
 全ては相手の出方次第だな。

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