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第七章 面倒事の始まり

7-16 身内の面倒事

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 俺がホブランドへの召喚に巻き込まれ、幼女神様のお陰でジェスタ王国へ転移させてもらってから早三年近くが過ぎた。
 ホブランドの1年は16か月で480日だから、1400日近くも過ぎたのだけれど、この間に俺の故郷である北上では凡そ二十倍の速さで時が過ぎている

 つまりは俺がファミレスで行方不明になってから既に70年以上も経っているということだ。
 ホブランドの最初の一年(地球時間で26年強)で親父が亡くなり、その後1年経たず(確か地球時間で34年だったかな?)に母親が亡くなった。

 残念ながら親の死に目には会えなかったし、葬儀にも参加できなかった。
 何か月か経ってから粟口家代々の墓に墓参りに行ってお線香をあげてきた。

 消息不明のままの俺が公然と姿を現すわけには行かなかったんだ。
 両親には親孝行ができないままに終わってしまった。

 兄貴が俺の三つ上だったけれど、今では百歳間近になっている。
 流石に身体は弱ってはいるが、未だ義姉さんと一緒に隠居生活を楽しんでいるようだ。

 兄貴夫婦には、三人の子供(甥っ子二人に姪っ子一人)がおり、それぞれ独立している。
 親父も兄貴も地方公務員だった。

 親父は市役所総務課勤務、兄貴も市役所の水道局に勤務していた。
 兄貴の子供で市役所勤務は流石に居なかったようだ。

 但し、兄貴の長男和明かずあきが消防署勤務だし、次男洋二ようじは飲食業に就いていたが独立して店を持っていた。
 長女聡子さとこは市議会議員に嫁入りしていた。

 甥っ子姪っ子で俺が転移前に会ったことのあるのは和明だけなんだが、当時和明は1歳前後だった筈だから当然叔父貴である俺の顔なんざ覚えていないだろう。
 家にあるアルバムでそれなりに顔を見ているだろうけれどね。

 まぁ、大金持ちや有名人は居ないけれど、それなりにつましい家庭を築いて幸せに暮らしていたと思う。
 それら甥っ子、姪っ子も既に還暦を迎えて久しいから、既に現役を離れているわけだが、更にその子供たちである姪孫てっそんが結構いるんだよね。

 甥っ子和明には三人の娘、甥っ子洋二には一人の息子と一人の娘、姪っ子聡子には二人の息子で合計7人(姪孫てっそんと言うのだそうだ。)で、それらのさらに子供(曾姪孫そうてっそん)が14人もいるんだ。

 姪孫たちはいずれも働き盛り。
 社会の第一線で頑張っている。

 たまたま訪れた際に様子を確認したら、甥っ子和明の子供である次女香織の家が少々まずいことになっていた。
 香織は大学卒業後仙台で就職し、そこで知り合った坂上正一という男に嫁いで仙台に住んでいるのだが、その旦那は仙台でも有数の資産家だ。

 代々仙台の北西部で手広く農業を営んでいたのだが、仙台市の急速な発展と地下鉄の伸長により、所有していた農地がニュータウン建設のために法外な値段で売買されたのだ。
 このために一挙に数十億円の金が入り、農業をやめて、三分の一ほど残った農地を宅地に変えて不動産業を営んでいる。

 粟口家の親族では最も資産を持っている家だろう。
 坂上家は、地下鉄南北線泉中央駅から西へ伸びる地下鉄泉西線十文字駅の駅近くに豪邸を持っている。

 まぁ、土地成金なわけだが、その豪邸ゆえに悪い奴らに目をつけられた。
 目を付けたのは、中覇国マフィアの連中だ。

 地球時間で百年程前に、中覇国から日本へ密入国してきた連中が、関東に根づいて日本のヤクザとタメを張り、途中で米国マフィアの息がかかった連中の参戦で、抗争に敗れて都落ちしたのが東北の仙台だった。
 仙台にも古参のヤクザ組織はあったが、生憎と関東の抗争で鍛えられた中覇国マフィアは武力が強大だった。

 本来なら持てないはずの、改造AK-47を中覇国から密輸し、手りゅう弾やらバズーカまで装備した連中に日本刀やらチャカで対抗できるわけもなく、仙台はあっという間に中覇国マフィアの閃紅団に牛耳られた。
 表向きは、違法組織は居ないことになっているが、暴対法ではなかなか取り締まれないのが実情だった。

 政府も重い腰を上げて外国マフィア対応の暴対法を造ろうとしているが、なかなかうまくいっていない。
 原因は中覇国マフィアの殺し屋が新暴対法を目論む政治家を標的にしているからだ。

 俺が久しぶりに訪れた日本では一月前にも自*党の有力政治家四人が東京の割烹で談合中に40ミリグレネード弾二発を撃ち込まれ、政治家三人が死亡、一人が再起不能の重傷、その他割烹従業員や客など十数名が重軽傷を負ったばかりだ。
 とにかく中覇国マフィアは手段を択ばない残虐な集団であることは間違いない。

 その中覇国マフィアが、香織の次女昌子(15歳)を攫って、坂上家に身代金を要求したのだった。
 要求額は10億円。

 実は成金である坂上家にとって払えない額ではないようだ。
 預貯金だけでも5億程あるし、株券などを売却すれば10億には軽く手が届く。

 但し、いくら何でもすぐにはこの金額を用意できない。
 警察に知らせれば人質を殺すと明確に伝えてきているので、坂上家では逆らえなかった。

 懸命に金策に走り回っているがどう頑張っても二日はかかる。
 しかも十億円は、百万円の束が千束にもなる。


 25束で幅38センチ、長さ80センチ、厚さ1センチになる。
 アルミコンテナと呼ばれる少し大きめのアタッシュケースでW400×D300×H340だから、横に5束、縦に2束、厚み方向で30束、合計300束が収容できるが、これが三つでも足りない。

 一千万円の札束で容量はおよそ1.2リットル強、重量は1キロなので、120リットルの大型トランク(W―73、L―50、D―16)一つでもちょっと足りないし、重量が百キロにもなるから、少なくとも大型トランク3個ぐらいにしないと持ち運べないだろう。
 受け渡しの場所や時間は追って指示すると言われ、坂上家では取り敢えず金策で走り回っている。
 
 取引先の銀行に無理を言って、二日後正午までには、自宅に10億円の現ナマを揃えることにしたのである。
 国際犯罪組織だと海外の銀行なんぞを使うのじゃないかと思ったが、昨今は様相が変わって、そう言った身代金の受け渡しができないように金融機関での談合がなされているようだ。

 きっかけはタックスヘイブンの話題を提供した「パナマ文書」で、その対策が国際機関で徹底的に講じられたことからマネーロンダリングが非常にやりずらくなったのだ。
 ために犯罪組織は多少面倒でも貴金属や現金での取引をするようになっているらしい。

 中覇国マフィアの閃紅団も、同様の理由で現金取引を指示してきたのである。
 で、俺も知らなけりゃ放置するところなんだが、一応俺の身内である曾姪孫が誘拐されており、誘拐された昌子ちゃんというのがなかなかかわいい子なんで、俺も放置するわけには行かなかった。

 昌子ちゃん、俺が日本の商社マン時代に有名だった某モデルから転身した若手女優さんにそっくりなんだ。
 その彼女は、俺が好きだった女優さんだしな。

 甥っ子である和明の嫁が結構な美人だったので、曾姪孫の昌子ちゃんも多分その血筋を引いているのだろう。
 成人前ではあるが、整った顔立ちは、いずれ美人になる面影は備えているぜ。

 まぁ、曾姪孫の昌子ちゃんを助け出すのはいいんだが、万が一にも俺の身元がばれてはいけないのでそこは徹底して防護策を考えた。
 第一に、俺のDNAの一片ですら現場には残してはならないこと、そのためには頭からつま先までしっかりと黒布で覆い、目出し帽を被る。

 一般人からすれば間違いなく不審者の格好なんだが、やむを得ない。
 第二に、助け出す昌子ちゃんにも俺の顔を知られてはならないこと、これは多分第一の対策で足りるだろう。

 第三に、中覇国マフィアはどうやら中覇国の幹部ともつながっており、何やら日本政府に対してテロを企んでいる節があるので、この際に日本から一掃すること。
 第四に、中覇国マフィア一掃のために、その組織を調べ尽くすこと。

 この四番目が割合時間がかかったんだが、それでも1日で全ての仕事をやり終えた。
 例によってスマホやPCなどのデータ複製から、中覇国幹部まで関係者を洗い出したんだ。

 で、その準備の作業が終わった深夜二時。
 昌子ちゃんに全く会わずにすべてを終わらせることもできたが、まぁ、俺への御褒美代わりに、可愛い昌子ちゃんにも直接会うことにしたよ。

 午前二時半、特にこの時間を選んだわけじゃないが、作業手順の確認をしていたらこの時間になった。
 仙台市内数か所のアジトに居た中覇国マフィア閃紅団メンバー、及び、アパート・マンションなどに分散している閃紅団メンバー、更にその勢力下にある東南アジア系の闇組織メンバー等々総勢で1791人を始末した。

 これに合わせて、日本国内各地に散らばっている中覇国系マフィア2487名その下部組織3408名をついでに抹殺した。
 方法はAK―47による至近距離からの狙撃だ。

 時間はそれなりにかかったよ。
 一人ずつ消音マフラー付きAK-47で額を狙って撃つからね。

 ただまぁ、転移で瞬時に移動するから発射から次の地点まで移動するのに一秒前後かな。
 目標は準備段階でその位置は特定済みだ。

 認識疎外の魔法をかけているからそもそも俺の姿が見えないはずだし、事が終わっても周囲に居たものですら、何が起きたかわからないはずだ。
 それでも数が総勢で7686名だからねぇ。

 二時間強の時間はかかったよ。
 それが終わった午前五時少し前頃かな。

 アジトの一つの部屋に閉じ込められていた昌子ちゃんが仮眠していたのを俺が起こしてやった。
 昌子ちゃん憔悴してはいたけれど意外と元気だったし、起こした時は助けが来たとは思っていなかったようだ。

 何せ全身黒づくめで、足長のシルエットに瞳の色がちょっと違う外人さんに見えるはず。
 きっとマフィアの一人と勘違いしていたはずだ。

 五時前だから外はまだ暗いし、目出し帽で顔を隠した怪しさ満点の不審者だしね。
 何かされるんじゃないかと少しビビっていた。

「一応僕は君の白馬の騎士になるのかな?
 但し、関係者を殺戮したから死神でもあるよ。
 で、君を攫ったマフィアの連中はさっき壊滅した。
 警察にはメールで知らせたし、君の両親にもメールを届けたから、このままここで待っていなさい。
 多分警察の到着が一番早いと思うけれど、それでも10分から20分くらいはかかるでしょう。
 君はできればこの部屋から動かないように。
 部屋の外には死体がゴロゴロしているから、君が見てよいシロモノじゃない。
 警察から事情を聴かれるだろうけれど、知っていることは全部話しても構わない。
 それと、できるだけこれ以上はこの部屋のものには触れないようにね。
 何か質問はあるかい?」

「あの、・・・。
 今の話だと、私はあなたに助けられたみたいですけれど・・・。
 お名前を教えてくださいませんか?」

「うーん、ごめんね。
 君を助けるのにたくさんの悪人を殺したからね。
 名前が世間に知られるとまずいんだ。
 だから名無しの権兵衛だな。
 それで納得してくれないか?」

「あの、・・・。
 権兵衛さん・・・でしょうか?
 助けていただいて本当にありがとうございます。
 もしかしてもう二度と会えませんか?」

「うん、殺人者とは二度と会わない方がいいと思うよ。
 元気で幸せに過ごしなさい。
 それが僕に対するお礼になる。」

「はい、・・・。
 助けていただいたこの命大事にします。
 権兵衛さんもお元気で・・・。」

「ああ、じゃぁね。」

 そう言って俺は部屋の外に出た。
 部屋のすぐ外には男三人が額に穴をあけて死んでいる。

 ここは三階建てビルの三階なんだが、この階の至る所に死体があり、同様に一階も二階も死体の山だ。
 最初に飛び込んだ警察官はきっと驚くことだろうな。

 その日は早朝から各チャンネルで報道特番だった。
 何せ仙台市内だけでなく全国で中覇国マフィア及びその系列の闇組織が殲滅されたのだ。

 これまでに日本以外でもこれほど大量の殺人が一度に行われたことは無い。
 しかもほぼ同時刻ごろに発生している。

 殺害は小銃によるものと推測されたが、場所ごとに条痕が違うので、警察は複数の者の犯行と見做していた。
 俺が合理性を狙って、場所を大きく変えるごとに銃も変えていたからね。

 同じ場所では30発までは同じ銃を使った。
 全部で千丁余のAK-47が必要だった。

 こいつは俺がアフガンで複製を造りまくった奴だ。
 以前、地中海へ行ったついでにアフガンまで遠出して一晩でコピーしたんだ。

 俺の亜空間倉庫に用意していたから瞬時に入れ替えできるわけなんだけどね。
 その日、午前10時羽田発のシンガポール行きに搭乗して日本を去ったが、この事件はシンガポールでも大々的に扱われていた。

 その後一週間ほどはお茶の間の話題を独占したようだが、そのうち話題に上らなくなったようだ。
 まぁ、その頃には俺はホブランドに戻っていたので、詳細は知らない。

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 2月1日に一部の字句修正を行いました。

   By  サクラ近衛将監
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