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第六章 新たな産物と領内改革

6-10 領内の殖産興業と教育体制

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 俺は領主として様々な新しい業種を産み出した。
 まぁ、ジェスタ国でも従来から全く無かったわけではないが、色々な面で改革を起こした。

 典型的な例がワイン造りかもしれない。
 ワイン製造の工程でいくつかの処理を加えるとともに製造機器の刷新と衛生管理を徹底したおかげで、少なくとも地球世界で出回っているミドルクラスのワインに匹敵するモノが俺の領内で出来上がるようになった。

 この世界には無かったロゼワインは、その見栄えから特に裕福な貴族や商人の女性客の注目を浴びている。
 あとは原料となるブドウの品種改良なんだが、流石にこいつは十年単位の時間が必要なので、担当のフォーレンド商会の三男坊デービスに種々の試行錯誤をやらせているところだ。

 同じく、ブランデーやコニャックの生産・改良と、ウィスキーやビールなどのアルコール飲料もフォーレンド商会に手掛けさせている。
 特に度数の強いウォッカ、テキーラ、ジン、アブサン、ラム、バーボンなどはドワーフ等の強アルコール愛好家に好評である。

 ガラス工芸品、宝飾工芸品等もデザインと加工部門で新境地を開いた。
 ドワーフ一族の領内移住により、領内での鉱石採掘と武器・防具の制作は次第に洗練されたものになって来ている

 製陶業では、磁器とともに新たな釉薬ゆうやくを造り、領内の窯元がラドレック焼きとヴォアール焼きを産み出した。
 その彩色と見栄え、それに使いやすさで大いに好評を博している。

 農作物については新規に稲作と甜菜(サトウダイコン)栽培を導入したが、このほかにも農業試験場を造り様々な作物の品種改良と連作障害対策を試みている。
 また、この世界では希少な牧畜業も領内で行い始めた。

 牧畜業には広く安全な放牧地が必要となるのだが、俺の場合は、領内にあった中規模ダンジョンの一つを攻略、ダンジョンコアをいじって階層型の牧場に変えたのだ。
 ダンジョンでは普通ならばモンスターが産み出されるのだろうが、俺の管理するダンジョンでは牧草や植物のみが繁茂する。

 その階層に棲み分けて、肉牛(ビッグカウ)、乳牛(メガジャージー)、馬(スレイニプル)、羊(メガマウンテンゴート)、猪豚(メガボア)を育成させている。
 どれもモンスターに近いからね。

 俺が作った服従の魔道具をつけておとなしくさせている。
 餌は、秘伝の配合飼料(?)とダンジョン内に自生する牧草だ。

 配合飼料については、単純に製造方法を秘匿しているだけで、主原料は地球ではありふれた飼料だよ。
 牧草の方はダンジョンだから季節に関係なくすくすくと伸びるから、エサに困ることは無い。

 但し、モンスター系の血肉を混ぜた配合飼料を使うと、肉質や乳質、毛並みが明らかに違うのでこれを少量混ぜて配合飼料を使っている。
 それとモンスター系の血肉は肥料にも使えるんだ。

 従って、城塞都市には周辺のモンスターを利用する肥料工場も作る予定にしている。
 下着作りから始まった領内の縫製業だけれど、養蚕と養蜘蛛も始めた。

 養蚕と言ってもかいこじゃない。
 モンスターの一種なんだけれど、大きなワームの一種であるシルクワームが蚕に似た特性をもっていて、巨大な繭を作る。

 この繭から強い糸が取れるんだ。
 で、こいつもテイムさせてダンジョンの階層の一つで人工的に繁殖させている。

 蜘蛛もファイバースパイダーという種類の蜘蛛をテイムすることで、糸が定期的に得られるんだ。
 これらのテイマーは、孤児院から俺が見出した子供たちを訓練してやらせている。

 テイマーの素質がある者は結構少ない。
 今のところ俺の領内では7名だけだが、そのうち三名は俺の指揮下で情報収集に動いている連中だから何時も使えるとは限らないうえに、使える種族が特定されている。

 一人(ランス)は鳥、一人(ハイジ)は蟲、一人(ヘレナ)は蛇だ。
 従って蟲を使えるハイジはワームと蜘蛛にも使えそうだが、今のところは情報収集で忙しくさせているので製造業に当たらせることはしない。

 俺の造ったインセクト・アイは、俺自身が現場に行って設置しなければならない上に移動がしにくいが、ハイジの操る蟲は、ハイジが操って広範囲に動かせるので重宝しているんだ。

 ヴォアールランドとラドレックに設立した騎士養成学校、そうして孤児院に併設した幼年学院と中等学院も教職員の確保が結構大変だったが、多くの現役引退者の協力を得られたことにより予定通り動き出している。
 幼年学院と中等学院で基礎教育を行って、本人の適性と希望により適切な職を与えることができるようになるはずだ。

 騎士養成学校修了者は、主として領内の騎士団に道が拓かれている。
 そうして今回王都別邸の騎士の内20名が、ヴォアールランドに移動した。

 主として本宅の警備に当たるためである。
 また、ヴォアールランドの赤備え騎士団とラドレックの黒備え騎士団から、合わせて200名が選抜されてベルゼルト魔境の城塞都市の警備に任じられた。

 因みに選抜されたのは、いずれもそれぞれの騎士団で能力が上位にある者であり、城塞都市勤務のステータスが上がったのは言うまでもない。
 俸給がヴォアールランドやラドレックに比べて三割り増しなのも魅力の一つである。

 赤揃え、黒揃えの騎士団と区別する為に、彼らには翡翠色の甲冑を用意させた。
 この城砦都市勤務の騎士団を称して翠揃え騎士団と称している。

 それにいつまでも城塞都市と呼んでいては困るから、城塞都市に名をつけた。
 、ドイツ語で「城砦の街」という意味だ。

 マンマじゃねぇかと言われそうだけれど、この世界の町の名前って何となくドイツ語風なんでそれにあやかったのだけれど、嫁sに意見を求めたらゴロが良いって諸手を挙げて賛成してくれたよ。
 で、ベルゼルト魔境の新領地は「シタデレンスタッド」に決め、王宮へも言上した。

 都市の名前については領主が勝手に決めても何ら差し支えないらしい。
 むしろ領主が変わると名前が変えられることはしばしばあるようだ。

 翠揃え騎士団の配属に伴い、領民に対して新たな領地であるシタデレンスタッドへの移住を募集した。
 第一期の移民募集は総勢で五千名までに制限し、移住者にはシタデレンスタッド内に住居と工房、住居と耕作地、住居と商店等を提供し、それに加えて若干の奨励金を保証したのである。

 折から他の領地から食い詰め浪人などが集まって来ており、募集は盛況を博した。
 但し、募集に応じた者が全て移住できるわけではない。

 特典付きだからこそ、選別されることになる。
 当然に素行の悪いものは弾かれることになる。

 俺はその選別のために古代遺跡にあった筒状の情報装置のコピーを利用した。
 技術的にはかなり古代技術をコピーしているが、オリジナルの魔法陣をかなり織り込んだ水晶だ。

 こいつに触れると触れた者の適性、能力、功罪がかなり明確になる。
 一定の適性や能力のない者は功罪に関わりなく選別枠から弾かれるが、一方で適性・能力が一定以上ある者で罪科がない者は合格とされ、また罪科が一定以内に収まっている場合は合否は一時保留され、詳細判定のため後日に俺が鑑定をかけて判断することにしている。

 当然のことながら一定以上の罪科がある者については選別枠から弾かれるのだが、水晶による功罪判定は闇魔法の延長で本人の意識化に作用し、どんなものにでも反応するから、単純には罪科と割り切れない場合もある。
 本人の意識がないまま悪事に加担していることすらあり得るし、俺の規範上は罪科であってもこちらの世界では罪科と見做すべきではないものもある。

 実際のところ、俺は左程にはこだわらないが、堕胎はこの世界の宗教観では大きな罪科として捉えられているにも関わらず、貧しさの故に嬰児を間引きする行為は何故か暗黙の裡に許容されている。
 おかしいとは思うのだが、それがこの世界の常識らしい。

 堕胎も嬰児殺しも同罪だろうと思うのだが俺がおかしいのかな?
 むしろ地球では堕胎はある程度認められても、嬰児殺しは認められていなかったはずだよな。

 衣食住が足りないと人は正常ではいられなくなるらしい。
 俺は領主として領民を正常に導かねばならない義務があるようだ。

 しかしながら、一方で、無秩序な流人の流入は困るよな。
 領内の発展にとって有益な存在ならば良いのだが、往々にして、つまはじきされるべきものの流入も多い。

 為に俺は新たに警察組織を立ち上げた。
 騎士団は謂わば軍事力であり、平時は領民の救済・守護に当たる。

 しかしながら、仮に戦時などで騎士団不在の際に治安を守る者が不足するのは困る。
 従って、平時、戦時を問わず、治安維持機関として活動できる常駐組織を産み出したのだ。

 このために余分な経費は要るのだが代官の下部組織として、ヴォアールランドとラドレックにそれぞれ百名の治安維持隊を作り上げた。
 無論のことだがシタデレンスタッドにも百名の治安維持隊を作るつもりだ。

 更に、領内にあったもう一つの隠しダンジョンを見つけたので、踏破の上、そのコアを捕獲、こいつをシタデレンスタッドに設置して、第二牧場を作り上げた。
 そのために早急にテイマーの確保が必要になった。

 俺は王都のスラム街で6人ほどのテイマー能力を持った者を探し出し、衣食住の保証を与えてシタデレンスタッドで促成訓練を施した。
 その上で最初に造ったダンジョン牧場から六分の一の牧獣を転移させたのだ。

 これにより、第二牧場でも牧畜が始まった。
 数年後にはシタデレンスタッドの第二牧場が豊富な肉、卵、乳製品、羊毛などを産み出してくれるはずだ。

 そもそも隠しダンジョンのコアは三階層しかない初級ダンジョンだったから、左程大きなものでは無かったはずなのだが、ベルゼルト魔境の魔素はとても濃い様で、シタデレンスタッドの地下に設置してから徐々にコア自体が成長を始めた。
 勿論俺のコントロール下にあるから無茶な成長はしないんだが、コアが産み出すダンジョンは一月で既にほぼシタデレンスタッドの大きさにまで広がっており、階層も20階層にまで拡張されたのである。

 牧畜階層は10階層までにとどめ、階層への行き来は階段ではなくスロープにし、馬無し馬車のトラックを走行できるようにした。
 11階層以降は果樹園、畑、田んぼを作れるように調整中だ。

 この調子ではシタデレンスタッドの農民は、取り敢えず地上の都市に住むのだが、将来的にはダンジョンへの通勤をすることになりそうだ。
 五千人の移民は、募集から一月後に始まった。

 移民は俺が手配する大型バス10台で順番に行った。
 大型バスにはトラックが付随して結構な荷物を同時に運び込めるようになっている。

 途中の未整備の道路では幅が狭いので、余り大きな車体にできなかったこともあり、バスの定員は40名にしている。
 この定員の場合、家族持ちだと概ね五から八世帯ぐらいか?

 こっちの世界は子供が多いからね。
 概ね一月の間に十三回にわたって移民の移送を行い、一回目の移民は完了した。

 第一次募集は五千人だが、一年後に第二次募集を行う予定であり、その旨領民にも公表している。
 その間に翠揃えの騎士団を増員しなければならないし、移民たちの住居、店舗、工房、教育設備なども順次整備して行かなければならない。

 俺が領内にいる内の半分はシタデレンスタッドの整備に携わっている様なモノだ。
 領民が居るのであれば当然に代官も必要だ。

 ヴォアールランドとラドレックの代官所の補佐クラスを四名引き抜いて、シタデレンスタッド仮代官所を運営させているが、ここにも増員をしなければならないな。
 それに冒険者ギルド、商業ギルド、錬金術・薬師ギルドなどの主要ギルドも仮支部を置くよう要請した。

 もう一つ、新たな街なので教会も必要なんだ。
 俺は必ずしも現存する教会の信者ではない。

 むしろアルノス幼女神様の加護を貰っているから、彼女の直接の信者なんだろうけれど、教会が唱える教義とやらは勝手に人が産み出したものだから信用はしていない。
 何れにしろ、アルノス神殿を有する教会を招聘することにして、ヴォアールランドの教会の司教様に教会の設置についてお願いをしておいた。

 間違ってもカルデナ神聖王国の息のかかった教会はシタデレンスタッドに入れないつもりだ。
 俺も領主として、建前上は信教の自由を認めるけれど、他の教義を認めずに自らの要求を力に訴えるような集団はお断りだ。

 ギルドに加入しているという有効な証明書を保持する商人、錬金術師、薬師、冒険者等は、出入り口の判定水晶に触れて罪科の無いことが確認される限り、シタデレンスタッドへの出入りを認められる。
 この出入りの判定に使われる水晶は、俺が作ったもので、移民選別の際に使われたものと若干仕様が異なっているが、主として凶悪犯罪を為した者を特定できるようにしてある。

 凶悪犯罪は、戦争又は自衛、緊急避難以外での殺人・暴行・傷害、強盗、営利誘拐、強姦、不法な奴隷売買、一定積算額以上の詐欺・恐喝、放火を指定してあるほか、王都からの指名手配通知の有ったものについても適用することになっている。
 いずれの場合も水晶が赤く光って警報を示し、門衛がそれを知った時点で捕縛するようになっている。

 間違いであれ、取り敢えずは捕縛し、事実確認は捕縛後に行うことになっている。
 こいつはシタデレンスタッドで運用して、間違いが無いようならばヴォアールランドとラドレックでも採用するつもりでいる。

 その際には王宮にも報告しなけりゃいけないだろうな。
 あ、そうそう、例の飛空艇献上の一件の後で、国王陛下と宰相に呼ばれて国王陛下のプライベートな応接室に行ったのだけれど、献上品の秘匿性に鑑みて今回の陞爵は見合わすが、他に功績になりそうなものはないかと尋ねられた。

 要請されて申告するのもおかしいのだが、多分遅くとも数年以内にゼルベルト魔境に海につながる港を建設することを伝えておいた。
 国王陛下も宰相も随分と乗り気になって計画を問いただしてきたが。今のところ構想だけと断って概説しておいた。

 ジェスタ王国には海に接した場所がないから交易は全て陸上路のみであり、相対的に沿岸国との交易は非常に高いものについている。
 中でも塩は、ジェスタ国北東部山中で岩塩が多少産出されるが国内需要に見合う量は無く、陸上交易を介して他国から輸入している現状にある。

 周辺国の中でも特にカトラザルとエシュラックは古くからの友好国ではあるものの、ジェスタ国と同じく海に接していないことから、単なる交易通過国となっている。

 塩は主にフローゼンハイム国とサングリッド公国から輸入されているが、品質の上では、国境を接していないアレシボ皇国やフレーメルからの輸入品にかなり劣るものである。
 しかしながら価格面で高価なアレシボ皇国産やフレーメル産の塩は庶民の手には行き渡らず、主流は廉価版のサングリッド公国からの輸入に頼らざるを得ないのが実情であり、それが高じてサングリッド公国から見下したような婚姻話なども来るのである。

 仮にファンデンダルク卿の領地がゼルベルト魔境の海岸まで達したならば、海の塩を入手できる可能性が高く、同時に他の国との海上交易も可能となるかもしれない。
 ジェスタ国には大きな船を作る技術は今のところ無いのだが、将来大型船を建造できれば他の遠方の海岸国とも友好を深めることもできる可能性が十分にある。

 国王陛下と宰相は、秘匿しなければならない飛空艇の遺物での功績公表は諦め、ファンデンダルク卿が数年の内に海岸に到達し、港を造った時点、若しくは海水で塩を作れるようになった時点で、辺境伯への陞爵を実施しようと決めた。

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