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第六章 新たな産物と領内改革

6-3 エステルンデ砦の災厄

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 エステルンデ砦の隣にあるファンデンダルク小砦に向かう途中、ヴォアールランドの本宅で一泊したあとで、エステルンデ砦の隣にあるファンデンダルク小砦に向かった。
 エベレット子爵領とクライスラー男爵領には、往路途中で執事各一名を警護付き(馬無し馬車付)で派遣して、挨拶だけをさせるために行かせている。

 正式に俺が出向くと向こうも色々と大変だから、略式の挨拶だけにとどめておくのだ。
 無論、引き出物としてワインと砂糖をそれぞれに持たせている。

 つなぎの役目もあり、執事二人には携帯通信機を持たせているから、場合によっては伝令役も務めてもらうつもりでいる。
 というのも、ファンデンダルク小砦には半年ほど前から地球産の監視カメラを取り付けているのだが、その画像チェック(10日に一回ほど夜間に転移魔法で砦に行きチェックしている)をしていると、ここ一カ月ほどの間に砦外の魔物の出現頻度が明らかに多くなって来ているのだ。

 無人の砦だから魔物に襲われても問題無いし、そもそも内部に侵入できないように結界を張っているので全く心配もしていないが、今後、俺が魔境を開拓するに当たり障害になるようでは困る。
 そのために一過性の季節的なものなのかどうかを含めて今回確認のためにエステルンドへ来たのである。

 従って、俺の代理で挨拶に行く執事には、子爵領及び男爵領内におけるその辺の情報取集も頼んでいる。
 そうして、砦まで5ケールほどになった時、魔物が現れた。

 多分、現れたのはギガントボア。
 まぁ、端的に言えばイノシシの魔物だが、大きさが桁外れだ。

 某アニメ映画に出て来る「オッ*トヌシ」をイメージして、更に巨大化させれば似ているかもしれない。
 体長が10mを超えているからな。

 普通のイノシシならば体長120センチ程度で70キロ前後の重さがある。
 少なくとも体長で約8倍、体重は400倍から500倍程度だろうから、まぁ、軽く30トンを超すだろうな。
 
 地球の動物なら、象であろうがライオンであろうが、こいつを一瞥しただけで間違いなく逃げ出すだろう。
 そんなのが6匹も出やがった。

 止むを得ないから、嫁sの乗った装甲車を中心に車両全部(2台俺のお使いに行っているから残りは7台)が寄り集まって、俺がその周囲にエリア・シールドを張った。
 空間魔法で造ったシールドは、例えドラゴンの襲撃でも破れはしないだろう。

 その外側に雷撃シールドを張って、取り敢えずは様子見だ。
 ギガントボアってのは、余程気が短いんだろうね。

 みんな纏めて突っ込んで来やがった。
 ドドドッという地響きと迫力は流石に凄かったね。

 でも雷撃シールドに触れた途端、紫色の閃光とともにバシッという音がして一気に横倒しになったよ。
 まぁ、スタンガン程度じゃ心もとないから、ちょいと強めの500万ボルトを掛けたからね。

 普通の生き物なら間違いなく一撃でアウトだろう、
 一匹だけでなく勢いつけて向かって来た6匹全部が感電したよ。

 目の前で横倒しになったままびくびくと痙攣しているけれど、さて死んだのかな?
 鑑定で確認すると、ハイ、皆さんお揃いでご昇天でした。

 シールドを外して、俺だけ外に出てサッサと収納、先へ進むことにしました。
 でも、あの30トン超の巨体で砦にぶつかられたら、ファンデンダルク砦の方はともかく、エステルンド砦の城壁が持つかどうかだな。

 ウチの砦は固定化の魔法を執拗にかけてあるから滅多なことでは壊れない。
 でもエステルンド砦の方は単なる石壁だろうから、壊れるかもしれないな。

 あれ、ひょっとしてフラグが立ったかな?
 とにかく先を急ぐと、豈図あにはからんや、エステルンデ砦の東側城壁の一部が破壊されて魔物の一団が砦内に侵入、守備隊は必至の防戦をしていた。

 で、止むを得ず、俺も参戦することにした。
 ウチの砦の前で護送車を含めて馬無し馬車を待機させ、エリア・シールドを掛けた上で俺だけ外に出た。

 ウチの騎士たちもよく訓練されてはいるが、流石に魔物の群れに対抗できるだけの力量はまだない。
 そもそもウチの騎士たち(王都別邸警護騎士)は、どっちかというと対人戦特化型だから、魔境の魔物退治はまだ難しいので、実のところ、今回はその訓練を兼ねて連れて来たのだが、訓練なしでの実戦は流石に厳しいだろう。

 人型の魔物ならまだしも、四つ足のバカでかい奴には対応ができないんじゃないかと思うんだ。
 で、魔物がこちらに向かってきて本当に危うい場合は、ファランクスを使ってもいいという指示を与えて、騎士たちはそのまま車内に残した。

 ウチの嫁sを守るために作った護送車であり、ファランクスであるが、余程の危険がある場合以外、ファランクスはできるだけ使わないつもりでいる。
 俺は、取り敢えず、エステルンデ砦の外側に居る魔物の集団を攻撃することにした。

 蝟集している魔物数からして、俺のライフル擬きじゃちょっと間に合いそうにないから、まずは液体窒素を大量に造って、例によって空間に分布させ、それをエステルンド砦城壁外にいる魔物に向けて落下させた。

 一瞬で凍り付いたね。
 「*法科高校の劣*生」のヒロイン司馬美*のニブルヘイムもかくやと思うほど、一瞬で白銀の世界に変わった。

 まぁ、量が量だからねぇ。
 俺が作った液化窒素は、事前に造った液化窒素を大量に複製して300m四方の立方体に2mの深さに溜め込んだものだ。

 魔物にしてみれば一気に液化窒素の中に放り込まれたに等しい筈だ。
 どっちかというと、ここらの魔境周辺は亜熱帯域に近いからな。

 寒さなんぞ余り体験したことのない魔物だったはずだ。
 一瞬で凍え死んだ奴もいるが、そうでなくても冬眠状態にまで細胞活動は低下したはずだし、そのまま放置されればやがて死に至るだろう。

 因みに砦の方には風魔法のシールドをかけて、蒸発した窒素の冷気が砦内に入らないよう調整はした。
 取り敢えず砦の外は無力化した。


 俺は、一気に掘割を飛び越え、なおかつ、エステルンド砦の城壁に飛び上がって、城壁の上からライフル擬きを多用した。
 二秒か三秒に一匹の割合で討伐して行ったので、二、三分で砦内部に入った大物は何とか殲滅できた。

 残りは中型の魔物、マスベロン程度の魔物だが、こいつらにも守備隊の騎士たちは手間取っている。
 俺が一匹ずつ片付けるのには、結構手間がかかった。

 何せ、騎士と魔物が入り乱れているからな。
 フレンドリー・ファイアーになっては詰まらんから、立ち位置を変え、射線を変えるなどして慎重に狙っている。

 それでも15分ほどで何とかエステルンド砦の中に入り込んでいた魔物を殲滅できた。
 俺は、城壁から内部に飛び降り、城壁の破損個所に出向いて、土属性魔法で一気に城壁を再建して行く。

 この辺は前回小砦を築いた時にある程度知られているから、見られても差し支えない。
 それよりもスピードが大事なのだ。

 破壊されたままであれば、外のニブルヘイム擬きが収まってしまうと、また魔物が入り込んでくる。
 そいつを防がにゃ砦も守備隊も保たん。

 概ね30分近くをかけて城壁を修理した。
 砦の外は、その間もツンドラ状態のままだったので幸いにして魔物は近づいては来なかった。

 壁が出来上がるまでは、シールドを張っているにもかかわらず砦の内部にまで若干の冷気が入ってきていたから結構寒かったな。
 今回使ったのは風魔法の一種を使ったシールドだったのだが、熱の伝搬までは遮蔽できないのかもしれない。


 城壁の修理で今回は、ついでに固定化の魔法をかけておいたから、他の箇所は壊れても、ここは簡単には破れない筈だ。
 修理を終えて、俺が振り向くと、血潮にまみれた片腕を肩から吊っているエンリケ・ヴァル・ドラバル子爵が立っていた。

「ご助勢、誠にありがたく存じます。
 伯爵殿の助けがなくば、或いは砦そのものが全滅していたやも知れませぬ。」

 そう言って深々と頭を下げるドラバル子爵だった。

「前にも申しましたが、困った時は相身互いです。
 偶々我らがこちらに参った時で、ようございました。
 で、負傷者がかなり居られるのではないかと思いますが、重症の者からこの広場に集めていただきたい。
 可能な治癒をいたします。」

「おぉ、それは、伯爵殿は治癒の魔法もお出来になると・・・。
 うん、早速に集めます故、是非にお願い申す。」

 子爵は、側近に向かって命令を下した。

「重傷者をこの広場に集めよ。
 息のある者は全てじゃ。
 急げ。」

 それから順次運び込まれる負傷者に俺は治癒魔法をかけて行く。
 欠損を治すこともできるが、今回はそこまではやらない。

 とにかく治癒魔法については教会勢力がうるさいらしいからな。
 余計な詮索を招かないためにも、エリア・ハイヒール程度で済ませるのだ

 だがエリア・ハイヒールを使って一瞬のうちに怪我を治して行く様は、それだけで奇跡に近いだろう。
 右腕を負傷し、骨折していた子爵もそのエリアの範囲に居たので、そのまま完治していた。

 概ね1時間近くを治癒で費やし、子爵と若干の情報交換をした後で、俺はお隣のファンデンダルク小砦に西側の城壁側入口から入り、内部からの操作で吊り橋を降ろして、外で待つ護送車などを砦内に引き入れたのだった。
 嫁二人と娘リサは、おとなしく待っていたが、リサが*Pad Proを使って車外の様子を見せていたようだ。

 そう言えば装甲車の客室は外が見えないから、装甲車の前部と後部にカメラを装備して、リサの*Pad Proで見られるようにしていたんだっけ。
 ついでにリサにはドローンの操作も教えていたので、どうやら空中から俺の動きを見ていたようだ。

 別にそれ自体は大したことじゃないんだが、先進の機器を見ると欲しがるのが人情ってものだろうな。
 コレットもシレーヌも徹底してタブレットを強請ねだって来たよ。

 止むを得ず、*Pad Proの複製品を王都に戻ってから二人に渡すように約束したんだが、・・・。
 今後増えるであろう側室たちにもやっぱり配らにゃいかんのだろうなぁ。

 で、困るのは王家なり、側室たちの親族が欲しがった時に断れるかどうかなんだよ。
 無駄かもしれないが、嫁二人と娘一人、それに居合わせたメイド達5人には秘密厳守を言い渡しておいた。

 今のところは許容範囲でも、余り拡散すれば俺の手に負えなくなる。
 特にパソコンは最先端の技術だし、詰め込まれている情報が多すぎる。

 リサに渡している一部のSDだって内容を吟味して制限をかけているが、そいつが漏洩するだけでも国家的混乱が生ずることは間違いないだろう。
 コレットとシレーヌには、より制限を掛けなければなるまい。

 地球の言語がわかるわけではないから、そのままでは画像や動画以外の情報はあまり漏れないはずだけど・・・。 
 ゲームで遊んでいるくらいならいいのだがな。

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 次回「魔境の異変と対策」の予定です。

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