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第六章 新たな産物と領内改革

6-2 エステルンド砦再び

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 俺がこの世界に来てからもう1年半近くにもなる。
 こっちの一年は長いからなぁ。

 前にも言ったと思うが、1年が480日もある。
 エステルンド砦の隣に建てたファンデンダルク小砦も、無人のまま1年近くになるので様子を見に行くことにした。
 
 しかしながら、厄介なことに嫁二人に俺の娘も付いて行くと強請ったのだ。
 危ないところだからと言って翻意を促しても言うことを聞きゃあしない。

 逆に、そんなに危ない場所なら旦那様を行かせられませんとねじ込まれてしまった。
 まぁ、結局は俺が折れて正室コレット、側室シレーヌ、娘のリサを連れて行くことになったんだが、実のところコレットもシレーヌも妊娠しているんだ。

 既に五カ月で安定期に入っているから旅行自体は左程問題ないが、無茶な動きはできないのには違いない。
 二人ともちょっとポッコリお腹に成ってはいるが、今のところは着るもので十分誤魔化せる程度だな。

 俺の造った馬無し馬車の乗り心地を知っているから無茶を言うんだろうし、後一月もすれば三人の側室が増えることにもなるから、そっちの方も多少気にしているようではある。
 今のうち甘えたいという気持ちも何となくわかるし、普通の馬車だけだったなら俺も同行は許さなかったね。

 こっちの馬車はサスペンションが良くないし、途中の道路も余り良くないからな。
 お付きのメイド達もしきりに思いとどまるように言ってはくれたんだが、無駄だった。

 二人ともに頑固だからなぁ。
 止むを得ないから、特殊な護送車両を造った。

 陸自の使っている98式装輪装甲車を魔改造してみたのだ。
 こいつは全面装甲している所為せいで見通しが非常に悪いんだが、俺が改造した。

 防弾ガラスに付与魔法をかけて、40ミリ厚のチタン鋼板よりも頑強にしたものを、運転席の前面及びサイドに付けているので操縦がしやすくなっている。
 戦闘時にはこれらの防弾ガラス外側に遮蔽板が覆って、搭乗員を守るようになっている。

 当然に装甲だって防弾ガラス以上に強化している。
 鋼板では、付与魔法のかかりというか、通りというか、浸透が弱いので、魔鋼と魔銀の合金と炭素繊維の重層構造材を装甲として採用した。

 厚さは40ミリ程度なのだが、衝撃強度や熱耐性は桁外れであり、試したわけではないが120ミリ砲のHEATやAPFSDSでも撃ち抜くのは無理だろうと思うのだ。
 同じく本来12.7mm機銃が装備されている場所には、20ミリ・ファランクスを装備、車内から射撃できるようにしている。

 射撃と言っても火薬を使ってはいない。
 構造は、よく似ているが、超電磁砲だな。

 魔法によって産み出した常温超電導体を銃身に使い、魔道エンジンで発電した高圧電気を利用して電磁気推進力に使っている。
 銅合金で被覆した炸裂魔法弾を電磁気で発射する代物だ。

 発砲時、火薬による爆発音はしないんだが、砲身から弾が飛び出る際に音速の5倍を超えるために所謂マッハの衝撃音はする。
 一応銃口にマズル的なものをつけて音を小さくはしているが、それでも結構うるさいんだ。
 
 小口径の電磁砲なんて代物は今のところ地球にもない代物(?)だが、当然に作るのも非常に面倒だ。
 例えば炸裂魔法弾を一から作ると、俺でも一発造るのに10日前後はかかってしまう。

 まぁ、一発造ってしまえば、俺の場合はコピー魔法で複製ができるから亜空間内部に素材だけ揃えてやればいい。
 そんなわけで2万発の炸裂魔法弾が入った20ミリ特殊ファランクスが装備されている。

 装輪装甲車は、陸自の一般公開で展示されていたモノにわざわざ触って来たし、20ミリ・ファランクスの方は、同じく海自の一般公開でイージス艦に搭載しているものをコピーしたものだが、構造を真似ているだけで中身は全く違う。

 一応、改造はしているものの、俺の世界から持ち込んだ武器になりかねないから、幼女神様にご相談して、あくまで防御専用として使うことで了解を貰っているんだ。
 通常は、俺の屋敷の地下駐車場の一角にある亜空間倉庫の中に収めており、俺以外の者が許可なく触れることはできないようにしている。

 無論、戦争になんぞ使うつもりはない。
 まぁ、普通の魔物ならば装甲車を破壊はできない筈だが、ぶちかましなどでまともに衝撃を食らうと中に居る人間は堪ったものじゃないよな。

 エンジンは、俺の造った魔道エンジンに変えているので、もしかすると、馬力は多少落ちているかもしれないが、こいつでスピード競技をするつもりはない。
 俺にとって大事な人たちを安全に運んでくれればそれでいいのだ。

 因みに装甲車は、全長6.84 m、全幅2.48 m、全高 2.85 m、重量18.5 t、乗員2名、最大便乗者数8名の代物だ。
 本来の96式よりも便乗者の定員が少ないのはファランクスを搭載し、トイレを増設した所為だ。

 かなりの悪路でも走行可能だが、まぁ、そうなると余り乗り心地は良くないので、一応内部に亜空間を設けており、その中に嫁たちは入ってもらうことにしている。
 亜空間にすることで通常の外界の振動や加速度の変化は遮断できる。

 それに亜空間を広げればもっとたくさんの人やモノを運べるが、今のところそこは秘密にしておくしかない。
 知られると軍事転用一直線だからね。

 もう一つ重量が重いからな、普通の橋なんかを渡ろうとすると橋が壊れてしまう。
 で、重力魔法を利用した浮遊走行も可能なようにしている。

 魔石に魔力をたっぷりため込んでも100m前後が精一杯だな。
 それ以上の川幅なら、しょうがないから俺が一旦亜空間に放り込んで川を渡ってから亜空間から出す方式をとるしかない。

 但し、余り人目には触れさせたくないので、出来る限りこの方法は使わないつもりでいる。
 幸いにして、王都からエステルンド砦までのルートで川は二か所だけであり、川幅はいずれも30mに満たないので浮遊走行で何とか行けるはずだ。

 装輪装甲車の亜空間内には、嫁二人、リサとメイド三名、それに執事一名が後部座席に乗り、運転席には騎士二名が乗って運転することになる。
 念のため、助手席の一名についてはファランクスの操作をVRシミュレーションで訓練させた。

 何しろ本来のファランクスは、毎分4000発以上の弾丸を撃ち出すからね。
 トリガーを0.1秒引くだけで7発ぐらいの弾が飛び出して行く。

 2万発と言ったって、5分とかからず空になる可能性がある。
 それにやたらめったら撃つと、魔法弾だから命中箇所が爆発するんで、周辺環境に与える被害が大きすぎるからね。

 必要最小限の弾薬で最大の効果を発揮できるようにしなければならないんだ。
 炸薬魔法弾にしても威力はかなり大きい。

 俺の魔導ライフルに比べても十倍以上の破壊力がある。
 俺の魔導ライフルが音速以下なのに、電磁砲はマッハ5以上だから、それだけでも慣性質量による威力が違う上に、当たれば爆発するからな。

 因みに、爆発力は、C-4の約8000m/sに対して、1万5千m/s越えだからかなり強烈だよ。
 まぁ、弾頭への仕込み量が3グラム未満の炸薬だから軍隊で使っている爆弾ほどの威力は無いんだけれど、手りゅう弾の倍程度の威力はあるかもしれない。

 触発式ではないから、魔物なんかに当たれば体殻に潜り込んでから爆発するんで、結構な損傷は与えられる筈だ。
 単発というのはどうかと思ったので、三連発と十連発それに連発の3モードを切り替えられるようにしている。

 前回、遭遇したマスベロン程度なら三連発モードだけでオーバーキルになるはずだ。
 今回は、前回リサを迎えにグレービア村へ行った時以上の人員が居る。

 俺に嫁二人、娘一人、メイド12人、執事2人、警護騎士30人の合わせて48人である。
 装甲車2台(一台はそれこそ護衛車両だ)に20人、馬無し馬車8台に28人が分乗している。

 馬丁の運転手たちは、今回は王都別邸で待機してもらっている。
 普通の馬無し馬車も、念のため付与魔法で強化してあり、象ぐらいが突進してきても壊れない仕様にしている。

 しかしながら、まぁ、衝撃による内部のダメージは殺せないかもしれない。
 その場合は、俺の魔法でエリアシールドを事前に発動すれば何とかなるだろうとは思っている。

 後は、魔物の襲撃に遭った際の、ウチの騎士たちの対応ぶりの確認もするつもりでいる。
 因みに王都別邸の警護騎士は、当初から見ると21名ほど増えて現在は50名体制になっている。

 貴族社会の慣行の所為で、隊長にせざるを得なかったオズワルドは、酒を飲んだ上で市民を相手に暴行を働き、大けがをさせたので平隊員に降格させた。
 免職もあり得たが、一応の様子見で観察期間を1年間としている。

 その間に再度問題を起こせば、まぁ、クビにせざるを得ないな。
 副隊長のシュレジングを隊長に引き上げ、副隊長にサドゥアンスを抜擢している。

 最初からオズワルドには不安があったから、まぁ早めに降格できてよかったと思っている。
 被害者にはファンデンダルク家から十分な補償をしている。

 雇い主たる俺が直々に謝罪に行くつもりでいたら、ジャックに止められた。
 伯爵ともあろうものが平民に謝罪するのは原則的にあってはならないことなのだそうだ。

 そんな場合には家宰若しくは執事が代理で出向くのが作法なんだそうだ。
 ジャックの仰せに従い、俺が出張ることは無く、代わりに執事のトレバロンと副隊長になったサドゥアンスに被害者へ謝罪をしに行ってもらったのだ。

 それでさえも、平民の方は恐れ多いと終始ぺこぺこしていたらしい。
 うーん、身分格差ってぇのはかなりのモノらしいなぁ。
 
 改めて認識した俺だった。
 元の世界でよくあった「責任者が謝る」という構図は余程のことが無いと無理らしい。

 ともあれ、出発の準備が済んで王都を出発した。
 途中、カラミガランダのヴォアールランドに立ち寄り、一泊して領地の様子を確認した。

 ヴォアールランドとラドレック間の道路は半月ほど前に整備が完了した。
 出来るだけ平坦な道にしたことと、簡易舗装を行ったことで交通量もこれまでの倍以上になっているようだ。

 特に、ランドフルト特産のコメ、カラミガランダ特産のワインが行き来し、他の領地から買い入れに来る商人がかなり増えているようだ。
 道路が整備されるに従って交易量が増え、ほとんどファンデンダルク家の御用商人と化したシュバルツ商会、それに地元のフォーレンド商会とキャセル商会の隆盛は目を見張るものがある。

 これにあやかろうとする商人たちが代官所にひきも切らず、文官たちが結構忙しい思いをしているようだ。
 そうした事務の増大に対処するために代官所の用人も三名ずつ増やしたところであるが、予想以上に領内への流入者が増えていることから、三月もすれば更に人を増やさねばならないかもしれない。

 ともすれば、他領内の貴族の三男坊以下の人材、他領地で食っていけない農家の次男坊以下の人材、一旗揚げようと出て来た商人などが領都であるヴォアールランド及びラドレックに溢れ返っているのである。
 その所為か、ヴォアールランドにあった商業ギルドが大きな建物に転居していた。

 業務が増え、人手が足りなくなったのが一番大きな理由だそうな。
 いずれにせよ、ヴォアールランドもラドレックも、街が活況を呈しているように見える。


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  次回予告、「6-3 エステルンデ砦の災厄」の予定です。
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