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第五章 こいつは大事(オオゴト)なのかな?

5-8 打ち明け話の顛末

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 今、俺は、二人のを前にしている。
 結婚前のコレットは、まぁまぁ、世間話の好きな饒舌な方だったかな。

 シレーヌの方は、どちらかというと控えめで言葉少ない、昭和の昔の女性というイメージがあった。
 だが結婚すると、ちょっと雰囲気が変わったな。

 この二人、姉妹のように仲が良い上に、俺に対しては共同戦線を張ってくるのだ。
 で、結構うるさ型なのだ。

 他の五人の側室候補との動向を根掘り葉掘り聞いてくる。
 側室候補の五人とは、一月の間に二回ほどの逢瀬があるのだが、そのたびに報告を求められるのだ。

 しかも、かなり細かく質問がある。
 何となく上司から叱責を受けているような気分になるのは何故だ?

 要するに側室候補の彼女たちの行動を確認することで、更なる側室としての資質確認を行っているようなんだが。
 まぁ、そのついでに俺の行動も逐一報告しなければならないわけだから、面倒メンドいよな。

 そんな山の神二人に対して、アリス改めリサの存在を隠していれば、いずれ袋叩きに会うのは目に見えている。
 多分、二人の性格からして、側室いびりなんぞはしないとは思うが、まぁ、隠した事実がバレた時の方が間違いなく怖いことになるよな。

 そうしたことを避けるためにも穏便にアリス改めリサの存在を打ち明け、その蘇生の話と将来的に側室として迎え入れたいがどうすれば一番良いかを相談するのである。

「どこから話したらよいか迷うところなのだが、コレットもシレーヌも俺が以前からフレゴルドの街に屋敷を持っているのを知っているよね?」

「ええ、前にねやの話で、幽霊屋敷を安く買い取ったということを教えてくれたから知っているけれど、それがどうかしたの?」

「実は、その件で二人には詳しく話していないこともある。
 幽霊屋敷というのは実際に幽霊が住み着いていたんで、単なるうわさ話ではなかったんだ。
 元々の所有者は詐欺師に騙されて資産を奪われた商人なのだけれど、一人娘を遺して夫婦そろって心中した。
 遺された娘は屋敷に残って何とか生活していたが、以前からいたメイドが裏切って家屋敷の権利書を詐欺師に渡してしまったんだよ。
 娘は人間不信に陥り、屋敷の地下に引きこもって衰弱し、最終的には餓死した。
 だが、肉体は滅んでもその魂が残り、悪霊ではない地縛霊として屋敷に残ったんだ。
 娘の死は、父親の友人がその娘の死後20日前後で確認している。
 そうして、その友人が屋敷の敷地を出た途端、その屋敷は誰も足を踏み入れることのできない呪いの屋敷となったんだ。
 全てはその娘の魂のなせる業だった。
 娘の死後五年経って、俺は娘の父を騙した詐欺師を見つけ。その男から格安の値段で家屋敷を手に入れた。
 その上で屋敷に入り、娘と相談したんだ。
 あぁ、因みに普通の人が敷地に入り込んだなら一瞬でミンチになるほどの霊力が屋敷中を支配していたよ。
 俺は、しっかりと光属性魔法や聖属性魔法でガードして入ったから無事だった。
 このファンデンダルク邸だって、元のダンケルガー辺境伯の呪いがかかっていたけれど、解呪して俺が安く買い取った屋敷だから似たようなものだね。
 俺は、その屋敷の地下室で娘の幽霊と直談判した。
 法的には屋敷の権利書を買い取った俺のものだけれど、元々はその娘が引き継ぐべき邸だったことは知っているから、二人でこの屋敷を共有しないかと持ち掛けたのさ。
 屋敷は五年もの間人手が入らずに荒れ放題で、隣家にも迷惑をかけているような状態だったからね。
 その娘は隣家の者達を良く知っており、個人的にもお世話になったことのある人達の様だった。
 娘は両親を失った悲しみと人間不信に陥ったことから闇の意識に取りつかれていた。
 放置しておけば、いずれは怨霊になっていたかもしれない。
 普通亡骸を放置しておくとアンデッドに成ったりするのだろうけれど、彼女は聖属性魔法を持っていたので、かろうじて悪霊にはならずに居たようだね。
 放置するわけには行かないので浄化の魔法をかけて彼女の闇の部分を緩和しようと持ち掛けたんだ。
 或いは彼女が昇天する恐れもあったので、その危険を含めて彼女の了承をとった。
 幸いにして、彼女の浄化は成功して、そのまま彼女は幽霊としてこの世に残ることになった。
 彼女の名前はアリス・エーベンリッヒ。
 亡くなった時は12歳だった。
 幽霊になってからは歳をとっていない。
 彼女の亡骸は完全に白骨化して、地下室に放置されていた。
 将来的に俺が聖属性魔法を極めたなら、或いは彼女を蘇生できる可能性もあるかもと考え、彼女の亡骸を保存しておいた。
 そうして二人が知っている一連の褒章で俺が伯爵位を得て、王都に別邸を持った時、困った事態が起きた。
 俺は王都に別邸がある。
 所領には本宅がある。
 側室候補を抱えている事情もあるので、王都と所領の行ったり来たりはできるけれど、方向の違うフレゴルドへの行き来は難しくなるからね。
 フレゴルドの屋敷には、執事とメイドを雇っていたから屋敷の維持には問題がないけれど、アリスの擁護ができないんだ。
 彼女は5年もの間、たった一人で屋敷の地下で棲んでいた。
 生前の知り合いは居ても、今更、話し相手にはなってくれないだろう。
 彼女の拠り所は俺しかいなかったんだ。
 彼女の存在は、フレゴルドから連れて来た執事のトレバロン、メイドのラーナとイオライアの三人が幽霊としてのアリスの存在を知っている。
 俺が王都に行って不在の際に、アリスの存在を知ってしまう恐れもあったから、三人には事情を言って説明してあり、外部には秘匿して貰っている。
 彼ら三人を王都別邸に連れて来た時に、実はアリスも別邸に連れて来ていた。
 フレゴルドに居たのでは、簡単に会うこともできないからね。」

 俺はそこで一旦話を切って、シレーヌが淹れてくれたお茶を飲んだ。
 コレットが不思議そうに尋ねた。

「私達にもその幽霊さんの存在を教えておくということかしら?」

「いや、それだけなら別に打ち明ける必要も無いだろう。
 幽霊であれば、人の世とは切り離して生活できるからね。」

 シレーヌが少し緊張気味に言った

「あ、もしかして、アリスが蘇った?」

 途端にコレットの表情が固まった。
 俺は小さく頷いてから言った。

「アリスが、君達や側室候補達を見て、これまで言ったことのない我儘を言った。
 彼女も俺の嫁になりたいってね。
 俺の伯爵という身分から言えば、彼女を側室の一人として迎えることも可能だろう。
 だが、そうするためには彼女が生身の身体を持つ必要があった。
 できるかどうかわからない方法を求めて色々と試行錯誤し、動物を使って実験もした。
 できなければ彼女には諦めてもらうつもりだったが、実験では可能だったのだ。
 但し、彼女の依り代は白骨だけだ。
 他の人を持ってきて、憑依させるなんてことは試したことは無いし、多分できないからね。
 白骨から肉体を再生し、尚且つ、今存在するアリスの魂をそれに入れることができなければアリスの再生はない。
 試行錯誤の結果、肉体再生の間、ずっと傍に居ることで元の肉体に戻れる可能性を見出した。
 尤も、動物で試すことはできても人体実験はできない。
 失敗すれば、アリスが消滅する可能性すらあった。
 それらの危険性を説明して、アリスが同意したから、再生を試み、アリスを復活させた。
 死後五年有余を経て、白骨死体から12歳の肉体を持ったアリスが蘇生した。
 彼女は、生前の記憶と死後五年余りの幽霊の間の記憶も持っている。
 精神的には17歳、いや、間もなく18歳かな。
 アリスは死んだことになっているから、新たにリサ・ボーレンとして彼女の出自を偽装し、彼女をヴィアールランド近郊のグレービアという村に住まわせている。
 今、現在は、口入屋から信用のできる奴隷を買って、執事一名とメイド二名が一緒に生活している。
 色々ここまでの段階でも問題はあるだろうが、肝心なのは、あなた達二人が彼女を側室として迎えることに同意できるかどうかなのだが、・・・。
 どうだろう?」

 二人の嫁sは、ため息をついた。
 コレットが口を開いた。

「旦那様のなすことは時々常軌を逸していますが、此度は格別ですね。
 これはもう、ファンデンダルク家を揺るがすほどの大事おおごとと申してよいでしょう
 五年前に死んだ者を生き返らせたなど、口が裂けても他所よそには申せません。
 ジェスタ国内の教会勢力に隠すのは無論のことですが、カルデナ神聖王国辺りに嗅ぎつけられれば、神聖騎士団が大挙してやって来そうです。
 生き返る前ならばお停めしましたが、既に生き返らせたものの良し悪しはもう意味がないでしょう。
 アリス、いえ、リサ・ボーレン嬢でしたか・・・。
 旦那様が側室として将来迎え入れるおつもりならば、私も敢えて異議を唱えるつもりはありません。
 なれど、私達と旦那様を分け合って生きて行けるのか否かを確認せねばなりますまい。
 聞けば彼女は平民育ち、貴族の生活にも慣れてはいないでしょうし、12歳以降はまともな教育さえ受けていない筈。
 私とシレーヌを、グレービアに連れて行ってくださいませ。
 リサ嬢と話をしたいと存じます。
 その上で私たち二人が納得できたなら、側室として迎え入れるためにリサ嬢を王都別邸、若しくは、ヴォアールランドの本宅に迎え入れるべきです。
 平民の未成年の娘を領地の田舎に放置しておくなど論外です。
 貴族など領内外の力ある者が無理難題を押し付けてきた際に、平民では避ける術がございません。
 彼女を擁護できるしっかりとした身寄りがないのであれば、取り敢えずは旦那様と私の養女として迎え入れ、成人の折に側室として迎え入れれば宜しいのです。
 また、王都へ参れば学校へ通わすなり、教師をつけるなりして教養を身に着けることも出来ましょう。
 どなたか然るべきお方に彼女の後見人を頼むという方法もございますが、彼女の秘密を晒す危険性がある以上はその方策は取れません。
 旦那様は、少し危機意識が欠けています。
 馬車で4日もかかるようなところへ幼い娘を放置するなど常識外れですわよ。」

 いや、俺は別に放置などしていないし、転移でいつでも飛んで行けるからな。
 ただ、その件はアリス以外には知らせていないから話せないだけだ。

 もう一つ言えば、アリスはかなりの魔法師だぞ。
 並みの冒険者どもなら簡単に無力化できるから、警護に関する限りは問題がない。
 
 ただまぁ、コレットの言う通り、平民という身分は貴族辺りから無理難題を言われた時に若干困るかな?
 そんな場合は、アリスから念話を受け取って、俺が出張るつもりではいたけれど、これも今のところ嫁sには話せないよなぁ。

 そんなわけで、俺はしっかり者の二人に、こってりと叱られました。
 そうして二人の遠出の準備ができ次第、馬無し馬車でグレービアへ向かったのである。

 今回は大移動でしたね。
 俺と嫁二人、これにメイドや執事がそれぞれ付くんで、警護を入れずに12名、警護が22名で合わせて34名が9台の馬無し馬車に分乗しました。
 
 因みに馬無し馬車は、別邸には3台しか用意していなかったのだけれど、急遽6台増やしましたよ。
 御者は四名しかいなかったけれど、緊急の場合を想定して警護の騎士たちに運転を訓練させておいたのが今回は役立ちました。

 それと地下駐車場も新たに作りました。
 広い敷地だから、9台の馬無し馬車の駐車スペースぐらいはあるけれど、他所へのひけらかしにもなりかねないから、出来るだけ隠すのです。

 これ、敵を作らないための元商社マンの知恵。
 必要な場合には、誇大なぐらいにアピールするけれど、妬みを買っちゃいけないのです。

 で、王都別邸から一日でヴォアールランド本宅へ到着、翌日にグレービアを訪ね、半日、嫁sとリサが話し合っていました。
 リサは賢い娘です。

 商売人の娘なので駆け引きもそれなりに知っています。
 死ぬ前は、両親の死と頼っていたメイドの裏切り行為で理性が崩壊していたために闇に陥りかけ、ついには亡くなったのです。

 平常心が有ればもう少しうまく立ち回れたような気がしますね。
 嫁s二人も貴族社会の荒波に揉まれてきたから、若いながらも人の機微を良く知っているのです。

 その日のうちにリサはグレービアの館を出ることになりました。
 グレービアの屋敷は、そのまま別荘として残すことになり、執事とメイド達はそのまま居残ることになりました。

 アリス改めリサは、このようにして王都別邸での生活を始めたのです。
 
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