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第五章 こいつは大事(オオゴト)なのかな?

5-4 アリスの蘇生は可能か?

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 アリスの蘇生方法の検討については、何度も繰り返して見直しをかけ、動物の死体で検証をしてみた。
 以前、治癒魔法習得のために行った実験では、死んで間もないチュウ公の蘇生ならば可能なのは確認している。

 だが、骨になったものまでも再生できるかどうかについては試していない。
 で、今回も最初は屋敷の庭にいたモグラのような生物を捕獲、これを取り敢えずの実験体とした。

 当然に生きているヤツを殺すところから始める。
 あんまり苦しまないように、被検体の周囲から酸素を奪って殺すようにした。

 三秒もしないうちに意識を失い、三分もしないうちに被検体は死んだ。
 ここで蘇生をかけてもチュウ公と同じなのだから意味がない。

 多分哺乳類なのだろうと推測される被検体をインベントリ内で解体した。
 その上で骨だけを取り出し、骨に含まれるDNAとRNAから細胞組織の再生を行ってみた。

 再生に必要なコロイド状の培養液の中で細胞を作って行くのだが、こいつには結構な時間がかかる。
 で、俺の亜空間の中で時間を10万倍ぐらいに早めることで結果を促進した。
 
 中の1日が外の1秒足らずで終わる亜空間内だから、30日で26秒ほど、1年480日では7分ほどかかることになる。
 培養の結果、概ね14分で成体まで成長することがわかった。

 クローンを作れることはわかったが、こいつに元の被検体の魂が宿っているか否かまでは不明だ。
 残念ながらモグラ擬きの精神までは探れなかったからね。

 まぁ、それでも餌を与えたら餌を食べたのでそれなりの本能はあるものと思われる。
 この結果をアリスに反映できるかというと、このままじゃ無理だな。

 DNAとRNAからの再生では、恐らくアリスのクローン・ベィビーはできても、亡くなった当時の姿に再生することは難しい。
 そこからさらに10万倍の時間に加速された亜空間で正味12年分、外の時間では1時間ちょっとあれば肉体が成長するかもしれないが、脳も肉体も訓練されていない筈。

 流石に乳飲み子から12歳まで普通に育て上げるのは勘弁してほしい。
 まぁ、俺と妻若しくは側室たちの養子として育てることはできるが、それはアリスの望んでいることではないだろうし、幽体としてのアリスの居場所がなくなる。

 やるとすればアリスの骨そのものを使って肉体を再現するのが最初のステップになるだろう。
 そのため第二段階の実験では、別の被検体(地ネズミ?、チュウ公―A)を使って、一旦殺し、解体してから骨だけ培養液に漬けて再生が可能かどうかを実験した。

 培養液の一部を変更するなど30回ほど試行錯誤を繰り返した結果、チュウ公―Aが蘇ったよ。
 但し、こいつが前のチュウ公の能力を受け継いでいるかどうかは不明だ。

 第三段階の実験では、また別の被検体(チュウ公―B)を使って、空間学習能力の確認を先ず行った。
 そうして迷路を抜けるための学習能力がついたチュウ公ーBを使って第二段階+アルファの実験を行った。

 ”+アルファ”の部分は、そもそもチュウ公―Bが死んだとき、その魂(幽体)がその場に残っているとは限らないから、チュウ公―Bの魂がその場にとどまるように試みることだった。

 色々試行錯誤の結果、俺は生きた状態のチュウ公―Bを亜空間に収納し、当該亜空間をインベントリに入れてみた。
 本来、植物以外の生き物をインベントリに入れることはできない筈なんだが、亜空間に収納した状態ならば、亜空間ごとインベントリに収納できることがわかった。

 その上で亜空間内のチュウ公―Bを殺したのだが、俺のセンサーで淡くピンク色の存在が亜空間内部に察知できていた。
 おそらくはこれがチュウ公―Bの魂じゃないかと推測している。

 その上で再度の再生実験である。
 無論再生はするだろうが、再生した固体が死ぬ前に学習した能力を受け継いでいるかどうか、すなわち死んだ時に生まれたであろう幽体が亜空間内に留まっていて、肉体再生時に当該肉体に復帰できるかどうかが一番の問題だった。

 仮に学習能力が残っていれば、何らかの形で幽体は亜空間内に残っており、再生した肉体と結びつくことができたと考えるべきだろう。
 その間のプロセスは、単なる傍観者の俺には解析できない。

 だが、肉体再生と記憶再生が両立できることが大事だいじなのだ。
 そうして、そいつは見事にクリアできた。

 再生したチュウ公―Bは、予め設定した迷路の記憶を持っており、道順を間違えることなく餌までたどり着くことが確認できたからだ。
 因みに肉体再生が終わり培養液を抜いた時点で亜空間内のピンクの存在は消滅していた。

 第四段階は、時間経過の影響の確認である。
 アリスの場合、死後五年以上経過している。

 その五年という経年変化の状態でも、きちんと元の肉体に戻れるかどうかである。
 俺は、別の被検体(チュウ公C、D及びE)を使って、第三段階の学習経験を行わせ、殺害・解体後に加速した亜空間内で21分(三年分)、35分(五年分)、1時間(10年分)の放置を行った。

 加速された亜空間内で、それぞれ凡そ3年分、5年分、10年分の時間だけ過ぎ去ったはずだ。
 幽体であろう淡いピンク色の存在は、その間も存在していた。

 祈るような気持ちで実験を行った結果、再生はできたし、学習記憶も維持されていた。
 うーん、俺なんか10年も経てば迷路の一時的記憶なんか当然に忘れていると思うけれど、その意味ではチュウ公達は偉いと思うぜ。

 取り敢えずの目途はつけられたが、アリスに試すにはまだ検証が不足だろう。
 猿を含めた他の動物でも検証実験を行ってから最終確認に入るつもりだ。

 それから俺は50種類ほどの動物を使って実験を繰り返した。
 一番の大物はジャイアントボアでこれが最後だった。

 体長4mを超える大きなイノシシなんだが、こいつが魔素の濃い場所に居ると魔物になってしまう筈だ。
 たしか魔物になった時はギガントボアとか言うのだったかな?

 で、こいつも10年分の放置後に再生してみたら、しっかりと元の体格で再生できたので一応の検証を終えることにした。
 学習効果については若干疑問があるような動物もいないではなかったが、概ね高等動物の場合は間違いなく記憶の再生が確認された。

 後はアリスの意思確認が残ったな。
 何度検証を行ったところで人間を対象にした検証は、俺の倫理上できないんだ。

 最初はギルドで手配がかかっているお尋ね者を捕まえて、実験台にすることも考えたよ。
 無論、生死を問わずのお尋ね者なので悪党なんだから殺しても構わないと思うのだけれど、生きたまま捕まえてわざわざ殺すのは倫理観にもとるし、捕まえるのが目的ではなく実験のために殺すというのがな・・・。

 だからと言って、何ら罪のない死んだ者を生き返らせて実験に使ったとして、その後をどうするかが問題だ。
 そいつを放置すれば、いずれ教会勢力等に生き返らせた事実が知られて俺が排斥されるだろうから、放置はできないが、一方で証拠隠しのためにまた殺すのは到底できないぜ。

 従って、アリスの場合は、どうしてもぶっつけ本番になる。
 その結果として、アリスの身体は再生できても魂の抜け殻になるかもしれないし、別の新たなアリスが宿って、今の幽体のアリスが弾かれることもあるかもしれない。

 正直言って俺はこいつを試すことが本当に怖いよ。
 だからアリスにはくどいほど意思の確認をするつもりだ。

 危険性も教える。
 アリスの記憶が全部失われるかもしれないし、そもそもが禁忌に触れてもう一度死ぬかもしれない。

 アルノス幼女神様は明確に言った。
 「存在するなら禁忌ではない。」と、だが禁忌であれば存在そのものを許されないことになるんじゃないのか?

 アリスに覚悟が有ったにしても、俺にこの危険な処方をやり通す覚悟があるかどうかも不安でしょうがない。
 ある意味で知己の存在であり、大事な友人をこの手で殺すことになるのに等しいんだ。

 だから俺は凄く怖いと感じている。
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