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第五章 こいつは大事(オオゴト)なのかな?
5-3 相談・古代遺跡精査・結婚式、その他諸々
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俺は今王都のサン・クレア教会にいる。
王都の教会も結構な数があるのだが、俺が行くのは基本的に小さ目の教会ばかりだ。
王都を代表するような聖アントノス教会なんて白亜の殿堂のようなバカでかい教会もあるようだが、そういうところはできるだけ避けている。
尤も、婚礼の日がかなり近くなったのだが、式は噂の聖アントノス教会で挙げなければならないらしい。
王族の婚儀はそこで行うのが慣例なんだそうで、いつも通り俺に拒否権はない。
信仰心なんぞほとんどない俺が教会に行く理由は二つ、アルノス幼女神様と相談したい場合、それに付属している孤児院に寄付をする場合に通常は限られる。
因みに聖アントノス教会には孤児院はないんだそうだ。
サン・クレアのサンは「聖人」又は「聖女」の意味合いがあるらしい。
古に徳のあったクレアという修道女をたたえて作られた教会で、王都で初めて孤児院を併設した教会のようだ。
まぁ、そこのシスターに恒例となっている諸々の寄付を渡し、許可を得て礼拝堂で祈りのポーズをしているってわけだ。
今日は、幼女神様もすんなりとお出ましになった。
で、早速、古代文明の遺跡と、日本からの転生者についての情報について報告。
「ほう、一万三千年も昔の話かぇ。
妾が前任神から引き継いだのはかれこれ七千年前の事じゃが、その転生者の話は知らぬのぉ。
前任神から引き継いだ中に、その昔魔道具の栄えた古代文明があったとの話は聞いて居るのじゃが、彗星の衝突で北部大洋全域の大陸プレートが影響を受けて、ヴィアーラ帝国を含む古代文明はほぼ根こそぎ失われたと聞いた。
妾が受け継いでからも当時の古代遺跡が発見されたことは一度も無いはずじゃ。
あっても破壊されつくされており、単なる遺物や墓場にしか過ぎぬ。
ただ、そのような超古代文明の遺物が未だ稼働できるとはのぉ・・・。
で、リューマはどうするつもりなのじゃ?」
「いや、俺の方もどうすべきかをアルノス様にお聴きしたくて来たのですが・・・。」
「ふむ、・・・。
相談されてものぉ・・・。
正直言って妾としては困るのじゃがな。
前にも云うたと思うが、妾は地上界にほとんど干渉はできぬ立場なのじゃ。
たまたま妾と相談できるリューマが見つけたから報告を聞いておられるが、他の者が見つけたなら妾と相談などできまい。
仮にそのことがもとで世界が滅亡の窮地に陥ろうと妾にできることは少ないな。
リューマが巻き込まれてこの世界に召喚されかかった折に妾が手を出せたのは、この世界でも禁忌とされる行いが有ったことと召喚の際に妾の力の及ぶ範囲をリューマが通過した為にほかならぬのじゃ。
召喚されし勇者候補たちはそれなりの待遇が得られるであろうと思われたから、干渉を最小限に抑えるために当然に放置したのじゃがな。
流石に召喚自体を無かったことにはできなんだ。
妾と言えど、神代のしがらみの中で動いておる。
此度の古代文明の一件は妾が一切干渉できぬものじゃな。
かつて栄えた古代文明を発掘し、それを元に新たな器具を開発し、高度な文明を育んでも何ら禁忌には当たらぬのじゃ。」
「うーん、こっちに丸投げですか。
アルノス様に相談すれば何か指針を得られるかと思っていたのですが・・・。」
「余り妾に期待するでない。
リューマが頻繁に妾と話ができるのさえ、ある意味では特別待遇なのじゃぞ。
禁忌には触れないがのぉ。」
「しょうがないですね。
あ、あと今一つご相談が有ります。
アリスの件なのですが・・・。
ご承知のようにアリスの意識は幽体として残っており、実体のあるモノへの干渉も彼女の意思次第でできます。
推測ですが、彼女の能力ならば少なくともBランク以上の冒険者に匹敵する力を持っていると思います。
おまけに、このままだと不滅ですしね。
俺の造った亜空間を根拠地とすることで全くロス無しで動き回れるようです。
そんな彼女が生き返りたいと強く望むようになりました。
俺の婚約者たちがきっかけになったみたいで、ある意味でジェラシーでしょうかねぇ・・・。
俺の嫁になりたいと言うようにまでなりました。
嫁にするかどうかは別として、取り敢えずアリスの蘇生について検討すると約束をしました。
未だ検討段階ではあるのですが、そもそも、骨になった遺骸と幽体のアリスを使って蘇生することは禁忌となりますか?」
「ふむ、そもそも骨と幽体を使って蘇生するなどという方法は確立されておらぬな。
じゃが、死霊術でスケルトンやゾンビを疑似生体化して使役することは認められておる。
ヒト族や亜人族社会の倫理で如何に嫌悪されていようとも、魔法の一形態として存在する以上、禁忌にはならぬ。
仮にそれが人の法で禁忌とされようと妾達の禁忌には当たらぬのじゃ。
一方で、転生はこのホブランドでも自然発生的に稀に起きている。
その場合、元の肉体と新たな肉体は違っておるが、転生による幽体の入れ替えはあり得るということじゃ。
じゃから、仮にリューマの言う様なアリスの骨と幽体を使って、生身のアリス、おそらくはこれまでの記憶も受け継いでということじゃろうが、蘇生させても禁忌には触れぬ。
但し、ヒト族や亜人族社会の倫理観に与える影響は少なくない。
恐らくはそのことを知ったなら教会勢力が強硬に反対するじゃろう。
じゃによって、仮に蘇生が実現できたとしても、その手法や蘇生の事実は絶対の秘密とせねばなるまいぞ。」
「なるほど・・・。
あと、もう一つ、その蘇生過程で、アリスの幽体そのものが消滅する恐れも皆無ではありません。
その場合、記憶を持たない無垢のアリスが生まれてしまうことになりますが、それは如何でしょうか?」
「同じことじゃな。
リューマは、人が人を創り出すことに抵抗を覚えておるのじゃろうが・・・。
この世の理では、存在できぬモノは存在せぬ。
どれほど倫理観に反し、かつ邪悪なものであっても、存在する以上はこの世の理に沿った存在ということじゃ。
アリスを蘇生できるならば、試してみるがよい。
そもそも存在できぬモノならば端から失敗しよう。
成功したならば当然に妾も認める存在ということじゃ。
因みに異世界召喚の魔法陣について禁忌とされておるのは、異世界間の歪みを無理やりに生じさせて召喚することが、この世界と関連する世界の間に大きな軋轢を生じる恐れがあるからじゃ。
多用すると両方の世界が壊れるやも知れぬでな。
その点リューマが時折使っている異世界移動は、二つの世界に歪みを生じさせないもののようじゃ。
その意味では使用する魔力の大きさと効率性の問題かもしれぬな。
じゃからリューマの元の世界への行き来については特に制限をかけておらぬのじゃ。」
それを聞いて俺の中でようやく安心感が生まれた。
アリスの蘇生を手掛けること自体が許されざる行為ではないのかと常々考えていたからだ。
まぁ、アルノス幼女神様の言う通り、教会関係者からは神をも恐れぬ不届きな所業と非難されるだろうな。
秘密にしておくことで波風が立たないようにするのはいつものことだ。
俺はアルノス幼女神様に心からのお礼を言って立ち上がった。
幼女神様はいつものように、にぱっと微笑んで消えていった。
◇◇◇◇
その日から暫しの間は、古代遺跡に残された資料の解析に時間をかけた。
王家に報告するにしろ、秘匿するにしろ、遺された遺物の有用性と危険性を俺自身が把握しておきたかったからだ。
解析には研究所の至る所にあった古文書が大いに役に立ってくれた。
眼で読むだけでは非常に難解な論文も、インベントリの中に入れて頭に入れると面白いほどよくわかるのである。
流石に間違った理論なんぞはそのままでは理解不能だけれどね。
毎日深夜にお忍びで研究所を訪れ、概ね三時間ほどの時間を費やしているのだが、コレット王女とシレーヌ嬢との婚儀までに概ね三割ほどの資料を読み終えていたヨ。
そうしてついに結婚式当日。
聖アントノス教会で神前での夫婦の宣誓を行い、屋敷に戻って婚礼の披露宴があった。
披露宴には伯爵の叙爵披露よりも多くの人が招待された。
叙爵披露の場合は、派閥に属する有力者等に限定するなどある程度人数が絞られたが、そもそも結婚披露は多くの人に来てもらうのが習わしのようだ。
従って俺の知り合い多数に、コレット王女やシレーヌ嬢の知り合い多数が押しかけ、広い屋敷の庭園も流石に人波で埋もれるほどだった。
で、まぁ、憧れ(俺?それともコレット王女やシレーヌ嬢?)の結婚式なんだが、新郎は特にすることもなく、周囲の者がしっかりとおぜん立てしてくれたんで、予定通り無事にすんだよ。
日本だと婚礼の後でハネムーン旅行なんぞに出かけるんだろうけれど、ホブランドでは新婚旅行なんぞという習慣はまだ無い。
その夜から10日間は、屋敷から一歩も出なかった。
10日間も何をしたかって?
まぁ、御想像に任せるけれど、その半分は寝室に籠って二人の花嫁とするべきことをしたよ。
おかげさまで干からびるんじゃないかと思ったこともあったけれど、何とか無事に過ごせたね。
でもこれから側室さんが徐々に増えて来るわけなんだが、本当に持つのかなぁと心配している俺だった。
◇◇◇◇
それから約二か月半、古代遺跡の事前調査はほぼ終了した。
で、次は確認のために、クルーザータイプ(戦闘艦じゃない方だヨ)の飛空艇の劣化部品の交換をやってみた。
まぁ、色々修理方法はあるのだけれど、俺の亜空間工房に放り込むのが一番早かった。
劣化部品とそれに必要な素材を放り込み錬金術で劣化部品と同様に組み上げるわけだ。
一旦作ってしまえば、同じ規格のものであればコピーが作れる。
まぁ、規格違いというか大きさとか容量の違いとか必ずしも同じじゃないモノの方が多いのだけれど、クルーザータイプで83点の部品交換で何とか及第点になりそうだった。
問題は動力なんだけれど、これも研究所の動力源と同じく魔力蓄積装置が組み込んである。
魔力バッテリー自体がかなり劣化していてこれも交換する羽目になった。
交換と言っても研究所に保管しているモノでは役に立たず、全く新たに作らねばならないので、更なる1か月ほどはこの魔力バッテリー修理にかかりっきりになったな。
まぁ、1日の作業時間は三時間までと決めていたのでその所為もある。
仮に他の仕事やらをほっぽって、これ専従でやっていたら多分20日ぐらいでできたんじゃないかと思う。
そんなこんなで、ようやく出来上がった魔力バッテリーに魔力を通したんだが、あっという間に俺の魔力の6割が持っていかれた。
それを2回(二日)やってフルチャージかな?
俺のインベントリに修理したクルーザーを放り込み、研究所から一旦外に出て、試験飛行をやってみた。
当然に夜の話なんで外は真っ暗闇なんだけれど、用心のため照明もできるだけ暗くして動かした。
結果から言えば、マニュアル通り動いて大成功だったね。
何と言うか俺の知っている航空機と違って殆ど無音なんでちょっと不気味な感じもする。
初飛行は、10mほどの高さを水平飛行でゆっくりと100m程移動して終わった。
速力試験や航続距離なんかは別の日にやるつもりだ。
何れにしろ飛空艇技術が確かなものであり、もう一隻の戦闘艦タイプも飛行は多分可能だろうと思えるに至った。
尤も戦闘艦の武器については今のところ試していないから再現できるかどうかは不明だ。
仮に王家に報告する場合は、稼働可能な二隻を除いた建造途中の二隻を見せようと思っている。
その場合、研究所施設については王家の要請でも当面使わせないつもりだ。
そのための準備として、研究所施設のセキュリティシステムを復旧することにした。
単純に俺以外の者にはアクセスさせないようプログラムしておけば、施設があることはわかっていても、使えないことにできる。
セキュリティシステムには何種類かの警備用ゴーレムも含まれており、それも整備しなおせばほぼ自動で人の出入りを制限できるはずだ。
ということで、今後の方針としては船渠を含めた研究所施設の再生、就中セキュリティシステム整備を進めることにした。
但し、遺跡と飛空艇の発見はジェスタ国にとっては大事なのかも知れないけれど、船渠や研究所の再生を特に急ぐつもりはない。
これまで一万年以上も飛空艇無しで過ごしてきて何ら困らなかったんだ。
数年、いや、10年や20年遅れたからと言って全く問題はない筈なので当然のことながら王家への報告も恣意的に遅らせる。
使えない建造途中の飛空艇であっても、そうしたものが存在するという情報が伝わることで周辺国家との平和が乱されることの方が心配だ。
いつの世でも、「隣の芝生は青く見える」ものだから、ジェスタに望外の遺物が出現したと知られれば、欲深な隣国が要らざる干渉をしてくる可能性は大きい。
俺としては、そんなことに関わり合うよりもアリスの蘇生を真剣に検討したいな。
=============================
4月7日及び7月26日、一部の字句修正を行いました。
By @サクラ近衛将監
王都の教会も結構な数があるのだが、俺が行くのは基本的に小さ目の教会ばかりだ。
王都を代表するような聖アントノス教会なんて白亜の殿堂のようなバカでかい教会もあるようだが、そういうところはできるだけ避けている。
尤も、婚礼の日がかなり近くなったのだが、式は噂の聖アントノス教会で挙げなければならないらしい。
王族の婚儀はそこで行うのが慣例なんだそうで、いつも通り俺に拒否権はない。
信仰心なんぞほとんどない俺が教会に行く理由は二つ、アルノス幼女神様と相談したい場合、それに付属している孤児院に寄付をする場合に通常は限られる。
因みに聖アントノス教会には孤児院はないんだそうだ。
サン・クレアのサンは「聖人」又は「聖女」の意味合いがあるらしい。
古に徳のあったクレアという修道女をたたえて作られた教会で、王都で初めて孤児院を併設した教会のようだ。
まぁ、そこのシスターに恒例となっている諸々の寄付を渡し、許可を得て礼拝堂で祈りのポーズをしているってわけだ。
今日は、幼女神様もすんなりとお出ましになった。
で、早速、古代文明の遺跡と、日本からの転生者についての情報について報告。
「ほう、一万三千年も昔の話かぇ。
妾が前任神から引き継いだのはかれこれ七千年前の事じゃが、その転生者の話は知らぬのぉ。
前任神から引き継いだ中に、その昔魔道具の栄えた古代文明があったとの話は聞いて居るのじゃが、彗星の衝突で北部大洋全域の大陸プレートが影響を受けて、ヴィアーラ帝国を含む古代文明はほぼ根こそぎ失われたと聞いた。
妾が受け継いでからも当時の古代遺跡が発見されたことは一度も無いはずじゃ。
あっても破壊されつくされており、単なる遺物や墓場にしか過ぎぬ。
ただ、そのような超古代文明の遺物が未だ稼働できるとはのぉ・・・。
で、リューマはどうするつもりなのじゃ?」
「いや、俺の方もどうすべきかをアルノス様にお聴きしたくて来たのですが・・・。」
「ふむ、・・・。
相談されてものぉ・・・。
正直言って妾としては困るのじゃがな。
前にも云うたと思うが、妾は地上界にほとんど干渉はできぬ立場なのじゃ。
たまたま妾と相談できるリューマが見つけたから報告を聞いておられるが、他の者が見つけたなら妾と相談などできまい。
仮にそのことがもとで世界が滅亡の窮地に陥ろうと妾にできることは少ないな。
リューマが巻き込まれてこの世界に召喚されかかった折に妾が手を出せたのは、この世界でも禁忌とされる行いが有ったことと召喚の際に妾の力の及ぶ範囲をリューマが通過した為にほかならぬのじゃ。
召喚されし勇者候補たちはそれなりの待遇が得られるであろうと思われたから、干渉を最小限に抑えるために当然に放置したのじゃがな。
流石に召喚自体を無かったことにはできなんだ。
妾と言えど、神代のしがらみの中で動いておる。
此度の古代文明の一件は妾が一切干渉できぬものじゃな。
かつて栄えた古代文明を発掘し、それを元に新たな器具を開発し、高度な文明を育んでも何ら禁忌には当たらぬのじゃ。」
「うーん、こっちに丸投げですか。
アルノス様に相談すれば何か指針を得られるかと思っていたのですが・・・。」
「余り妾に期待するでない。
リューマが頻繁に妾と話ができるのさえ、ある意味では特別待遇なのじゃぞ。
禁忌には触れないがのぉ。」
「しょうがないですね。
あ、あと今一つご相談が有ります。
アリスの件なのですが・・・。
ご承知のようにアリスの意識は幽体として残っており、実体のあるモノへの干渉も彼女の意思次第でできます。
推測ですが、彼女の能力ならば少なくともBランク以上の冒険者に匹敵する力を持っていると思います。
おまけに、このままだと不滅ですしね。
俺の造った亜空間を根拠地とすることで全くロス無しで動き回れるようです。
そんな彼女が生き返りたいと強く望むようになりました。
俺の婚約者たちがきっかけになったみたいで、ある意味でジェラシーでしょうかねぇ・・・。
俺の嫁になりたいと言うようにまでなりました。
嫁にするかどうかは別として、取り敢えずアリスの蘇生について検討すると約束をしました。
未だ検討段階ではあるのですが、そもそも、骨になった遺骸と幽体のアリスを使って蘇生することは禁忌となりますか?」
「ふむ、そもそも骨と幽体を使って蘇生するなどという方法は確立されておらぬな。
じゃが、死霊術でスケルトンやゾンビを疑似生体化して使役することは認められておる。
ヒト族や亜人族社会の倫理で如何に嫌悪されていようとも、魔法の一形態として存在する以上、禁忌にはならぬ。
仮にそれが人の法で禁忌とされようと妾達の禁忌には当たらぬのじゃ。
一方で、転生はこのホブランドでも自然発生的に稀に起きている。
その場合、元の肉体と新たな肉体は違っておるが、転生による幽体の入れ替えはあり得るということじゃ。
じゃから、仮にリューマの言う様なアリスの骨と幽体を使って、生身のアリス、おそらくはこれまでの記憶も受け継いでということじゃろうが、蘇生させても禁忌には触れぬ。
但し、ヒト族や亜人族社会の倫理観に与える影響は少なくない。
恐らくはそのことを知ったなら教会勢力が強硬に反対するじゃろう。
じゃによって、仮に蘇生が実現できたとしても、その手法や蘇生の事実は絶対の秘密とせねばなるまいぞ。」
「なるほど・・・。
あと、もう一つ、その蘇生過程で、アリスの幽体そのものが消滅する恐れも皆無ではありません。
その場合、記憶を持たない無垢のアリスが生まれてしまうことになりますが、それは如何でしょうか?」
「同じことじゃな。
リューマは、人が人を創り出すことに抵抗を覚えておるのじゃろうが・・・。
この世の理では、存在できぬモノは存在せぬ。
どれほど倫理観に反し、かつ邪悪なものであっても、存在する以上はこの世の理に沿った存在ということじゃ。
アリスを蘇生できるならば、試してみるがよい。
そもそも存在できぬモノならば端から失敗しよう。
成功したならば当然に妾も認める存在ということじゃ。
因みに異世界召喚の魔法陣について禁忌とされておるのは、異世界間の歪みを無理やりに生じさせて召喚することが、この世界と関連する世界の間に大きな軋轢を生じる恐れがあるからじゃ。
多用すると両方の世界が壊れるやも知れぬでな。
その点リューマが時折使っている異世界移動は、二つの世界に歪みを生じさせないもののようじゃ。
その意味では使用する魔力の大きさと効率性の問題かもしれぬな。
じゃからリューマの元の世界への行き来については特に制限をかけておらぬのじゃ。」
それを聞いて俺の中でようやく安心感が生まれた。
アリスの蘇生を手掛けること自体が許されざる行為ではないのかと常々考えていたからだ。
まぁ、アルノス幼女神様の言う通り、教会関係者からは神をも恐れぬ不届きな所業と非難されるだろうな。
秘密にしておくことで波風が立たないようにするのはいつものことだ。
俺はアルノス幼女神様に心からのお礼を言って立ち上がった。
幼女神様はいつものように、にぱっと微笑んで消えていった。
◇◇◇◇
その日から暫しの間は、古代遺跡に残された資料の解析に時間をかけた。
王家に報告するにしろ、秘匿するにしろ、遺された遺物の有用性と危険性を俺自身が把握しておきたかったからだ。
解析には研究所の至る所にあった古文書が大いに役に立ってくれた。
眼で読むだけでは非常に難解な論文も、インベントリの中に入れて頭に入れると面白いほどよくわかるのである。
流石に間違った理論なんぞはそのままでは理解不能だけれどね。
毎日深夜にお忍びで研究所を訪れ、概ね三時間ほどの時間を費やしているのだが、コレット王女とシレーヌ嬢との婚儀までに概ね三割ほどの資料を読み終えていたヨ。
そうしてついに結婚式当日。
聖アントノス教会で神前での夫婦の宣誓を行い、屋敷に戻って婚礼の披露宴があった。
披露宴には伯爵の叙爵披露よりも多くの人が招待された。
叙爵披露の場合は、派閥に属する有力者等に限定するなどある程度人数が絞られたが、そもそも結婚披露は多くの人に来てもらうのが習わしのようだ。
従って俺の知り合い多数に、コレット王女やシレーヌ嬢の知り合い多数が押しかけ、広い屋敷の庭園も流石に人波で埋もれるほどだった。
で、まぁ、憧れ(俺?それともコレット王女やシレーヌ嬢?)の結婚式なんだが、新郎は特にすることもなく、周囲の者がしっかりとおぜん立てしてくれたんで、予定通り無事にすんだよ。
日本だと婚礼の後でハネムーン旅行なんぞに出かけるんだろうけれど、ホブランドでは新婚旅行なんぞという習慣はまだ無い。
その夜から10日間は、屋敷から一歩も出なかった。
10日間も何をしたかって?
まぁ、御想像に任せるけれど、その半分は寝室に籠って二人の花嫁とするべきことをしたよ。
おかげさまで干からびるんじゃないかと思ったこともあったけれど、何とか無事に過ごせたね。
でもこれから側室さんが徐々に増えて来るわけなんだが、本当に持つのかなぁと心配している俺だった。
◇◇◇◇
それから約二か月半、古代遺跡の事前調査はほぼ終了した。
で、次は確認のために、クルーザータイプ(戦闘艦じゃない方だヨ)の飛空艇の劣化部品の交換をやってみた。
まぁ、色々修理方法はあるのだけれど、俺の亜空間工房に放り込むのが一番早かった。
劣化部品とそれに必要な素材を放り込み錬金術で劣化部品と同様に組み上げるわけだ。
一旦作ってしまえば、同じ規格のものであればコピーが作れる。
まぁ、規格違いというか大きさとか容量の違いとか必ずしも同じじゃないモノの方が多いのだけれど、クルーザータイプで83点の部品交換で何とか及第点になりそうだった。
問題は動力なんだけれど、これも研究所の動力源と同じく魔力蓄積装置が組み込んである。
魔力バッテリー自体がかなり劣化していてこれも交換する羽目になった。
交換と言っても研究所に保管しているモノでは役に立たず、全く新たに作らねばならないので、更なる1か月ほどはこの魔力バッテリー修理にかかりっきりになったな。
まぁ、1日の作業時間は三時間までと決めていたのでその所為もある。
仮に他の仕事やらをほっぽって、これ専従でやっていたら多分20日ぐらいでできたんじゃないかと思う。
そんなこんなで、ようやく出来上がった魔力バッテリーに魔力を通したんだが、あっという間に俺の魔力の6割が持っていかれた。
それを2回(二日)やってフルチャージかな?
俺のインベントリに修理したクルーザーを放り込み、研究所から一旦外に出て、試験飛行をやってみた。
当然に夜の話なんで外は真っ暗闇なんだけれど、用心のため照明もできるだけ暗くして動かした。
結果から言えば、マニュアル通り動いて大成功だったね。
何と言うか俺の知っている航空機と違って殆ど無音なんでちょっと不気味な感じもする。
初飛行は、10mほどの高さを水平飛行でゆっくりと100m程移動して終わった。
速力試験や航続距離なんかは別の日にやるつもりだ。
何れにしろ飛空艇技術が確かなものであり、もう一隻の戦闘艦タイプも飛行は多分可能だろうと思えるに至った。
尤も戦闘艦の武器については今のところ試していないから再現できるかどうかは不明だ。
仮に王家に報告する場合は、稼働可能な二隻を除いた建造途中の二隻を見せようと思っている。
その場合、研究所施設については王家の要請でも当面使わせないつもりだ。
そのための準備として、研究所施設のセキュリティシステムを復旧することにした。
単純に俺以外の者にはアクセスさせないようプログラムしておけば、施設があることはわかっていても、使えないことにできる。
セキュリティシステムには何種類かの警備用ゴーレムも含まれており、それも整備しなおせばほぼ自動で人の出入りを制限できるはずだ。
ということで、今後の方針としては船渠を含めた研究所施設の再生、就中セキュリティシステム整備を進めることにした。
但し、遺跡と飛空艇の発見はジェスタ国にとっては大事なのかも知れないけれど、船渠や研究所の再生を特に急ぐつもりはない。
これまで一万年以上も飛空艇無しで過ごしてきて何ら困らなかったんだ。
数年、いや、10年や20年遅れたからと言って全く問題はない筈なので当然のことながら王家への報告も恣意的に遅らせる。
使えない建造途中の飛空艇であっても、そうしたものが存在するという情報が伝わることで周辺国家との平和が乱されることの方が心配だ。
いつの世でも、「隣の芝生は青く見える」ものだから、ジェスタに望外の遺物が出現したと知られれば、欲深な隣国が要らざる干渉をしてくる可能性は大きい。
俺としては、そんなことに関わり合うよりもアリスの蘇生を真剣に検討したいな。
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4月7日及び7月26日、一部の字句修正を行いました。
By @サクラ近衛将監
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もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
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