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第四章 伯爵になってはみたものの

4-5 空間魔法と約束

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 一応、王都の教会に行って、アルノス幼女神様に報連相(報告・連絡・相談)してみたら、彼女も凄く驚いて早速に色々と調べていたけれど、結局、元の地球とホブランドの間に時空の歪みなど不具合が生じているわけでは無いことが分かり、アルノス神様は俺の時空訪問を特別に許可してくれた。
 但し、不具合が今後とも生じないという前提条件であって、それが崩れた場合は止めてくれと言われた。
 
 不可能とされた異世界転移を俺が成し遂げてしまったことについて、幼女神様曰く、俺の空間を折りたたむという発想の所為かもしれないと言っていた。
 そもそも召喚のための魔法陣は膨大な魔力を投入して時空間に穴を開けるがごとき方法なのだそうだ。

 このために多くの魔法師が数年に渡って膨大な魔力を特殊な魔石に溜め込み、一度に放出することで可能となるような力業ちからわざらしい。
 この方法では俺の魔力消費量の数十倍ほども要するらしいから、ひょっとして300万ぐらい要るのかな?

 魔力の消費が余りにも大きいので幼女神様もその異変に気付くのだそうだが、俺の異世界転移については全く察知していなかったようだ。
 ある意味で省力化されたエコな手法なのかもね。

 また、俺がするかもしれない異世界間の交易については、一応、黙認する(と言うよりは、場合によって俺の加護を取り上げるぐらいしか干渉できないみたい。)が、異世界の武器などを持ち込まないようにとのお達しだった。
 俺もこの異世界転移はあまり使わない方がいいだろうなとは思っている。

 特に明らかに時空を跳んでいるわけで、神様ができないと言っている元の世界への遡上そじょうをしているのだから、予測できない何かの要因が加わって一方又は両方の世界になにがしかの変化をもたらした場合、俺の調整範囲を超えてしまう恐れもあるし、俺が間違って全然別の異世界に紛れ込んでしまう可能性も否定できない。

 それでもなんだかんだと言いながら、意志が弱いもんで、これ以降、一月に一度程度の頻度で日本を訪れ、色々と観光などをしている俺である。
 いずれにせよ元の世界(日本)で活動するには身分証明が必要なので、日本人として登録すると外見を含めて何かと厄介そうなので、俺は外国人として登録することに決めた。

 俺は一旦東京に出て、ホテルに日本人として偽名で宿泊、東京から鹿児島まで鉄道で移動し、指宿枕崎線に乗り換えて、山川駅で下車。
 夜間になって、予て用意していたモーターボート、・・・。

 うん、これは、東京のヤーさんが品川で保有していたものを勝手にパクって、コピーした。
 だからパクったと言いながら、俺は単に当該モーターボートに触れただけで、盗んではいないんだよ。

 まぁ、同じものが二隻あるだけなのだが、少々問題ではある。
 車のナンバープレートと同じく、モーターボートには船舶番号なるものが付けられている。

 同じ番号が二つあれば、どちらかは偽物になるわけなんだ。
 だから、決して同時期に同じ海域に存在してはいけないものなんだよね。

 特に、コピーしたモーターボートの所有者は金持ちのヤーさんらしくって、結構な特注品みたいなんだよね。
 だから、こいつはできるだけ人目につかないよう運用しなければならないわけだ。

 俺って船の免許も無いからね、本当は運転もしちゃいけないわけだけれど、そういう意味では色々法律犯しているけれど、偽名を使ったり、密出国を企ててる時点で有罪確定。
 でも、他人には迷惑を掛けないやり方をするから、お願い、許してね。

 その複製ボートをインベントリから出して浮かべ、指宿市山川からモーターボートで南下、沖縄の那覇まで約8時間で航走した。
 那覇では人知れず海岸に上陸、船はインベントリに収納した上で、東京のホテルに転移、日中はホテル内で休憩。

 夜になって再度那覇に転移で戻り、海岸から出航、夜間だけ航走して、同様に石垣島、フィリピン(ルソン島北部及びサンアントニオさらにパラワン島)、ブルネイを経由してシンガポールに渡った。
 はい、この時点で密出国と密入国が確定でーす。

 最短で足掛け8日目でシンガポールに密入国できたわけだ。
 ガソリンも食糧も複製品がインベントリに入っているから、移動には問題がないし、モータボートごとインビンシブルにしているから、レーダーには多少映っても見えないから見つけられない筈。

 途中の天候や海象模様はいくら時化ていても関係ない。
 俺の結界でボートの周囲の海だけを凪に変えて走るんだから絶好調。

 モーターボートの全速はおよそ45ノットで、もう少し上げられるかもしれないが壊れると面倒なのでちょこっとセーブ気味。
 それでも時速に直すと約80キロ超だ。

 シンガポールに密航で上陸してから、密かに官庁ネットに潜り込み、シンガポール在住の英国人男性と華僑女性の間に生まれたハーフとしてシンガポール国籍を取得した。
 パソコンでハッキングするとなるとかなり大変なのだが、魔法だと物凄く簡単だった。

 ホワイトボードを使ってデータを上書きするような感覚で改竄かいざんできちゃうのだ。
 戸籍上は両親がともに航空機事故で亡くなったことにして、俺は親の資産を受け継いだ若き資産家のマイケル・ブラッドリー・チャンとして登録されている。

 遺産とされる資金については、実際のところ、先日岩手県一関の山中にある元金鉱跡から抽出した金塊約1.2トンを持って、フィリピンに転移、フィリピンの闇金融で少しずつ現金化し、複数のゴーストカンパニー名義でマネーロンダリングしてから、米国系銀行のシティ・バンク経由でシンガポール銀行のマイケル・ブラッドリー・チャンの口座に凡そ6千万シンガポールドルを振り込んだ。
 因みに一関の金鉱跡は歴史が古く、平安末期に藤原三代の栄華を支えた金山であったのだけれど、江戸時代には堀尽くしており、経済的には採算の見通しが立たないくず鉱石が残っているだけなのだが、俺の錬金術を使えばそこからでも十分な金や銀が抽出できたのだ。

 これらの金を売却した資金は、シンガポールの税務当局及びシンガポール銀行のITデータ上では5年前に亡くなった両親から受け継いだ遺産となっており、相応の相続税は払い込み済みとなっている。
 日付は遡って変更されているのだが、種々の矛盾は魔法的にクリアされている。

 銀行のコンピューター等のログを調べても何ら矛盾が無い様改竄されているし、そもそもマネーロンダリングの足取りは追えないようになっているので心配はいらない。
 仮に誰かが念入りに調べたにしても闇金融の資金がブラックホールに吸い込まれたようにどこかに消えていることがわかるだけなのだ。

 シンガポールドルの6千万ドルは、日本円にして48億円弱の金額になる。
 低金利時代なので利息は低いが、ここ30年ほどの間であれば元本を切り崩しながら生活するには十分な金額のはずである。

 シンガポール市内で3LDKのマンションを購入して、一応の仮住まいを設定、シンガポール政府発行のパスポートで空路日本に出入りすることにした。
 シンガポールのパスポートがあれば、日本の場合ビザが不要だから、三か月は日本への滞在が可能である。

 三か月を超える場合は、一旦シンガポールへ戻る手間が必要だが、まぁ、飛行機代だけで済む話だろう。
 最悪、ネット上だけで電子的に出入国の記録を残すことも可能であるが、パスポートの記録を改竄するという手間がどうしても残ってしまう。

 因みに三か月と言う時間は意外に短い。
 ホブランドでの時間にすると4日半なのだ。

 期限切れを忘れそうなので、必ずシンガポールを起点にして日本に入国してもシンガポールに戻るようにしなければならないようだ。
 無論日本でも根拠地を作っておいた。

 法人M.C.M.R.I.(Michel Chan Market Research Institute)名義で東京都港区広尾に2LDKの賃貸マンションを借りて住めるようにしている。
 シンガポールにしろ、東京にしろ、ほとんど別荘替わりであり、それぞれ年間で30日も使えばいい方だろうが、まぁ、必要経費と考えている。

 ホテルでも構わないのだが、ホテルの場合ずっと借りっぱなしになる上に、殆ど宿泊の実態がないから、まぁ、何かと疑われてしまうよね。
 アリバイ作りだけのためにホテルに顔を出すというのも意味がない。

 いずれにしろ、この一連の操作により、シンガポール若しくは東京にいつでも転移できるようになった。
 因みにこれらの工作等に要した時間は地球時間で凡そ25日ほどだが、ホブランドでは1日と少しだけである。

 少し長めの出張になっただけのことである。
 あ、それから「言語理解」がとってもいい仕事をしてくれた。

 鹿児島県からシンガポールへ渡るまでいくつかの国に一応上陸(密入国)したけれど、言葉で不自由は全く無かった。
 台湾では中国語、フィリピンでは英語とタガログ語、ブルネイではマレー語や英語が使われていたし、シンガポールでは、タミル語、英語、中国語にマレー語の四種類が使われているが、いずれも現地人の如くお話しできた。

 俺って、英語はまぁまぁ話せたし、第二外語で中国語を少し勉強していたけれど、流石にマレー語やタミル語は全く知識も経験も無かったはずなのに、チートって凄いね。


 ◇◇◇◇

 ところで長距離の転移ができるようになってすぐに、俺はフレゴルドの屋敷に転移してみた。
 すると、ほどなく俺の背後にぴとっとくっついた者が居る。

 アリスだった。
 俺の気配を感じて、書斎にやってきたようだった。

 書斎に鍵はかかっているがエクトプラズムのアリスにそのようなものでは行動の自由は束縛されない。
 アリスが俺の背後から離れて、正面に移動した。

『お帰り、リューマ。
 王都行き、長すぎて寂しかった。
 もう用事は終わりなの?』

『うん、まだ、終わりじゃないな。
 貴族に叙爵の上、更に陞爵して王都に邸を持たなけりゃならなくなった。 
 今はその準備中だ。
 それに領地も貰ってね。
 そちらの手当てもしなけりゃならないからいろいろ忙しいんだ。
 それでもこっちの屋敷も放置できないから、アリスに相談しに来た。』

『ん?
 相談って何?』

『俺が上位貴族になったことで、領地滞在や王都滞在が明らかに増えることになる。
 逆に公式には中々フレゴルドには来られないことになる。
 で、相談はね、アリスがこの愛着のある屋敷を出て俺の屋敷に来れるかどうかなんだ。
 領地の屋敷でもいいし、王都の屋敷でもいい。
 そこなら俺ともしょっちゅう会えるが、フレゴルドは遠すぎてね。
 会いに来るのは結構難しいんだ。
 まぁ、秘密裏に会うことはできるんだけどね?』

『秘密裏にって、・・・。
 ここに突然リューマが現れたこと?』

『ああ、そうだ。
 他人には内緒にしているけれど俺は転移魔法が使えるようになった。
 だから行ったことのある場所ならいつでも行ける。
 但し、転移魔法が使えることは秘密にしなければならない。
 何しろどんなところへも瞬時に行けるからね。
 警備が厳重な王宮でも行ったことのある場所ならすぐにでも行けるから、これほど危険な魔法は無い。
 だから他人に恐れを抱かせないためにも秘密にしなければならないんだ。』

『ン?
 アリスには転移魔法ができること、教えてもいいの?』

『ああ、アリスと俺は友達だろ。
 友達に秘密は良くない。』

 アリスは心底嬉しそうな表情を見せてくれた。

『アリスは、リューマと居たいな。
 この屋敷にも思い入れはあるけれど、それよりもリューマと離れるのは嫌だ。
 だから、必要ならこの屋敷を人手に渡してもいいよ。』

『いや、この屋敷にはアリスの想い出が一杯あるからね。
 この屋敷はそのまま維持しておくよ。
 但し、俺と一緒に行くなら主たる生活場所は王都か領地になる。
 この屋敷には年に数度尋ねてくることにしよう。
 で、問題は、アリスと一緒に転移できるかどうかだけれど・・・。
 やってみるかい?』

『ン、どうすればいい?』

『最初はモノにしようか。
 俺の持っている剣に掴まってくれるかな?』

 アリスは剣に掴まった。
 そこで部屋の隅に転移したが、残念ながら、アリスは置いて行かれてしまった。

 この方法では駄目みたいだ。
 エクトプラズム自体触ることも本来は難しいからな。

 さっきのアリスの背後からの接触もどちらかと言うとアリスのサイキック能力によるところが大きい。
 で、次の手段、俺は亜空間を生み出した。

 俺だけが触れられるインベントリと異なり、この亜空間は誰でも認識できるし、ある意味触れられる。
 触れられると言っても空間だから物理的に触れるわけじゃないけどね。

 亜空間内部に入り込んだり、モノを入れたり出したりできるようになるだけだ。
 で、一時的に俺がその入口を閉じると、空間が無くなるわけではなく封鎖空間としてそのまま存在する。

 この封鎖空間は俺がいつでも任意に開けられるから、特定の空間に固定されているものではない。
 その意味では、どこにでも持ち運べるからインベントリと同じように使える。

 但し、インベントリと異なり、時間経過はあるし、生ものは腐敗が進む。
 で、その亜空間にアリスを入れて、一旦封鎖し、転移してから封鎖を解いて入口を開けた。

 無事にアリスを運べたようだ。
 この手続きを踏めばアリスも無事に転移で運べるようだ。

 生身の人間をこの方法で運べるかは試したことがないのでわからないが、俺が担いで物扱いで運ぶよりも、亜空間に入れることができるなら大量の人員を転移できることになる。
 まぁ、そのうち虫とかチュウ公とかで実験して生体を手で触れたりせずに運べるか実験してみようと思っている。

 アリスに亜空間と言うか封鎖空間の中に入った時の感想を聞いた。

『何か、不思議な感じ。
 リューマの臭いが一杯したし、あの中にいると何か元気になれる。
 但し、明かりが無いと真っ暗になるね。
 光魔法で照らしたけれど、空間内部でも魔法が使えるみたい。
 床があるような無い様な不思議な感じね。
 どうせなら、ソファとかベッドとか置けたらいつでも休めるよね。』

 なるほどアリスの休憩所にはなりそうだ。
 ともかくアリスと一緒に転移できることはわかった。

 ならば、一度公式にフレゴルドを訪れてこちらの屋敷の後始末をつけておこう。
 アリスには10日後ぐらいをめどに王都に連れて行くと約束した。
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