上 下
45 / 205
第四章 伯爵になってはみたものの

4-2 取り敢えず準備? その二

しおりを挟む
 いやぁ、メイド長候補のエルフ嬢、色々突っ込みどころ満載なんだけれど、なんでこんな人がメイドやってんの?
 できるなら、このエルフ嬢にしたいけれど、もう一人サマンサさんもスキルが高いので雇いたいところだが、二人って雇えるのかねぇ。

 取り敢えず鑑定結果から判断すると、家宰ではジャック・ブレインさん、メイド長ではフレデリカ・バイデンさん、次点でサマンサ・クレッサンスさんと言うところか。
 フレデリカさんは、エルフの特徴である耳を偽装しているみたいだから、エルフであることを隠しているのだろうけれど、そこは俺もここでの質問では避けておく必要があるのかな?


 で、質問を三つ投げかけることにした。
 最初に家宰候補には紙とペンを渡して回答を記述してもらうことにした。

家宰候補一つ目の質問:
 王都での屋敷は、一応、元ダンケルガー辺境伯の屋敷を買いとる手はずを整えている。
 当該屋敷に関して知っている情報を簡潔に記載するとともに思うところを記しなさい。

家宰候補二つ目の質問:
 現在屋敷は56年間無人であったことから荒れ果てていてそのままでは居住は不可能。特に全体の三割から四割に達する木材建設部分は修理不能のため新築を要する。庭園部は密林と見間違うほど荒れ果てている。
 紅白金貨50枚を与えた場合、当該屋敷で何を真っ先に整備すべきか記せ。
 また、当該屋敷で陞爵によるお披露目会を開催することになるが、明日から必要な業者を頼んで整備を開始した場合、最も短期間で開催できると思われる期日を述べよ。
 但し、執事、メイドその他の屋敷での用人の雇用経費、お披露目会で必要な食器、糧食、衣類等屋敷の整備に関する費用以外の経費は別勘定とする。

家宰候補三つ目の質問:
 当家の家宰を引き受けるに辺り、当主に申しおいておくべきことあらば箇条書きで記せ。

 メイド長候補には口頭で質問をした。

メイド長一つ目の質問
 伯爵家に嫁を迎えることになる場合、当該嫁には如何なる要件が課されるか?

メイド長二つ目の質問
 伯爵家の正妻の他に側室を設けることが望まれているが、貴族以外の側室を設ける場合の問題点は何か?

メイド長三つ目の質問
 得意な料理を三つ上げなさい。
 また、そのうちで最も好きな料理は何か?

 メイド長候補と口頭試問をしている間に、家宰候補たちは懸命に答えを書いていた。
 口頭試問の結果でも三人のメイド長候補の能力はいずれも高いと思われるが、やはりフレデリカ・バイデンさん、次点でサマンサ・クレッサンスさんの順である。

 そこで本人達を前にして先に結論を言った。
 サマンサさんとクレアさんの落ち込みぶりはかなりのモノだった。

 その上で、サマンサさんとクレアさんに告げた。

「サマンサさんについては、可能であれば領地である本宅の方のメイド長をお願いしたいと考えているのだが、都合はいかがだろうか。
 仮にご家族がいるなら同道しても構わないし、住宅は別途用意する。
 また、クレアさんについてはメイド副長と言う立場であるなら、王都別宅でも領地本宅でも採用できるが如何なものだろうか?」

 すると二人とも狂喜して食いついてきた。
 結局話し合いの結果、クレアさんについてはメイド副長と言う立場でフレデリカさんの補佐をしてもらい、サマンサさんについては領地の本宅のメイド長をお願いすることにした。

 一方、家宰候補の方は、事務処理能力と文章の起案能力を見るために質問を為したのだが、最初っからダンケルガー辺境伯邸を買うのはおやめになった方がいいと言うビットリー・ウィルキンズさん、色々と情報収集能力があり、忠誠心も旺盛なのはわかりますけれど、主を誹謗するような書き方をするのは拙いですね。
 その意味ではむしろ、テルガー・ヤングさんの記載ぶりの方が受け入れられやすい。

 そうしてジャック・ブレインさん、家宰候補の中では一番知力が高かった所為でしょうか、俺が意図したこと、既に除霊を行い、これから住むに支障がなくなったので課題にしたことを推測ですが見事に言い当てていました。
 その上で適切な整備計画を盛り込んでいます。時間が短かった割にかなり細かいところまで整備計画を立ててくれたのには驚きです。

 この人物ならば王都別邸の家宰を任せても大丈夫でしょう。
 家宰の複数採用も考えてはみたのですが、今回は見送りました。

 別途必要がある場合にはまたギルドにお邪魔しましょう。
 別室で採用者4名の雇用条件を話しました。

 王都での家宰とメイド長の報酬の相場は知っていますが、俺の場合はその1.2倍を支給することにしました。
 家宰のジャックには白輪金貨10枚、同じくメイド長のフレデリカとサマンサも白輪金貨10枚、クレアさんは副長なので白輪金貨8枚としました。

 同時に彼らには支度金として白輪金貨4枚を手渡しました。
 その上で必要な指示を出しました。

 彼らの住まいは、当面各自適当な宿を手配してもらうこと。
 王都別邸に必要な使用人は、早急にジャックとフレデリカで集めて欲しいこと。

 採用は二人に任せる。
 採用人員は総勢で30名以上とすること、当座、集められない場合は最低限度の16名程度でも構わないこと。

 報酬は、能力及び年功に応じて年額で白輪金貨3枚から6枚程度を考えているが、ジャックとフレデリカの判断で報酬の上下はできること。
 仮にクレアが抱えている予備軍のメイド達がいるならば更に4名までの加算を認めるが、屋敷内での派閥形成は禁ずること。

 厨房要員は少なくとも3名以上が望ましいこと。
 使用人総数は騎士を除いて最大で50名まで可能と判断しているが、必要の都度相談してほしいこと。
 邸の整備方針は取り敢えずさっきジャックが提出したモノを基本として、現実に邸を見たうえで再度の見積もりを出してほしいこと。

 以上の条件を付した説明を聞いて、宿での仮住まいに関して、ジャックとフレデリカから屋敷の整備が整うまで暫定的に賃貸の屋敷を借りることを提案してきた。
 マッケンジー不動産は割高に過ぎるが、商業ギルドから比較的整備の行き届いた男爵クラスの屋敷を借りて当面の仮の拠点としてはどうかと提案されたのだ。

 その案に乗って、ジャックに白金貨十枚を渡して、その手配を任せた。
 その日のうちに仮住まいが決まり、執事3名、庭師2名、メイド12名、コック4名、馬丁2名が雇われ、同時に冒険者ギルドから警備員8名の派遣を受けて、仮住まいの清掃整備を始めた。

 ジャックの進言により馬車も二台を準備することにした。
 新車は作るまでに時間がかかるので当座中古車であるが、納車された段階(ジャックが進言してから三日目だった)で俺がいじり倒した。

 サスペンションの改良、車軸周りにボールベアリングの採用、車体の軽量化と強化、馬車内部の椅子のクッションの改良などで、とても乗り心地の良い馬車になり、乗っていても疲労が少なくなったはず。
 馬車とは長時間乗ると腰や尻が痛くなるものなのだが、俺が魔改造した馬車はそうではなくなったので馬丁二人が随分と喜んでいる。

 ついでに俺の家紋を作らねばいけないらしかったので、俺のPCのデータベース(単なるメモリーカード)から欧州の家紋を引っ張り出してパクった。
 ここは異世界だもん。

 地球の特許権や意匠権なんか及ばない。
 パクリで選んだのは、ハプスブルグ家の双頭の鷲だ。

 中央の盾だけ何か気に入らなかったので、コバルトブルーの下地に金色つる草模様の入った盾に変えました。
 ちょっと作るのに面倒かもしれないけれど、真似しにくいし、こっちでは斬新なデザインだったみたいで家宰とメイド長の評価も上々。

 早速に中古の馬車の両側面に付けたよ。
 ジャックはすぐに執事の中でも絵の得意なものに写させて、指物屋にオーダーを掛けたようだ。

 家紋の入ったフラッグを作るためだ。
 中世感バリバリだよね。

 甲冑姿の騎士が揃えば満点ですが、こちらの騎士は滅多にフルプレートアーマーは着用する方は居ないようです。

 あ、そうそう、馬車が準備できていなかった間は、元辺境伯邸だった新たな屋敷には、レンタルした馬車に乗って移動、ジャックやフレデリカを連れて確認しに行きました。
 俺が歩いて行こうとしたらジャックとフレデリカに止められたのです。

 伯爵が徒歩で街中を歩くのは問題なのだそうです。
 専用の馬車がいいのですが無ければレンタルの馬車での移動でもやむを得ないとのこと。

 本当ホントッ、貴族って面倒メンドいね。
 散歩もおちおちできやしない。

 件のお屋敷の方なんですが、未だに隣接地境界に聖魔法の結界はかけられたままだけれど、アーマレイド不動産が結界の維持のための魔力供給を止めたのでいずれ結界は効力を失うと聞いている。
 屋敷内に入ると前回のように樹木が襲撃してくるようなことは無いのだが、数匹の魔物らしき反応があるので念のため調べることにした。

 実は正門部分の結界は外したままなので、魔物化した動物でも逃げた奴は居るようだ。
 前回は少なくとも二十ほども数えた魔物らしきモノが数匹しかいない。

 別にこの近辺で住民が襲われたとは聞いていないので左程危険な魔物では無かったのだと思う。
 少々無責任かもしれないけれど、そう思いたい・・・。

 俺の聖魔法の行使で狂暴な魔物から大人しいモノに変化した可能性もあるしネェー。
 そんなこんなで屋敷そのものの検分は、ジャックとフレデリカに任せ、俺は敷地内に残る魔物の確認作業に回った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女ノヴァ ~魔力0の捨てられ少女はかわいいモフモフ聖獣とともにこの地では珍しい錬金術で幸せをつかみ取ります~

あきさけ
ファンタジー
とある平民の少女は四歳のときに受けた魔力検査で魔力なしと判定されてしまう。 その結果、森の奥深くに捨てられてしまった少女だが、獣に襲われる寸前、聖獣フラッシュリンクスに助けられ一命を取り留める。 その後、フラッシュリンクスに引き取られた少女はノヴァと名付けられた。 さらに、幼いフラッシュリンクスの子と従魔契約を果たし、その眠っていた才能を開花させた。 様々な属性の魔法が使えるようになったノヴァだったが、その中でもとりわけ珍しかったのが、素材の声を聞き取り、それに応えて別のものに作り替える〝錬金術〟の素養。 ノヴァを助けたフラッシュリンクスは母となり、その才能を育て上げ、人の社会でも一人前になれるようノヴァを導きともに暮らしていく。 そして、旅立ちの日。 母フラッシュリンクスから一人前と見なされたノヴァは、姉妹のように育った末っ子のフラッシュリンクス『シシ』とともに新米錬金術士として辺境の街へと足を踏み入れることとなる。 まだ六歳という幼さで。 ※この小説はカクヨム様、アルファポリス様で連載中です。  上記サイト以外では連載しておりません。

種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)

十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。 そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。 だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。 世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。 お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!? これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。 この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

(完結)やりなおし人生~錬金術師になって生き抜いてみせます~

紗南
恋愛
王立学園の卒業パーティーで婚約者の第2王子から婚約破棄される。 更に冤罪を被らされ四肢裂きの刑になった。 だが、10年前に戻った。 今度は殺されないように生きて行こう。 ご都合主義なのでご了承ください

継母の心得

トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 11/22ノベル5巻、コミックス1巻刊行予定☆】 ※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロが苦手の方にもお読みいただけます。 山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。 治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。 不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!? 前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった! 突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。 オタクの知識を使って、子育て頑張ります!! 子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です! 番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

不遇スキルの錬金術師、辺境を開拓する 貴族の三男に転生したので、追い出されないように領地経営してみた

つちねこ
ファンタジー
【4巻まで発売中】 貴族の三男であるクロウ・エルドラドにとって、スキルはとても重要なものである。優秀な家系であるエルドラド家において、四大属性スキルを得ることは必須事項であった。 しかしながら、手に入れたのは不遇スキルと名高い錬金術スキルだった。 残念スキルを授かったクロウは、貴族としての生き方は難しいと判断され、辺境の地を開拓するように命じられてしまう。 ところがクロウの授かったスキルは、領地開拓に向いているようで、あっという間に村から都市へと変革してしまう。 これは辺境の地を過剰防衛ともいえる城郭都市に作り変え、数多の特産物を作り、領地経営の父としてその名を歴史轟かすことになるクロウ・エルドラドの物語である。

処理中です...