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第三章 ホブランド第八日目以降の出来事

3-18 王都滞在中の出来事 その十四(屋敷の入手と陞爵)

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 ついでと言っては何だが、余勢を駆ってそのままブランディット旧伯爵邸にも向かった。
 元ダンケルガー辺境伯邸と同じように結界で囲まれた敷地内でサーチをかけるとスポットが数か所あった。

 秘密の地下室一か所は、巧妙な隠し扉でへだたれており、これまで知られていなかったもののようだが、ここで飽きられてしまった少女たちの殺戮が行われていたようだ。
 そのための断頭台や血を貯めるための桶などがそのまま据え置かれていた。

 他に敷地内4か所に多数の白骨が埋められており、そこが怨霊のスポットとなっていた。
 俺が新たに発見した白骨の数は、前部で32体分であった。

 俺はそのすべてを土魔法で掘り返し、事前に聖魔法と光魔法でのシャワーをかけた後、司教を呼んでもらって正式な供養をしてもらった。
 その上で発見された遺骨を教会の墓地に葬ってもらえるよう相応のお布施を出してお願いした。

 その手続きはエカテリーナさんが率先して行った。
 最後にもう一度、屋敷の敷地全域に聖属性魔法のシャワーを浴びせて俺の除霊は完了した。

 こうして俺は8万6千ベードの敷地を持つ旧辺境伯邸を、僅かに紅白金貨二枚で入手することができたのである。
 因みに後年であるが、ブランディット旧伯爵邸は紅白金貨50枚で子爵から陞爵なった新伯爵に売却されたそうである。

 俺の関知するところではないのだが、アーマレイド家の手によって売却前に改装はなされていた。
 流石に隠し扉の付いた秘密の地下室などはそのままにしておけなかったので、ついでに種々の改装を行ったようだ。
 尤も今回の一件で味を占めたのか、アーマレイド家で手に余るたたりが見つかった場合には俺のところに依頼しに来るようになったのは少々余分で、厄介やっかいな話ではある。

 そんなこんなで毎日を結構忙しく過ごしながら宰相が約束していた五日後の叙爵の日がやってきた。
 王宮から迎えの馬車が宿に来て、それに乗って参内である。

 衣装は新たにあつらえた伯爵叙爵用の衣装である。
 小難しい儀式の詳細はさておき、俺は無事に伯爵へ叙爵された。

 伯爵に叙爵されると同時に、男爵以上の陞爵は王都に新たな家を持つことが許され、同時に家名を賜るのが一連の流れだ。
 俺の家名には、ファンデンダルクと言う由緒ある名前を貰ったのだが、何でも建国時の国王に従った将軍で、後に血筋が途絶えたものの武と信義に厚い忠臣だったそうだ。

 従って俺の名は、リューマ・アグティ・ヴィン・ファンデンダルクとなる。
 このうち「ヴィン」は、名ではなく伯爵の爵位名を表わし、伯爵でも三つ名を持つのは珍しいのだが、特に許されたようだ。

 この世界に来る前から俺は、どっちかと言えば来る者は拒まず、貰えるものは貰うっていう性格だったし、ある意味小心者で権威に弱い方だったから、「爵位も家名も面倒だから本当は要りません。」と言うほどの覇気も無く、「ありがたくお受けします。」としか言えないのが辛いですよねぇ。
 二つの勲章と共に貰った報奨金は予想外の紅白金貨250枚でした。

 実に500億円相当?
 おそらく俺の故郷の北上市の年予算よりも多いんじゃネ?

 こんなに一杯のお金どうしようか?
 あ、でも宿の女将さんの話では上級貴族って色々とおつきあいがあって、結構金遣いが荒いのだそうです。

 もう一つ女将さんから特に忠告されたのは、早いところ身を固めないと縁談攻勢が凄まじくなるのだそうです。
 身を固めるって・・・。

 嫁さん貰えってこと?
 精神年齢は23歳だけどさぁ、俺って生物学上の年齢は17歳だよ。

 嫁さん貰っていいの?
 今ん処、俺の傍にいる顔見知りの女性って少ないよね。

 アリスは実体がないから、まぁ取り敢えず除外だわなぁ。
 後はギルド関係の受付嬢達、王女様、それにシレーヌ嬢を始めとする近衛騎士団の女性たち、それにメイド二人ぐらいか?

 俺って知り合い少ないのね。
 ボッチじゃないつもりだったけれど、こうしてみると意外に少ないぜ。

 まぁ、そんな心配はともかく、陞爵と褒章授与に伴う晩餐会に舞踏会とお決まりのスケジュールがこなされて行く中で、慣例でもある俺の貴族デビューを見据えて、宰相様の配慮で、カリラナ・フルト・マクレナン侯爵が俺の後見役を務めてくれることになったよ。
 なんでも国王派と呼ばれる派閥の一角にマクレナン侯爵の派閥があるのだそうな。

 政権与党の自*党の中に、〇〇派と△△派があるようなものだよね。
 同じく公*党のように政権与党に組み込まれている中道派閥の公爵派もあるらしい。

 一方で野党に属するのは王弟派と呼ばれる勢力らしいんだよ。
 今のところ王弟派の勢力規模は小さいらしいが、国王や宰相とは何かとギスギスとした関係なんだそうだ。

 そうした貴族の派閥力学なんて絶対に俺が関与すべきじゃないと思っているんだけれど、そうはいかないみたい。
 何せ俺は王都を救った英雄になっちゃったからね。

 俺の動向は、どの派閥からも注目されているんだと。
 で、宰相からも釘を刺されたよ。

其方そなたの嫁取りは慎重かつ迅速にしなければ後々災いの元になるから注意せよ。
 伯爵ともなると正室以外に少なくとも側室二人は抱えねばならぬな。
 その際に重要なのが派閥間の力量調整じゃ。
 例えば後見役だからと言ってマクレナン侯爵の派閥だけに執着してはならぬが、一方で王弟派にこびを売るような真似をしてはならぬ。
 まぁ、普通ならば、正室を後見役のマクレナン侯爵の派閥から、側室をベッカム侯爵、リンダース侯爵、クレグランス辺境伯辺りの国王派主流から選ぶのが順当じゃな。
 マクバレン公爵の派閥は中道派じゃが、そこから嫁を貰うのはその家によるから、一概に良いとも悪いとも言えぬな。」

 色々派閥の名前が出て来たけれど、本当に、嫌だねー。
 俺って今すぐにでも逃げ出したいけど、無理なんだろうね。
 それでもおれのマッタリ生活確保のために何か別の方法を考えよう。

 あぁ、そういえば恒例の舞踏会ではたくさんの綺麗処のお嬢様方が媚を売って参りまして、ある意味でかなりの人気者になってしまったけれど、これも政治力学故のイベントなのでしょうかねぇ。
 その所為かコレット王女とシレーヌ嬢の機嫌がすこぶる悪かったですね。

 シレーヌ嬢とは最近何となく良い仲になっているから何となく心情がわかるけれど、コレット王女は何故に機嫌が悪いのかな?
 解せぬ。

 伯爵の領地としては、少し手狭ではあるらしいのだけれど、世継ぎがないまま急逝したボーヴォアール子爵の領地であったカラミガランダと、隣の王領直轄地であるランドフルトを合わせて拝領することになった。
 両方合わせても本来の伯爵領には少し足りないらしいが、その分を王国西方の未開地であるベルゼルト地方の開拓を特に許すという詔勅をいただいた。

 ベルゼルト地方とは言いながら、実は住民はほとんどいない未開の地であって、魔物が跋扈ばっこする危険地帯である。
 それがためにこれまでエベレット、クライスラーなどの隣接の領主たちは、開発をしても良いとの詔勅を得ながらいずれも開発をしていないのである。
 それらの領主は、現実問題として領地を広げるどころか、魔物の侵攻から領地を守るのが精いっぱいの状況らしい。

 俺にこの開発権限を与えたのはどうやら宰相の企みのようだ。
 王都壊滅の危機を救った俺ならば、或いは長年の夢であるベルゼルトの開発が為せるかもしれないという希望を託しての事らしい。

 できなければ現状のままで致し方ないのだが、ベルゼルトの先は海に接しており、現状の王国には無い海の交易路を手に入れられる可能性があり、なおかつ塩が入手できる可能性も大きいようだ。
 塩は王国では採取できないので輸入に頼っているが、それが王国の弱みでもあって、万が一にでも塩を止められると国民が死に瀕することになる。

 因みに開発を始めるにあたっての起点になる場所は、エステルンドと呼ばれる地にある砦であり、エベレット子爵領とクライスラー男爵領の接点にあたるごく狭い領域である。
 一応、砦及びその周辺が直轄領になっているようだ。

 他の領主が居る領地を起点とすると色々と諍いも起きやすいことから、そのように配慮してくれたようだ。
 これはもう、宰相が俺を利用する気満々だねぇ。

 宰相が言うにはベルゼルト地方に限って言えば、切り取り勝手で、開発した分だけ所領にできるそうだ。
 まぁ、俺としても切り取り勝手の領地を与えられることで、冒険者稼業と並行して領地拡大と開拓を狙える良い機会だから、嬉しいと言えば嬉しい。

 但し、どれだけそっちの方に関われるかは、カラミガランダとランドフルトの領地の内政を任せる代官次第になるから、そっちの選定に力点を置きたいと考えている。
 俺としては基本路線を俺が決めて、細かい内政部分のほとんどは代官に委ねるつもりだ。

 そうしなければ俺の自由な時間が無くなってしまう。
 元々俺は、物事に凝る割に大雑把だから、官僚に向いているとは思えない。

 それよりは諸国漫遊で知見を広めたり、冒険をしたりするのが好きなのだ。
 貴族と言う足かせはあっても冒険者が続けられるというのは宰相から既に確認済みだ。

 伯爵位で冒険者の事例はないらしいが、子爵で現役の冒険者をしていた事例は過去にあるらしく、王宮から特段の許しを必要とはしないらしい。
 もちろん、一方で貴族としての務めは果たす必要はあるようで、そのために冒険者の活動を中断されることは度々ありそうだ。

 典型的な例は、他国との戦争である。
 国の存亡に関わる事態には、伯爵たる者、国防の任に就かざるを得ず、場合により騎士団を率いて前線に立つことも求められる。

 俺にも左程多くは無いものの、この世界に来てから親しく付き合ってきた者は居る。
 そのような人々の命や財産が無駄に失われることのないようにするのは、貴族でなくても、可能ならばなすべきことの一つだろうとは思うのだ。

 余分な貴族としての義務は付きまとうことになるが、人として生きて行く上で為すべきことはさほど変わらない筈と俺は思っている。
 従って、貴族の義務と共にその特権も精々利用してやろうと考えている俺である。

 俺の考えはひょっとして甘いのかな?
 まぁ、その辺は、棺桶に片足突っ込んだ時点で走馬灯のように振り返ればいい。

 与えられた環境と条件の中で、今を如何に生きるかを考えて行こう。
 一応屋敷と領地の方が落ち着いたなら、ベルゼルト地方の開拓や開発も考えてみようとは思っている。
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