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第三章 ホブランド第八日目以降の出来事

3-4 メイド二人の治療と王都への旅立ち

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 屋敷へ戻ってからが、大変。
 最初に、より重篤じゅうとくな狐耳の女性ラーナさんに治癒魔法をかけてみました。

 実のところ、ラーナさんの身体は健康な部分を探すのが難しいほど、あちらこちらに疾患あった。
 所謂いわゆる多臓器たぞうき不全ふぜんの症状であり何時心臓が止まってもおかしくない状況だったよ。

 キュアをかけ、リバイブで病魔に侵された内臓器官をやすのに概ね1時間。
 最後に体力回復のバフをかけると保有魔力の8割ほどが持っていかれてました。

 このままでは、エルフ嬢の治癒ができないので、予て用意していた秘蔵ポーションであるMP回復ポーションを飲みました。
 即効というわけには行かなかったのだけれど、二時間ほど経過すると、ようやく元の8割以上までMPが回復。

 今度はエルフ嬢のイオライアにキュアをかけ、リバイブをかけて、壊疽えそ化した体細胞を復活させました。
 同時に壊疽の所為せいで毒素が回っていた血液をリフラッシュで綺麗にしてやると、ようやく症状が落ち着いたんです。

 二人とも相当に体力を失っているので此処三日ほどは安静にしなければならないかもしれないけれど、峠は越えたと思っている。
 監房で見かけた二人は、汚く、薄汚れて臭かったが、治癒魔法をかける前に生活魔法のクリーンで身体の汚れを落とし、ついでに着衣や髪の汚れも落としてしまうと、美女(ラーナ)と美少女(イオライア)だったことがわかりました。

 今では血色も良くなって、本当に綺麗に見える。
 購入しておいたベッドが、病人を寝させておくのに早速役に立った。

 執事のトレバロンと話をし、我が家での役割を再確認してもらって、早速に仕事の算段を始めてもらった。
 二人のメイドは健康になってから働いてもらうが、それまでの間は病人として扱うように指示している。

 こうして我が家に3人の同居者が増えた。
 アリスの現状は彼らにとっては不可視の存在なので、そのうちに機会を見て同居人たちに話すつもりだ。

 冒険者ギルドについては、俺はついにEクラスへ格上げされた。
 オーク肉の納品を含め、他の冒険者に比べると貢献度が高過ぎて、予定よりもさらに早く上げざるを得なくなったようだ。

 ついでに言うと、錬金術師、薬師、エンチャンターもある意味でレベルIIになっている。
 魔道具作成、ポーション作成、それに魔道武器のエンチャントに勤しんだ結果である。

 奴隷三人を買い取ってから5日目、トレバロンは勿論だが、ラーナとイオライアの二人もほぼ健康体を取り戻し、メイドとして働き始めている。
 俺に恩義を感じているメイド二人の女子力は極めて大きかった。

 家の中は綺麗になり、且つ華やかになった。
 庭の植栽もトレバロンのお陰で立派に整備されている。

 トレバロンは、隣家であるオマール邸の執事ギャランさんともすぐに知己となっている。
 我が家の執事は中々に社交的であり情報収集が実に上手いようだ。

 ◇◇◇◇

 そうして、今日は俺が王都ジェスゴルドに出発する日。
 アリスも俺について来たがったが、今回は王都でどんな奴に会うかわからないので、遠慮してもらい、アリスは執事やメイド達と共に留守番だ。

 但し、次に旅に出る時には必ず連れて行くと言う約束をさせられた。
 まぁ、仕方がないだろう。

 普段、ギルドの仕事で出かける時も実はアリスを連れて行っているんだ。
 ギルド職員にはアリスが不可視だからね、別にパーティを組んでいるわけではない。

 実は、アリスは「闇」魔法で認識疎外を周囲にかけてアリスが見えないようにしているに過ぎないのだ。
 だから俺はソロだと思われているし、実際、アリスは見ているだけで俺を手伝っているわけじゃない。

 まぁ実力的にはかなりの力量で、魔法を使ったら、かなりの化け物でも一撃で吹っ飛ばせるだけの力はある。
 いずれにせよあんまり俺の傍をはなれたことのないアリスなので、寂しがっているのだろうと思っている。

 アリスが家で留守番をする代わりに、俺は*Pad Proをむしり取られている。
 マイクロSDや充電用ソーラーパネルも当然に置いて来た。

 マイクロSDには、少なくとも幼い女の子が見てはいけないような変な画像は入っていなかった筈だ。・・・と、思う。
 アリスのことは、我が家の使用人たちには内緒にしてねと言いつつ教えておいた。

 流石に*Pad Proを小さなゴーレムがいじっている場面を見かけてしまうと普通の人は驚いてしまうだろう。
 俺が不在の間にアリスが*Pad Proのゲーム辺りに夢中になってしまうと、そんなホラーな場面に遭遇する可能性も無きにしも非ずだ。

 で、この屋敷の事情について順を追って説明すると三人の使用人たちは揃って理解を示してくれた。
 ためにアリスの存在は我が家では公認であり、どちらかというと引っ込み思案だったアリスなのだが使用人三人とは結構おしゃべりができるぐらいまでになっている。

 ついでに言うと、我が家の使用人から随分とこの世界での常識というやつを教えてもらった。
 トレバロンを含めて使用人三人は、俺への忠誠心が極めて高く、嫌な顔一つせずに丁寧に教えてくれるので助かっている。
 俺の鑑定能力で種々見極めた結果ではあるものの、とても良い買い物だったことに間違いはない。


 トレバロンに結構なお金を渡し、使用人とアリスに留守を任せて、今、俺はフレゴルドから朝出る駅馬車に乗って王都に向かっている途中だ。
 王都までは片道三日、途中、モレベックとハインブルクという町に寄る筈だ。

 駅馬車では簡単な食事は出るが、俺は自前の弁当を持参して行った。
 モレベックまでは特段の事故も無く、お尻が痛いだけで問題はなかった。

 駅馬車は一応サスペンションがあるのだが、余り効率のいいものではなく車輪の衝撃をとらえきれていないのだ。
 そのために固い木造椅子に降ろした俺の尻が結構なダメージを受けているわけである。

 せめてクッションなりとも用意しておけばよかったと悔やんだ俺である。
 従って、モレベックで一泊した俺は雑貨屋で素材を買ってその夜の内に何とかクッションもどきを作り上げていた。

 翌日ハインブルクまでの行程でお尻は痛くならなかったものの、トラブルが発生した。
 街道筋で盗賊団が襲ってきたのだ。

 僻地へきちと違って、首都に近いほど本来は街道筋の治安は良かったはずである。
 だが警備の合間を縫うように、盗賊団16人ほどが馬車を目掛けて襲撃して来た。

 駅馬車の護衛はEクラスの冒険者が二人のみ、止むを得ず俺の自作の弓を引っ張り出して、駅馬車の上から狙い撃ちにした。
 こんな場面では、目立ちすぎるから流石に魔法による狙撃銃が使えない。

 それにサスペンションの効かない馬車が揺れに揺れまくっているから、銃は扱いにくい。
 こういう場合はむしろ弓の方が使いやすいし、目立たない。

 ただの弓なんだけれど矢の方は違っている。
 風魔法で照準しているから相手がどう動こうとホーミング魚雷の様に目標に向かってまっしぐらに追尾する。
 従って、狙った獲物は絶対に外さない。

 矢を十本放った段階で盗賊共は諦めて逃げて行った。
 街道脇には10人の男達が重傷を負っていた筈だ。

 俺の弓は左程の強弓ではないのだが、射った後、風魔法で威力を増した矢は通常の3倍ほどの速度で的を貫くから、大の男でも胸部を貫かれるはずなのだ。
 その衝撃は、乗っている馬から弾き飛ばされるほどなのである。

 手加減なんぞしなかったからね。
 ほとんどが胸の真ん中あたり心臓の近くを射抜かれたはず。

 だから余程の強運の持ち主でもない限り、生きてはいないと思う。
 まぁ、そんなことがあって、お馬さんを目一杯走らせたものだから、滅多にない途中休憩が茶屋みたいなところでありましたよ。

 俺たち乗客の休憩ではなくって、お馬さんの休憩な。
 お陰さんで、その間に俺はしっかりと駅馬車の御者と護衛、それに同行の旅行者連中から英雄扱いされてしまったよ。
 あんまり目立つつもりはなかったんだけれどねぇ・・・。

 ハインブルクで一泊して、翌日は王都ジェスゴルド。
 王都の門では、チェックが厳重に行われていたが、俺のギルドカードで問題なく入ることができた。

 その際に門番さんから王宮指定の宿について教えられた。
 俺が来ることを想定して予め門番に指示がなされていたようだ。

 で、俺の行く先は、王宮御用達の宿で「ハイリリア」と言うのだが、そこへ辿り着くまでに三度も門番さんにカードチェックされたですよ。ハイ。
 何だか辻ごとに門番が立っているような印象もあったけれど、後で訊いたなら、王宮を中心にいくつかの城壁があって、その城壁を通るたびにチェックが必要なんだと。

 まぁ、簡単には王宮まで辿り着けないと言うことだな。
 予定の宿に辿り着いて、紹介者であるシレーヌの名と俺の名を告げるとすぐに手続きをしてくれた。

 「キライアの荘館」も立派であったけれど、此処の部屋はもう一ランク上だと思う。
 部屋の広さはさほどでもないのだけれど、調度品と使用人の練度がかなり違うような気がするのだ。

 まぁ、流石は王宮御用達と言ったところだろう。
 夕食後には、宿から連絡が行ったらしく、シレーヌ嬢がわざわざ宿を訪ねてくれた。
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