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第三章 ホブランド第八日目以降の出来事

3-3 屋敷の整備と執事とメイド

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「まさか?
 アリス、どこに居る?」

 俺は焦って大きな声で怒鳴った。
 すると背後からアリスが呼んだ。

『私は此処よ。
 これまで、ずっとこの部屋から出られなかったのだけれど、今はリューマのお陰で動き回れるようになったわ。
 ありがとう、リューマ。』

『おう、びっくりしたよ。
 光が消えるとアリスがいないんだもの。
 まぁ、それはともかく、出られるのをいいことにあんまり人を脅かしちゃだめだぞ。
 アリスは幽霊なんだから。』

『うん、自覚しておく。』

『それと、このアリスの白骨、箱の中に収めておいていいか?
 保存しておいて、蘇生術を極めたならアリスを蘇生してやりたいからな。』

『ウン、いいよ。』

 俺は、アリスのために「木」属性の魔法を使って綺麗なひつぎを作り出した。
 そうして、骨が崩れないように「無」魔法で骨の存在する空間そのものを固定化し、棺の中に収めたのである。

 できるかどうかはわからないが、何時か蘇生術をマスターするか、或いは錬金術でエリクサーを産み出したなら、アリスに試してみようと本気で思っていた。
 俺はその日、日がな一日、邸の整備に走り回った。

 屋敷は広い。
 敷地は二千五百ベードある。

 俺の元居た世界での単位なら凡そ二千坪、平米数で言うなら6837.5㎡
 幅100m、奥行き68m程度の広場を思い起こせばいい。

 ちょっとした都市部の小学校の運動場だぜ。
 田舎なら間違いなく三千坪程度の運動場があるけど、都市部の小学校のグランドはかなり狭く、100mの直線距離が斜めでも取れないグランドはいくらでもある。

 で、それより大きな敷地って言うのは本当にかなり広いぜ。
 そこに建坪五百坪の三階建て一部木造でレンガ造りのでっかいお屋敷だ。
 
 地下室もある。
 部屋数は12室、それに広いリビング、食堂、台所に風呂がある。

 残念ながら、各部屋とも埃が入り、場所によってはカビが部屋全部にひろがっているところもあった。
 で、俺はその日から5日間は、屋敷の掃除と整備に走りまくっていた。

 庭の整備もあり、本当に忙しかったんだ。
 毎日、宿から御出勤で、屋敷に通っていた。

 ようやくあらかたの整備がひと段落してから、俺が宿を引き払って邸へ移った。
 正直なところ一人で住むには広すぎる家だ。

 それでもアリスの承諾を得ながら改良を施して行く。
 二部屋を工房にした。
 
 薬師工房と、錬金術工房の二つである。
 入り口の門に近いところには何れ店を開くつもりで居る。

 そのための建物の設計をアリスと一緒にああでもないこうでもないと毎日Sur*ace *ookと*Pad Proを開いてデザインをやっている。
 俺のSur*ace *ookと*Pad ProにはS社のプロ用「3D-HomeDesign」が入っている。

 これを使うとかなり本格的な設計ができるのだ。
 で、俺がいないときはアリスが*Pad Proに嵌(はま)っていろいろやっている。

 アリスはタッチができないのにどうやって使うって?
 心配ない。

 俺が小さなゴーレム作ってやって、それをコント―ロールして色々なことができるようになっている。
 少なくとも*Padの操作にかけてはかなりの腕になっている。

 いま彼女からの注文は、もう少し大きなゴーレムを作って欲しいなということだ。
 小さなゴーレムは、まあ、フィギュアのようなものだ。

 関節を持ち動き回れる。
 最もICもバランサーも搭載していない。

 そんなの積んでしまったら、アリスが動かすのに邪魔になるだけなのだ。
 アリスは出来上がった人形を自在に操れるから、俺は上手く関節部分が動くように調整するだけのこと。

 但し、大きくなると素材を吟味しないとどうしても壊れやすくなる。
 それで今のところはアリスから注文されたままになっているわけだ。

 広い屋敷で困るのは何といっても掃除と手入れである。
 半端なく広いから邸の掃除だけでも手間暇かかる上に、雑草を含めた植物の生育がいいので、庭の手入れもしなくてはならん。

 アリスは食事も不要だから手もかからないが、俺自身は宿を出たから飯の心配もせにゃならん。
 色々考え、アリスとも相談して、執事とメイドを雇うことにした。

 冒険者ギルド、錬金術・薬師ギルド、商業ギルドにも相談したが、借金奴隷を買い取ってはどうかと言われた。
元の世界ではお目にかかれなかった奴隷がこの世界には居る。
 奴隷には犯罪奴隷と借金奴隷がいるようだ。
 犯罪奴隷は基本的に奴隷市場に出ないまま鉱山その他の劣悪環境下で強制労働に服役するが、借金奴隷は様々な理由で借金を負った者が返済まで奴隷として就労することを約して奴隷市場に出ることになる。

 それらを扱っているのが奴隷商人であり、彼らも緩い盟約や掟を持っているが、ギルドを立ち上げるほどの組織力はない。
 俺は、アリスの了解も得て、フレゴルド唯一の奴隷商人が開く奴隷市場に出向いて、奴隷を雇うことにした。

 この世界の奴隷商人だが決して奴隷売りますとは広告していない。
 彼らの職業は、表向き口入屋くちいれやである。

 つまりは職業斡旋・紹介所に近い感覚である。
 但し、短期のアルバイトは扱っていない。

 基本的に年季奉公であり、借金額の多寡たかと労働内容により、年季奉公の期間が決まる訳である。
 所謂セックスを目的とした妾奉公は単価が高いので年季が短くなるが、美貌の程度で売れ行きが違うことになるし、いわゆる売春宿に買われる蓋然性も高い。

 女性の奴隷は余程困らない限りは、妾奉公を避ける傾向にあるようだ。
 この辺の話は、流石に女性には聞けず、商業ギルドのオハラさんからこそっと聞いた話である。

 そっちの方も必要があれば何れ考えることにして、取りあえずは妾奉公無しのメイドさんと家宰のできる執事が欲しいと思う俺だった。
 で、所謂口入屋さんで只今メイドさん候補者の首実検中。

 一応こちらの希望を伝えて、順次候補者を出してもらっているのだが、鑑定をかけると結構裏事情がわかってしまって、中々いい人が見つからない。
 帯に短し、たすきに長しの状況で、今一いまいちな人ばかりが出てくるのである。

 俺、決して顔やスタイルで選んでませんよ。
 不細工でもいいから真面目に働いてくれそうな人を探しているのだけれど、面倒くさがり、自堕落、無計画、浪費癖、大食漢など、ちょっと引いてしまう人ばかりが続いている。

 口入屋のオッサンに「少し高めでもいいからもっと他にいないの?」と聞いたら、美人が三人ほど出て来たけれど軒並み家事や料理ができない人だったみたい。
 鑑定結果で家事不向き、料理不向き、会計不向きと出てきたのは初めて見た。

 ウーン、ベッドに連れ込むにはいいかもしれないけれど、メイドは任せられないよね。
 俺が首を振ってダメ出しをすると、口入屋のおやっさんがボソッと言った。

「ウーン、後は残っているのは売り物にならない奴ばかりだしなぁ・・・。」

 俺は、ダメ元で頼んでみた。

「一応、その残り物さんも見せてくれる?」

「へぇ、そりゃ、まぁ・・・。
 でもメイドの簡単な仕事もできない状態ですからね。
 見ても、まぁ、無駄と思いますよ。
 それと自分で歩けないですから、お客さんがあいつらの部屋に行くことになりますけど・・・。
 かなりくさいですから覚悟してくださいね。」

 そう言われて案内された奥の院、部屋というより監獄だったね。
 薄暗い中で、藁を敷いた床に獣のように放置されている奴隷が二人、隣り合った鉄格子の狭い監房の中に居たよ。

 一人は狐耳の獣人さん、もう一人は耳のとがったエルフさんだと思う。
 狐耳の獣人さんは、明らかに病気だね。

 どす黒い肌で、床にも口の周囲にも吐しゃ物がまき散らされている、
 すえた臭いがするけれど、重体だよね。

 エルフさんの方は、右腕と左足に酷い怪我をして居り、多分壊疽えそを起こし始めている。
 こっちも放置すれば二日持つかどうか。

「ヒーラーには見せたの?」

「ヒーラーに見せるほどの金はかけられませんよ。
 もともと本来であれば引き受けられる状態ではなかったんですが、まぁ、業界の義理ってやつで引き受けざるを得なかった分ですからね。
 借金奴隷には違いないものの、わざわざ重病人二人の面倒を見てやるほど奇特な人間はおりませんよ。
 損を覚悟で一応抱えているだけです。
 死ねば無縁墓地に埋めてやるだけましな方でしょう。」

 俺が鑑定をかけると、獣耳ケモミミさんは、なんと獣王国の元伯爵家メイドでメイド長の補佐を務めていたようだ。
 もう一人のエルフ嬢はキャバレリ国の商家の娘さんで家事、料理にも通じているほか商才もあるようだ。

 健康ならば是非とも雇いたい二人だが、さて、俺の治癒魔法で助けることができるのだろうか?
 何れにしろ、見てしまった以上、この二人を放置はできない。

「この二人を雇うとしたらいくらだ?」

 口入屋のオッサン、明らかに驚いていた。
 死にかけの奴隷二人を買い取る者がまさか現れるとは思っていなかったからだ。

 狐耳さんは金貨127枚(日本円で2540万円相当)、エルフさんは金貨135枚(日本円で2700万円相当)が本来残っていた借金であったが、口入屋のオッサン、その額での買取は流石に遠慮して半額に負けてくれた。
 オッサン曰く、損を覚悟で引き受けたらしく、卸値に僅かの利を付けた値段と言っていた。
 
 俺は金貨131枚を即金で出して、買取手続きを進める一方、執事の首実検を始めた、
 なお、奴隷二人については、身ぎれいな衣服を調達して着させて欲しいと金貨1枚を加算した。

 執事の方は、さほどの手間もかからずに三人目で見つけた。
 フレゴルドの隣町で商家の家宰を務めていた男なのだが、主である商家の負債を担って借金奴隷に落ちた人だった。

 真面目で能力もあり、ユニークスキルに執事能力を持っている人だった。
 この人の借金は金貨172枚(日本円で3440万円相当)である。

 合わせて金貨304枚もの金をどこから入手したかって?
 まぁ、家を買う前に結構な金を持っていたのだけれど、家の購入資金で半分以上も使ったので、実はここへ来る前日にオークの肉を冒険者ギルドに2トンほど卸し、同時に幼女神様からもらった宝石を二つほど、商業ギルドで購入してもらった次第です。

 どちらも税金のかからない臨時収入になります。
 お肉の方は、合計で約2,550,000レット(金貨255枚)に、宝石の方は金貨220枚と180枚になりましたよ。

 まぁ、ジェネラルやキングのお肉と異なり、並みのオークですからね、そんなに高額にはなりません。
 キングの三分の一以下、ジェネラルの半値以下ですが、それでも量があれば結構な額になったわけです。

 前日の売り上げは、金貨655枚を超えてますから、日本円に換算すると1億三千万円を超えますね。
 奴隷一人について少なくとも金貨百枚から150枚はかかりますよとオハラさんからアドヴァイスを受けたので、しっかりと準備しました。

 執事候補の男性は、定番のセバスチャンではなく、トレバロンという名の42歳です。
 口入屋でサービスで用意させた荷馬車に二人の病人を載せ、俺とトレバロンは歩いて屋敷へ戻ったわけです。
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