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第二章 ホブランドでの始まり

2-18 ホブランド第五日目

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 翌日、三の時に錬金術・薬師ギルドに行き、携帯型照明の魔法陣の登録を行い、その上で5台の携帯型照明魔道具を作成した。
 所要時間は僅かに一時間ほど、それで金貨25枚を頂いた。

 そうしてサラさんに尋ねてみた。
 オールドトレントの素材があるかと。

 サラさんの返事は、おそらくジェスタ国内には無いとのことだった。
 オールドトレントはそもそもジェスタ国内では産出されないらしい。

 稀に植物系のダンジョンでボスクラスのドロップ品で出る場合もあるが、基本的にオークションにかけられて非常に高額な値がつけられるそうだ。
 従ってジェスタではオールドトレントの入手は望むべくもないらしい。

 別大陸のアフカディア当たりならば森林地帯に入り込んで見つかる可能性もあるようだ。
 そのような状況であれば、商業ギルドにもまず在庫は無いだろう。

 それほどの高額品を利用目的も乏しい僻地のフレゴルドでわざわざ寝かせておくわけもないのだ。
 翌月の携帯型照明魔道具の生産予定日をサラさんとも打ち合わせた上で、俺は錬金術・薬師ギルドを出たのだった。


 商業ギルドにオールドトレントの在庫を問い合わせるのはやめて、その足で俺は冒険者ギルドへ向かった。
 冒険者ギルドの依頼掲示板を確認して、魅力がある依頼は無かったので、俺は前日に確認しておいた庭の雑草刈りの依頼書を壁から外し、カウンターへ持ち込んだ。

 既にピークは過ぎており、レイナ嬢が笑顔で迎えてくれた。
 依頼書を見て、レイナ嬢の顔がちょっとしかめっ面になったよ。

「あら、これって塩漬けよ。
 もう半月も放置されているの。
 あんまり冒険者にメリットが無いからねぇ。
 ここは成人前の冒険者って少ないから、どうしても街中の雑用が滞るの。
 そのうち諦める依頼も多いわね。
 で、本当に受けるの?
 この内容だときっと一日仕事になるわよ。」

「ええ、たまには街の人のために役に立つ仕事もいいでしょう。
 無理に稼がなくても左程困ってはいませんから。」

「まぁ、そうかしらね。
 リューマって、キライアの荘館に泊まってるんだって?
 冒険者であそこに泊まる人はほとんどいないわ。
 通常であれば、お金持ちか、貴族以上の人でないと使わないのよ。
 リューマはそこに連泊できるぐらいのお金持ちなんだろうけれど、将来のためにも出費を避けた方がいいわよ。
 装備を含めて意外と経費がかさむんだから。」

「へいへい、お姉さんの言うことは聞いておきますよ。
 ところで、冒険者ギルドって賃貸のアパートとか部屋とか斡旋はしてないの?
 何れは宿を引き払うつもりなんだけれど、行くところが無ければ宿を変わるだけになっちゃうから。」

「冒険者ギルドでは生憎と斡旋はしていないの。
 そういう話は商業ギルドの不動産担当しかないわね。
 でもこの時期は間が悪いことに空きが少ないわよ。
 来年の春になれば動きも出るだろうけれど。」

「わかった。
 しょうがないね。
 来年の春まで待つと言うのも長すぎるから、それまでに何とか考えるよ。
 じゃ、この依頼の方に行って来る。」

 俺は冒険者ギルドを出て、街の北東側にある比較的裕福であろうグラデス街の屋敷町にやって来た。
 俺が辿りついた屋敷は正しくお化け屋敷の隣であった。

 お化け屋敷は、外から見える屋根や塀もツタ植物やコケに覆われているから、敷地内は本当に荒れ放題なのだろうと思う。
 依頼主の塀は概ね綺麗なのだが、お化け屋敷との境界付近は植物やコケが徐々に浸食を始めている状態である。

 俺は依頼主の邸を訪ねた。
 屋敷の玄関口に出てきたのは老齢の執事さんであった。

 その執事さんは右足を怪我しているようで何故か松葉杖を使っている。
 俺は執事さんの案内で応接室に通された。

 そこでは、昔は大層綺麗であったろう品の良い女性が俺を出迎えてくれた。
 依頼主はキャスリン・オマール夫人、元フレゴルド代官の奥様のようだ。

 公金横領で捕まった例の腹ぼて代官の三代前の代官であったようだ。
 ここに住んでもう二十年ほどになると言う。

 旦那さんは既に他界し、二人の間に子供はいなかったので、今は執事のギャランさんと二人で屋敷に住んでいるそうだ。
 以前はメイドさんも居たそうだが、キャスリンさんには収入が無いので夫が残してくれた遺産だけでつつましく生きているようだ。

 執事のギャランさんはと言えば、恩ある旦那様の元でずっと働いていたので、この屋敷を離れるつもりも無く無報酬に近い状態で執事の仕事を続けているのだそうである。
 そのギャランさんが仕事をしている間に高所から落下、脚を怪我してまともに動けなくなったもので、庭の手入れができなくなったのが二カ月ほど前であると言う。

 老齢なために直りが遅く、今もって松葉杖をついての不便な生活が続いているようだ。
 二カ月程度ならば雑草も左程伸びてはいないと思いきや、生憎と隣家の空き家からの影響の所為か、異常に雑草の成育が速いのだそうだ。

 そのために冒険者ギルドに依頼を出したが、反応が無く、止むを得ず諦めて庭師へ依頼を出そうかどうしようか迷っていたらしい。
 庭師への依頼となればかなり高額の報酬が必要となるらしいので躊躇していたのだ。

 何れにしろ依頼を受けた以上は、仕事をしなければならない。
 久方ぶりの来客で何とはなしに世間話をしたそうにしている夫人を残して、俺は早速仕事を始めた。

 鎌等の道具は、依頼人の方で玄関先に用意してくれていた。
 結構錆が浮いている道具だったが、「金」属性魔法で錆びを取り除き、その錆びを使って研ぎあげるとわずかな時間で切れ味鋭い道具になった。

 で早速玄関付近の通路から始めて徐々にその範囲を広げていった。
 お昼は例のトルティーヤモドキと串焼きの予定である。

 鎌で切るのも魔法で切るのもほぼ結果は同じとあって、件のお化け屋敷から遠いところは魔法で、種類ごとにマップで特定し、一気に刈ってしまった。
 複数の鎌が宙を舞うように草を刈る様子は多分ホラーに違いないのだが、見ている者がいないことを確認しながらやっている。

 一方で、お化け屋敷に隣接する地域は、同じく雑草と目される植物をマップで特定したうえで、根っこから引き抜いたのである。
 範囲魔法というものをこの時に初めて使ってみた。

 切断も引っこ抜きも問題なく完璧にできたのである。
 そうしてそれらの草を熊手などの道具で庭の一カ所に集め、予め依頼主に了解を得た上で庭に浅い穴を掘り、切り取った雑草並びに引っこ抜いた雑草を放り込み、「火」属性魔法で一気に焼却した。

 炎に酸素を混ぜ与えたために、白い炎となって雑草は非常に短い時間で燃えつくし、僅かな灰しか残さなかった。
 その後は穴を埋め戻し、庭木の手入れを慎重に行った。

 昼食を挟みながら「木」属性魔法で、樹木や草花を手入れし、形を整え、水を与えて作業を終わった時は午後の二の時近くになっていた。
 執事さんとご婦人に声をかけ、仕事ぶりを確認してもらった。

 二人は、短時間で、しかもとてもきれいに仕上げてくれたことに驚きながら、笑顔で依頼書に達成完了のサインをしてくれた。
 因みに庭木の手入れまでは依頼に無かったことなのだが、それは俺のサービスだった。

 そうしてもう一つ、治癒魔法を覚えかけのところなので実験台になっていただけませんかと執事さんにお願いし、治癒魔法を受けさせたのだ。
 で、その時思いついて脳内マップを生体探査に使ってみた。

 CTスキャン宜しく、輪切り断層写真で生体内部を確認し、異常のある部分の確認に使ったのだ。
 その結果はと言えば、ギャランさん、怪我は重複骨折じゃないですか。

 しかも適切な治療を受けていないから、そのまま骨が癒着ゆちゃくしてしまっていて、このままじゃ生涯治りません。
 俺は、仕方がないのでヒールではなく、リライズを発動して、重複骨折を元に戻すことにした。

 その際には骨が無理やり動くことになるので、ギャランさんには局部麻酔をかけた。
 当事者であるギャランさんにもキャスリン婦人にもそのことは一々説明はしていない。

 そうして魔法をかけたのだが、流石に局部麻酔では骨にまで効かなかったのかかなりの痛みを一瞬感じたようで、「ツッ」と叫んで飛び上がるほどの動きを見せた。
 しかしながら、僅かに1秒程で魔法は完了した。

 ギャランさんは驚いていたようだ。
 内心ギャランさんは重複骨折であろうとわかっていたのだろう。

 だから、お礼を言いつつも、これほどの治癒魔法を知っている方が冒険者に居るのですねと尋ねるように言った。
 俺は苦笑しながら言った。

「たまたまできただけですよ。
 次はできないかもしれません。」

 ギャランさんは丁重にお辞儀をして感謝の意を表していた。
 俺は夫人と執事さんから隣家のことについて色々聞き出した。

 お二人は、昔を思い出しつつもいろいろな話をしてくれた、
 その中にはアリスの話もあったのである。

 結局三の時近くまでおしゃべりをして俺は引き上げた。
 そうして玄関口を出た時に、不意に気づいた。

 この家の門の脇にある大石の中に重金属が含まれていることを。
 何の気なしに先ほど使えたばかりの脳内マップ機能のCTスキャン探査を大石に向けたことでわかったのだ。

 大石の中には金塊が含まれていた。
 金鉱石ではなくほとんど純金の塊である。

 不定形で正確な重量は不明であるが、脳内マップで確認した体積は凡そ4リットル以上にも及ぶ。
 仮に体積が4リットルとすれば、金の重量は77.2キロほどになる。

 こちらでの金の価格は知らないが、日本ではグラム当たり5千円近くであった。
 仮に同じであればキロ当たり約500万円、金貨25枚分に相当する額になる、

 その77.2 倍であるから概算でも3億8千6百万円を超える額、つまりはほぼ紅白金貨二枚分(白金貨19枚+白輪金貨3枚=金貨1930枚)に相当するお宝がこの大岩に眠っていることになる。
 俺は、また別の機会があれば教えようと思っていた。

 今現在、清貧な生活を続けている二人にとって大きなお金が突然に入ることはその生活を乱すことになるだろうし、守銭奴の親族等がいて、ハゲタカのように襲来するかもしれないので、もう少し様子を見ようと思ったのだ。
 いま直ぐにでもお金が必要であるようであれば俺の対応も違っていたが、そうではなかったからだ。

 今回の報酬はギルドからもらうことになる。
 今日は早く帰ってオールドトレント若しくはモドキを魔法創造で作れるかを試すことになるだろう。
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