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第八章 研修と色々
8ー9 神々の憂鬱
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アスレオールの神々は頭を抱えていた。
天界と下界の狭間にあった深淵に、悠久の昔より封印されていた邪悪なるモノが、不慮の事故により解き放たれたことはすぐに神々の知るところとなった。
そもそもこの邪悪なるモノとは、神の候補者だった存在であり名のある存在だった。
だがその素行に日頃から問題があり、ついには下界に無暗に干渉してはならないとの天界の準則を公然と無視したことから、下界で大災厄が発生したのだった。
そのことが明らかとなった時点で、神々はこぞって彼の者を排斥し、名を奪い、そしてその能力を封じた。
その上で時の牢獄とでもいうべき天界と下界の狭間にあるアビスに、封印結界を築いて彼の者を封じたのだった。
そうして予期せぬことから封印が崩壊して、邪悪なるモノが下界に放り出された時、実のところ神々には打つ手がなかった。
天界においてならば、神々の力は絶対無比であり、無制限に、如何なく発揮できる。
しかしながら、下界は神々が細心の注意を払って管理すべき領域であって、様々な時象と事象が絡み合うために、ある意味では非常に脆い時空構造をしているのだった。
このため、そもそも、神々は下界に直接の干渉がしにくいようになっている。
為に、下界では、神々の力は用意周到に準備していたことのみが発現できるにとどまる。
残念なことに邪悪なるモノの封印結界が、下界にある巨大恒星の崩壊エネルギーの余波に巻き込まれ、壊れながらもアビスと呼ばれる時空の狭間から弾き出されることなどは想定されていなかった。
神々の間では、この巨大恒星の崩壊自体も数億年程先のことと予見されていたものだった。
アスレオールの八つ神が集まって、対応策を練っているのだが妙案がない。
禁じ手とでもいうべき奥の手はある。
下界の崩壊を伴うかもしれないが、下界に神々の力を開放して、邪悪なるものの再封印を行うことである。
但し、その余波でアスレオール世界そのものが崩壊する危険性は多分にあった。
何しろ神々が下界に力を大きな力を行使することができるのは、アスレオール世界を構築する際に使うぐらいで、他に例が無く、ある意味で手探りで行わなければならないことだ。
力を出し惜しみして封印に失敗すれば、再度の行使には若干のタイムラグが必要である。
その間に邪悪なるものがアスレオール世界の中核をなす惑星に取り付いてしまったなら、非常に厄介なことになる。
邪悪なるモノは、惑星のコアに眠る膨大な魔力エネルギーを吸い取ることができるのである。
仮にそうなれば、悠久の封印でっているはずの邪悪なるモノの力は、数日で元に復すことになるだろう。
そのような事態になれば、アスレオール世界の惑星表面に根付いた文明は間違いなく崩壊するだろうし、惑星を中心とした下界の広範囲な空間が捻じ曲げられ崩壊するだろう。
本来であれば、邪悪なるモノの力は天界の神々にも匹敵するのだ。
そうなるぐらいならば、アスレオール世界そのものの破壊と再生を行った方がまだましというものであるのだが、それは最終手段でしかない。
今まさに、その一件で神々が眉間にしわを寄せながら思念で会話しているところだ。
工の神が言った。
「知の女神よ、其方に何か良い知恵は無いのか?」
知の女神が呆れたように返す。
「無理を申さないでください。
絶対神様ができぬのに、私ができる様な知恵も有ろうはずもありません。
それよりは、貴方の方で何か下界に封印の魔道具なりを遣わすことはできないのですか?」
「封印の魔道具?
そんなものがあればとうに作っておろう。
かつての封印結界は、魔法陣の組み合わせであって魔道具ではないのだぞ。
以前できなかったことが今更できるはずも無し。
しかも天界と下界の中間層であったればこそ、永劫に持続できる封印結界であったのだ。
天界なれば皆の法力を供給しながらできようが、下界ではそもそも法力の注入が難しい。
生半可の力では封印そのものができぬじゃろうが、かといって注ぎ過ぎると周囲に大きな影響を与えてしまう。
儂が作る魔道具ではそのような匙加減ができぬわい。」
「あら、でも下界ではシルヴィが結界で龍脈の影響を遮って魔鉱石から瘴気が発生するのを防いだではありませぬか。
あのような工夫はできないのですか?」
「おう、あれはある意味で転生者だからこそできる発想よな。
儂では思いつかなんだわい。
じゃから、これまでは多少の被害が生じようと無視しておったのだが、あれほど簡単に原因を見つけて処理してしまうこと自体が驚きじゃわい。
ウン?
もしや、シルヴィに依頼すれば何か良い知恵が浮かぶかも・・・。」
それを聞いて、絶対神が言う。
「いや、この案件は先ずは我々が何とかすべきものじゃ。
万策尽きたならシルヴィを含めて下界の民たちに託するのも方策の一つじゃが、我らで何か方策がないかを探ってからのことじゃ。」
治癒の神が言った。
「なれば、一つ私からご提案を。
ある意味で此度の一件は予期せぬこととはいえ封印をなした天界の責任故、他の世界の神々にも相談を為されてはいかがでしょう。
特に、シルヴィの転生を我らに託して来た地球世界の神々ならば我らの相談にも乗っていただけるやも。
少なくともあちらの不都合をこちらでカバーしたわけですので、貸しは一つございましょう。」
「ふむ、同じ神の知恵を借りるか・・・。
しかしながら、他の神々とておいそれとは下界に手が出せぬは同じなので、無駄かもしれぬが、一応相談してみようか。」
絶対神は、そう言って、地球のアマテラスと連絡を取ったのである。
「おや、まぁ、ゼファー殿、お珍しや。
その節は、妾が不徳の致すところをカバーしていただき誠にありがとうございました。
お陰様で事後のフォローができて随分と助かりましたが、・・・。
もしや、そちらにお願い申した転生者に何か不都合でもございましたか?」
「いや、不都合はございません。
転生者はこちらの下界でその能力をいかんなく発揮して活躍しておりまして、こちらの世界でも大いに頼られる存在となっておりますよ。
此度連絡いたしたのは、その下界が破滅するやも知れぬ事件がおきましてな。
その件で出来れば、アマテラス殿から何か良い知恵が賜れないものかと連絡をした次第にございます。」
「ほうほう、以下様な事件でございましょう?
下界が壊滅するような天変地異でも起きましたかな?」
「いやいや、そのような場合には事前の介入もできましょうが、此度は少々我らの感知するところではない事象から別の災厄を招いたのです。」
絶対神は、邪悪なるモノの存在と封印、その封印が宇宙を構成する巨大恒星の崩壊という予期せぬ事象から、恐らくは数兆分の一の確率で収束エネルギーが、邪悪なるモノの封印結界をかすめたことにより、封印そのものを破壊するに至り、なおかつ下界側に邪悪なるモノが放り出されたために、困った事態に陥ったことを説明し、アマテラスに何か良い方法が無いかを尋ねたのだった。
「なるほど、堕ちた神・・・。
邪悪なるモノですか・・・。
こちらでは似た様な存在としてあるのは、妖怪若しくは妖魔と呼ばれるモノ達のことになるかと思いますが、私の管理する世界ではそうした妖怪や妖魔を陰陽師たちが法力で押さえつけ、場合により法術を使って滅することもございます。
但し、妖怪や妖魔であって、神々にも匹敵する力を持つものとなると、流石に陰陽師の法力では太刀打ちできないかもしれません。
我が世界ではこれまで左程の事態は・・・。
ん?
いや、古の昔、妾が弟のスサノオがヤマタノオロチを退治したが、あれはかなりの妖魔ではあったな。
余り参考にはならぬかもしれませぬが、神に列せられる男神が天界を一時追放されて下界にあった際に、強大な力を持つ妖魔と戦い、これを退治したことがございます。
この際は放逐されていたスサノオに本来備わる法力は使えず、もっぱら知恵と人外の体力のみで退治しておりますが、あれはスサノオの途轍もない馬鹿力があってこそ成し遂げられたもの。
今の話を聞く限りはそちらの戦神が下界に降りられても退治できるような相手ではないと存じますが如何なものでしょうか?」
「はい、私なり戦神なりが下界に居る邪悪なるモノを退治しようとすれば、恐らくは下界はその余波で崩壊します。
天界から力を行使しても、下界に降りても行使しても左程変わりはございません。
我らの能力に匹敵する存在ともなれば、単なる物理的な力では討伐なり封印なりは無理でございます。
せっかく下界に根付いた文明が根こそぎ滅することにもなりかねません。
例えば、そちらでは天界から下界にあるモノに対して安全に封印結界を掛けるようなことはできないものでしょうか?」
「ウーン、難しいですね。
そもそも封印結界を為す者がその場に居なければ無理かと存じます。
仮に天界から下界に有効な封印結界を張ろうとするならば、天界と下界の狭間に相当量の神力が漏れます。
そのことが原因で天界と下界が乖離する危険性もございますし、無理をすれば構造的に脆弱な下界が崩壊する危険性が高いと存じます。
それよりはむしろ、私が託した転生者に封印結界をさせた方がむしろ成功率が高いと存じますよ。
尤も、彼の転生者が相応の力ある陰陽術師に育っている必要性がございますが・・・。
その辺はどうなのでしょうか?」
「そちらから託された転生者はシルヴィと申しますが、彼女は下界ではピカイチの魔力を有しており、今でも日々その量が増大していますね。
陰陽術師のレベルで言えばどうなのかについては、私には判断できませんが、少なくとも十二神将を一時に召喚しても困らない程度には魔力がございます。」
「ほうほう、それは凄いですね。
十二神将一体でも召喚できれば陰陽師の上級レベルの筈。
12体同時に召喚して、なおかつ、それを長時間維持できるならば、陰陽師としては最高クラスの法力を持っているものと考えてよいでしょう。
或いはシルヴィが最高難度の封印結界を張ることができればその邪悪なるモノを封印できるかもしれません。
但し、仮にできたとしてもその後長期にわたって封印結界を維持できるかどうかでしょうね。
そのまま滅することが破邪覆滅の法で出来ればよいのですけれど・・・。
確か、そちらの世界では、陰陽師の法力そのものを使うのではではなくって、類似する能力に置き換える筈でございますよね?」
「左様です。
そちらから教えて戴いた法力の内容に最も近いものを選んで与え、同時にアレンジしています。
但し、シルヴィの場合は、更に自分なりにアレンジもしているようですので、彼女にどんなことができるのかは私でもわかりません。」
「フム、大きな賭けになるかもしれませぬが、シルヴィに色々と事前に封印と破邪覆滅の訓練を積ませることが必要かと存じます。
いくら何でもいきなりの本番では無理がございましょう。
それと、先ほどのお話では邪悪なるモノは宇宙空間を移動中とのこと。
仮に封印をするならば当該惑星に邪悪なるモノが取り付く前に為さねばできるモノもできなくなりましょう。
邪悪なるモノへ宇宙空間での接近はできるのでしょうか?」
「はて、それは・・・。
下界においては飛空艇で空は飛べますが、果たして真空の宇宙空間を飛べるかどうかは私では今すぐには回答できません。
いずれにせよ、仮にシルヴィに為してもらうとすれば陰陽術の「封印」と「破邪覆滅」の法でございますね?」
「はい、一義的にはその通りですが、そのほかにもいくつかの方法を組み合わせて封印や魔を滅する方法があるやもしれません。
全ては術者の能力と工夫次第にございます。」
天界と下界の狭間にあった深淵に、悠久の昔より封印されていた邪悪なるモノが、不慮の事故により解き放たれたことはすぐに神々の知るところとなった。
そもそもこの邪悪なるモノとは、神の候補者だった存在であり名のある存在だった。
だがその素行に日頃から問題があり、ついには下界に無暗に干渉してはならないとの天界の準則を公然と無視したことから、下界で大災厄が発生したのだった。
そのことが明らかとなった時点で、神々はこぞって彼の者を排斥し、名を奪い、そしてその能力を封じた。
その上で時の牢獄とでもいうべき天界と下界の狭間にあるアビスに、封印結界を築いて彼の者を封じたのだった。
そうして予期せぬことから封印が崩壊して、邪悪なるモノが下界に放り出された時、実のところ神々には打つ手がなかった。
天界においてならば、神々の力は絶対無比であり、無制限に、如何なく発揮できる。
しかしながら、下界は神々が細心の注意を払って管理すべき領域であって、様々な時象と事象が絡み合うために、ある意味では非常に脆い時空構造をしているのだった。
このため、そもそも、神々は下界に直接の干渉がしにくいようになっている。
為に、下界では、神々の力は用意周到に準備していたことのみが発現できるにとどまる。
残念なことに邪悪なるモノの封印結界が、下界にある巨大恒星の崩壊エネルギーの余波に巻き込まれ、壊れながらもアビスと呼ばれる時空の狭間から弾き出されることなどは想定されていなかった。
神々の間では、この巨大恒星の崩壊自体も数億年程先のことと予見されていたものだった。
アスレオールの八つ神が集まって、対応策を練っているのだが妙案がない。
禁じ手とでもいうべき奥の手はある。
下界の崩壊を伴うかもしれないが、下界に神々の力を開放して、邪悪なるものの再封印を行うことである。
但し、その余波でアスレオール世界そのものが崩壊する危険性は多分にあった。
何しろ神々が下界に力を大きな力を行使することができるのは、アスレオール世界を構築する際に使うぐらいで、他に例が無く、ある意味で手探りで行わなければならないことだ。
力を出し惜しみして封印に失敗すれば、再度の行使には若干のタイムラグが必要である。
その間に邪悪なるものがアスレオール世界の中核をなす惑星に取り付いてしまったなら、非常に厄介なことになる。
邪悪なるモノは、惑星のコアに眠る膨大な魔力エネルギーを吸い取ることができるのである。
仮にそうなれば、悠久の封印でっているはずの邪悪なるモノの力は、数日で元に復すことになるだろう。
そのような事態になれば、アスレオール世界の惑星表面に根付いた文明は間違いなく崩壊するだろうし、惑星を中心とした下界の広範囲な空間が捻じ曲げられ崩壊するだろう。
本来であれば、邪悪なるモノの力は天界の神々にも匹敵するのだ。
そうなるぐらいならば、アスレオール世界そのものの破壊と再生を行った方がまだましというものであるのだが、それは最終手段でしかない。
今まさに、その一件で神々が眉間にしわを寄せながら思念で会話しているところだ。
工の神が言った。
「知の女神よ、其方に何か良い知恵は無いのか?」
知の女神が呆れたように返す。
「無理を申さないでください。
絶対神様ができぬのに、私ができる様な知恵も有ろうはずもありません。
それよりは、貴方の方で何か下界に封印の魔道具なりを遣わすことはできないのですか?」
「封印の魔道具?
そんなものがあればとうに作っておろう。
かつての封印結界は、魔法陣の組み合わせであって魔道具ではないのだぞ。
以前できなかったことが今更できるはずも無し。
しかも天界と下界の中間層であったればこそ、永劫に持続できる封印結界であったのだ。
天界なれば皆の法力を供給しながらできようが、下界ではそもそも法力の注入が難しい。
生半可の力では封印そのものができぬじゃろうが、かといって注ぎ過ぎると周囲に大きな影響を与えてしまう。
儂が作る魔道具ではそのような匙加減ができぬわい。」
「あら、でも下界ではシルヴィが結界で龍脈の影響を遮って魔鉱石から瘴気が発生するのを防いだではありませぬか。
あのような工夫はできないのですか?」
「おう、あれはある意味で転生者だからこそできる発想よな。
儂では思いつかなんだわい。
じゃから、これまでは多少の被害が生じようと無視しておったのだが、あれほど簡単に原因を見つけて処理してしまうこと自体が驚きじゃわい。
ウン?
もしや、シルヴィに依頼すれば何か良い知恵が浮かぶかも・・・。」
それを聞いて、絶対神が言う。
「いや、この案件は先ずは我々が何とかすべきものじゃ。
万策尽きたならシルヴィを含めて下界の民たちに託するのも方策の一つじゃが、我らで何か方策がないかを探ってからのことじゃ。」
治癒の神が言った。
「なれば、一つ私からご提案を。
ある意味で此度の一件は予期せぬこととはいえ封印をなした天界の責任故、他の世界の神々にも相談を為されてはいかがでしょう。
特に、シルヴィの転生を我らに託して来た地球世界の神々ならば我らの相談にも乗っていただけるやも。
少なくともあちらの不都合をこちらでカバーしたわけですので、貸しは一つございましょう。」
「ふむ、同じ神の知恵を借りるか・・・。
しかしながら、他の神々とておいそれとは下界に手が出せぬは同じなので、無駄かもしれぬが、一応相談してみようか。」
絶対神は、そう言って、地球のアマテラスと連絡を取ったのである。
「おや、まぁ、ゼファー殿、お珍しや。
その節は、妾が不徳の致すところをカバーしていただき誠にありがとうございました。
お陰様で事後のフォローができて随分と助かりましたが、・・・。
もしや、そちらにお願い申した転生者に何か不都合でもございましたか?」
「いや、不都合はございません。
転生者はこちらの下界でその能力をいかんなく発揮して活躍しておりまして、こちらの世界でも大いに頼られる存在となっておりますよ。
此度連絡いたしたのは、その下界が破滅するやも知れぬ事件がおきましてな。
その件で出来れば、アマテラス殿から何か良い知恵が賜れないものかと連絡をした次第にございます。」
「ほうほう、以下様な事件でございましょう?
下界が壊滅するような天変地異でも起きましたかな?」
「いやいや、そのような場合には事前の介入もできましょうが、此度は少々我らの感知するところではない事象から別の災厄を招いたのです。」
絶対神は、邪悪なるモノの存在と封印、その封印が宇宙を構成する巨大恒星の崩壊という予期せぬ事象から、恐らくは数兆分の一の確率で収束エネルギーが、邪悪なるモノの封印結界をかすめたことにより、封印そのものを破壊するに至り、なおかつ下界側に邪悪なるモノが放り出されたために、困った事態に陥ったことを説明し、アマテラスに何か良い方法が無いかを尋ねたのだった。
「なるほど、堕ちた神・・・。
邪悪なるモノですか・・・。
こちらでは似た様な存在としてあるのは、妖怪若しくは妖魔と呼ばれるモノ達のことになるかと思いますが、私の管理する世界ではそうした妖怪や妖魔を陰陽師たちが法力で押さえつけ、場合により法術を使って滅することもございます。
但し、妖怪や妖魔であって、神々にも匹敵する力を持つものとなると、流石に陰陽師の法力では太刀打ちできないかもしれません。
我が世界ではこれまで左程の事態は・・・。
ん?
いや、古の昔、妾が弟のスサノオがヤマタノオロチを退治したが、あれはかなりの妖魔ではあったな。
余り参考にはならぬかもしれませぬが、神に列せられる男神が天界を一時追放されて下界にあった際に、強大な力を持つ妖魔と戦い、これを退治したことがございます。
この際は放逐されていたスサノオに本来備わる法力は使えず、もっぱら知恵と人外の体力のみで退治しておりますが、あれはスサノオの途轍もない馬鹿力があってこそ成し遂げられたもの。
今の話を聞く限りはそちらの戦神が下界に降りられても退治できるような相手ではないと存じますが如何なものでしょうか?」
「はい、私なり戦神なりが下界に居る邪悪なるモノを退治しようとすれば、恐らくは下界はその余波で崩壊します。
天界から力を行使しても、下界に降りても行使しても左程変わりはございません。
我らの能力に匹敵する存在ともなれば、単なる物理的な力では討伐なり封印なりは無理でございます。
せっかく下界に根付いた文明が根こそぎ滅することにもなりかねません。
例えば、そちらでは天界から下界にあるモノに対して安全に封印結界を掛けるようなことはできないものでしょうか?」
「ウーン、難しいですね。
そもそも封印結界を為す者がその場に居なければ無理かと存じます。
仮に天界から下界に有効な封印結界を張ろうとするならば、天界と下界の狭間に相当量の神力が漏れます。
そのことが原因で天界と下界が乖離する危険性もございますし、無理をすれば構造的に脆弱な下界が崩壊する危険性が高いと存じます。
それよりはむしろ、私が託した転生者に封印結界をさせた方がむしろ成功率が高いと存じますよ。
尤も、彼の転生者が相応の力ある陰陽術師に育っている必要性がございますが・・・。
その辺はどうなのでしょうか?」
「そちらから託された転生者はシルヴィと申しますが、彼女は下界ではピカイチの魔力を有しており、今でも日々その量が増大していますね。
陰陽術師のレベルで言えばどうなのかについては、私には判断できませんが、少なくとも十二神将を一時に召喚しても困らない程度には魔力がございます。」
「ほうほう、それは凄いですね。
十二神将一体でも召喚できれば陰陽師の上級レベルの筈。
12体同時に召喚して、なおかつ、それを長時間維持できるならば、陰陽師としては最高クラスの法力を持っているものと考えてよいでしょう。
或いはシルヴィが最高難度の封印結界を張ることができればその邪悪なるモノを封印できるかもしれません。
但し、仮にできたとしてもその後長期にわたって封印結界を維持できるかどうかでしょうね。
そのまま滅することが破邪覆滅の法で出来ればよいのですけれど・・・。
確か、そちらの世界では、陰陽師の法力そのものを使うのではではなくって、類似する能力に置き換える筈でございますよね?」
「左様です。
そちらから教えて戴いた法力の内容に最も近いものを選んで与え、同時にアレンジしています。
但し、シルヴィの場合は、更に自分なりにアレンジもしているようですので、彼女にどんなことができるのかは私でもわかりません。」
「フム、大きな賭けになるかもしれませぬが、シルヴィに色々と事前に封印と破邪覆滅の訓練を積ませることが必要かと存じます。
いくら何でもいきなりの本番では無理がございましょう。
それと、先ほどのお話では邪悪なるモノは宇宙空間を移動中とのこと。
仮に封印をするならば当該惑星に邪悪なるモノが取り付く前に為さねばできるモノもできなくなりましょう。
邪悪なるモノへ宇宙空間での接近はできるのでしょうか?」
「はて、それは・・・。
下界においては飛空艇で空は飛べますが、果たして真空の宇宙空間を飛べるかどうかは私では今すぐには回答できません。
いずれにせよ、仮にシルヴィに為してもらうとすれば陰陽術の「封印」と「破邪覆滅」の法でございますね?」
「はい、一義的にはその通りですが、そのほかにもいくつかの方法を組み合わせて封印や魔を滅する方法があるやもしれません。
全ては術者の能力と工夫次第にございます。」
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