魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

文字の大きさ
上 下
118 / 121
第八章 研修と色々

8ー9 神々の憂鬱

しおりを挟む
 アスレオールの神々は頭を抱えていた。
 天界と下界の狭間にあった深淵に、悠久の昔より封印されていた邪悪なるモノが、不慮の事故により解き放たれたことはすぐに神々の知るところとなった。

 そもそもこの邪悪なるモノとは、神の候補者だった存在であり名のある存在だった。
 だがその素行に日頃から問題があり、ついには下界に無暗に干渉してはならないとの天界の準則を公然と無視したことから、下界で大災厄が発生したのだった。

 そのことが明らかとなった時点で、神々はこぞって彼の者を排斥し、名を奪い、そしてその能力を封じた。
 その上で時の牢獄とでもいうべき天界と下界の狭間にあるに、封印結界を築いて彼の者を封じたのだった。

 そうして予期せぬことから封印が崩壊して、邪悪なるモノが下界に放り出された時、実のところ神々には打つ手がなかった。
 天界においてならば、神々の力は絶対無比であり、無制限に、如何なく発揮できる。

 しかしながら、下界は神々が細心の注意を払って管理すべき領域であって、様々な時象と事象が絡み合うために、ある意味では非常に脆い時空構造をしているのだった。
 このため、そもそも、神々は下界に直接の干渉がしにくいようになっている。

 為に、下界では、神々の力は用意周到に準備していたことのみが発現できるにとどまる。
 残念なことに邪悪なるモノの封印結界が、下界にある巨大恒星の崩壊エネルギーの余波に巻き込まれ、壊れながらもアビスと呼ばれる時空の狭間から弾き出されることなどは想定されていなかった。

 神々の間では、この巨大恒星の崩壊自体も数億年程先のことと予見されていたものだった。
 アスレオールの八つ神が集まって、対応策を練っているのだが妙案がない。

 禁じ手とでもいうべき奥の手はある。
 下界の崩壊を伴うかもしれないが、下界に神々の力を開放して、邪悪なるものの再封印を行うことである。

 但し、その余波でアスレオール世界そのものが崩壊する危険性は多分にあった。
 何しろ神々が下界に力を大きな力を行使することができるのは、アスレオール世界を構築する際に使うぐらいで、他に例が無く、ある意味で手探りで行わなければならないことだ。

 力を出し惜しみして封印に失敗すれば、再度の行使には若干のタイムラグが必要である。
 その間に邪悪なるものがアスレオール世界の中核をなす惑星に取り付いてしまったなら、非常に厄介なことになる。

 邪悪なるモノは、惑星のコアに眠る膨大な魔力エネルギーを吸い取ることができるのである。
 仮にそうなれば、悠久の封印でっているはずの邪悪なるモノの力は、数日で元に復すことになるだろう。

 そのような事態になれば、アスレオール世界の惑星表面に根付いた文明は間違いなく崩壊するだろうし、惑星を中心とした下界の広範囲な空間が捻じ曲げられ崩壊するだろう。
 本来であれば、邪悪なるモノの力は天界の神々にも匹敵するのだ。

 そうなるぐらいならば、アスレオール世界そのものの破壊と再生を行った方がまだましというものであるのだが、それは最終手段でしかない。
 今まさに、その一件で神々が眉間にしわを寄せながら思念で会話しているところだ。

 工の神バイテスが言った。

知の女神アシャよ、其方そなたに何か良い知恵は無いのか?」

 知の女神アシャが呆れたように返す。

「無理を申さないでください。
 絶対神ゼファー様ができぬのに、私ができる様な知恵も有ろうはずもありません。
 それよりは、貴方の方で何か下界に封印の魔道具なりをつかわすことはできないのですか?」

「封印の魔道具?
 そんなものがあればとうに作っておろう。
 かつての封印結界は、魔法陣の組み合わせであって魔道具ではないのだぞ。
 以前できなかったことが今更できるはずも無し。
 しかも天界と下界の中間層であったればこそ、永劫に持続できる封印結界であったのだ。
 天界なれば皆の法力を供給しながらできようが、下界ではそもそも法力の注入が難しい。
 生半可の力では封印そのものができぬじゃろうが、かといって注ぎ過ぎると周囲に大きな影響を与えてしまう。
 儂が作る魔道具ではそのような匙加減ができぬわい。」

「あら、でも下界ではシルヴィが結界で龍脈の影響をさえぎって魔鉱石から瘴気が発生するのを防いだではありませぬか。
 あのような工夫はできないのですか?」

「おう、あれはある意味で転生者だからこそできる発想よな。
 儂では思いつかなんだわい。
 じゃから、これまでは多少の被害が生じようと無視しておったのだが、あれほど簡単に原因を見つけて処理してしまうこと自体が驚きじゃわい。
 ウン?
 もしや、シルヴィに依頼すれば何か良い知恵が浮かぶかも・・・。」

 それを聞いて、絶対神ゼファーが言う。

「いや、この案件は先ずは我々が何とかすべきものじゃ。
 万策尽きたならシルヴィを含めて下界の民たちに託するのも方策の一つじゃが、我らで何か方策がないかを探ってからのことじゃ。」

 治癒の神ケルティが言った。

「なれば、一つ私からご提案を。
 ある意味で此度の一件は予期せぬこととはいえ封印をなした天界の責任故、他の世界の神々にも相談を為されてはいかがでしょう。
 特に、シルヴィの転生を我らに託して来た地球世界の神々ならば我らの相談にも乗っていただけるやも。
 少なくともあちらの不都合をこちらでカバーしたわけですので、貸しは一つございましょう。」

「ふむ、同じ神の知恵を借りるか・・・。
 しかしながら、他の神々とておいそれとは下界に手が出せぬは同じなので、無駄かもしれぬが、一応相談してみようか。」

 絶対神ゼファーは、そう言って、地球のアマテラスと連絡を取ったのである。

「おや、まぁ、ゼファー殿、お珍しや。
 その節は、わらわが不徳の致すところをカバーしていただき誠にありがとうございました。
 お陰様で事後のフォローができて随分と助かりましたが、・・・。
 もしや、そちらにお願い申した転生者に何か不都合でもございましたか?」

「いや、不都合はございません。
 転生者はこちらの下界でその能力をいかんなく発揮して活躍しておりまして、こちらの世界でも大いに頼られる存在となっておりますよ。
 此度連絡いたしたのは、その下界が破滅するやも知れぬ事件がおきましてな。
 その件で出来れば、アマテラス殿から何か良い知恵が賜れないものかと連絡をした次第にございます。」

「ほうほう、以下様な事件でございましょう?
 下界が壊滅するような天変地異でも起きましたかな?」

「いやいや、そのような場合には事前の介入もできましょうが、此度は少々我らの感知するところではない事象から別の災厄を招いたのです。」

 絶対神ゼファーは、邪悪なるモノの存在と封印、その封印が宇宙を構成する巨大恒星の崩壊という予期せぬ事象から、恐らくは数兆分の一の確率で収束エネルギーが、邪悪なるモノの封印結界をかすめたことにより、封印そのものを破壊するに至り、なおかつ下界側に邪悪なるモノが放り出されたために、困った事態に陥ったことを説明し、アマテラスに何か良い方法が無いかを尋ねたのだった。

「なるほど、ちた神・・・。
 邪悪なるモノですか・・・。
 こちらでは似た様な存在としてあるのは、妖怪若しくは妖魔と呼ばれるモノ達のことになるかと思いますが、私の管理する世界ではそうした妖怪や妖魔を陰陽師たちが法力で押さえつけ、場合により法術を使って滅することもございます。
 但し、妖怪や妖魔であって、神々にも匹敵する力を持つものとなると、流石に陰陽師の法力では太刀打ちできないかもしれません。
 我が世界ではこれまで左程の事態は・・・。
 ん?
 いや、古の昔、妾が弟のスサノオがヤマタノオロチを退治したが、あれはかなりの妖魔ではあったな。
 余り参考にはならぬかもしれませぬが、神に列せられる男神が天界を一時追放されて下界にあった際に、強大な力を持つ妖魔と戦い、これを退治したことがございます。
 この際は放逐されていたスサノオに本来備わる法力は使えず、もっぱら知恵と人外の体力のみで退治しておりますが、あれはスサノオの途轍もない馬鹿力があってこそ成し遂げられたもの。
 今の話を聞く限りはそちらの戦神が下界に降りられても退治できるような相手ではないと存じますが如何なものでしょうか?」

「はい、私なり戦神クライスなりが下界に居る邪悪なるモノを退治しようとすれば、恐らくは下界はその余波で崩壊します。
 天界から力を行使しても、下界に降りても行使しても左程変わりはございません。
 我らの能力に匹敵する存在ともなれば、単なる物理的な力では討伐なり封印なりは無理でございます。
 せっかく下界に根付いた文明が根こそぎ滅することにもなりかねません。
 例えば、そちらでは天界から下界にあるモノに対して安全に封印結界を掛けるようなことはできないものでしょうか?」

「ウーン、難しいですね。
 そもそも封印結界を為す者がその場に居なければ無理かと存じます。
 仮に天界から下界に有効な封印結界を張ろうとするならば、天界と下界の狭間に相当量の神力が漏れます。
 そのことが原因で天界と下界が乖離する危険性もございますし、無理をすれば構造的に脆弱な下界が崩壊する危険性が高いと存じます。
 それよりはむしろ、私が託した転生者に封印結界をさせた方がむしろ成功率が高いと存じますよ。
 尤も、の転生者が相応の力ある陰陽術師に育っている必要性がございますが・・・。
 その辺はどうなのでしょうか?」

「そちらから託された転生者はシルヴィと申しますが、彼女は下界ではピカイチの魔力を有しており、今でも日々その量が増大していますね。
 陰陽術師のレベルで言えばどうなのかについては、私には判断できませんが、少なくとも十二神将を一時に召喚しても困らない程度には魔力がございます。」

「ほうほう、それは凄いですね。
 十二神将一体でも召喚できれば陰陽師の上級レベルの筈。
 12体同時に召喚して、なおかつ、それを長時間維持できるならば、陰陽師としては最高クラスの法力を持っているものと考えてよいでしょう。
 或いはシルヴィが最高難度の封印結界を張ることができればその邪悪なるモノを封印できるかもしれません。
 但し、仮にできたとしてもその後長期にわたって封印結界を維持できるかどうかでしょうね。
 そのまま滅することが破邪覆滅はじゃふくめつの法で出来ればよいのですけれど・・・。
 確か、そちらの世界では、陰陽師の法力そのものを使うのではではなくって、類似する能力に置き換える筈でございますよね?」

「左様です。
 そちらから教えて戴いた法力の内容に最も近いものを選んで与え、同時にアレンジしています。
 但し、シルヴィの場合は、更に自分なりにアレンジもしているようですので、彼女にどんなことができるのかは私でもわかりません。」

「フム、大きな賭けになるかもしれませぬが、シルヴィに色々と事前に封印と破邪覆滅の訓練を積ませることが必要かと存じます。
 いくら何でもいきなりの本番では無理がございましょう。
 それと、先ほどのお話では邪悪なるモノは宇宙空間を移動中とのこと。
 仮に封印をするならば当該惑星に邪悪なるモノが取り付く前に為さねばできるモノもできなくなりましょう。
 邪悪なるモノへ宇宙空間での接近はできるのでしょうか?」

「はて、それは・・・。
 下界においては飛空艇で空は飛べますが、果たして真空の宇宙空間を飛べるかどうかは私では今すぐには回答できません。
 いずれにせよ、仮にシルヴィに為してもらうとすれば陰陽術の「封印」と「破邪覆滅」の法でございますね?」

「はい、一義的にはその通りですが、そのほかにもいくつかの方法を組み合わせて封印や魔を滅する方法があるやもしれません。
 全ては術者の能力と工夫次第にございます。」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

処理中です...