魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

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第八章 研修と色々

8ー7 エアコンの導入

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 私の作った魔鉱石による発電システムについては、企画書を作って幹部会に上伸しました。
 一応試験運用ということで、発電所の設置個所を明らかにせず、給電設備を施設内に設け、電気器具を最初に設置することにしたのはハンガー(格納庫)です。

 ハンガー内にはディホ-ク族のパイロットたちのための寮がありますからね。
 彼らは洞窟で済んでいるような種族ですからそもそも気候変動には強いんですけれど、それでも彼らの棲んでいる地域に比べるとホープランドは少し寒い地域になるかもしれません。

 別にディホーク族のパイロットからは今のところ苦情も不満も出ていませんけれどね。
 彼らが居ないと、診療所の機能がマヒしますから、大事にしてあげたいのです。

 ですからハンガー愛の彼らの寮にエアコンを接地して一ヵ月の間試験データを取り、その結果を見て、診療所、病棟、研修寮に空調設備を設置することにしています。
 電路の敷設も必要な電気設備の設置も私一人で行いますので結構大変なのですが、魔法が使えると便利ですよね。

 電路敷設なんかは僅かに1時間もかからずにできちゃいました。
 特に診療所には無影灯を導入し、外科手術も可能なようにするつもりです。

 今のところ身体の内部にある癌組織の切除にさえ、魔法による手術を行っていますので実際に開腹手術なんかしていませんけれど、三つある診療室の内一か所にだけは無影灯を設置してあります。
 実のところ、治癒師研修の後半には解剖の実地研修も視野に入れているので、解剖時の細部を見るためにはこの無影灯が是非とも必要なんです。

 ヒトの死体の解剖をすることには、特に宗教上の理由から中々周囲の理解が得られないかもしれません。
 そもそも利用できる検体があるかどうかもわかりませんが、解剖できる死体を入手するのは非常に難しいかとは思います。

 但し、できれば人体で解剖を行い、無い場合は、大白猿を代用で使おうかと思っています。
 大白猿はヒト族とは明らかに種族もDNAも違いますけれど、内臓配置などは非常に類似していますので、大白猿の内臓や身体構造を見ることで人の身体も類推することはできそうです。

 まぁ、研修生のセンシングによる空間把握がよりになれば、感覚的にわかることとは思っているのですが、その感覚を身に付けるためにも、身体の内部を実際に見て確認しておくことは大事です。
 一般照明については、既に魔石を利用したものがありますので、取り敢えずは特殊なものの試作を除いて開発しません。

 因みに暖房はそれなりにありましたけれど冷房機器は数えるほどしかありませんでした。
 聞くところによるとお貴族様や大商人の邸宅にはあるそうなんですが、設置費、維持費とも非常に高くつくので庶民には手の届か居ないものだったようです。

 当然、暖房と冷房ができるようなエアコンはこれまで作られていませんでした。
 電化用品については、電気湯沸かし器、お風呂の清浄兼保温用器具、電気冷蔵庫、空気清浄機、電気洗濯機、ジューサーミキサー、電子レンジ、温水洗浄便座を順次試作し、研修生やパイロットたちに試作機を使わせてその使用感を確認することにします。

 利便度、耐久性、安全性が確認できたなら、魔晶石ギルドの寮、作業室、事務室等に設置を幹部会に上伸するつもりです。
 勿論無料にするつもりはなく、有料ですよ。

 無償提供もできなくはありませんけれど、受益者側がその感覚に麻痺してしまうと困りますからね。
 ちゃんと製作者に対する感謝の念ぐらいは持ってもらわねば困ります。

 でも、代価は左程高くするつもりはありません。
 出来ればたくさんの人に使ってもらえれば良いなと思っているからです。

 勿論私一人で大量生産なんて無理ですから、特許制度を利用して、ウチのギルド、錬金術ギルド辺りに造らせるのが望ましいと考えています。
 それなりに需要があれば、魔晶石ギルドも錬金術ギルドも自発的に動くでしょう。

 その場合、電気というのはこの世界になかった概念ですから、またまた研修所が必要になりそうですが、それは治癒師研修が終わってからですね。
 少なくとも1年後、研修生が上手く育ってくれなければ二年後になるかもしれません。

 ◇◇◇◇

 私はロブノグラーディア王国の治癒師ギルドから派遣されて、魔晶石ギルドの治癒師研修に派遣されてきた1級治癒師のキャメロン・ドーリットというものです。
 正直なところ一級治癒師であるこの私が、何故に畑違いの魔晶石ギルドに行かねばならないんだと憤慨したし、当初は講師というシルヴィ嬢を胡乱な眼で見ていたのは確かである。

 だがその不信感は研修開始初日の診療であっけなく消え去った。
 間違いなくその地域の治癒師ギルドで見放された患者三名がシルヴィ嬢の診療行為で癒されていったのである。


「正直なところを言うと、この患者さんは本来は手遅れなのです。」

 一人目の患者は、内臓にできた腫物はれものが身体のあちこちに転移したことにより内臓の機能不全に陥っているとシルヴィ嬢は説明した。
 彼女は特段の何かをしたわけでは無いのに診療室のベッドに横たわる患者を見ただけでそう言ったのだ。

 何だ?
 何故わかる?

 それに傍には親族も立ち会って居るというのに何という無情な言葉を吐くのかと思いました。
 でも彼女は更に酷いことを言った。

 それは治癒師がヒールを掛けて症状を悪化させたと言ったのだ。
 正直なところ、これまで私自身は確認できてはいないのだが、ヒールを掛けることによって稀に症状が悪化することがあり得るとした過去の研究者の論文は目にしたことはある。

 それを部外者に指摘されたのは初めてのことで、流石に私も切れかかった。
 だが、彼女はその患者の状況を自分たちの感性で感じ取りなさいと言って、研修生5名に次々と幹部付近に手を当てさせたのだった。

 私も試したが、何か違和感があったような気もするが定かでは無かった。
 だが研修生5名の内2名はその違和感を明確に感じ取っていたようだ。

 シルヴィ嬢は何かを感じ取ったら遠慮なく言えと言っていたのだが、研修生5名は何も言わなかった。
 私も何かの勘違いかも知れないので敢えて言わなかった。

 だが、シルヴィ嬢は名指しで言った。

「ファーロさん、それにダミアンさん。
 お二人は腹部に触って気配を探ることで明確に何かを感じ取ったはずですね?
 単なる違和感に過ぎなくてもそのことははっきりと口にして言わなければいけません。
 指導する者がそのことを知らなければ無駄な指導を繰り返すことになります。
 同僚であろうと先輩であろうと、今のあなた方5人はただの研修生です。
 他の者に気を使う必要はありません。
 あなた方が元の職場に戻って指導するに際して、指導を受けるものが何ら申告をしてくれなかったら指導自体が行き詰まります。
 新たに得た力、感触、或いは知見は隠すことなく皆で共有しなければなりません。
 宜しいですね。」

 何故にシルヴィ嬢がファーロとデミアンが何かを感知していたことを知っているのかわからないが、或いは我々の魔力の動きがわかるのかもしれないとその時に思った。
 その意味では私の感知能力は未だ少ないのだろうと思う。

 そうした上で手遅れであったとされる患者に対してシルヴィ嬢は診療を始めたのだった。
 彼女は説明の中でこれから行う診療は大きな賭けであり、自分自身も術後はしばらく動けなくなると言った。

 何でも悪いところを切り取って、その上で大事な内臓の組織を再生すると言ったのだ。
 内臓だから見えないが、もしかすると四肢欠損の類の再生も可能なのか?

 伝説では数百年前の大聖女カレーニア様ただお一人が無し得たという奇跡の再生の術。
 それを治癒師でもないこの若いシルヴィ嬢ができるのかと驚愕した。

 そうしてその秘術は淡々と行われたのである。
 彼女は椅子に座り、右手を腹部の上に宙に浮かせたままでいる。

 そうしてすぐに彼女の掌から金色の光がシャワーのように患者の腹部に注がれる。
 驚くべきことにその金色の淡い光は患者の胴体のほぼ半分ほどにまで広がり、その中でも下腹部に近い部分が一瞬眩くまばゆく光ったように思う。

 そのわずかの間に、患者の傍に置いてある金属製のパンの中に何やら血みどろの小さな塊が次々と出現し、ピチャピチャと音を立てている。
 光がスッと消えた時彼女は疲れたように椅子の背もたれに身体を預けていた。

 体力ではなくまるで精神力を酷使したように思えた。
 魔力の使い過ぎ?

 そんな言葉が私の脳裏に浮かんだ。
 多分、私達治癒師の力では及ばぬ診療を垣間見ていることに初めて気づいた。

 患者の内部での悪いところを見つけ出し、私たちにはわからぬ方法で患部を切除し体外に取り出し、なおかつ切除した内臓の復元再生さえ行っているのだ。
 それでは魔力を使い果たしてもおかしくはない。

 そうして施術は成功し、患者は一命をとりとめたようだ。
 その患者は万が一のために今夜一晩は病棟に泊め、明日、母国に返されるようだ。

 その後も現地では手の施しようがないと判断された二人の患者が診療を受け、どちらも健康体に戻ったようだ。
 うち一人はどうも犯罪に手を染めていたようだと知ったのは大分後のことである。

 一日目の診療で、私はシルヴィ嬢に魅了されたと言っても過言では無い。
 成人の儀で得られた職業は確かに魔晶石採掘師と魔晶石加工師であるかもしれない。

 だが、彼女はまごうことなき聖女様の生まれ変わりだ。
 神が与えたもうた職を否定はできないが、シルヴィ嬢には間違いなく治癒の女神ケルティ様の恩寵?いや加護が絶対に付いている筈だ。

 そうでなければ奇跡のような治癒の診療ができるはずもない。
 その日からシルヴィ嬢は私の尊敬の対象になった。

 研修に来てから一月半ほど経った。
 私はセンシングで概ね患部の位置がわかるようになってはきた。

 このセンシング技術についてはどうも生来の能力もかなり作用している様だが、研修同期のファーロとデミアンが抜きんでている。
 この二人は間違いなく患部を正確に把握できている様だ。

 私も何とか食らいついて行きたいと日々努力しているところだ。
 ところで、研修寮に待望の「エアコン」が付いた。

 私の出身であるロブノグラーディア王国は北部の寒冷な地域にある。
 冬は寒さが厳しく夏場は涼しい気候が続く場所なのだ。

 一方でホープランドの南部にあるこの魔晶石ギルドのある一帯は亜熱帯に近い気候の場所である。
 従って夏の暑さにはどう対応しようかと悩んでいたのだが、最初に小型救急輸送機のパイロットであるディホーク族の寮(格納庫の二階)にエアコンが設置され、その運用状況を確認したうえで、診療室と病棟に付けられたのだ。

 当然に私達研修生も診療室には入るし、最近では宿泊して行く患者の様子も交替で見るようになったから、診療室と病棟が快適な温度に保たれていることに初めはびっくりしたものだ。
 周囲の気温は少しずつですが上昇していて、今現在は私の故郷の夏場の気温ですね。

 これ以上上がると私がへばりそうです。
 そんな時に出てきたのがエアコンです。

 製作者は、シルヴィ嬢です。
 シルヴィ嬢、あなたは女神さまではないのでしょうか?

 研修寮にも待望のエアコンがつけられたその日、私はクレアとともに乾杯をいたしました。
 クレアも私と同じ寒冷地帯の出身で夏場を恐れていたのですが、少なくとも外を出歩く以外はほとんどエアコンの効いている場所で生活し働くことができるのですから本当に幸せです。

 今後、魔晶石ギルドの施設にも順次整備してゆくそうですので、この魔晶石ギルドの一帯は四季を通じて過ごしやすくなりそうです。
 これだけ環境整備をしてもらっているのですから、私も研修に全身全霊を傾けて、ロブノグラーディア王国のためにも知識技能を身に付けねばなりません。

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