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第七章 変革のために
7ー21 これって、ナ~ニ?
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ハ~イ、シルヴィですよ。
一週間のご無沙汰でございました。
さてさて、私の小型飛空艇を使った最初の救急輸送は、フェルドラン国の大商人のお子さんで、8歳になるマルチナちゃんと言うお嬢さんですよ。
もう半月ほど前から寝込んでいたようですが、フェルドラン国の治癒師ギルドではどうにもできなくて、本部にご相談して結局私のところに回されたのですが、容態は正直言って非常に良くないです。
付き添いは、フェルドラン国の治癒師ギルドからお二人と、マルチナちゃんのお母さんが付いて来ています。
こちらからの迎えで地上に降りたのは、ワイオブール公国の治癒師ギルドに所属している治癒師のフェイネリアスさんというベテランの方です。
治癒師には男性も居るのですけれど、患者対応は女性の方が当たりが柔らかいので、女性に機内搭乗してもらっています。
男性治癒師については、魔晶石ギルドの離発着場で待機してもらっています。
この輸送機が到着間近になるまでは格納庫内の事務室で待機ですよ。
近づいたらパイロットが通信機で知らせることになっています。
着陸地で担架に乗せられた患者をそのまま機内に運んで貰い、機内のベッドに寝かせるまではフェルドラン国の治癒師ギルドが請け負っています。
輸送機が離陸するとワイオブール公国の治癒師であるフェイネリアスさんとクレアンさんの二人が見守りますが、フェルドラン国の治癒師ギルドの方二人と母親も一緒に見守るしかありません。
今回、私は命が危うい場合にしか手を出さないことにしています。
何故なら、今後はディホーク族のパイロットと治癒師ギルドの治癒師達が、私が待っている魔晶石ギルドまで運ばねばならないからです。
今日はその手順の確認だけのために私も搭乗していますが、予想外のことが起きなければ、治療は魔晶石ギルドの診療所に到着してから始めます。
その間にも私は忙しく原因の特定を急いでいるところです。
パイロットは正パイロットと副パイロットの二人であり、他にも一人見習い扱いでディホーク族の者が搭乗しています。
操縦室は二つの操縦席が並んでおり、その背後にも二つ席が並んでいますので、四人までは操縦室に入れるんです。
今日はその一つに私が座って、輸送機の内外を確認していますので同乗している見習い役のディホーク族は一人だけです。
本来、操縦に副パイロットも見習い役も要りませんが、取り敢えず運航が軌道に乗るまでは二人若しくは三人での運航を奨励しています。
肝心のマルチナちゃんの症状ですが、体内臓器の至る所から出血があります。
今のところ治癒師の方たちのヒールの継続により、出血個所の修復ができているので何とか保っている状況ですけれど、治癒師のヒールが切れたら危ないです。
今のところ、四人の治癒師が傍に居るのでヒールの継続も大丈夫のようです。
私の生体サーチにより診た結論から言うと、血管壁を溶解する毒素の所為みたいに思えるけれど・・・。
あれぇ、もしかしてこれって毒蛇なんかの出血毒?
エボラ出血熱ならウィルスだけど、探してもウィルスは見えないんだよね。
ウィルスなんかよりはるかに大きなものが身体のあちらこちらに居座っている感じ・・。
そう言えば蛇毒を含めて動物由来の毒は高分子だと何かで読んだことがあるような・・・。
なんとも頼りない話だけれど、だとすれば体内に本来あるはずのない高分子を探しだして排除すれば良いのかも。
四人の治癒師たちとマルチナちゃんのお母さんの体内サーチを始めて、マルチナちゃんと比較しました。
うん、やっぱり他の人には無い高分子がマルチナちゃんの体内にあるよ。
これが悪さをしてるのかな?
いや、もう少し調査を続行して確認を続けよう。
出来れば同じぐらいの子供の比較も欲しいな。
着いてからおトイレに言ったふりして公都に行ってみよう。
公都ならサンプルの被検体が沢山居そうだ。
飛んでいる間に行くと戻るのが大変だから今は辛抱だね。
待つこと二時間近く、ようやく魔晶石ギルドの離着陸場に戻ってきました。
マルチナちゃんを診療所に運んで貰っている一方で、私はハンガー内のおトイレに直行。
その足で公都まで転移して四人の子供をサーチ、マルチナちゃんの異常を確認しました。
やっぱり、体内にあるおかしな高分子の存在が悪さをしているみたい。
診察室へ急いで戻り、すぐに診察開始。
センサーで確認された異様な高分子を体内から一気に排除し、一部は瓶に封入し、残余は焼却処分にしました。
マルチナちゃんの身体のすぐ上で白い光を出して燃え尽きた高分子は、精々小指のつま先程度の量でした。
こんな量でも、体内の血管壁を壊し、血液凝固の因子を消費することで出血がとまらなくするんですね。
マルチナちゃんそのおかげで死にかけましたけれど、生憎と大元の原因がわかりません。
生物特に動物毒じゃないかと思うのですけれど、その本体を知っておく必要がありますね。
いずれにしろ異常な高分子を排除したことで急激にヒールが効果を上げるようになり、診療室に私が入ってから10分でほぼ全快状態になりました。
尤も、この半月近くでほとんど栄養が取れていないので、十分な休養と栄養補給が必要です。
取り敢えずは入院患者一号で、新設した病棟にお母さんと二人で明日までは入ってもらい、明日の朝、輸送機で送ることにしました。
そんなこんなで、診療所の最初のお客さんは無事に助けることができました。
この後はもう一機の救急輸送機が迎えに行っている患者二号さんが一時間もしないうちに到着するはずです。
マルチナちゃんを運んできた輸送機は、もう一か所の患者輸送のために出発して行きました。
私は診療所で待機ですね。
魔晶石採掘師の仕事じゃないのは確かですけれど、救える命であれば救ってあげたいとそう思っている私です。
因みにフェルドラン国の治癒師の方に尋ねたところ、アルナクサリヘビという名の毒蛇が居るそうです。
この蛇は噛まずに毒液を吐く小型の蛇で、この毒が肌に触れるとそこから毒が浸透して死ぬことになるそうです。
◇◇◇◇
二人目の患者さんが運ばれてきましたけれど・・・。
壮年の男性なんですが、まるでやせ細った幽鬼をイメージさせますね。
ゴレンドール共和国の宰相なんだそうですが、どうしたらこんなにやつれるんでしょうか?
十日ほど前から食事を受け付けなくなって、夜もまともに寝られない状況が続いているのだとか。
この症状に関して言えば、ヒールは全く受けつけないのだそうです。
ゴレンドール共和国から付き添いでやって来た治癒師ギルドの方がそう説明してくれました。
早速ベッドに寝た状態で生体センサーを掛けましたが、これは・・・。
私も始めて見るけれど、闇魔法じゃないのかな?
患者の体内の中心部で靄の様な塊が怪しく蠢いていますけれど、もしかすると呪詛?
子の刻参りじゃないけれど、本当に呪殺ってあるみたいですね。
私の異能の中に陰陽師がありますけれど、元々陰陽師の闇の部分は呪いをかける方も有るんです。
その反対に呪を解く解呪の方法もあるんですけれどね。
それは呪術と言う私の魔法系のスキルにも含まれています。
これは、初めての解呪を試すことになりそうな感じです。
宰相さんに恨まれる覚えがあるかなんて聞いても無駄ですよね。
為政者は何処で恨まれてもおかしくない職業ですから。
何せ初めてですから、解呪の方法でも何を使うかが問題です。
私のステータスで呪術のところをプルダウンすると色々な技らしきものが出て来ました。
それぞれに簡単な説明もついています。
その中から「呪詛反魂」を選びました。
これは解呪するだけでなく、術者に呪を返す術なのです。
おまけに呪詛が三倍返しになりますから、術者はたまったものじゃないですよね。
即死すればよいですけれど、そうじゃなければ地獄の苦しみを味わいながら死ぬことになるでしょう。
私は九字を描き、呪文を唱え一気に呪詛反魂を発動しました。
途端に患者の身体から光が溢れ、黒い靄が追い出されるように飛び出て、西の方へと飛び去るのが見えました。
後で側にいた治癒師の方に聞きましたけれど、光ったのは見えていたけれど黒い靄は見えていなかったようです。
西の方角にゴレンドール共和国があるのは知っていますので、黒い靄はきっと呪詛した人物の元に還って行ったのだと思います。
ゴレンドール共和国宰相も今夜一晩は病棟に入院して明日、輸送艇で送ることになります。
さてさて、もう少ししたら三人目の患者さんの到着ですね
でも残念ながら救急輸送艇は空で戻ってきました。
輸送艇到着の半時ほど前に、患者さんは亡くなったそうです。
残念ながら私の診療所の恩恵に浴せなかった患者さんのご冥福をお祈りします。
一人亡くなったから別の人を追加というようなシステムにはなっていません。
従って今日の診察はこれでおしまいです。
待機していたワイオブール公国の治癒師たちも解散してまた明後日に備えることになります。
私も、寮に戻って明日の英気を養いましょう・・・、と言うふりを装って、先ほど採取した毒を手にヒラトップに向かい、そこで色々と検証です。
可能ならば抗毒素血清なんかが造れれば良いのですが、難しいでしょうね。
特に高分子からなる生物毒素は血清が無いのが普通なのです。
仮に有ってもその場で使わないと間に合わないことが多いのです。
先ほど聞いたアルナクサリヘビは、この周辺には居ない種類のようですから、このギルドで保管していてもあまり役立ちません。
増してや血清は生もので保存がきかないものが多いんです。
それでも念のため色々と試行錯誤をしてみたいのです。
その日もミッドナイトまで秘密のお仕事でした。
そうして翌朝少し元気になったマルチナちゃんに尋ねたところ、発病前に家の庭で死んでいた飼い猫に触ったとのことでした。
その触れたことが原因かどうかは定かではないものの、すぐに気分が悪くなって寝込んだことから、恐らくはその猫が毒の噴射を受け、死んだ後で、余り間を置かずにマルチナちゃんが触れてしまった可能性が高いですね。
今回は不用意に猫の死体には触れないようにとマルチナちゃんに説教じみたことを言ってしまいました。
今回は二人の命を救うことができました。
私に能力を与えてくれた神様たちに感謝しました。
既に実習は一部始まっていますがもう少ししたら、治癒師たちの研修が始まります。
昨日の症例についても一応の説明はしているのですけれど、魔法で身体の細胞に出血を強いるものを取り除いたこと、更には呪詛を受けた患者の解呪を行ったことを説明しても、それを実際にできる人は治癒師には居ないようです。
少なくとも魔法師レベルか治癒師レベルが相当に高くないと私と同じ診療行為はできないように思います。
いずれにせよ、近々、研修の講師役と実習で結構忙しくなりそうです。
=================================
12月14日、一部の字句修正を行いました。
By サクラ近衛将監
一週間のご無沙汰でございました。
さてさて、私の小型飛空艇を使った最初の救急輸送は、フェルドラン国の大商人のお子さんで、8歳になるマルチナちゃんと言うお嬢さんですよ。
もう半月ほど前から寝込んでいたようですが、フェルドラン国の治癒師ギルドではどうにもできなくて、本部にご相談して結局私のところに回されたのですが、容態は正直言って非常に良くないです。
付き添いは、フェルドラン国の治癒師ギルドからお二人と、マルチナちゃんのお母さんが付いて来ています。
こちらからの迎えで地上に降りたのは、ワイオブール公国の治癒師ギルドに所属している治癒師のフェイネリアスさんというベテランの方です。
治癒師には男性も居るのですけれど、患者対応は女性の方が当たりが柔らかいので、女性に機内搭乗してもらっています。
男性治癒師については、魔晶石ギルドの離発着場で待機してもらっています。
この輸送機が到着間近になるまでは格納庫内の事務室で待機ですよ。
近づいたらパイロットが通信機で知らせることになっています。
着陸地で担架に乗せられた患者をそのまま機内に運んで貰い、機内のベッドに寝かせるまではフェルドラン国の治癒師ギルドが請け負っています。
輸送機が離陸するとワイオブール公国の治癒師であるフェイネリアスさんとクレアンさんの二人が見守りますが、フェルドラン国の治癒師ギルドの方二人と母親も一緒に見守るしかありません。
今回、私は命が危うい場合にしか手を出さないことにしています。
何故なら、今後はディホーク族のパイロットと治癒師ギルドの治癒師達が、私が待っている魔晶石ギルドまで運ばねばならないからです。
今日はその手順の確認だけのために私も搭乗していますが、予想外のことが起きなければ、治療は魔晶石ギルドの診療所に到着してから始めます。
その間にも私は忙しく原因の特定を急いでいるところです。
パイロットは正パイロットと副パイロットの二人であり、他にも一人見習い扱いでディホーク族の者が搭乗しています。
操縦室は二つの操縦席が並んでおり、その背後にも二つ席が並んでいますので、四人までは操縦室に入れるんです。
今日はその一つに私が座って、輸送機の内外を確認していますので同乗している見習い役のディホーク族は一人だけです。
本来、操縦に副パイロットも見習い役も要りませんが、取り敢えず運航が軌道に乗るまでは二人若しくは三人での運航を奨励しています。
肝心のマルチナちゃんの症状ですが、体内臓器の至る所から出血があります。
今のところ治癒師の方たちのヒールの継続により、出血個所の修復ができているので何とか保っている状況ですけれど、治癒師のヒールが切れたら危ないです。
今のところ、四人の治癒師が傍に居るのでヒールの継続も大丈夫のようです。
私の生体サーチにより診た結論から言うと、血管壁を溶解する毒素の所為みたいに思えるけれど・・・。
あれぇ、もしかしてこれって毒蛇なんかの出血毒?
エボラ出血熱ならウィルスだけど、探してもウィルスは見えないんだよね。
ウィルスなんかよりはるかに大きなものが身体のあちらこちらに居座っている感じ・・。
そう言えば蛇毒を含めて動物由来の毒は高分子だと何かで読んだことがあるような・・・。
なんとも頼りない話だけれど、だとすれば体内に本来あるはずのない高分子を探しだして排除すれば良いのかも。
四人の治癒師たちとマルチナちゃんのお母さんの体内サーチを始めて、マルチナちゃんと比較しました。
うん、やっぱり他の人には無い高分子がマルチナちゃんの体内にあるよ。
これが悪さをしてるのかな?
いや、もう少し調査を続行して確認を続けよう。
出来れば同じぐらいの子供の比較も欲しいな。
着いてからおトイレに言ったふりして公都に行ってみよう。
公都ならサンプルの被検体が沢山居そうだ。
飛んでいる間に行くと戻るのが大変だから今は辛抱だね。
待つこと二時間近く、ようやく魔晶石ギルドの離着陸場に戻ってきました。
マルチナちゃんを診療所に運んで貰っている一方で、私はハンガー内のおトイレに直行。
その足で公都まで転移して四人の子供をサーチ、マルチナちゃんの異常を確認しました。
やっぱり、体内にあるおかしな高分子の存在が悪さをしているみたい。
診察室へ急いで戻り、すぐに診察開始。
センサーで確認された異様な高分子を体内から一気に排除し、一部は瓶に封入し、残余は焼却処分にしました。
マルチナちゃんの身体のすぐ上で白い光を出して燃え尽きた高分子は、精々小指のつま先程度の量でした。
こんな量でも、体内の血管壁を壊し、血液凝固の因子を消費することで出血がとまらなくするんですね。
マルチナちゃんそのおかげで死にかけましたけれど、生憎と大元の原因がわかりません。
生物特に動物毒じゃないかと思うのですけれど、その本体を知っておく必要がありますね。
いずれにしろ異常な高分子を排除したことで急激にヒールが効果を上げるようになり、診療室に私が入ってから10分でほぼ全快状態になりました。
尤も、この半月近くでほとんど栄養が取れていないので、十分な休養と栄養補給が必要です。
取り敢えずは入院患者一号で、新設した病棟にお母さんと二人で明日までは入ってもらい、明日の朝、輸送機で送ることにしました。
そんなこんなで、診療所の最初のお客さんは無事に助けることができました。
この後はもう一機の救急輸送機が迎えに行っている患者二号さんが一時間もしないうちに到着するはずです。
マルチナちゃんを運んできた輸送機は、もう一か所の患者輸送のために出発して行きました。
私は診療所で待機ですね。
魔晶石採掘師の仕事じゃないのは確かですけれど、救える命であれば救ってあげたいとそう思っている私です。
因みにフェルドラン国の治癒師の方に尋ねたところ、アルナクサリヘビという名の毒蛇が居るそうです。
この蛇は噛まずに毒液を吐く小型の蛇で、この毒が肌に触れるとそこから毒が浸透して死ぬことになるそうです。
◇◇◇◇
二人目の患者さんが運ばれてきましたけれど・・・。
壮年の男性なんですが、まるでやせ細った幽鬼をイメージさせますね。
ゴレンドール共和国の宰相なんだそうですが、どうしたらこんなにやつれるんでしょうか?
十日ほど前から食事を受け付けなくなって、夜もまともに寝られない状況が続いているのだとか。
この症状に関して言えば、ヒールは全く受けつけないのだそうです。
ゴレンドール共和国から付き添いでやって来た治癒師ギルドの方がそう説明してくれました。
早速ベッドに寝た状態で生体センサーを掛けましたが、これは・・・。
私も始めて見るけれど、闇魔法じゃないのかな?
患者の体内の中心部で靄の様な塊が怪しく蠢いていますけれど、もしかすると呪詛?
子の刻参りじゃないけれど、本当に呪殺ってあるみたいですね。
私の異能の中に陰陽師がありますけれど、元々陰陽師の闇の部分は呪いをかける方も有るんです。
その反対に呪を解く解呪の方法もあるんですけれどね。
それは呪術と言う私の魔法系のスキルにも含まれています。
これは、初めての解呪を試すことになりそうな感じです。
宰相さんに恨まれる覚えがあるかなんて聞いても無駄ですよね。
為政者は何処で恨まれてもおかしくない職業ですから。
何せ初めてですから、解呪の方法でも何を使うかが問題です。
私のステータスで呪術のところをプルダウンすると色々な技らしきものが出て来ました。
それぞれに簡単な説明もついています。
その中から「呪詛反魂」を選びました。
これは解呪するだけでなく、術者に呪を返す術なのです。
おまけに呪詛が三倍返しになりますから、術者はたまったものじゃないですよね。
即死すればよいですけれど、そうじゃなければ地獄の苦しみを味わいながら死ぬことになるでしょう。
私は九字を描き、呪文を唱え一気に呪詛反魂を発動しました。
途端に患者の身体から光が溢れ、黒い靄が追い出されるように飛び出て、西の方へと飛び去るのが見えました。
後で側にいた治癒師の方に聞きましたけれど、光ったのは見えていたけれど黒い靄は見えていなかったようです。
西の方角にゴレンドール共和国があるのは知っていますので、黒い靄はきっと呪詛した人物の元に還って行ったのだと思います。
ゴレンドール共和国宰相も今夜一晩は病棟に入院して明日、輸送艇で送ることになります。
さてさて、もう少ししたら三人目の患者さんの到着ですね
でも残念ながら救急輸送艇は空で戻ってきました。
輸送艇到着の半時ほど前に、患者さんは亡くなったそうです。
残念ながら私の診療所の恩恵に浴せなかった患者さんのご冥福をお祈りします。
一人亡くなったから別の人を追加というようなシステムにはなっていません。
従って今日の診察はこれでおしまいです。
待機していたワイオブール公国の治癒師たちも解散してまた明後日に備えることになります。
私も、寮に戻って明日の英気を養いましょう・・・、と言うふりを装って、先ほど採取した毒を手にヒラトップに向かい、そこで色々と検証です。
可能ならば抗毒素血清なんかが造れれば良いのですが、難しいでしょうね。
特に高分子からなる生物毒素は血清が無いのが普通なのです。
仮に有ってもその場で使わないと間に合わないことが多いのです。
先ほど聞いたアルナクサリヘビは、この周辺には居ない種類のようですから、このギルドで保管していてもあまり役立ちません。
増してや血清は生もので保存がきかないものが多いんです。
それでも念のため色々と試行錯誤をしてみたいのです。
その日もミッドナイトまで秘密のお仕事でした。
そうして翌朝少し元気になったマルチナちゃんに尋ねたところ、発病前に家の庭で死んでいた飼い猫に触ったとのことでした。
その触れたことが原因かどうかは定かではないものの、すぐに気分が悪くなって寝込んだことから、恐らくはその猫が毒の噴射を受け、死んだ後で、余り間を置かずにマルチナちゃんが触れてしまった可能性が高いですね。
今回は不用意に猫の死体には触れないようにとマルチナちゃんに説教じみたことを言ってしまいました。
今回は二人の命を救うことができました。
私に能力を与えてくれた神様たちに感謝しました。
既に実習は一部始まっていますがもう少ししたら、治癒師たちの研修が始まります。
昨日の症例についても一応の説明はしているのですけれど、魔法で身体の細胞に出血を強いるものを取り除いたこと、更には呪詛を受けた患者の解呪を行ったことを説明しても、それを実際にできる人は治癒師には居ないようです。
少なくとも魔法師レベルか治癒師レベルが相当に高くないと私と同じ診療行為はできないように思います。
いずれにせよ、近々、研修の講師役と実習で結構忙しくなりそうです。
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12月14日、一部の字句修正を行いました。
By サクラ近衛将監
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