魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

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第七章 変革のために

7ー20 私の小型飛空艇 その二

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 Bタイプは、大型のキャンピングカーに似ていますね。
 それも前世の日本の道路では絶対に走れない米国や欧州で使われているようなとても大きな代物です。

 長さ9尋(約14.4m)、幅3.4尋(約5.4m)、高さ2.2尋(約3.5m)の箱型に垂直尾翼(全高4.4尋)と後退三角翼(全幅7尋)が付いた代物で、原則として魔晶石ギルドから遠隔地への派遣の際に使うことを想定した輸送専用機です。

 Aタイプの救急輸送機ですと最大搭乗定員は12名、Bタイプだと最大搭乗定員は一応28名(実際のところ詰め込めば倍は入ります。)となっており、Bタイプでは二班程度まで輸送することを想定していますけれど、このほかに現地での長期滞在のための支援車両として仮眠のできるスペースを備えたBタイプ(改)も考えています。
 こちらには主として支援班が乗り組み、先行の二班と運行要員の仮設宿泊所にもなるように設計をしています。

 このAタイプとBタイプはいずれも診療所予定の建造物近傍の森を更地にして工房を造り、その中で製造しました。
 この工房はそのままハンガー(格納庫)代わりに使うつもりなので、Bタイプが5機ほど格納できる広さと高さがあります。

 このハンガーの前にエプロンというか離着陸場があります。
 前世にならって、Hを丸く囲ったヘリコプターの着陸場所を二つ描いています。

 離着陸場は、25尋四方を一区画とした二区画があり、Bタイプが二機同時に離発着しても十分な余裕がありますよ。
 ここが魔晶石ギルドの暫定的な飛行場になりますね。

 魔晶石ギルドには、救急輸送用の飛空艇二機と派遣輸送用の飛空艇二機を登録するつもりです。
 診療の方が隔日で一日三名の受け入れ体制を考えていますので、救急輸送機をもう一機追加した方が良いかもしれませんが、そこは様子見ですね。

 いずれにしろパイロットは予備を含めて最低4名程度は必要だと考えています。

◇◇◇◇

 ディホーク族の長と約束した四日目の朝、私は救急輸送機でディホーク族の棲み処に向かいました。
 前回は二日もかけて辿り着いた棲み処でしたが、この救急輸送機だと二時間(地球時間では約三時間)ほどで到着できました。

 この救急輸送機ならば一般の飛空艇に比べると五倍程度の速力が出ますし、飛空艇の航路に頼らずに、目的地に向かって一直線ですから、とっても早いのです。
 棲み処の岩棚に着陸しようとしましたが、生憎と私の飛空艇の垂直尾翼と後退翼が邪魔で岩棚のスペースが足りませんでした。

 止むを得ず、岩棚の20センチほど上空に浮いたまま、できるだけ機体を幅寄せして、私が岩棚に降りることにしました。
 私の作った小型飛空艇は、自動でホバリングができるんです。

 飛空艇を見て、最初は新手の魔物かと思われたのかもしれませんね。
 みんなが岩に隠れながら槍を構えていましたが、昇降ドアが開いて私が顔を見せると一気に緊張が解けて槍を下ろしてくれました。

 長が顔を見せてくれました。

「オッカさん、約束通り来ましたけれど、どんな結論になりましたか?」

 オッカさんというのは族長さんの名前ですよ。
 正式名はオッカ・クロニガンさんと言うのですけれど、決して私のお母おっかさんではありません。

「シルヴィだったのぉ。
 待っておったぞ。
 皆で話し合った結果、お前さんの申し出に従って、飛空艇の操縦士を出すことにした。
 但し、食料が貰えるならばと希望者が多くてのぉ。
 今のところ一族の半数が希望を出しておるんじゃが、そんなに雇えるか?」

「えっと、一族の半数というと大人の半分でしょうか?」

「いや、子供も含めての数じゃ。
 空を飛べるものは一族では半ば大人扱いをしておるでな。
 一番歳若の者で9歳もおる。」

「ウーン、流石に9歳は問題かなぁ。
 ヒト族の中では12歳から成人の儀で一人前に働けることになっていますので、それ以前は臨時雇いにしかなりません。
 一応雇えるのは12歳以上の人を対象にします。
 取り敢えずは最低4人が必要なんですが・・・。
 少し余裕を見て6人にしましょうか?」

 オッカさんは皺々の顔で、渋い顔をしました。

「そこを何とか12歳以上の者限定で12名を雇うことはできんかのう。
 皆が食べ物を望んでいるのじゃ。」

「それは困りましたねぇ。
 それじゃぁ、オッカさんが人を選び、十日に一度交替させるという方式ではどうでしょうか?
 働いて得られるお金若しくは食料は、オッカさんが、一族に平等に分けるということにしてはどうですか?」

 この限界集落では、皆が運命共同体の筈だから原始的な共産主義でも十分賄えるはず。
 尤も、今後食料を得ることでこの集落が大きくなったときは、別途対策を考えるしかないでしょうね。

 ウーン、将来的には、このディホーク族で航空輸送会社でも始めさせようかな?
 いずれにしても先の話で、今はとにかくパイロットの確保です。

 結局、最初は6名の派遣を行い、5日に一度オッカさんの方で選別した別の三人の交代要員を送り込むことになりました。
 これを続ければ12名でも15名でも受け入れられることになります。

 尤も、彼らが独自で動くと大変な距離を移動しなければなりません。
 途中で事故が起きたりしても困りますから、救急輸送が予定されていない日を選んで、専用の輸送機で魔晶石ギルドとディホーク族の棲み処を往復させることでオッカさんと話をつけました。

 最初のパイロット候補生6名を乗せて私の救急輸送機は、コロッタン(ディホーク族の棲み処)を出発しました。
 その候補生の中の一人は、私が命を助けた幼子の父親のルッパという雄でした。

 彼らディホーク族は、恩義に厚く、受けた恩は命に代えても返すのだそうで、とっても私を尊敬してくれているようでした。
 限界集落に棲む希少種族だからこそ素朴で人情味に厚い性格を持っているのかもしれません。

 彼らのために一応工房兼ハンガーの中二階部分に宿舎を造っていたのですが、4名のところが6名になったので少し広げる必要がありますね。
 中二階の上に更に余裕があるので三階部分を造って居住スペースを拡充することにします。

 そうして彼らの福利厚生のためにもコロッタンと魔晶石ギルドの飛行場を定期的に往復する貨客飛行艇を造るつもりです。
 ベースは救急輸送機のAタイプなんですが、急患輸送の代わりに彼らの仲間と食料等の雑貨を運べるように改造します。

 食料の入手については、ギルド本部内の売店の支店をハンガー内に設けてもらうことにしています。
 そうして、パイロットやその他の衣料関連職員を支援する職員も新たに雇用することにしています。

 病人を診療所に受け入れるためには治癒師ギルドの手助けも当然に必要で、それらの人員を含めると結構な規模の組織になりそうです。
 ディホーク族を含めて、診療所で働く人たちには適正な俸給を支払います。

 ディホーク族の出稼ぎ組は、その金で食料を入手して、五日に一度程度、専用の貨客飛行艇で交代要員と共に彼らの棲み処に運ぶのです。
 これにより、ディホーク族は一族全体で収入の伝手を得ることができることになりましたので、このことで、限界集落の将来が明るくなれば良いのですけれどね。

 ところで、私の作り上げた小型飛空艇は、AタイプもBタイプも操縦に左程面倒なことはありません。
 特にディホーク族の彼らは、天性の飛行生物ですから、空を飛ぶことには長けています。

 彼らはすぐに飛空艇の操縦にも慣れました。
 ぶ厚い雲海の中や夜間に、宙返りを含む様々な高機動飛行をさせても何ら問題は生じませんでした。

 空を飛ぶことに慣れていないと空間識失調に陥りやすく、特に視界を奪われた状態で高機動飛行を行った場合には平衡感覚を失って上下方向が判別できなくなるのです。
 でも流石に彼らにはその症状が起きませんでした。

 少なくとも彼らにはパイロットして天性の才能が有るのだと思います。
 救急輸送機や派遣輸送機で、搬送任務中に必要も無いのに宙返りなんぞしてもらっては困りますけれど、緊急の場合にも安心して操縦が任せられるというのは大変重要なことですよね。

 ほぼ毎日二時間ほどの時間を使ってパイロットの訓練にいそしみ、あちらこちらの飛行場にもお邪魔して飛行訓練を繰り返しました。
 但し、操縦士のディホーク族は、飛空艇は操縦できるようになりましたけれど、世界の地理はほとんど知らないんですよね。

 正直なところ、私も全ての国の配置や地理を知っているわけじゃありません。
 ですから私の造った通信機に位置通報システムを付加したものを相当数造って治癒師ギルドに託しました。

 これを各地に散らばっている治癒師ギルドに配分し、患者輸送が必要な個所から位置シグナルを発信してもらうことで、救急輸送機を誘導してもらうことにしました。
 なお、飛行場以外の場所では、概ね一辺20尋以上の四角形で平坦な敷地を確保してもらい、丸にHマークを地面に描いてもらうことにしています。

 丸にHマークは、白色で布や板でも構わず、直径が5尋程度のものを描くようにお願いしました。
 私の造った飛空艇は、前世のヘリの様に下降気流を作りませんから、布を小石で止めるだけでも支障はありません。

 各地の治癒師ギルドは、このために位置通報用の通信機と、丸にHマーク、それに輸送用の担架などを適宜準備しているようです。
 一応の救急輸送体制は整いました。

 救急輸送と言いながら、予め決められた患者の輸送ですから、それ以外の急患を受け入れるつもりはありません。
 この救急輸送には、最低限度治癒師ギルドから付き添いが同乗してもらわねば困りますし、受け入れ側の魔晶石ギルドの臨時診療所にも治癒師ギルドの応援が必要なのです。

 そうした諸準備のための打ち合わせに結構手間取りましたけれど、何とか整って、いよいよ、治癒師ギルドでは手に負えない重病人の搬送が開始されることになりました。
 初回だけは現地の治癒師ギルドの応援体制の確認のために私もついて行くことになっています。

 二回目以降は現地の治癒師ギルドと、魔晶石ギルド滞在の治癒師たちに任せます。
 最初の救急輸送は、フェルドラン国の大商人のお子さんで、8歳になる娘さんの予定です。

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 12月14日、一部の字句修正を行いました。

  By サクラ近衛将監

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