魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

文字の大きさ
上 下
106 / 121
第七章 変革のために

7―19 私の小型飛空艇 その一

しおりを挟む
 ハ~イ、シルヴィで~す。
 希少種族のディホーク族の棲み処を訪れて、いきなり槍を突き付けられた私でしたが、感染症にかかっていた母子を治癒したことで、何とか最小限度の信頼は勝ち得たのじゃないかと思います。
 
 正直言って、未知のウィルスでしたから自分でも不安でしたね。
 鎖状のRNAウィルスでエンベロープを保有しているウィルスなんて私の前世の知識でも知らないものです。

 何度も言うようにそもそも私は医者じゃなかったですからね。
 多少の医療知識や情報は持っていても詳細な知識は無いんです。

 私のチートな能力で、病人の体内を三次元でサーチし、なおかつ微小なウィルスまで見分けられる能力があるからこそ治療もできました。
 魔晶石ギルド本部での健康診断を兼ねたギルド職員の3Dセンサーによる経験が大いに役立ってくれました。

 少なくとも健康体とそうではない人の見分けがつきますし、この限界集落に来るまでに無駄かもしれないと思いつつも、魔物じゃない鳥類についても何種類かセンサーにかけて異常の有無を診ているのです。
 その為に比較的早くエンベロープを持つ鎖状のRNAウィルスを見分けることができました。

 延髄と脊髄を中心に私のセンサーでは真っ赤な警報色を呈していましたからね。
 神様が与えてくれたチートって本当にすごいと思いますよ。

 左程の知識が無くっても、ある程度の見分けがつくんですから。
 母子の診療が終わって念のために棲み処の全域にわたって浄化をかけておきました。

 これで感染症の原因となりそうなものは消滅できたはずです。
 族長?酋長?

 良くわかりませんが、母親の祖父に当たる長に治癒が済んだ旨を告げ、「滋養のあるものを食べさせてね。」というと、長が困った顔をしていました。
 あぁ、そういえばこの限界集落は食料不足に陥っているんでした。

 お助けついでに食料も手配しておきましょう。
 獲物を取ってきますと言いおいて私は棲み処から飛び降りました。

 この棲み処がある場所の高さは結構あるんですよ。
 推測ですが500mはくだらないでしょう。

 そこを紐無しでバンジージャンプですね。
 でも耐性が付いていて多少の高さでは怖くないんです。

 もちろん地上近くでは浮揚の術で降下速度を落としますけれど、それまではほとんど自由落下状態のフリーフォールです。
 中々爽快ですよ。

 え?
 普通の人じゃできないって?

 そうですね。
 ディホーク族は空を飛べますのでもしかしたら同じことができるかもしれませんが、現状で魔法師ギルドの連中でも飛行術を使える人は居ないようですから、ディホーク族を除いては私だけの特技(ユニークスキル)になりそうです。

 魔法師ギルドに保管されている門外不出の文書を内緒で覗き見たことがありますけれど、五百年近く昔に飛行術を使える魔法師がいたとの記述がありました。
 大勢の魔法師の目の前で公開実験を行った当該人物もかなりの高齢者であったようで、その20年後には亡くなっています。

 それ以来、自分の身体を使って空を飛べる魔法師はいないようです。
 それでも飛行魔術の魔法陣は残され、飛行艇の実現に貢献したようです。

 但し、現行の飛行艇に使われている魔法陣は実に効率が悪く、魔法陣だけではまともに空を飛べないんです。
 バランスが悪いというのか、平衡感覚が悪いというのか、当該魔法陣だけでやろうとすると空中でひっくり返ってしまう恐れが多分にあるんです。

 それで大きな気嚢をつけた飛行船タイプにして浮揚を助ける補助魔法陣として使っているんです。
 それにより、少なくとも大きな気嚢が浮心を上に揚げて安定させてくれているので魔法陣で飛空艇がひっくり返るようなことは無いんです。

 推進力は魔道具によるプロペラ推進ですね。
 私が造った小型飛空艇は飛行術の魔法陣を改良したもので、前後左右のバランスが自動的に保たれますし、運動能力もこれまでの飛空艇に比べれば大きいものです。

 新型の小型飛空艇についてはまた別途説明しますけれど、取り敢えず、周辺部を移動しつつ種々の獲物を確保し、野生の根菜類の植物もゲットして、ディホーク族の棲み処に戻りました。
 亜空間に放り込んでいた非常食料も一部放出し、山ほど食料を出してあげたら、長がびっくりしていましたね。

 仮に50人の大人でもこれだけの食料があれば一月ぐらいは大丈夫でしょう。
 その上で、四日後に飛空艇でまた来ると言いおいて、彼らに別れを告げました。

 ディホーク族の長は今夜集会を開いて私からの申し出を受けるかどうか決めると言っていました。
 私は、またまた地上に飛び降りて、そこから林の陰に入って公都ワイオブルグまで転移です。

 二日間の遠出でしたけれど、操縦士の確保のためには止むを得ません。
 竜騎士へのアプローチは、ディホーク族の去就が決まってから動くことにします。

 ところでこの世界の飛空艇はかなり大きな飛行船と考えていただければ良いかと思います。
 長さは150尋を超えますし、乗員乗客合わせて100名以上が搭乗できるキャビンを備えています。

 航行速力は、製造時期により若干異なりますが、一時間当たり100ガーシュ(約160K/h)を超えています。
 概ね航路が固定されていて、AからBの間を往復しているような状態ですが、稀にA―B―Cのような三地点を結んでいるような航路もあるようです。

 例えば私の郷里のバンデルだと、侯爵領都であるモノブルグとの間にだけ航路があります。
 モノブルグからは、ファンダレル王国の大都市に向かういくつかの航路があり、また外国への航路も有るんです。

 それでも飛空艇の数は総数で600余り、パイロットさんは副操縦士を含めても1200名をわずかに超えるぐらいしかいません。
 そもそも乗り組める飛空艇の数が少ないんですから操縦士の数も少ないんです。

 因みに国や国の連合体でも飛空艇に関する規制は何もありません。
 飛空艇とは希少な魔道具の集合体ですから、秘密保持のための制度は関与している各ギルドに任されており、国が規制できるような部分がほとんど無いんです。

 その為かどうかパイロットに関する規制も何もありません。
 そういえば、前世なら小型のセスナでも資格証明書が必要でしたけれど、ハングライダーやウルトラマイクロプレーンのように資格証明の不要なものもありましたね。

 いずれにしろ操縦に関する資格が不要なので、私はもちろんですが誰が操縦しても構わないことになります。
 うーん、この辺はちょっとルーズですけれど、魔法などでは、かなり威力の大きな攻撃魔法があっても、それについても特段の資格なんか不要なので、それに似ているかも知れません。

 無論、魔法の発動に際してはそれなりの責任が付いて回るのは前世と同じです。
 というわけで私が造った小型飛空艇については、特段の許可や登録が不要のものなんです。

 尤も、これでは所有権が曖昧になってしまいますので、飛空艇は魔晶石ギルドの財産として登録しようと思っています。
 そうすれば勝手にこの飛空艇を使用したり、盗ろうとしたりするようなことは防げます。

 当然のことながら、天下の魔晶石ギルドの財産を勝手に使ったりすれば、胴体から首が離れても文句は言えませんよね。
 世間一般では、魔晶石採掘師はそれぐらい恐ろしい存在なのです。

 私の造った小型飛空艇はAタイプが救急輸送機タイプで、長さ4尋(約6.4m)、幅2尋(約3.2m)、高さ1.7尋(約2.7m)の箱型バンに垂直尾翼(全高3.2尋)と後退翼(全幅6尋)が付いた不細工な航空機のシルエットを考えていただければよいかもしれません。
 設計段階では前世の格好の良いシルエットの航空機も視野に入れていたんですが、空間利用効率の面で円形状の胴体って使いにくいんですよね。

 空気力学から言えば可能な限り丸みを帯びさせて空気抵抗を少なくするのが賢いのかもしれませんが、ここは異世界、魔法がバンバン使えちゃいます。
 空気抵抗をゼロにすることも不可能じゃありません。

 そこで機体表面に魔法陣によるバリアーを張り、空気抵抗を限りなくゼロにしちゃいました。
 その結果、コンテナのような箱型でも空気抵抗を気にしなくても良くなったんです。

 但し、空気中を進むことから押しのけられた空気層が機体周辺を過ぎ去る時に音速を超えたりするとソニックブームが発生します。
 機体そのものは頑丈な造りですから大丈夫ですけれど、周辺に騒音をまき散らし、或いは地上の建造物などに被害(ガラスなどを破壊)を与えることもあり得ます。

 色々と試した結果、飛行速度は毎時570ガーシュ(時速912キロ)を超えないように制限しました。
 高度が1ガーシュ(約1600m)でも、毎時580ガーシュでは後退翼端でソニックブームが発生するんです。

 高度を5ガーシュ(約8千m)以上に上げれば、毎時600ガーシュまで速度を上げても地上への影響は少ないようですが、安全面から570ガーシュを制限速度にしています。
 一応気密構造にしていますので、高度は20ガーシュ(約3万2千m)でも大丈夫なようになっています。

 尤も、2万mの高度では気圧が地上の二十分の一になりますし、そもそも8千mの高空でさえ地上の三分の一の気圧になって呼吸困難となり、放置すれば死に至りますから機内を与圧するか宇宙服のような酸素呼吸器が必要になります。
 完全な気密にするといずれ酸素が不足しますので、これも問題なのですが、救急搬送の患者の容態を考えると機内の気圧変化は望ましくありません。

 従って、前世の航空機で使っている与圧方式(外気よりも気圧が高いけれど、地上の大気圧よりも低く設定)は捨てて、完全な機密構造の中で二酸化炭素の還元をすることにしました。
 これも魔法なんですが、二酸化炭素を分離して酸素と炭素に分解してしまう魔道具を新しく造りました。

 高々度を飛行中に、万が一、機体の居住区画が壊れて気密が破れたりすると搭乗員全員の命が危ないですから機体には大きな剛性を持たせて、例え翼竜等に襲われても破壊されないようにしています。

 ===============================

 11月30日、一部の字句修正を行いました。

  By サクラ近衛将監
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

処理中です...