魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

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第七章 変革のために

7ー16 診療所の開設?

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 ハイハーイ、シルヴィで~す。
 バンデルを離れて二年程が過ぎてからの帰省、両親や新婚の兄夫婦にも会えましたし、幼馴染とも話せましたが、瀕死の長馴染みを救った所為で、なんだか余計なお仕事ができちゃいそうなんです。
 
 ギルドに戻ると事務部が結構忙しそうにしていました。
 私担当のユリアさんとお話したら、奇跡の癒しという噂がかなり広がっていて、数多あまたの国から治癒師ギルド本部を通じて診療依頼が来ているそうなんです。

 一応治癒師ギルドでも相当にフィルターをかけて、依頼数を減らしているそうなんですが、既に二十件ほども来ているので、どう扱うかを幹部で検討中なのだそうです。
 相応に依頼料はふんだくれますので儲けにはなるんですが、これを全部受けたなら私は今後二か月か三か月はこの依頼消化だけで手いっぱいになりそうです。

 依頼先が同じ所ならば良いのですけれど、飛空艇で噂が広がったと見えて、出所がバラバラですからね。
 おまけに飛空艇の運航する飛行場から離れた場所に居る患者さんの依頼も有る様なので、事務部の試算では、1件当たり行き帰りだけでも最低二日、最長では5日かかるところもあるようです。

 案じていたように、これでは採掘師のお仕事ができなくなりますよね。
 ギルドの幹部会ではその件で侃侃諤諤かんかんがくがくの議論があり、どれを削るかで大揉めに揉めているんだとか。

 私も結局はギルド本部に戻って早々幹部会に呼ばれてしまいました。
 でも、呼ばれて意見を求められても困りますよね。

 これが一過性のものならば良いのですけれど、増えることはあっても減らないだろうと思われますから最悪なんです。
 だからギルド本部の裁量に任せたのに、それを私に聞かれても困るじゃないですか。

 そうして問題なのは、仮に派遣されて現場に赴いても、治癒できるかどうかがわからないということです。
 実際に診察して病気等の原因がわかれば対処の仕様もありますけれど、ツァイス症候群のように直ぐには原因が特定できない方が多いと思うのです。

 その場合は出張っても無駄足になりかねません。
 むしろ、他に助けられたかもしれない命を救えない可能性もあるんです。

 私は、その為に治癒師ギルドを間に噛ませて、優先順位をつけさせるようにしたつもりなんですが、生憎と治癒師ギルド本部は、自分たちの手に負えないモノは全て丸投げしてきているようです。
 まぁ、薬師ギルドとの連携で、自分たちで対応できそうなものについては一応削っているようなんですけれど、その割合は左程多くは無い様ですし、治癒師ギルド本部の事務担当の話では未だボーダーライン上にあって検討中のモノが、200件以上もあるんだとか・・・。

 仮に、それが全部ウチに来て請け負うことになれば、私は魔晶石採掘師を辞めて医者にならなければなりません。
 結局は、患者の選別方法と今後の取り扱い方針について私の意向を聞かれてしまいました。

 仕方が無いので一応の私の希望と今後の見込みを言うことにしました。

「まず、第一に診察のために出張るというのは、非常に効率が悪いので避けて欲しいですね。
 私が当該現場に居る場合は別として、最寄の公都でさえ一日がかりの仕事になります。
 行き来の時間を無為に過ごすことが勿体ないです。
 ですから原則として、ギルド桟橋口からの道路脇に設置した仮設診療所に病人を運んでもらうことが診察をするための前提条件になります。
 病人をそこまで運んで貰えば、診察が可能となり、治療の可否が見分けられます。
 但し、病を押して運んでいただいても、必ず治せるという保証はありません。
 それでも良ければ、仮設診療所で診ることにしたいと思います。
 診察は、週八日の内、赤曜日、金曜日、橙曜日の三日で午後だけを診療日として、それ以外は受け付けません。
 そうすれば何とか現状の採掘を維持できるかと思われるからです。
 但し、これ以外に魔物の討伐や瘴気発生などの派遣のお仕事が出てきた場合には、この診療日さえも無くなる可能性があります。
 それと、今後の方針としては、診療日の時間に合わせて来られない病人のために病人専用の隔離できる施設が必要になるかと思います。
 中には伝染性の流行り病の可能性もあるからです。
 そうした病の場合は、恐らく飛空艇で運搬すること自体が非常に難しくなるでしょう。
 ですから、患者の搬送には、現在運航中の飛空艇を使うことが躊躇われますので、診療所への急患輸送のための飛空艇の確保が望まれますし、同時に本部ギルド周辺に当該飛空艇が離着陸できる飛行場が必要となるかと思います。
 同飛行場には急患輸送の飛空艇以外にも、外部派遣に際して用いられる輸送用飛空艇の配備をすれば、今後起き得る派遣業務に有効に活用できるのではないかと思います。
 私自身としては、飛行場を利用せずに直接に現場周辺に離着陸できる特殊な飛空艇の建造が望ましいと思われます。」

 幹部の一人が言いました。

「ちょっと待ってくれよ。
 診療所というのは、仮設で造っている桟橋口からの道路脇に設けられてある施設のことだろうが、あれは、治癒師の研修に使うのでは無かったのか?」

「はい、その通りですが、来年の春までは使いませんし、治癒師の研修が始まっても診察の過程を見ることが良い実習にはなるかと思います。
 正直なところ、私の負担がかなり多くなるのが予想されますけれどそれは止むを得ません。
 研修についても今のところは、原則として週八日の内、赤曜日、金曜日、橙曜日の三日だけに限定するつもりでいます。」

 また、別の幹部が言いました。

「飛空艇の話だが、飛空艇一隻を造るには概ね三年を要すると聞いたことがある。
 しかも魔法師ギルド、錬金術ギルドなど複数のギルドが寄り集まって作るもので、今後十年程の注文が既に決まっているらしいぞ。
 そこに潜り込むのは難しいだろう。」

「ええと、やってみないと分からない部分もありますが、現在使われている飛空艇とは異なる飛空艇を、私が造ることができるんじゃないかと思います。
 今の飛空艇は強風が吹くと運航できない等不便だし、効率が悪そうなので、狭いところへ離発着でき、なおかつ、移動速度も現状の飛空艇よりも速いものが造れるのじゃないかと考えています。
 あ、お断りしておきますが、この新型飛空艇は外部から依頼があっても作りません。
 造るのは、急患輸送用の飛空艇と、ギルド職員を遠くへ運ぶ際に使う飛空艇の二種類だけです。」

 副会長が言いました。

「そんなものが造れるのかね?」

「先ほども申したようにやってみないと分からない部分もありますが、特段の急ぎの仕事が無ければ、二月ほどで造れるか否かの目途は立つと思います。
 仮に飛空艇が建造可能となれば、飛空艇の離発着場所の確保等についても併せてご相談させてください。
 患者の隔離病棟については、現状の施設と道路を挟んで反対側の敷地に施設を作りたいと思いますが、これも方向付けが定まってから協議の上でご承認を頂ければと思っています。」

 事務部長が言いました。

「後、仮に治癒師ギルドからの依頼を請ける場合の診療費だがいくら取ればいいのだ?
 少なくともモノブルグでの一件ではかなり高額な費用を請求することになったが、あの額では余程の金持ち以外は診療を受けられないことになるんだが・・・。」

「私自身の週の平均収入の二十分の一から三十分の一程度に事務経費を上乗せする程度で構わないと思います。
 それでも十分に高額になるはずなので、それがある程度の振り分け基準になるかもしれません。
 治癒師ギルドの方である程度優先順位を振り分けをしてくれれば良かったのですけれど、現状では、治癒師ギルドで手に負えないものを丸投げのようですから、治癒師ギルドを頼るわけにも参りません。
 本来であれば、全ての病人を診られれば良いのですがそれは現実には不可能です。
 治癒師の研修でより高い能力を持った治癒師が育ってくれなければ、間違いなく今後も無理でしょう。」

 会長が言いました。

「確かに我々魔晶石ギルドの仕事は、魔晶石の採掘と加工及びその利用であって、病人を癒すことでは無い。
 従って、本来は治癒師ギルド本部の依頼であっても断るべきなんだが・・・。
 正式に請けるとなれば、君には随分と忙しい思いをさせることになるが、それでもかまわないかね?」

「はい、無数の依頼が私個人に来るのを避けるために、治癒師ギルドと魔晶石ギルドを間に挟むようにしました。
 私一人だけで『請ける』、『請けない』の判断をしたのでは、絶対に私が恨まれます。
 二つのギルドが良かれと判断したもので、無理が無ければ請けなければならないと覚悟はしています。」

 最終的には、その日の幹部会で私の希望に沿った形で診療を実施するとの大枠が決まりました。
 私の自由時間が拘束されることになりますがこれもやむを得ないと諦めています。

 ウーン、概ね八割がた治癒師研修の準備は済んでいたのですが、診療所を設けることで実習部分がかなり増えることになるかもしれません。
 その意味ではより深い知識の習得を要求することになるかもしれませんが、これもやむを得ないですよね。

 それと、飛空艇についても建造の可否について見込みをつけなければいけません。
 私の飛行魔術と飛空艇に利用されている魔法陣を組み合わせることでより性能の高い物ができると思っていますし、飛空艇に使われているプロペラと軸流ポンプのプロペラの効率はかなり悪そうなのです。

 私も空気力学に詳しいわけじゃないですけれど、プロペラで送り出される空気の渦にかなりの乱流が認められました。
 原因としては、プロペラ表面の加工が上手くできていないこと、魔導機関の出力が弱い上にムラがあること、固定ピッチプロペラが木製手作りのために巡航速度の空気の流れに合っていないことが挙げられるように思えました。

 だって回転しているプロペラ先端が細かく振動しているんです。
 これじゃ空気の流れに乱れが生じて推進効率が悪くなりますよね。

 まぁ、これは私だからわかることで、技術者たちは多分知らないんだと思います。
 本当は風洞実験を繰り返して色々な形状を比較し、最適解を得るのが一番なのでしょうけれど、それを魔法の世界で期待するのは間違いなんでしょうね。

 もし将来的に可変ピッチプロペラが開発できれば色々と効率も良くなりそうな気がします。
 今後の研究次第ですね。

 ウーン、ヒラトップで過ごす時間が増えそうです。
 なんだか自分でブラックな職場にしていますよね。
 
 性分とは言え、何となく未来が危ういのではないでしょうか。


 ◆◇◆◇◆◇ ( 注 ) ◇◆◇◆◇◆

 一週間は八日であり、原則として順に、「白曜日」、「赤曜日」、「 緑曜日」、「金曜日」、「茶曜日」、「橙曜日」、「青曜日」、「銀曜日(休養)」とされています。
            
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