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第七章 変革のために
7ー13 帰省 その三
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ハイハーイ、シルヴィですよ。
帰省先のバンデルでも私は元気いっぱいです。
マルバレータを治療したその日の夕刻に、兄夫婦が我が家を訪ねて来ました。
うん、まだ新婚さん気分が抜けきらないみたいですよ。
それに、お嫁さんのヴァネッサさんはおめでたです。
お腹が結構膨れていて、現在は6か月目ぐらいでしょう。
私の見たところ母子ともに健康です。
兄が目ざとく浴室とトイレを見つけました。
使い方を教えたら、早速二人もトイレを使い、お風呂にも入って行きました。
お土産を渡し、お互いの近況を伝え合い、久しぶりに大勢で食事をしてから兄夫婦は帰って行きました。
ところで危篤状態と言っても良いぐらいのマルバレータを助けたことは、すぐにも街に広まりました。
バンデルは、モンゼル公爵領第二の都市ではあるんですけれど、人口は3万に足りないぐらいの街ですからね。
前世の都市と比べると雲泥の差があります。
前世ではちょっと大きな「町」程度であって、「市」には小さいかもね。
だから住んでいる人たちも人情味溢れる人たちばかりですから、井戸端会議ならぬ人の口から噂が広まるのは速いんです。
マルバレータを治療(?)した翌日の午後には、治癒師ギルドの人が我が家にやってきました。
私は、ちょうどマルバレータの家に様子を見に行っていて、行き違いになったんですけれど、治癒師ギルドの人はマルバレータの家を訪ねてから私の事を聞き、我が家(私の実家)を訪ねて来たみたいです。
でも、両親ではマルバレータの病気も治療方法も良く知りませんから、両親に聞くだけ無駄なんですよね。
結局は、翌日の午前中に出直して来ると言って帰ったようです。
別にアポイントではない訳なので、無視しても構わないんですけれど、追いかけまわされるも嫌ですから、翌日午前中には我が家に居ることにしました。
でも翌日の午前中に、治癒師ギルドよりも先に我が家を訪ねて来たのはお役人でした。
モンゼル公爵領のバンデルを預かっている代官所の副官でキンゼイという方が訪ねて来たのです。
モンゼル侯爵は、領都のモノブルグにいらっしゃいますけれど、領内の大きな町には代官を置いて領内の治安を含めて種々の政や事務を任せているわけです。
代官所の人間が何故に我が家に来たかというと、やはりマルバレータの一件が絡んでいました。
モノブルグにいるモンゼル侯爵の嫡男が重い病気にかかっているらしく、既に治癒師ギルドからは見放されている状態なのだそうです。
侯爵としては何とか嫡男の命を救いたいと考えて、国内外を含めてあらゆる手を尽くして子息を救える方法を探しているのだとか。
バンデル代官所も、仕事の合間に情報収集をしていたのだそうです。
そこへ病の症状は異なるけれど、同じく治癒師ギルドに見放されて故郷に戻って来たマルバレータを、奇跡の魔法で助けた者が居ると聞き及んで我が家を訪ねて来たそうです。
速い話が、モンゼル侯爵の子息の病気治療を引き受けてもらえないかということなのです。
正直なところ困った依頼ですよね。
もしかすると私が助けることができるかもしれないけれど、逆にできないかもしれないのですから、簡単には引き受けられません。
頼む方は、万策尽きたので、うまく治してもらえれば「めっけもの」ぐらいの意識かも知れませんが、依頼される方はそうも行きません。
第一、所掌というか役どころが違いますよね。
私は、魔晶石採掘師及び加工師であって、治癒師じゃないんです。
父は魔石の加工もできる宝飾師をしていますけれど、石工じゃありませんので、マルバレータのお父さんの様に石材を加工して燈篭なんかを造るということはできないし、頼まれてもしません。
餅は餅屋という言葉があるように、本来は請け負える人がいるはずなんです。
できるから何でもやるというのでは、これまでの成人の儀で付与される神の加護の意味が無くなり、秩序が乱れます。
ある意味では門外漢が勝手に漁場(りょうば)や所場(しょば)を荒らし回っているようなものです。
ですから、どうしても門外漢である私が請け負うならば、それなりの理由が必要でしょう。
マルバレータは私の幼馴染であり、親しい友人です。
だからその命を助けるために私ができる範囲の尽力をしましたが、侯爵の子息は私の幼馴染ではありませんし、友人でもありません。
侯爵の子息を助けることと、他の難病を抱えている患者さんを助けるのとどこに違いがあるかです。
もし違いが無いのであれば、私は侯爵の子息を助けることで、病気で困っている人全てを助けなければいけない立場に追い込まれます。
誰しも病気を治してくれるならと縋りつくでしょうからね。
礼金の多寡の問題ではありませんよ。
人助けは立派なことですから、できるならば心掛けたいとは思いますけれど、私は強制されてまで人助けをするつもりはありません。
病気の治療は、本来、治癒師ギルドか薬師ギルドが対応すべきなんです。
治癒師ギルドができないと判断し、当の治癒師ギルドができるかもしれない私を頼って魔晶石ギルドを通じて依頼をしてくるのならば、私が動く理由の一つにはなるかもしれません。
でも、その為だからと言って私が神から与えられた天職を放棄して良いという理由にはなりませんよね。
まして、私のせっかくの休暇なのに、人助けのためだけに治癒魔法(?)を使い続けるなんて絶対に嫌です。
請け負ったら最後、困った人が押しかけて来るのが目に見えます。
人の迷惑も顧みずに押しかけてきて、治療を半ば強制するんです。
「あの人を助けて何故に私を助けてくれないんだ。」と言って、無理を言うんです。
私は治癒師ではないのだから、そもそも治癒をしてあげる必要は無いですよね。
さてさてどうしましょうかねぇ。
結局、私は先ほどの手順を踏むようにキンゼイさんに言いました。
幼馴染で友人のマルバレータを助けたのは恣意的な個人の都合です。
私の見知らぬ人の場合は、侯爵の子息であろうと王家の一員であろうと、特別待遇にはしません。
侯爵の子息の病気を私が診るようにを望むならば、治癒師ギルド本部から魔晶石ギルド本部に対して正式な依頼を出すように言いました。
それを聞いたキンゼイさんが言いました。
「あなたは、領主の頼みを聞けないのか?」
そのような威圧的な言動をしてきましたので、逆に私がちょっとだけ威圧を掛けたらすぐに引っ込みました。
相手が魔境の魔物を相手にする魔晶石ギルドの採掘師だと思い出したようで、冷や汗を流していました。
魔晶石ギルドの採掘師については曰く因縁の話が色々とありますが、この侯爵領のあるファンダレル王国でも百年近く前に、王都の結界を形成する際に、採掘師が設置に来たことがあり、その際に無断で魔晶石に触れようとした王国の高官の腕を短気な採掘師が切り落としています。
直ぐに血気に逸った兵士が採掘師を取り押さえようとしましたが、逆に全員が返り討ちに遭ったのです。
死傷者の数は、最初に腕を切られた高官を含めて100名を超えていたそうです。
ついには採掘師の討伐を諦めた王国側ですが、そんな修羅場の中で、当該採掘師は依頼された魔晶石の設置と調整を行って、悠々と飛行場から去っていったそうです。
当然のことながら王国から魔晶石ギルドに対して厳重な抗議がありましたけれど、魔晶石ギルドからは、そっけない返事が返ってきました。
『今回の事件について言えば、魔晶石に触れようとした者がまず悪く、次いで魔晶石の設置・調整を邪魔しようとした兵士が悪いのであって、ギルドが派遣した職員には何の落ち度もない。
彼は仕事に支障となる問題を排除しただけである。
どうしても貴国がその件で問題にするというならば、今回受けた依頼を白紙に戻し、その上で貴国の言う賠償に応ずるが如何か?
当然その場合は、設置済みの魔晶石も回収するし、今後貴国からの依頼は受け付けない。』
そのように脅しをかけられ、王国は泣き寝入りをした経緯があるのです。
それ以来、王国の官吏には、「魔晶石採掘師には決して逆らうな」という言い伝えがあるのです。
私の威圧ですぐにそのことを思い出した代官所の副官は、青くなって出直してきますと言って立ち去ったのです。
さてさて、どうなるのでしょうね。
でも一応の条件を突き付けた以上は、治癒師ギルドと魔晶石ギルドを通じて正式依頼が来れば受けざるを得ないでしょうね。
休暇中の私としては面倒い話です。
副官を追い出した直ぐ後で、治癒師ギルドの人間がやってきました。
治癒師ギルドの人は、バンデル支部の副支部長をしているロヴィーザさんという女性でした。
彼女の話は、マルバレータの病気は何だったのかということと、どのようにして治癒をしたのかということを聞きに来たみたいです。
教えるのはできないわけじゃないですけれど、一朝一夕に理解出来るものじゃないですよね。
それでも間単に説明はしてあげました。
人間の身体の中には血液が回っていること。
その血液の中には身体を守る働きをする様々な小さなものが入っているけれど、その一部が時に悪さをするものに変わることがあること。
血液ではなくって、壊疽のように身体の皮膚や肉が病に掛かって徐々に広がる症状は知っているだろうけれど、血液の中でもそのようなことが起き、身体を守る働きをするものが追いやられてしまうと病気になること。
マルバレータの場合は、血液の大半にその悪いものが拡散し、例えば小さな切り傷を負った場合に自然に血が固まって血が流れ出ることを防ぎ、同時に傷を癒す働きをするものや、人が生きて行くために必要なものを血液の中で運んでいるものが影響を受けたために、身体のいたるところで出血が止まらなかったり、身体の臓器が働かなくなったりして、死に至る病気であることを説明しました。
治療方法は、その血液中に拡散した身体に悪いものを殲滅し、身体のあちらこちらにある小さな傷を癒し、同時に内蔵を癒したことを説明しました。
でも、ロヴィーザさん、恐らくは私の言ったことの半分も理解していないだろうと思いますよ。
身体に血液があって、体表を傷つけられると赤い血が流れ、その量が少なければ大丈夫だけれど、出血が多い場合には死に至ることも経験上承知しているでしょうね。
しかしながら、それは出血と共に身体の生気が流れ出てしまうのだと思い込んでいる者に、血液が酸素や栄養を運び、病原菌を殺す役目を持っていることなどは簡単に理解できるはずもないのです。
従って、治癒師の場合は、傷を癒すことを集中して行うことで負傷者を助けることができるのですが、病気については余り癒せない場合が多いのです。
病人にヒールを与えて、体内の活性化と自己免疫の強化で、そうとは知らずにたまたま病気が治せる場合もあるけれど、逆にガンなどの場合には悪化させることすらあるのです。
私から簡単な説明を聞いた上で彼女は言いました。
「あなたのその能力は、治癒師の能力とは違うような気もしますが、私達治癒師もできることなのでしょうか?」
帰省先のバンデルでも私は元気いっぱいです。
マルバレータを治療したその日の夕刻に、兄夫婦が我が家を訪ねて来ました。
うん、まだ新婚さん気分が抜けきらないみたいですよ。
それに、お嫁さんのヴァネッサさんはおめでたです。
お腹が結構膨れていて、現在は6か月目ぐらいでしょう。
私の見たところ母子ともに健康です。
兄が目ざとく浴室とトイレを見つけました。
使い方を教えたら、早速二人もトイレを使い、お風呂にも入って行きました。
お土産を渡し、お互いの近況を伝え合い、久しぶりに大勢で食事をしてから兄夫婦は帰って行きました。
ところで危篤状態と言っても良いぐらいのマルバレータを助けたことは、すぐにも街に広まりました。
バンデルは、モンゼル公爵領第二の都市ではあるんですけれど、人口は3万に足りないぐらいの街ですからね。
前世の都市と比べると雲泥の差があります。
前世ではちょっと大きな「町」程度であって、「市」には小さいかもね。
だから住んでいる人たちも人情味溢れる人たちばかりですから、井戸端会議ならぬ人の口から噂が広まるのは速いんです。
マルバレータを治療(?)した翌日の午後には、治癒師ギルドの人が我が家にやってきました。
私は、ちょうどマルバレータの家に様子を見に行っていて、行き違いになったんですけれど、治癒師ギルドの人はマルバレータの家を訪ねてから私の事を聞き、我が家(私の実家)を訪ねて来たみたいです。
でも、両親ではマルバレータの病気も治療方法も良く知りませんから、両親に聞くだけ無駄なんですよね。
結局は、翌日の午前中に出直して来ると言って帰ったようです。
別にアポイントではない訳なので、無視しても構わないんですけれど、追いかけまわされるも嫌ですから、翌日午前中には我が家に居ることにしました。
でも翌日の午前中に、治癒師ギルドよりも先に我が家を訪ねて来たのはお役人でした。
モンゼル公爵領のバンデルを預かっている代官所の副官でキンゼイという方が訪ねて来たのです。
モンゼル侯爵は、領都のモノブルグにいらっしゃいますけれど、領内の大きな町には代官を置いて領内の治安を含めて種々の政や事務を任せているわけです。
代官所の人間が何故に我が家に来たかというと、やはりマルバレータの一件が絡んでいました。
モノブルグにいるモンゼル侯爵の嫡男が重い病気にかかっているらしく、既に治癒師ギルドからは見放されている状態なのだそうです。
侯爵としては何とか嫡男の命を救いたいと考えて、国内外を含めてあらゆる手を尽くして子息を救える方法を探しているのだとか。
バンデル代官所も、仕事の合間に情報収集をしていたのだそうです。
そこへ病の症状は異なるけれど、同じく治癒師ギルドに見放されて故郷に戻って来たマルバレータを、奇跡の魔法で助けた者が居ると聞き及んで我が家を訪ねて来たそうです。
速い話が、モンゼル侯爵の子息の病気治療を引き受けてもらえないかということなのです。
正直なところ困った依頼ですよね。
もしかすると私が助けることができるかもしれないけれど、逆にできないかもしれないのですから、簡単には引き受けられません。
頼む方は、万策尽きたので、うまく治してもらえれば「めっけもの」ぐらいの意識かも知れませんが、依頼される方はそうも行きません。
第一、所掌というか役どころが違いますよね。
私は、魔晶石採掘師及び加工師であって、治癒師じゃないんです。
父は魔石の加工もできる宝飾師をしていますけれど、石工じゃありませんので、マルバレータのお父さんの様に石材を加工して燈篭なんかを造るということはできないし、頼まれてもしません。
餅は餅屋という言葉があるように、本来は請け負える人がいるはずなんです。
できるから何でもやるというのでは、これまでの成人の儀で付与される神の加護の意味が無くなり、秩序が乱れます。
ある意味では門外漢が勝手に漁場(りょうば)や所場(しょば)を荒らし回っているようなものです。
ですから、どうしても門外漢である私が請け負うならば、それなりの理由が必要でしょう。
マルバレータは私の幼馴染であり、親しい友人です。
だからその命を助けるために私ができる範囲の尽力をしましたが、侯爵の子息は私の幼馴染ではありませんし、友人でもありません。
侯爵の子息を助けることと、他の難病を抱えている患者さんを助けるのとどこに違いがあるかです。
もし違いが無いのであれば、私は侯爵の子息を助けることで、病気で困っている人全てを助けなければいけない立場に追い込まれます。
誰しも病気を治してくれるならと縋りつくでしょうからね。
礼金の多寡の問題ではありませんよ。
人助けは立派なことですから、できるならば心掛けたいとは思いますけれど、私は強制されてまで人助けをするつもりはありません。
病気の治療は、本来、治癒師ギルドか薬師ギルドが対応すべきなんです。
治癒師ギルドができないと判断し、当の治癒師ギルドができるかもしれない私を頼って魔晶石ギルドを通じて依頼をしてくるのならば、私が動く理由の一つにはなるかもしれません。
でも、その為だからと言って私が神から与えられた天職を放棄して良いという理由にはなりませんよね。
まして、私のせっかくの休暇なのに、人助けのためだけに治癒魔法(?)を使い続けるなんて絶対に嫌です。
請け負ったら最後、困った人が押しかけて来るのが目に見えます。
人の迷惑も顧みずに押しかけてきて、治療を半ば強制するんです。
「あの人を助けて何故に私を助けてくれないんだ。」と言って、無理を言うんです。
私は治癒師ではないのだから、そもそも治癒をしてあげる必要は無いですよね。
さてさてどうしましょうかねぇ。
結局、私は先ほどの手順を踏むようにキンゼイさんに言いました。
幼馴染で友人のマルバレータを助けたのは恣意的な個人の都合です。
私の見知らぬ人の場合は、侯爵の子息であろうと王家の一員であろうと、特別待遇にはしません。
侯爵の子息の病気を私が診るようにを望むならば、治癒師ギルド本部から魔晶石ギルド本部に対して正式な依頼を出すように言いました。
それを聞いたキンゼイさんが言いました。
「あなたは、領主の頼みを聞けないのか?」
そのような威圧的な言動をしてきましたので、逆に私がちょっとだけ威圧を掛けたらすぐに引っ込みました。
相手が魔境の魔物を相手にする魔晶石ギルドの採掘師だと思い出したようで、冷や汗を流していました。
魔晶石ギルドの採掘師については曰く因縁の話が色々とありますが、この侯爵領のあるファンダレル王国でも百年近く前に、王都の結界を形成する際に、採掘師が設置に来たことがあり、その際に無断で魔晶石に触れようとした王国の高官の腕を短気な採掘師が切り落としています。
直ぐに血気に逸った兵士が採掘師を取り押さえようとしましたが、逆に全員が返り討ちに遭ったのです。
死傷者の数は、最初に腕を切られた高官を含めて100名を超えていたそうです。
ついには採掘師の討伐を諦めた王国側ですが、そんな修羅場の中で、当該採掘師は依頼された魔晶石の設置と調整を行って、悠々と飛行場から去っていったそうです。
当然のことながら王国から魔晶石ギルドに対して厳重な抗議がありましたけれど、魔晶石ギルドからは、そっけない返事が返ってきました。
『今回の事件について言えば、魔晶石に触れようとした者がまず悪く、次いで魔晶石の設置・調整を邪魔しようとした兵士が悪いのであって、ギルドが派遣した職員には何の落ち度もない。
彼は仕事に支障となる問題を排除しただけである。
どうしても貴国がその件で問題にするというならば、今回受けた依頼を白紙に戻し、その上で貴国の言う賠償に応ずるが如何か?
当然その場合は、設置済みの魔晶石も回収するし、今後貴国からの依頼は受け付けない。』
そのように脅しをかけられ、王国は泣き寝入りをした経緯があるのです。
それ以来、王国の官吏には、「魔晶石採掘師には決して逆らうな」という言い伝えがあるのです。
私の威圧ですぐにそのことを思い出した代官所の副官は、青くなって出直してきますと言って立ち去ったのです。
さてさて、どうなるのでしょうね。
でも一応の条件を突き付けた以上は、治癒師ギルドと魔晶石ギルドを通じて正式依頼が来れば受けざるを得ないでしょうね。
休暇中の私としては面倒い話です。
副官を追い出した直ぐ後で、治癒師ギルドの人間がやってきました。
治癒師ギルドの人は、バンデル支部の副支部長をしているロヴィーザさんという女性でした。
彼女の話は、マルバレータの病気は何だったのかということと、どのようにして治癒をしたのかということを聞きに来たみたいです。
教えるのはできないわけじゃないですけれど、一朝一夕に理解出来るものじゃないですよね。
それでも間単に説明はしてあげました。
人間の身体の中には血液が回っていること。
その血液の中には身体を守る働きをする様々な小さなものが入っているけれど、その一部が時に悪さをするものに変わることがあること。
血液ではなくって、壊疽のように身体の皮膚や肉が病に掛かって徐々に広がる症状は知っているだろうけれど、血液の中でもそのようなことが起き、身体を守る働きをするものが追いやられてしまうと病気になること。
マルバレータの場合は、血液の大半にその悪いものが拡散し、例えば小さな切り傷を負った場合に自然に血が固まって血が流れ出ることを防ぎ、同時に傷を癒す働きをするものや、人が生きて行くために必要なものを血液の中で運んでいるものが影響を受けたために、身体のいたるところで出血が止まらなかったり、身体の臓器が働かなくなったりして、死に至る病気であることを説明しました。
治療方法は、その血液中に拡散した身体に悪いものを殲滅し、身体のあちらこちらにある小さな傷を癒し、同時に内蔵を癒したことを説明しました。
でも、ロヴィーザさん、恐らくは私の言ったことの半分も理解していないだろうと思いますよ。
身体に血液があって、体表を傷つけられると赤い血が流れ、その量が少なければ大丈夫だけれど、出血が多い場合には死に至ることも経験上承知しているでしょうね。
しかしながら、それは出血と共に身体の生気が流れ出てしまうのだと思い込んでいる者に、血液が酸素や栄養を運び、病原菌を殺す役目を持っていることなどは簡単に理解できるはずもないのです。
従って、治癒師の場合は、傷を癒すことを集中して行うことで負傷者を助けることができるのですが、病気については余り癒せない場合が多いのです。
病人にヒールを与えて、体内の活性化と自己免疫の強化で、そうとは知らずにたまたま病気が治せる場合もあるけれど、逆にガンなどの場合には悪化させることすらあるのです。
私から簡単な説明を聞いた上で彼女は言いました。
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