98 / 121
第七章 変革のために
7ー11 帰省 その一
しおりを挟む
皆さま、お元気でいらっしゃいますか?
シルヴィは、今日も元気いっぱいです。
精神年齢はとうに四十路なんですが、身体は至って健康ではち切れそうな十代のものです。
前世と違って出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるというナイスバディなんですが、お見せできないのが残念ですね。
今回はお休みを頂いて、帰省なのです。
申請しましたら、魔晶石ギルドの事務部が大騒ぎになりました。
休暇の規定はちゃんとあるんですけれど、銀曜日以外の休暇を貰うのが非常に珍しいのです。
採掘師の仕事で魔境へ出ずに、寮で休養していても、それは単なる静養待機であって休暇じゃないんです。
勿論、仕事の成果が無いわけですから報酬はありませんし、食費などはかかりますから収支としてはマイナスになりますけれど、そのようにするかしないかは採掘師の裁量に任せられているんです。
でも実態から言えば、三級採掘師の場合は、銀曜日以外余りこの静養待機は取らないようです。
実際問題として借金が増えるだけですから余裕が無いと取れないんですね。
二級になっても油断していたら負債を抱えますから、余り休まずに働いているのが実情です。
採掘師はそれなりに魔力を持っていますので滅多なことでは病気になりませんけれど、ある意味でブラック企業に近いですね。
幹部連中だけが余り働かずに楽をしているようにも見えます。
それはともかくとして、前にも申し上げたかもしれませんが、故郷はそれぞれにあっても、当初は余裕が無くって中々帰省ができない環境ですので徐々に疎遠になり、帰りにくい立場になっているようですよ。
特に普通の人ならば嫁なり旦那なりを捕まえる年頃になっても独り身ですからね。
まして高収入で知られる魔晶石ギルド会員ですから本当は引く手数多なんです。
但し、結婚しても子供はできません。
これまで二百年以上もの歴史の中で、魔晶石ギルドの女性会員が子供を産んだという記録はありません。
一応、妊娠の兆候があったケースもあるようですが、無事に出産した事例は皆無なのです。
一方で、男性会員でお嫁さんが普通の一般人の方も稀にいらっしゃいますけれど、少なくとも魔晶石ギルド本部の宿舎に住んでいらっしゃる夫婦に子供ができたという話はやはり無いのです。
過去のデータでほんの二、三件ですが、公都にいる女性とすることをしちゃって子供ができた事例はあるようです。
但し、その女性の一人は魔晶石ギルド本部の宿舎に入ることを拒んで別居生活だったようですし、残りの方は、そもそも結婚をしなかったようでです。
つまりは、ホープランド以外ならば相手の女性次第で妊娠も可能ということになり、ホープランドでは子供が生まれないという常識が定着してしまったようですね。
従って、ユリアさんの場合は特別です。
現在では、順調に四か月目に入っています。
私の予想では、魔晶石ギルド本部の宿舎で生まれる始めての赤ちゃんになると思いますよ。
旦那様は、彼女の二期上の二級加工師の方ですが、収入も安定していますし、生活の方は大丈夫でしょう。
何より私の担当事務職員になったことでユリアさんはこれまでかなりの臨時収入を得ていますから、入会以来の借金も完済し、貯蓄もしっかりとできている筈なのです。
あっと、今日は妊娠の話じゃなくって、帰省の話でした。
銀曜日にはカル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤに行って普段通りの診療を行いました。
集落の皆さんに健康上の問題は無いようです。
その日は寮に戻らず、ワイオブルグ公都の宿に泊まりました。
そうして翌日の白曜日には朝一番の魔導飛空船で故郷のファンダレル王国のモノブルグへと向かいます。
一応、実家の方へは今日帰省することを事前に伝えてあります。
六の時に出発して、モノブルグへは10の時過ぎに到着、モノブルグで乗り換えて、バンデル到着は13の時をわずかに過ぎたあたりでしたが既に暗くなっています。
辻馬車に乗って、懐かしの我が家に辿り着いたのは14の時に近い時間でした。
バンデルの我が家を発ってから、もう二年余りの時が過ぎていますけれど、我が家は変わってはいませんでした。
父と母が優しく迎えてくれました。
兄は、商人見習いが外れて、バンデル市内でも大手のフルヤックス商会に務めており、この初夏にはお嫁さんを貰っています。
兄は三つ違いの16歳(地球で言えば20歳を超えています)ですから、収入が相応にあればお嫁さんも迎えられるのです。
お嫁さんは幼馴染のヴァネッサさんで、私も知っている近所のハルデマン衣料品店のお嬢さんです。
兄とは同い年だったはずです。
私の仕事の都合で婚礼の儀には来られませんでしたが、お祝いだけは送らせてもらいました。
今回もお土産を用意してあります。
二人の住まいは隣のブロックで少し離れてはいるけれどご近所さんですね。
明日の夕刻には二人そろって顔を見せるそうですよ。
私の近況を話し、父母の近況を聞き、私の作った魔道具と生活用品、それに公都ワイオブルグで購入した品をお土産として渡しました。
魔道具はトイレと浴槽それに関連する品物ですが、家を改装しないと取り付けられません。
父母から了承を貰い、明日にはチャチャっと家の改装をする予定です。
場所は裏手にある庭の一画で、別の建物を作って母屋とつなぎます。
ついでに台所も関連して水道を引き込む予定なんです。
今使っている共同井戸からくみ上げた水を貯める甕はそのままで、地下12尋にある地下水を魔道具で汲み上げて冷水と温水の出る魔導蛇口を台所の流しにつけるだけ、それだけでも母の家事は随分と助かるはずですよ。
魔導コンロは公都で売っていたものを購入してきました。
ちゃんと我が家の台所にあった寸法のものを購入しましたので、使用頻度にもよりますが年に一度程度、低級の魔石を取り換えてやれば魔導コンロは使えます。
ワイオブルグ公都で購入した物は、ファンダレル王国では中々入手できない珍味や果物の類、それに保存食品と今流行りの甘味製品です。
割と日持ちのするものを選んだので、ご近所さんにもお裾分けできるほどの量を買ってきましたよ。
勿論兄夫婦にも別に渡します。
実は昨年と今年の晩夏に家には仕送りをしました。
余り金額が大きいと扱いに困るだろうと思い、大金貨5枚(ヴィル通貨で500万ヴィル:ファンダレル通貨では大金貨5枚=500万ルーネ)だけにしたのですけれど、母に聞くと全く使っていないというのです。
そもそもあんな大金使い切れないというのですよ。
確かに、父の年収の4~5倍に当たる金額ですので一般には大金です。
この世界では譲渡税という仕組みがありません。
従って、相続の際に生前譲渡をされると、相続税がかからないという統治者側のデメリットも存在するんです。
でも今のところ、父母に大金を送っても別段の問題は生じないのです。
その代わりに一定限度(大金貨2枚)以上の貯蓄には高い税率がかけられているので、父母に仕送りしたお金は早めに使った方が有利なのです。
ファンダレル王国の場合、1年間に5%も税金で取られますからね。
父と母にそう言うと、使い慣れない金を持っていると碌なことにならないから、以後は仕送りしてくるなと言い、それよりも嫁入りのために金を貯めとけと言うのです。
仕送りしたお金の百倍ほども有るよと言いましたら流石にびっくりしていましたね。
実際にはもっとあるのですけれど、両親を驚かせても仕方がないから控えめに言ったんですけれどね。
これは、友達に言う時には相当に低い額を提示しておかなきゃならないね。
その日からは、私の懐かしの部屋に泊まることになりました。
私の部屋は出たときのままでしたが、隣の兄の部屋は、兄の持ち物が全て片付けられ、客室にかわっていました。
一応クリーンをかけて、衛生的にしてからその日はお休みにしたのです。
ここから遠くへ転移できるかどうかの実験もするつもりなのですけれど明日以降でも構わないでしょう。
その為に乗り換えをしたモノブルグ飛行場の一画に転送用の場所を決めておきました。
距離的には多分160キロから240キロの範囲だと思うのですけれど正確なところはわかりません。
そこからワイオブルグ飛行場の一画までは同じく500キロから700キロぐらいでしょうか。
これまで飛んだことのある遠隔地はワイオブルグからファルデンホーム王国王都であるベグレムまでの距離でおよそ400ガーシュ程度の距離なのです。
ですから600キロぐらいなら転移で行けそうなのですけれど、こればかりはやってみないとわかりません。
ましてや、このバンデルからワイオブルグ公都までだと多分千ガーシュを超えそうな気がしますから、できるかどうかは試してみるしかないのです。
一応は、バンデルからモノブルグ、モノブルグからワイオブルグと順番を踏んで、それらの転移が可能なことがわかれば、一度には無理でも何度かに分ければ転移できることが確認できます。
何か危急の折には転移でバンデルまで戻る手段もあった方が良いですからねぇ。
◇◇◇◇
翌日の朝食後、私は裏庭に浴室とトイレを造り上げました。
浴室は精々二畳間程度の大きさ、トイレは一畳程度の大きさで温水洗浄便座付きのトイレです。
お湯は温泉があれば一番良かったのですけれど、地中探査をしても残念ながら我が家の敷地に温泉源はありませんでした。
従って地下水を魔道具で組み上げ、蛇口の部分で温水と冷水にレバーで仕分けられる魔道具をつけました。
温水は、やけどをしないようにリミッターをつけて最大41度まで上げられるようにしています。
排水は、我が家の前にある下水につなげていますが、ここも一工夫です。
この下水は大雨が降ると良く溢れることがあるんです。
バンデルは余り雨の多いところではありませんが、9年前と4年前には大雨で下水が溢れ、店の土間まで汚水が浸水しました。
暫くは汚水の臭いが消えなかったことを覚えています。
そこでちょっと一工夫です。
下水の排水溝をクリーンで掃除すると同時に、溝の抵抗を極々小さくしてやりました。
これにより排水溝に汚れが付かなくなり、最寄りの河川まで下水は停留しなくなって、勢いよく流れるようになりました。
これでも溢れるような大雨は仕方がないですよね。
流石に根本的な設備までは変えられません。
午前中に作業を終えて、昼前に一番仲が良かったシェラの家を訪ねました。
シェラの家は裁縫師ですから、「諸々裁縫引き受けます」という立看板を掲げた店がおうちなんです。
シェラはその店の奥まったところで一生懸命に仕事をしていました。
訪ねた私に気づいたのはシェラではなくって、叔母さんのアレサさんでした。
「おや、珍しいねぇ。
御里帰りかい?」
「はい、御休みが貰えたので里帰りで昨夜戻ったところです。」
その声でようやくシェラが顔を上げ、ぱっと笑顔に変わりましたが、瞬時に表情が変わりました。
「シルヴィ・・・。
もしかして暇を出されたの?」
「心配かけたかな?
でも大丈夫だよ。
魔晶石ギルド会員のままだけれど、今回休暇が取れたので田舎(バンデル)に帰ってこれたんだ。
シェラの様子を見ようと思ってね。
シェラも元気そうだね。」
その言葉でシェラの表情がやっと緩みました。
商売人や徒弟の場合、「暇を出す」という形で奉公先を追われる場合があるんです。
シルヴィは、今日も元気いっぱいです。
精神年齢はとうに四十路なんですが、身体は至って健康ではち切れそうな十代のものです。
前世と違って出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるというナイスバディなんですが、お見せできないのが残念ですね。
今回はお休みを頂いて、帰省なのです。
申請しましたら、魔晶石ギルドの事務部が大騒ぎになりました。
休暇の規定はちゃんとあるんですけれど、銀曜日以外の休暇を貰うのが非常に珍しいのです。
採掘師の仕事で魔境へ出ずに、寮で休養していても、それは単なる静養待機であって休暇じゃないんです。
勿論、仕事の成果が無いわけですから報酬はありませんし、食費などはかかりますから収支としてはマイナスになりますけれど、そのようにするかしないかは採掘師の裁量に任せられているんです。
でも実態から言えば、三級採掘師の場合は、銀曜日以外余りこの静養待機は取らないようです。
実際問題として借金が増えるだけですから余裕が無いと取れないんですね。
二級になっても油断していたら負債を抱えますから、余り休まずに働いているのが実情です。
採掘師はそれなりに魔力を持っていますので滅多なことでは病気になりませんけれど、ある意味でブラック企業に近いですね。
幹部連中だけが余り働かずに楽をしているようにも見えます。
それはともかくとして、前にも申し上げたかもしれませんが、故郷はそれぞれにあっても、当初は余裕が無くって中々帰省ができない環境ですので徐々に疎遠になり、帰りにくい立場になっているようですよ。
特に普通の人ならば嫁なり旦那なりを捕まえる年頃になっても独り身ですからね。
まして高収入で知られる魔晶石ギルド会員ですから本当は引く手数多なんです。
但し、結婚しても子供はできません。
これまで二百年以上もの歴史の中で、魔晶石ギルドの女性会員が子供を産んだという記録はありません。
一応、妊娠の兆候があったケースもあるようですが、無事に出産した事例は皆無なのです。
一方で、男性会員でお嫁さんが普通の一般人の方も稀にいらっしゃいますけれど、少なくとも魔晶石ギルド本部の宿舎に住んでいらっしゃる夫婦に子供ができたという話はやはり無いのです。
過去のデータでほんの二、三件ですが、公都にいる女性とすることをしちゃって子供ができた事例はあるようです。
但し、その女性の一人は魔晶石ギルド本部の宿舎に入ることを拒んで別居生活だったようですし、残りの方は、そもそも結婚をしなかったようでです。
つまりは、ホープランド以外ならば相手の女性次第で妊娠も可能ということになり、ホープランドでは子供が生まれないという常識が定着してしまったようですね。
従って、ユリアさんの場合は特別です。
現在では、順調に四か月目に入っています。
私の予想では、魔晶石ギルド本部の宿舎で生まれる始めての赤ちゃんになると思いますよ。
旦那様は、彼女の二期上の二級加工師の方ですが、収入も安定していますし、生活の方は大丈夫でしょう。
何より私の担当事務職員になったことでユリアさんはこれまでかなりの臨時収入を得ていますから、入会以来の借金も完済し、貯蓄もしっかりとできている筈なのです。
あっと、今日は妊娠の話じゃなくって、帰省の話でした。
銀曜日にはカル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤに行って普段通りの診療を行いました。
集落の皆さんに健康上の問題は無いようです。
その日は寮に戻らず、ワイオブルグ公都の宿に泊まりました。
そうして翌日の白曜日には朝一番の魔導飛空船で故郷のファンダレル王国のモノブルグへと向かいます。
一応、実家の方へは今日帰省することを事前に伝えてあります。
六の時に出発して、モノブルグへは10の時過ぎに到着、モノブルグで乗り換えて、バンデル到着は13の時をわずかに過ぎたあたりでしたが既に暗くなっています。
辻馬車に乗って、懐かしの我が家に辿り着いたのは14の時に近い時間でした。
バンデルの我が家を発ってから、もう二年余りの時が過ぎていますけれど、我が家は変わってはいませんでした。
父と母が優しく迎えてくれました。
兄は、商人見習いが外れて、バンデル市内でも大手のフルヤックス商会に務めており、この初夏にはお嫁さんを貰っています。
兄は三つ違いの16歳(地球で言えば20歳を超えています)ですから、収入が相応にあればお嫁さんも迎えられるのです。
お嫁さんは幼馴染のヴァネッサさんで、私も知っている近所のハルデマン衣料品店のお嬢さんです。
兄とは同い年だったはずです。
私の仕事の都合で婚礼の儀には来られませんでしたが、お祝いだけは送らせてもらいました。
今回もお土産を用意してあります。
二人の住まいは隣のブロックで少し離れてはいるけれどご近所さんですね。
明日の夕刻には二人そろって顔を見せるそうですよ。
私の近況を話し、父母の近況を聞き、私の作った魔道具と生活用品、それに公都ワイオブルグで購入した品をお土産として渡しました。
魔道具はトイレと浴槽それに関連する品物ですが、家を改装しないと取り付けられません。
父母から了承を貰い、明日にはチャチャっと家の改装をする予定です。
場所は裏手にある庭の一画で、別の建物を作って母屋とつなぎます。
ついでに台所も関連して水道を引き込む予定なんです。
今使っている共同井戸からくみ上げた水を貯める甕はそのままで、地下12尋にある地下水を魔道具で汲み上げて冷水と温水の出る魔導蛇口を台所の流しにつけるだけ、それだけでも母の家事は随分と助かるはずですよ。
魔導コンロは公都で売っていたものを購入してきました。
ちゃんと我が家の台所にあった寸法のものを購入しましたので、使用頻度にもよりますが年に一度程度、低級の魔石を取り換えてやれば魔導コンロは使えます。
ワイオブルグ公都で購入した物は、ファンダレル王国では中々入手できない珍味や果物の類、それに保存食品と今流行りの甘味製品です。
割と日持ちのするものを選んだので、ご近所さんにもお裾分けできるほどの量を買ってきましたよ。
勿論兄夫婦にも別に渡します。
実は昨年と今年の晩夏に家には仕送りをしました。
余り金額が大きいと扱いに困るだろうと思い、大金貨5枚(ヴィル通貨で500万ヴィル:ファンダレル通貨では大金貨5枚=500万ルーネ)だけにしたのですけれど、母に聞くと全く使っていないというのです。
そもそもあんな大金使い切れないというのですよ。
確かに、父の年収の4~5倍に当たる金額ですので一般には大金です。
この世界では譲渡税という仕組みがありません。
従って、相続の際に生前譲渡をされると、相続税がかからないという統治者側のデメリットも存在するんです。
でも今のところ、父母に大金を送っても別段の問題は生じないのです。
その代わりに一定限度(大金貨2枚)以上の貯蓄には高い税率がかけられているので、父母に仕送りしたお金は早めに使った方が有利なのです。
ファンダレル王国の場合、1年間に5%も税金で取られますからね。
父と母にそう言うと、使い慣れない金を持っていると碌なことにならないから、以後は仕送りしてくるなと言い、それよりも嫁入りのために金を貯めとけと言うのです。
仕送りしたお金の百倍ほども有るよと言いましたら流石にびっくりしていましたね。
実際にはもっとあるのですけれど、両親を驚かせても仕方がないから控えめに言ったんですけれどね。
これは、友達に言う時には相当に低い額を提示しておかなきゃならないね。
その日からは、私の懐かしの部屋に泊まることになりました。
私の部屋は出たときのままでしたが、隣の兄の部屋は、兄の持ち物が全て片付けられ、客室にかわっていました。
一応クリーンをかけて、衛生的にしてからその日はお休みにしたのです。
ここから遠くへ転移できるかどうかの実験もするつもりなのですけれど明日以降でも構わないでしょう。
その為に乗り換えをしたモノブルグ飛行場の一画に転送用の場所を決めておきました。
距離的には多分160キロから240キロの範囲だと思うのですけれど正確なところはわかりません。
そこからワイオブルグ飛行場の一画までは同じく500キロから700キロぐらいでしょうか。
これまで飛んだことのある遠隔地はワイオブルグからファルデンホーム王国王都であるベグレムまでの距離でおよそ400ガーシュ程度の距離なのです。
ですから600キロぐらいなら転移で行けそうなのですけれど、こればかりはやってみないとわかりません。
ましてや、このバンデルからワイオブルグ公都までだと多分千ガーシュを超えそうな気がしますから、できるかどうかは試してみるしかないのです。
一応は、バンデルからモノブルグ、モノブルグからワイオブルグと順番を踏んで、それらの転移が可能なことがわかれば、一度には無理でも何度かに分ければ転移できることが確認できます。
何か危急の折には転移でバンデルまで戻る手段もあった方が良いですからねぇ。
◇◇◇◇
翌日の朝食後、私は裏庭に浴室とトイレを造り上げました。
浴室は精々二畳間程度の大きさ、トイレは一畳程度の大きさで温水洗浄便座付きのトイレです。
お湯は温泉があれば一番良かったのですけれど、地中探査をしても残念ながら我が家の敷地に温泉源はありませんでした。
従って地下水を魔道具で組み上げ、蛇口の部分で温水と冷水にレバーで仕分けられる魔道具をつけました。
温水は、やけどをしないようにリミッターをつけて最大41度まで上げられるようにしています。
排水は、我が家の前にある下水につなげていますが、ここも一工夫です。
この下水は大雨が降ると良く溢れることがあるんです。
バンデルは余り雨の多いところではありませんが、9年前と4年前には大雨で下水が溢れ、店の土間まで汚水が浸水しました。
暫くは汚水の臭いが消えなかったことを覚えています。
そこでちょっと一工夫です。
下水の排水溝をクリーンで掃除すると同時に、溝の抵抗を極々小さくしてやりました。
これにより排水溝に汚れが付かなくなり、最寄りの河川まで下水は停留しなくなって、勢いよく流れるようになりました。
これでも溢れるような大雨は仕方がないですよね。
流石に根本的な設備までは変えられません。
午前中に作業を終えて、昼前に一番仲が良かったシェラの家を訪ねました。
シェラの家は裁縫師ですから、「諸々裁縫引き受けます」という立看板を掲げた店がおうちなんです。
シェラはその店の奥まったところで一生懸命に仕事をしていました。
訪ねた私に気づいたのはシェラではなくって、叔母さんのアレサさんでした。
「おや、珍しいねぇ。
御里帰りかい?」
「はい、御休みが貰えたので里帰りで昨夜戻ったところです。」
その声でようやくシェラが顔を上げ、ぱっと笑顔に変わりましたが、瞬時に表情が変わりました。
「シルヴィ・・・。
もしかして暇を出されたの?」
「心配かけたかな?
でも大丈夫だよ。
魔晶石ギルド会員のままだけれど、今回休暇が取れたので田舎(バンデル)に帰ってこれたんだ。
シェラの様子を見ようと思ってね。
シェラも元気そうだね。」
その言葉でシェラの表情がやっと緩みました。
商売人や徒弟の場合、「暇を出す」という形で奉公先を追われる場合があるんです。
4
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる