魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

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第七章 変革のために

7ー11 帰省 その一

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 皆さま、お元気でいらっしゃいますか?
 シルヴィは、今日も元気いっぱいです。

 精神年齢はとうに四十路なんですが、身体は至って健康ではち切れそうな十代のものです。
 前世と違って出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるというナイスバディなんですが、お見せできないのが残念ですね。

 今回はお休みを頂いて、帰省なのです。
 申請しましたら、魔晶石ギルドの事務部が大騒ぎになりました。

 休暇の規定はちゃんとあるんですけれど、銀曜日以外の休暇を貰うのが非常に珍しいのです。
 採掘師の仕事で魔境へ出ずに、寮で休養していても、それは単なる静養待機であって休暇じゃないんです。

 勿論、仕事の成果が無いわけですから報酬はありませんし、食費などはかかりますから収支としてはマイナスになりますけれど、そのようにするかしないかは採掘師の裁量に任せられているんです。
 でも実態から言えば、三級採掘師の場合は、銀曜日以外余りこの静養待機は取らないようです。

 実際問題として借金が増えるだけですから余裕が無いと取れないんですね。
 二級になっても油断していたら負債を抱えますから、余り休まずに働いているのが実情です。

 採掘師はそれなりに魔力を持っていますので滅多なことでは病気になりませんけれど、ある意味でブラック企業に近いですね。
 幹部連中だけが余り働かずに楽をしているようにも見えます。

 それはともかくとして、前にも申し上げたかもしれませんが、故郷はそれぞれにあっても、当初は余裕が無くって中々帰省ができない環境ですので徐々に疎遠になり、帰りにくい立場になっているようですよ。
 特に普通の人ならば嫁なり旦那なりを捕まえる年頃になっても独り身ですからね。

 まして高収入で知られる魔晶石ギルド会員ですから本当は引く手数多なんです。
 但し、結婚しても子供はできません。

 これまで二百年以上もの歴史の中で、魔晶石ギルドの女性会員が子供を産んだという記録はありません。
 一応、妊娠の兆候があったケースもあるようですが、無事に出産した事例は皆無なのです。

 一方で、男性会員でお嫁さんが普通の一般人の方も稀にいらっしゃいますけれど、少なくとも魔晶石ギルド本部の宿舎に住んでいらっしゃる夫婦に子供ができたという話はやはり無いのです。
 過去のデータでほんの二、三件ですが、公都にいる女性とすることをしちゃって子供ができた事例はあるようです。

 但し、その女性の一人は魔晶石ギルド本部の宿舎に入ることを拒んで別居生活だったようですし、残りの方は、そもそも結婚をしなかったようでです。
 つまりは、ホープランド以外ならば相手の女性次第で妊娠も可能ということになり、ホープランドでは子供が生まれないという常識が定着してしまったようですね。

 従って、ユリアさんの場合は特別です。
 現在では、順調に四か月目に入っています。

 私の予想では、魔晶石ギルド本部の宿舎で生まれる始めての赤ちゃんになると思いますよ。
 旦那様は、彼女の二期上の二級加工師の方ですが、収入も安定していますし、生活の方は大丈夫でしょう。

 何より私の担当事務職員になったことでユリアさんはこれまでかなりの臨時収入を得ていますから、入会以来の借金も完済し、貯蓄もしっかりとできている筈なのです。
 あっと、今日は妊娠の話じゃなくって、帰省の話でした。

 銀曜日にはカル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤに行って普段通りの診療を行いました。
 集落の皆さんに健康上の問題は無いようです。

 その日は寮に戻らず、ワイオブルグ公都の宿に泊まりました。
 そうして翌日の白曜日には朝一番の魔導飛空船で故郷のファンダレル王国のモノブルグへと向かいます。

 一応、実家の方へは今日帰省することを事前に伝えてあります。
 六の時に出発して、モノブルグへは10の時過ぎに到着、モノブルグで乗り換えて、バンデル到着は13の時をわずかに過ぎたあたりでしたが既に暗くなっています。

 辻馬車に乗って、懐かしの我が家に辿り着いたのは14の時に近い時間でした。
 バンデルの我が家を発ってから、もう二年余りの時が過ぎていますけれど、我が家は変わってはいませんでした。

 父と母が優しく迎えてくれました。
 兄は、商人見習いが外れて、バンデル市内でも大手のフルヤックス商会に務めており、この初夏にはお嫁さんを貰っています。

 兄は三つ違いの16歳(地球で言えば20歳を超えています)ですから、収入が相応にあればお嫁さんも迎えられるのです。
 お嫁さんは幼馴染のヴァネッサさんで、私も知っている近所のハルデマン衣料品店のお嬢さんです。

 兄とは同い年だったはずです。
 私の仕事の都合で婚礼の儀には来られませんでしたが、お祝いだけは送らせてもらいました。

 今回もお土産を用意してあります。
 二人の住まいは隣のブロックで少し離れてはいるけれどご近所さんですね。

 明日の夕刻には二人そろって顔を見せるそうですよ。
 私の近況を話し、父母の近況を聞き、私の作った魔道具と生活用品、それに公都ワイオブルグで購入した品をお土産として渡しました。

 魔道具はトイレと浴槽それに関連する品物ですが、家を改装しないと取り付けられません。
 父母から了承を貰い、明日にはチャチャっと家の改装をする予定です。

 場所は裏手にある庭の一画で、別の建物を作って母屋とつなぎます。
 ついでに台所も関連して水道を引き込む予定なんです。

 今使っている共同井戸からくみ上げた水を貯めるかめはそのままで、地下12尋にある地下水を魔道具で汲み上げて冷水と温水の出る魔導蛇口を台所の流しにつけるだけ、それだけでも母の家事は随分と助かるはずですよ。
 魔導コンロは公都で売っていたものを購入してきました。

 ちゃんと我が家の台所にあった寸法のものを購入しましたので、使用頻度にもよりますが年に一度程度、低級の魔石を取り換えてやれば魔導コンロは使えます。
 ワイオブルグ公都で購入した物は、ファンダレル王国では中々入手できない珍味や果物の類、それに保存食品と今流行りの甘味製品です。

 割と日持ちのするものを選んだので、ご近所さんにもお裾分けできるほどの量を買ってきましたよ。
 勿論兄夫婦にも別に渡します。

 実は昨年と今年の晩夏に家には仕送りをしました。
 余り金額が大きいと扱いに困るだろうと思い、大金貨5枚(ヴィル通貨で500万ヴィル:ファンダレル通貨では大金貨5枚=500万ルーネ)だけにしたのですけれど、母に聞くと全く使っていないというのです。

 そもそもあんな大金使い切れないというのですよ。
 確かに、父の年収の4~5倍に当たる金額ですので一般には大金です。

 この世界では譲渡税という仕組みがありません。
 従って、相続の際に生前譲渡をされると、相続税がかからないという統治者側のデメリットも存在するんです。

 でも今のところ、父母に大金を送っても別段の問題は生じないのです。
 その代わりに一定限度(大金貨2枚)以上の貯蓄には高い税率がかけられているので、父母に仕送りしたお金は早めに使った方が有利なのです。

 ファンダレル王国の場合、1年間に5%も税金で取られますからね。
 父と母にそう言うと、使い慣れない金を持っていると碌なことにならないから、以後は仕送りしてくるなと言い、それよりも嫁入りのために金を貯めとけと言うのです。

 仕送りしたお金の百倍ほども有るよと言いましたら流石にびっくりしていましたね。
 実際にはもっとあるのですけれど、両親を驚かせても仕方がないから控えめに言ったんですけれどね。

 これは、友達に言う時には相当に低い額を提示しておかなきゃならないね。
 その日からは、私の懐かしの部屋に泊まることになりました。

 私の部屋は出たときのままでしたが、隣の兄の部屋は、兄の持ち物が全て片付けられ、客室にかわっていました。
 一応クリーンをかけて、衛生的にしてからその日はお休みにしたのです。

 ここから遠くへ転移できるかどうかの実験もするつもりなのですけれど明日以降でも構わないでしょう。
 その為に乗り換えをしたモノブルグ飛行場の一画に転送用の場所を決めておきました。

 距離的には多分160キロから240キロの範囲だと思うのですけれど正確なところはわかりません。
 そこからワイオブルグ飛行場の一画までは同じく500キロから700キロぐらいでしょうか。

 これまで飛んだことのある遠隔地はワイオブルグからファルデンホーム王国王都であるベグレムまでの距離でおよそ400ガーシュ程度の距離なのです。
 ですから600キロぐらいなら転移で行けそうなのですけれど、こればかりはやってみないとわかりません。

 ましてや、このバンデルからワイオブルグ公都までだと多分千ガーシュを超えそうな気がしますから、できるかどうかは試してみるしかないのです。
 一応は、バンデルからモノブルグ、モノブルグからワイオブルグと順番を踏んで、それらの転移が可能なことがわかれば、一度には無理でも何度かに分ければ転移できることが確認できます。

 何か危急の折には転移でバンデルまで戻る手段もあった方が良いですからねぇ。

 ◇◇◇◇

 翌日の朝食後、私は裏庭に浴室とトイレを造り上げました。
 浴室は精々二畳間程度の大きさ、トイレは一畳程度の大きさで温水洗浄便座付きのトイレです。

 お湯は温泉があれば一番良かったのですけれど、地中探査をしても残念ながら我が家の敷地に温泉源はありませんでした。
 従って地下水を魔道具で組み上げ、蛇口の部分で温水と冷水にレバーで仕分けられる魔道具をつけました。

 温水は、やけどをしないようにリミッターをつけて最大41度まで上げられるようにしています。
 排水は、我が家の前にある下水につなげていますが、ここも一工夫です。

 この下水は大雨が降ると良く溢れることがあるんです。
 バンデルは余り雨の多いところではありませんが、9年前と4年前には大雨で下水が溢れ、店の土間まで汚水が浸水しました。

 暫くは汚水の臭いが消えなかったことを覚えています。
 そこでちょっと一工夫です。

 下水の排水溝をクリーンで掃除すると同時に、溝の抵抗を極々小さくしてやりました。
 これにより排水溝に汚れが付かなくなり、最寄りの河川まで下水は停留しなくなって、勢いよく流れるようになりました。

 これでも溢れるような大雨は仕方がないですよね。
 流石に根本的な設備までは変えられません。

 午前中に作業を終えて、昼前に一番仲が良かったシェラの家を訪ねました。
 シェラの家は裁縫師ですから、「諸々裁縫引き受けます」という立看板を掲げた店がおうちなんです。

 シェラはその店の奥まったところで一生懸命に仕事をしていました。
 訪ねた私に気づいたのはシェラではなくって、叔母さんのアレサさんでした。

「おや、珍しいねぇ。
 御里帰りかい?」

「はい、御休みが貰えたので里帰りで昨夜戻ったところです。」

その声でようやくシェラが顔を上げ、ぱっと笑顔に変わりましたが、瞬時に表情が変わりました。

「シルヴィ・・・。
 もしかして暇を出されたの?」

「心配かけたかな?
 でも大丈夫だよ。
 魔晶石ギルド会員のままだけれど、今回休暇が取れたので田舎(バンデル)に帰ってこれたんだ。
 シェラの様子を見ようと思ってね。
 シェラも元気そうだね。」
 
 その言葉でシェラの表情がやっと緩みました。
 商売人や徒弟の場合、「暇を出す」という形で奉公先を追われる場合があるんです。

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