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第七章 変革のために
7ー9 慶事と魔法師ギルド公都支部長
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ハイハーイ、シルヴィどぇ~す。
お元気でしたでしょうか?
相変わらずシルヴィは元気です。
侵入者騒ぎがあって三か月、私の周囲で慶事が二つ続きました。
一つは、カル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤで久しく無かった新生児が無事に生まれたことです。
しかも続けて何人もの子供が生まれて、カル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤは現在ベビーブーム真っ盛りなのです。
ですから、ここのところ、私は、週一でカル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤを訪れて、出産の立ち合いやら母子の健康診断をやってます。
多い時には、一日に二人も生まれて産婆さんが大変忙しい思いをしているみたいです。
産婆さんやお産のお手伝いをする女性、それに妊婦を対象に私が行った衛生教育のお陰で、出産時の衛生状態はしっかりと維持されており、これまでのところ問題はありません。
但し、一人だけ逆子のためにどうしても生まれてこない子が居ましたので、夜間に急遽私が予め準備していた移動式手術室(分娩室?)ごとカル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤに跳び、子宮の中から出られない胎児をクルンと回転させて何とか無事に生まれさせました。
場合によっては帝王切開も考えていたのですけれど、そこまでは必要が無かったので安心しました。
私、知識としては知っていても、帝王切開なんてやったことがありませんもの。
まぁ、治癒魔法もあるし、生き字引のようなサルスも居るので何とかなるとは思っていますけれど、・・・。
この世界、魔法を使えるのに、逆子の体位を変える方法は昔ながらの魔法を使わない伝承的な手法しかないんです。
私は魔法で逆子の位置を変えてやりました。
赤ちゃんにあまり無理な力はかけられませんけれど、赤ちゃんは柔らかいですからね。
子宮を少し拡げると動く余裕ができて、正常な位置に変わり無事に生まれてくれたんです。
勿論母子ともに健康でしたよ。
手術室ならぬ分娩室はそのままカル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤの診療所の脇に設置しておきました。
産婆さんには使い方を教え、必要がある場合に使用する許可も与えてあります。
分娩用ベッドもありますので、結構便利なんですよ。
尤も、薬品は備えてありませんし、手術用の刃物はカギのかかる棚に入れて使えないようにしています。
産婦人科医にでもなる人が出てきたらそれらの使用許可を与えますけれど、今のところ外科医じゃなくってヒーラーしかいないですから、無理かもしれません。
もう一つの慶事は、事務部のユリアさんが妊娠したことです。
魔晶石ギルドにも結婚している人は居るんですが、私がここに来て以来、誰も妊婦は見ていないんです。
ユリアさん妊娠三か月になって悪阻が始まり、私もそれでようやく気付いたのです。
ユリアさんにそのことを告げると、ユリアさん真っ青な顔をしていました。
過去の事例から、せっかくできた命を失ってしまうと悲観したようですが、私が赤ちゃんは順調に育っていますよと言うと、何度も確認をしながらようやく安心してくれました。
ユリアさんが妊娠した理由は、多分私が取り除いたアメーバー状生物ネグレリアが絡んでいるような気がします。
水に含まれているUTMと関りがあるものと推測はしていましたが、それ以外に寄生することにより、ヒトのオドを取り込むことで妊娠を妨げているのかも知れません。
何せ、私が魔晶石ギルドに来てから妊娠した女性会員を見るのはユリアさんが初めてのことなので、良くわからないのです。
但し、これまでの記録を読んだ限りでは、歴代の女性会員の場合、非常に妊娠しづらく、妊娠しても出産に至るまで正常に育たないということなのです。
中には胎児が体内で死んでしまって腐敗を始め、母体もそれに巻き込まれて死亡したケースもあったようです。
いずれにしろ初めてのケースですから十分に注意しなければなりませんね。
ユリアさんには週一で私のところに通うよう言ってあります。
UTMについては既に浄水器を設置してあるので、今後はUTMを体内に取り込むことは無いはずですが、念のため監視と検診は継続しています。
それとネグレリアについては、希望者にのみ除去手術をしていますから、未だにそのままの人もいます。
因みにユリアさんによればネグレリアを除去して以降は、大食漢の傾向が収まって来たそうで、ちょっと油断すると太るようになってきたそうです。
体型を維持するために色々と運動を始めたと言っていましたね。
ちゃんとユリアさんの子供が生まれたら、他の人にもネグレリアの除去を奨励しなければなりませんね。
◇◇◇◇
魔晶石の採掘を含めて公私に亘り忙しい日々を送っていた私ですが、二年目の初秋月を迎え、新会員が入ってくる時期になりました。
私の同期生は現場に出て一年、シッカリ現役として活躍を始めています。
後輩の者も無事研修を終えて現場に出て来ました。
私の同期生以降は、落ちこぼれが居ませんので、事務部の補充ができないことから、新たに準会員としての職員を雇用する方針が決まり、この秋から始まります。
予定では中秋月から第二休憩所の事務部職員の駐在も始まるようです。
状況によっては更に休憩所を増やすことも検討しなければなりませんね。
因みに、第一と第二休憩所の建設及びそこに至るトンネルの建造については、ある意味で私のサービスでやったことなのですが、幹部会も流石にその貢献度を認めざるを得なくなっています。
何しろ、年間の死亡・行方不明率が確実に減っているんです。
ですから魔晶石ギルドとしてこの貢献度に対する報奨を認め、魔晶石ギルドの純益の1%の額を私に支払うことになったようです。
うーん、お金はねぇ。
有って困るというわけじゃないのですけれど、私の専用口座には、一般の職人であれば一万人分程度の生涯報酬額が溜まっているんです。
一応、私の実家にも送金したりしてますけれど、贅沢に慣れて依存されても困るのでそんなに大金は送っていません。
ウチの両親はとてもまじめですから、今までと変わりなく過ごしているのは陰からこそっと確認しています。
今度休みをもらって、故郷に一度は正式に帰ってみましょうかね。
因みに休暇制度は明文化されてはいませんけれど、魔晶石ギルドへの借金返済が終了している者であれば、自費で帰省するのは自由なんだそうです。
尤も、住む世界が違ってしまったので、自立できるようになってから帰省する人は少ないようですね。
家に帰ると必ず言われるのが身を固めろと言われることらしいです。
ダンカンさんみたいな年齢になると、そんなことも言われなくなるらしいですけれど、逆にその経済力に惹かれて媚びる男や女が多いそうなんですよ。
◇◇◇◇
久しぶりに同期生と一緒にワイオブルグ公都に来ています。
たまには息抜きのために甘味処に行って駄弁りたくもなろうというものです。
そこにとんだ邪魔者が入りました。
例の侵入者騒ぎの交渉時、私はこっそり覗いていましたので顔と名前を知っていましたけれど、相手は私を知らないはずなのに、シッカリと私に視線を向けて話しかけて来たんです。
「失礼ながら突然お邪魔いたします。
私は、魔法師ギルドの者で、グラシム・マリオスと申します。」
うん、知ってた。
で、貴方の勤め先の魔法師ギルド本部は、公都から結構離れているでしょう?
なのになんで貴方が個々に居るのよぉ。
そんな私の疑問を他所に、グラシム・マリオスはしゃべり続けます。
この男性、実は結構イケメンなんですよね。
生の声は初めて聴いたけれど、やっぱり通信機では再生できない音があるようで中々のイケボに聞こえます。
「魔力の保有量から見て、皆さんは魔晶石ギルドの方とお見受けしました。
そうして誠に失礼ながら、緑の衣装を着たお嬢さん。
貴方はさる者から聞いている魔力の色合いが合致します。
貴方が、ドランを捕らえた方ですね?」
この男、魔法師ギルド副会長を抑えて二つのギルドの交渉をまとめ上げた影の功労者ですので、その実行力は高く評価できますし、今また、一目で私の素性を見破ったことと言い、中々に油断ができない男ですね。
初めて会ったにもかかわらず、恐らくは私がシルヴィ・デルトンと承知しているのでしょう。
「あら、もしかして、私を拐かしに来られたのですか?」
グラシムが苦笑しながら言いました。
「とんでもございません。
ご一緒にいる他の方ならともかく、あなたには私の力が及びません。
実は、私、先月から、魔法師ギルドワイオブルグ支部長を任ぜられています。
支部長としての私の主な任務の一つに、魔晶石ギルドとの良好な関係を保つというのがございまして、その為には特にお嬢さんと親しくしておいた方が良いと考え、お声をかけた次第です。」
「あら、私は魔晶石ギルドの会員になってから二年足らずの若輩者にございます。
もう少し上の方とお近づきになられた方が宜しいのではございませんか?」
「新任のご挨拶に伺った際に、幹部の方々とはお会いしてございます。
しかしながら、魔晶石採掘師としての稼ぎ頭である、シルヴィ・デルトン嬢とはお会いできませんでした。
ここでお会いできたのは正しく僥倖でございます。
どうか、私、グラシム・マリオスの名と共に、魔法師ギルドワイオブルグ支部とも親しくお付き合いのほどをお願い申します。」
「あの、私は、本当に魔晶石採掘師としては新人の部類なんですよ。
ですからそんな風に言われる理由がわかりません。」
「交渉事で魔晶石ギルドに赴いた際にクビラ様と名乗るお方にお会いしています。
お仲間が他にも五名おられましたが、いずれも人ならざる気配をお持ちでした。
実のところ、私は、魔力を視覚で捕らえることができるのです。
ですから人と人でない方を見分けることは当然にできます。
クビラ殿はおそらくは使い魔若しくは召喚精霊かと観ましたが違いますか?」
うーん、ますます、油断がなりませんね。
ここは徹底して惚けましょう。
「はて、何のことでしょう。」
「あれ?
ウーン、ひょっとして嫌われちゃいました?
僕って、正直が取り柄なんで、すぐに本音を吐いて嫌われることもあるんですが・・・。
あの、何か失礼なこと言いましたか?」
◆◇◆◇◆◇ (注) ◇◆◇◆◇◆
UMA(Unidentified Mysterious Animal):
先輩採掘師の血漿血漿中に含まれていた不明な成分
大食漢とかかわりがあることが推測されている
UTM(Unknown Tiny Monster):
ギルド本部で利用する飲料水に含まれる不明な成分、
水の精霊アスールの解析によれば魔力を有する微小な魔物であり人体には有害とされる
周辺の林に棲む現地生物(リス及び地ネズミ)はこの飲料水を飲むが特段の石化等の症状は発生しない。
逆にUTMを除去した水は飲むのを嫌がり、無理に飲ませると病気になり死亡する
後の研究でUTMは水に含まれるUMAが体内に取り込まれることにより、血液中に生ずるものであり、UTMが生まれるとネグレリアが体内に寄生を始めることがわかっている。
未知の部分は多いが、ネグレリアとUTMは共生不可分の関係なのかもしれない。
ネグレリア:アメーバー状生物(魔物?):
亡くなったヒューズ事務部長の肝臓に救っていた寄生生物シルヴィはネグレリアと名付ける。
UTMの活動を促進する活動をしていると推測される
実験動物には寄生しておらず、直接実験動物の肝臓に送り込んでもアメーバー状生物の方が死滅する
==============================
9月21日、一部の字句修正を行いました。
By サクラ近衛将監
お元気でしたでしょうか?
相変わらずシルヴィは元気です。
侵入者騒ぎがあって三か月、私の周囲で慶事が二つ続きました。
一つは、カル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤで久しく無かった新生児が無事に生まれたことです。
しかも続けて何人もの子供が生まれて、カル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤは現在ベビーブーム真っ盛りなのです。
ですから、ここのところ、私は、週一でカル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤを訪れて、出産の立ち合いやら母子の健康診断をやってます。
多い時には、一日に二人も生まれて産婆さんが大変忙しい思いをしているみたいです。
産婆さんやお産のお手伝いをする女性、それに妊婦を対象に私が行った衛生教育のお陰で、出産時の衛生状態はしっかりと維持されており、これまでのところ問題はありません。
但し、一人だけ逆子のためにどうしても生まれてこない子が居ましたので、夜間に急遽私が予め準備していた移動式手術室(分娩室?)ごとカル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤに跳び、子宮の中から出られない胎児をクルンと回転させて何とか無事に生まれさせました。
場合によっては帝王切開も考えていたのですけれど、そこまでは必要が無かったので安心しました。
私、知識としては知っていても、帝王切開なんてやったことがありませんもの。
まぁ、治癒魔法もあるし、生き字引のようなサルスも居るので何とかなるとは思っていますけれど、・・・。
この世界、魔法を使えるのに、逆子の体位を変える方法は昔ながらの魔法を使わない伝承的な手法しかないんです。
私は魔法で逆子の位置を変えてやりました。
赤ちゃんにあまり無理な力はかけられませんけれど、赤ちゃんは柔らかいですからね。
子宮を少し拡げると動く余裕ができて、正常な位置に変わり無事に生まれてくれたんです。
勿論母子ともに健康でしたよ。
手術室ならぬ分娩室はそのままカル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤの診療所の脇に設置しておきました。
産婆さんには使い方を教え、必要がある場合に使用する許可も与えてあります。
分娩用ベッドもありますので、結構便利なんですよ。
尤も、薬品は備えてありませんし、手術用の刃物はカギのかかる棚に入れて使えないようにしています。
産婦人科医にでもなる人が出てきたらそれらの使用許可を与えますけれど、今のところ外科医じゃなくってヒーラーしかいないですから、無理かもしれません。
もう一つの慶事は、事務部のユリアさんが妊娠したことです。
魔晶石ギルドにも結婚している人は居るんですが、私がここに来て以来、誰も妊婦は見ていないんです。
ユリアさん妊娠三か月になって悪阻が始まり、私もそれでようやく気付いたのです。
ユリアさんにそのことを告げると、ユリアさん真っ青な顔をしていました。
過去の事例から、せっかくできた命を失ってしまうと悲観したようですが、私が赤ちゃんは順調に育っていますよと言うと、何度も確認をしながらようやく安心してくれました。
ユリアさんが妊娠した理由は、多分私が取り除いたアメーバー状生物ネグレリアが絡んでいるような気がします。
水に含まれているUTMと関りがあるものと推測はしていましたが、それ以外に寄生することにより、ヒトのオドを取り込むことで妊娠を妨げているのかも知れません。
何せ、私が魔晶石ギルドに来てから妊娠した女性会員を見るのはユリアさんが初めてのことなので、良くわからないのです。
但し、これまでの記録を読んだ限りでは、歴代の女性会員の場合、非常に妊娠しづらく、妊娠しても出産に至るまで正常に育たないということなのです。
中には胎児が体内で死んでしまって腐敗を始め、母体もそれに巻き込まれて死亡したケースもあったようです。
いずれにしろ初めてのケースですから十分に注意しなければなりませんね。
ユリアさんには週一で私のところに通うよう言ってあります。
UTMについては既に浄水器を設置してあるので、今後はUTMを体内に取り込むことは無いはずですが、念のため監視と検診は継続しています。
それとネグレリアについては、希望者にのみ除去手術をしていますから、未だにそのままの人もいます。
因みにユリアさんによればネグレリアを除去して以降は、大食漢の傾向が収まって来たそうで、ちょっと油断すると太るようになってきたそうです。
体型を維持するために色々と運動を始めたと言っていましたね。
ちゃんとユリアさんの子供が生まれたら、他の人にもネグレリアの除去を奨励しなければなりませんね。
◇◇◇◇
魔晶石の採掘を含めて公私に亘り忙しい日々を送っていた私ですが、二年目の初秋月を迎え、新会員が入ってくる時期になりました。
私の同期生は現場に出て一年、シッカリ現役として活躍を始めています。
後輩の者も無事研修を終えて現場に出て来ました。
私の同期生以降は、落ちこぼれが居ませんので、事務部の補充ができないことから、新たに準会員としての職員を雇用する方針が決まり、この秋から始まります。
予定では中秋月から第二休憩所の事務部職員の駐在も始まるようです。
状況によっては更に休憩所を増やすことも検討しなければなりませんね。
因みに、第一と第二休憩所の建設及びそこに至るトンネルの建造については、ある意味で私のサービスでやったことなのですが、幹部会も流石にその貢献度を認めざるを得なくなっています。
何しろ、年間の死亡・行方不明率が確実に減っているんです。
ですから魔晶石ギルドとしてこの貢献度に対する報奨を認め、魔晶石ギルドの純益の1%の額を私に支払うことになったようです。
うーん、お金はねぇ。
有って困るというわけじゃないのですけれど、私の専用口座には、一般の職人であれば一万人分程度の生涯報酬額が溜まっているんです。
一応、私の実家にも送金したりしてますけれど、贅沢に慣れて依存されても困るのでそんなに大金は送っていません。
ウチの両親はとてもまじめですから、今までと変わりなく過ごしているのは陰からこそっと確認しています。
今度休みをもらって、故郷に一度は正式に帰ってみましょうかね。
因みに休暇制度は明文化されてはいませんけれど、魔晶石ギルドへの借金返済が終了している者であれば、自費で帰省するのは自由なんだそうです。
尤も、住む世界が違ってしまったので、自立できるようになってから帰省する人は少ないようですね。
家に帰ると必ず言われるのが身を固めろと言われることらしいです。
ダンカンさんみたいな年齢になると、そんなことも言われなくなるらしいですけれど、逆にその経済力に惹かれて媚びる男や女が多いそうなんですよ。
◇◇◇◇
久しぶりに同期生と一緒にワイオブルグ公都に来ています。
たまには息抜きのために甘味処に行って駄弁りたくもなろうというものです。
そこにとんだ邪魔者が入りました。
例の侵入者騒ぎの交渉時、私はこっそり覗いていましたので顔と名前を知っていましたけれど、相手は私を知らないはずなのに、シッカリと私に視線を向けて話しかけて来たんです。
「失礼ながら突然お邪魔いたします。
私は、魔法師ギルドの者で、グラシム・マリオスと申します。」
うん、知ってた。
で、貴方の勤め先の魔法師ギルド本部は、公都から結構離れているでしょう?
なのになんで貴方が個々に居るのよぉ。
そんな私の疑問を他所に、グラシム・マリオスはしゃべり続けます。
この男性、実は結構イケメンなんですよね。
生の声は初めて聴いたけれど、やっぱり通信機では再生できない音があるようで中々のイケボに聞こえます。
「魔力の保有量から見て、皆さんは魔晶石ギルドの方とお見受けしました。
そうして誠に失礼ながら、緑の衣装を着たお嬢さん。
貴方はさる者から聞いている魔力の色合いが合致します。
貴方が、ドランを捕らえた方ですね?」
この男、魔法師ギルド副会長を抑えて二つのギルドの交渉をまとめ上げた影の功労者ですので、その実行力は高く評価できますし、今また、一目で私の素性を見破ったことと言い、中々に油断ができない男ですね。
初めて会ったにもかかわらず、恐らくは私がシルヴィ・デルトンと承知しているのでしょう。
「あら、もしかして、私を拐かしに来られたのですか?」
グラシムが苦笑しながら言いました。
「とんでもございません。
ご一緒にいる他の方ならともかく、あなたには私の力が及びません。
実は、私、先月から、魔法師ギルドワイオブルグ支部長を任ぜられています。
支部長としての私の主な任務の一つに、魔晶石ギルドとの良好な関係を保つというのがございまして、その為には特にお嬢さんと親しくしておいた方が良いと考え、お声をかけた次第です。」
「あら、私は魔晶石ギルドの会員になってから二年足らずの若輩者にございます。
もう少し上の方とお近づきになられた方が宜しいのではございませんか?」
「新任のご挨拶に伺った際に、幹部の方々とはお会いしてございます。
しかしながら、魔晶石採掘師としての稼ぎ頭である、シルヴィ・デルトン嬢とはお会いできませんでした。
ここでお会いできたのは正しく僥倖でございます。
どうか、私、グラシム・マリオスの名と共に、魔法師ギルドワイオブルグ支部とも親しくお付き合いのほどをお願い申します。」
「あの、私は、本当に魔晶石採掘師としては新人の部類なんですよ。
ですからそんな風に言われる理由がわかりません。」
「交渉事で魔晶石ギルドに赴いた際にクビラ様と名乗るお方にお会いしています。
お仲間が他にも五名おられましたが、いずれも人ならざる気配をお持ちでした。
実のところ、私は、魔力を視覚で捕らえることができるのです。
ですから人と人でない方を見分けることは当然にできます。
クビラ殿はおそらくは使い魔若しくは召喚精霊かと観ましたが違いますか?」
うーん、ますます、油断がなりませんね。
ここは徹底して惚けましょう。
「はて、何のことでしょう。」
「あれ?
ウーン、ひょっとして嫌われちゃいました?
僕って、正直が取り柄なんで、すぐに本音を吐いて嫌われることもあるんですが・・・。
あの、何か失礼なこと言いましたか?」
◆◇◆◇◆◇ (注) ◇◆◇◆◇◆
UMA(Unidentified Mysterious Animal):
先輩採掘師の血漿血漿中に含まれていた不明な成分
大食漢とかかわりがあることが推測されている
UTM(Unknown Tiny Monster):
ギルド本部で利用する飲料水に含まれる不明な成分、
水の精霊アスールの解析によれば魔力を有する微小な魔物であり人体には有害とされる
周辺の林に棲む現地生物(リス及び地ネズミ)はこの飲料水を飲むが特段の石化等の症状は発生しない。
逆にUTMを除去した水は飲むのを嫌がり、無理に飲ませると病気になり死亡する
後の研究でUTMは水に含まれるUMAが体内に取り込まれることにより、血液中に生ずるものであり、UTMが生まれるとネグレリアが体内に寄生を始めることがわかっている。
未知の部分は多いが、ネグレリアとUTMは共生不可分の関係なのかもしれない。
ネグレリア:アメーバー状生物(魔物?):
亡くなったヒューズ事務部長の肝臓に救っていた寄生生物シルヴィはネグレリアと名付ける。
UTMの活動を促進する活動をしていると推測される
実験動物には寄生しておらず、直接実験動物の肝臓に送り込んでもアメーバー状生物の方が死滅する
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9月21日、一部の字句修正を行いました。
By サクラ近衛将監
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