魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

文字の大きさ
上 下
96 / 121
第七章 変革のために

7ー9 慶事と魔法師ギルド公都支部長

しおりを挟む
 ハイハーイ、シルヴィどぇ~す。
 お元気でしたでしょうか?

 相変わらずシルヴィは元気です。
 侵入者騒ぎがあって三か月、私の周囲で慶事が二つ続きました。

 一つは、カル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤで久しく無かった新生児が無事に生まれたことです。
 しかも続けて何人もの子供が生まれて、カル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤは現在ベビーブーム真っ盛りなのです。

 ですから、ここのところ、私は、週一でカル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤを訪れて、出産の立ち合いやら母子の健康診断をやってます。
 多い時には、一日に二人も生まれて産婆さんが大変忙しい思いをしているみたいです。

 産婆さんやお産のお手伝いをする女性、それに妊婦を対象に私が行った衛生教育のお陰で、出産時の衛生状態はしっかりと維持されており、これまでのところ問題はありません。
 但し、一人だけ逆子のためにどうしても生まれてこない子が居ましたので、夜間に急遽私が予め準備していた移動式手術室(分娩室?)ごとカル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤに跳び、子宮の中から出られない胎児をクルンと回転させて何とか無事に生まれさせました。

 場合によっては帝王切開も考えていたのですけれど、そこまでは必要が無かったので安心しました。
 私、知識としては知っていても、帝王切開なんてやったことがありませんもの。

 まぁ、治癒魔法もあるし、生き字引のようなサルスも居るので何とかなるとは思っていますけれど、・・・。
 この世界、魔法を使えるのに、逆子の体位を変える方法は昔ながらの魔法を使わない伝承的な手法しかないんです。

 私は魔法で逆子の位置を変えてやりました。
 赤ちゃんにあまり無理な力はかけられませんけれど、赤ちゃんは柔らかいですからね。

 子宮を少し拡げると動く余裕ができて、正常な位置に変わり無事に生まれてくれたんです。
 勿論母子ともに健康でしたよ。

 手術室ならぬ分娩室はそのままカル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤの診療所の脇に設置しておきました。
 産婆さんには使い方を教え、必要がある場合に使用する許可も与えてあります。

 分娩用ベッドもありますので、結構便利なんですよ。
 尤も、薬品は備えてありませんし、手術用の刃物はカギのかかる棚に入れて使えないようにしています。

 産婦人科医にでもなる人が出てきたらそれらの使用許可を与えますけれど、今のところ外科医じゃなくってヒーラーしかいないですから、無理かもしれません。
 もう一つの慶事は、事務部のユリアさんが妊娠したことです。

 魔晶石ギルドにも結婚している人は居るんですが、私がここに来て以来、誰も妊婦は見ていないんです。
 ユリアさん妊娠三か月になって悪阻つわりが始まり、私もそれでようやく気付いたのです。

 ユリアさんにそのことを告げると、ユリアさん真っ青な顔をしていました。
 過去の事例から、せっかくできた命を失ってしまうと悲観したようですが、私が赤ちゃんは順調に育っていますよと言うと、何度も確認をしながらようやく安心してくれました。

 ユリアさんが妊娠した理由は、多分私が取り除いたアメーバー状生物ネグレリアが絡んでいるような気がします。
 水に含まれているUTMと関りがあるものと推測はしていましたが、それ以外に寄生することにより、ヒトのオドを取り込むことで妊娠を妨げているのかも知れません。

 何せ、私が魔晶石ギルドに来てから妊娠した女性会員を見るのはユリアさんが初めてのことなので、良くわからないのです。
 但し、これまでの記録を読んだ限りでは、歴代の女性会員の場合、非常に妊娠しづらく、妊娠しても出産に至るまで正常に育たないということなのです。

 中には胎児が体内で死んでしまって腐敗を始め、母体もそれに巻き込まれて死亡したケースもあったようです。
 いずれにしろ初めてのケースですから十分に注意しなければなりませんね。

 ユリアさんには週一で私のところに通うよう言ってあります。
 UTMについては既に浄水器を設置してあるので、今後はUTMを体内に取り込むことは無いはずですが、念のため監視と検診は継続しています。

 それとネグレリアについては、希望者にのみ除去手術をしていますから、未だにそのままの人もいます。
 因みにユリアさんによればネグレリアを除去して以降は、大食漢の傾向が収まって来たそうで、ちょっと油断すると太るようになってきたそうです。

 体型を維持するために色々と運動を始めたと言っていましたね。
 ちゃんとユリアさんの子供が生まれたら、他の人にもネグレリアの除去を奨励しなければなりませんね。

 ◇◇◇◇

 魔晶石の採掘を含めて公私に亘り忙しい日々を送っていた私ですが、二年目の初秋月を迎え、新会員が入ってくる時期になりました。
 私の同期生は現場に出て一年、シッカリ現役として活躍を始めています。

 後輩の者も無事研修を終えて現場に出て来ました。
 私の同期生以降は、落ちこぼれが居ませんので、事務部の補充ができないことから、新たに準会員としての職員を雇用する方針が決まり、この秋から始まります。

 予定では中秋月から第二休憩所の事務部職員の駐在も始まるようです。
 状況によっては更に休憩所を増やすことも検討しなければなりませんね。

 因みに、第一と第二休憩所の建設及びそこに至るトンネルの建造については、ある意味で私のサービスでやったことなのですが、幹部会も流石にその貢献度を認めざるを得なくなっています。
 何しろ、年間の死亡・行方不明率が確実に減っているんです。

 ですから魔晶石ギルドとしてこの貢献度に対する報奨を認め、魔晶石ギルドの純益の1%の額を私に支払うことになったようです。
 うーん、お金はねぇ。

 有って困るというわけじゃないのですけれど、私の専用口座には、一般の職人であれば一万人分程度の生涯報酬額が溜まっているんです。
 一応、私の実家にも送金したりしてますけれど、贅沢に慣れて依存されても困るのでそんなに大金は送っていません。

 ウチの両親はとてもまじめですから、今までと変わりなく過ごしているのは陰からこそっと確認しています。
 今度休みをもらって、故郷に一度は正式に帰ってみましょうかね。

 因みに休暇制度は明文化されてはいませんけれど、魔晶石ギルドへの借金返済が終了している者であれば、自費で帰省するのは自由なんだそうです。
 尤も、住む世界が違ってしまったので、自立できるようになってから帰省する人は少ないようですね。

 家に帰ると必ず言われるのが身を固めろと言われることらしいです。
 ダンカンさんみたいな年齢になると、そんなことも言われなくなるらしいですけれど、逆にその経済力に惹かれて媚びる男や女が多いそうなんですよ。

 ◇◇◇◇

 久しぶりに同期生と一緒にワイオブルグ公都に来ています。
 たまには息抜きのために甘味処に行って駄弁ダベりたくもなろうというものです。
 
 そこにとんだ邪魔者が入りました。
 例の侵入者騒ぎの交渉時、私はこっそり覗いていましたので顔と名前を知っていましたけれど、相手は私を知らないはずなのに、シッカリと私に視線を向けて話しかけて来たんです。

「失礼ながら突然お邪魔いたします。
 私は、魔法師ギルドの者で、グラシム・マリオスと申します。」

 うん、知ってた。
 で、貴方の勤め先の魔法師ギルド本部は、公都から結構離れているでしょう?

 なのになんで貴方が個々に居るのよぉ。
 そんな私の疑問を他所に、グラシム・マリオスはしゃべり続けます。

 この男性、実は結構イケメンなんですよね。
 生の声は初めて聴いたけれど、やっぱり通信機では再生できない音があるようで中々のイケボに聞こえます。

「魔力の保有量から見て、皆さんは魔晶石ギルドの方とお見受けしました。
 そうして誠に失礼ながら、緑の衣装を着たお嬢さん。
 貴方はさる者から聞いている魔力の色合いが合致します。
 貴方が、ドランを捕らえた方ですね?」

 この男、魔法師ギルド副会長を抑えて二つのギルドの交渉をまとめ上げた影の功労者ですので、その実行力は高く評価できますし、今また、一目で私の素性を見破ったことと言い、中々に油断ができない男ですね。
 初めて会ったにもかかわらず、恐らくは私がシルヴィ・デルトンと承知しているのでしょう。

「あら、もしかして、私をかどわかしに来られたのですか?」

 グラシムが苦笑しながら言いました。

「とんでもございません。
 ご一緒にいる他の方ならともかく、あなたには私の力が及びません。
 実は、私、先月から、魔法師ギルドワイオブルグ支部長を任ぜられています。
 支部長としての私の主な任務の一つに、魔晶石ギルドとの良好な関係を保つというのがございまして、その為には特にお嬢さんと親しくしておいた方が良いと考え、お声をかけた次第です。」

「あら、私は魔晶石ギルドの会員になってから二年足らずの若輩者にございます。
 もう少し上の方とお近づきになられた方が宜しいのではございませんか?」

「新任のご挨拶に伺った際に、幹部の方々とはお会いしてございます。
 しかしながら、魔晶石採掘師としての稼ぎ頭である、シルヴィ・デルトン嬢とはお会いできませんでした。
 ここでお会いできたのは正しく僥倖ぎょうこうでございます。
 どうか、私、グラシム・マリオスの名と共に、魔法師ギルドワイオブルグ支部とも親しくお付き合いのほどをお願い申します。」

「あの、私は、本当に魔晶石採掘師としては新人の部類なんですよ。
 ですからそんな風に言われる理由がわかりません。」

「交渉事で魔晶石ギルドに赴いた際にクビラ様と名乗るお方にお会いしています。
 お仲間が他にも五名おられましたが、いずれも人ならざる気配をお持ちでした。
 実のところ、私は、魔力を視覚で捕らえることができるのです。
 ですから人と人でない方を見分けることは当然にできます。
 クビラ殿はおそらくは使い魔若しくは召喚精霊かと観ましたが違いますか?」

 うーん、ますます、油断がなりませんね。
 ここは徹底してとぼけましょう。

「はて、何のことでしょう。」

「あれ?
 ウーン、ひょっとして嫌われちゃいました?
 僕って、正直が取り柄なんで、すぐに本音を吐いて嫌われることもあるんですが・・・。
 あの、何か失礼なこと言いましたか?」


 ◆◇◆◇◆◇ (注) ◇◆◇◆◇◆


UMA(Unidentified Mysterious Animal):
 先輩採掘師の血漿けっしょう血漿中に含まれていた不明な成分
 とかかわりがあることが推測されている

UTM(Unknown Tiny Monster):
 ギルド本部で利用する飲料水に含まれる不明な成分、
 水の精霊アスールの解析によれば魔力を有する微小な魔物であり人体には有害とされる
 周辺の林に棲む現地生物(リス及び地ネズミ)はこの飲料水を飲むが特段の石化等の症状は発生しない。
 逆にUTMを除去した水は飲むのを嫌がり、無理に飲ませると病気になり死亡する
 後の研究でUTMは水に含まれるUMAが体内に取り込まれることにより、血液中に生ずるものであり、UTMが生まれるとネグレリアが体内に寄生を始めることがわかっている。
 未知の部分は多いが、ネグレリアとUTMは共生不可分の関係なのかもしれない。

ネグレリア:アメーバー状生物(魔物?):
 亡くなったヒューズ事務部長の肝臓に救っていた寄生生物シルヴィはネグレリアと名付ける。
 UTMの活動を促進する活動をしていると推測される
 実験動物には寄生しておらず、直接実験動物の肝臓に送り込んでもアメーバー状生物の方が死滅する

 ==============================

 9月21日、一部の字句修正を行いました。

     By サクラ近衛将監

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

処理中です...