魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

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第七章 変革のために

7ー6 弓と不審者

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 ハ~イ、シルヴィです。
 前々回でしたでしょうか、魔物退治用のコンポジットボウを造り、採掘師に売るお話をしましたけれど、いよいよ売店に商品として置いてもらうことが決まりました。

 弓の数は、採掘師の数だけあれば当面は十分でしょう。
 念入りに強化魔法をかけていますので採掘師の力でも壊すのは大変です。

 但し、滑車部分や弦は、本来消耗品になりますのである程度使用すると交換する必要があります。
 皆さん身体強化魔法が使えますので、相当の強弓でも構わないのですが、もともと力だけで射殺すことは考えていないんです。

 秘密は矢の方にあります。
 付与魔法により矢が魔物の魔石に向かって飛翔することは申し上げましたよね。

 狙いをつけなくても良いというような代物ではありませんが、多少のずれは許されますし、風魔法が付与されていますから速度が異様に速いんです。
 そうして矢が目標に当たった瞬間にいくつかの付与魔法が発動します。

 一つは、雷魔法です。
 高電圧の電撃を加えることにより魔物を感電死させます。

 但し、中には雷に強い魔物もいるんです。
 私が知っている魔物では、ヴィディリ・エドゥハ・ケッツァという鎧竜の一種ですが、この魔物は体内にかなり強力な生体電池を持っていて、頭部のバイコーンで電撃を飛ばすことができるんです。

 電撃を飛ばせるぐらいですから、電撃に対する耐性は強く、付与魔法の電撃では殺せません。
 なので、さらに二つの特別な魔法を付与しています。

 一つは貫通という付与魔法で、矢の飛翔速度と剛性を高め、硬い皮膚を貫通して魔石にまで到達させます。
 魔石に達するか若しくは矢が物理的に停止した時点で、爆発する仕組みを付けました。

 バイソンタイプの魔物で、体長8尋(12m)超え、重量60ゲレット(30トン)超のヴァーカ・マリャードも一発で百尋の距離から撃って仕留めましたし、高速飛翔している毒飛竜のハイリオスも80尋ほどの距離から一撃で仕留めましたので、威力の方は十分だと思います。
 但し、これで射た小型の魔物は爆散することになりますので、余り接近されないうちに射ないと、飛散したいろんなものが射手まで飛んで来る恐れもありますので要注意です。

 私の場合、ブリザデス(コボルトに羽が生えたような飛行型魔物)を10尋の距離で射た際に、私の目の前に血しぶきと一緒にバラバラになった臓物の一部がベチャッと飛んできました。
 私の場合、常時バリアを稼働していますから実害は何もありませんでしたけれど、普通の採掘師なら頭から臓物を浴びる結果になったでしょう。

 まぁ、こんなことで死ぬような採掘師はいませんけれどね。
 それでも気分は良くないし、中には血液に強毒や酸が含まれている魔物も居るので至近距離でこのコンポジットボウを使うのはできるだけ止めておいた方がいいでしょう。

 その辺の注意書きを添えて、コンポジットボウと十本の矢、それにマジックバックをセットで金貨1枚の大安売りです。
 売店に置いてもらうには、事務部の許可が要るんですけれど、それが取れてようやく店頭に並びました。

 矢は消耗品ですので、五本セットで大銀貨二枚で補充できるようにしています。
 滑車や弦の類は、使用頻度で異なりますけれど、私の場合、試射で500回まで使えることを確認しています。

 毎日5本の矢を使っても、概ね三か月以上も交換不要ですが、なおも試射で強度を確認続行中で、この試射用のコンポジットボウの部品に異常が見つかった時点で、部品を売店においてもらうことにします。
 部品交換ができない人には交換作業も有料でやりますけれど、こっちは高いですよ。

 メンテナンス一回について金貨1枚を貰うことにします。
 一応、同期や親しい人には声掛けしてPRしておきました。

 反響はすぐにありました。
 同期生のクレア・レジナンドが、夕食の折に教えてくれました。

「シルヴィ、あのコンポジットボウって、すごいねェ。
 これまで私が梃子摺っていたワイバーンでさえも一発で仕留められたよ。
 それに専用のマジックバックが付いているから携帯も便利だしね。
 ウチの同期生で採掘師は、全員購入したみたいで、物凄く評判がいいよ。
 金貨一枚は結構痛いけれど、魔物の心配をしないで済むのが一番だよ。」

 また、一級採掘師のダンカンさんからもお褒めと感謝の言葉を頂きました。
 余程のことが無い限り、これで魔力の枯渇を心配しないで済むと言っていました。

 ダンカンさん、第二休憩所も利用しているそうです。
 まだ、事務局のサポートは受けられませんけれど、次の初秋月ぐらいには新人さんが増員され、第二休憩所にも事務部のかたが派遣されるはずです。

 そうすれば第二休憩所でもある程度の支援は受けられますので、採掘の効率が上がるはずですね。
 そんな極平凡な未来を夢見ていた私ですが、ある者の所為でその平穏な日常生活がぶち壊されました。

 ◇◇◇◇

 寮の自室で私が治癒師の研修のための教科書作りにせっせと励んでいたその夜、不意に私のセンサーにひっかかったものあがります。
 魔物それとも動物?

 いや、魔晶石ギルド本部の敷地は、強大な結界で守られているので、以前からいる小動物は別として、魔物や動物は原則として入れないはずなのです。
 人の出入りは公都に通じる水路しかなく、通船の運航は終わっていて、この時間ではあり得ません。

 何よりも魔晶石ギルド本部の各建物には不法な侵入を感知する結界が入り口に設置してあるのですが、それを突破して侵入してきた者なら賊と考えて差し支えないわけですが、実は研修の際に、支援班から講師役として来ていたミナ・アリステアさんに尋ねたことがあります。

「もしも、許可なくギルド本部に侵入する者が居るような場合いかなる対応をすればよいのでしょうか?」

「法令又は律令で定められたものではありませんけれど、いずれのギルドにおいても無断で本部の敷地に入り込んだものはいかなる処分をしても良いことになっています。
 まぁ、飛空艇の墜落等不慮の事故で侵入してしまったような場合は例外として扱われますけれど・・・。
 各ギルドは、相応に対外的に秘匿している技術や情報を持っていますから、それを狙って侵入してきたような者であれば殺害すら辞さないでしょう。
 特に採掘師の方々は結構気の短い方も多いので、かつて所用で来られた訪問者の一人が誤って寮に侵入した際には問答無用で首を撥ねていました。
 当然に騒ぎにはなりましたけれど、そもそもが訪問者として予め許された範囲を逸脱した者が悪いと裁定され、訪問者の所属する団体も文句も言えずに引き下がりました。
 仮にあなた方が他のギルド本部を訪れるようなことがあった場合、許された範囲以外に侵入すると殺されても文句は言えないですし、魔晶石ギルドもそれに対しては抗議できません。
 十分に注意してください。」

 そんな訳で、この妙な気配を持つ侵入者を殺害しても何の問題も生じません。
 むしろ放置すると後々問題が起きそうです。

 今現在は15の時と16の時の間ぐらい(前世で言えば午後11時15分前後)です。
 深夜とは言いにくいところですが、普通の人ならば寝静まっている時間帯ですね。

 実際に寮内で未だに起きている方は数人しかいません。
 事務部の当直の方を除いては本来寝ているべき時間なのです。

 私は、毎度のことながら、日が替わって1の時ぐらいまで起きているのが通常ですけれどね。
 私は教科書作りを中断して部屋を出ました。

 そうして怪しい侵入者のいる場所に向かってゆっくりと歩いて行きます。
 私の部屋は三階にあるのですが、侵入者は研修生や事務部職員の入っている寮内の二階部分をウロウロしています。

 そうして私が中央の階段を降りて二階に達すると、不審者は急に動きを止めました。
 何故、私が不審者とわかるのかですって?

 私はギルド本部にいるもの全ての体型も意識パターンも知っています。
 必要に迫られて秘密裏に身体検査までしましたから、ギルド本部に所属する会員やここに働く准会員の人たちと見誤るわけが無いのです。

 不審者は、私の目の前10尋ほど先の通路にいます。
 通路は広く、不審者が壁際に張り付いていますので、廊下の中央を歩いて行けば触れることも無いので、あるいは気づかないかもしれませんね。

 灯りは付いているんですよ。
 でも、不可視の魔法と隠形の魔法を使って、意識をらそうとしているのがわかります。

 三尋ほどの距離まで近づいて、言いました。

「あなたはどなたです。
 無断でギルドの施設に入ると、問答無用で殺されてもやむを得ないのですが、それを承知の上での所業ですか?」

 四十代に見える男は、灰色のマントを身に着けており、所属は魔法師ギルドだと思いますが、魔法師ギルド本部も承知の上での侵入ならば、魔法師ギルドとの全面戦争もあり得ます。
 男が驚愕の表情を浮かべ、瞬時に逃げ出そうとしました。

 恐らくは転移の魔法陣と思われるものが床面に出現しましたが、私は即座に「破滅陣」で魔法陣を消滅させました。
 途端にセンサーの中の気配が黄色から赤に変わりました。

 そうして明らかに殺意を持って別の魔法を発動しようとしてのですが、私はその全てを「破滅陣」で発動前に破却、すると、男は明らかに恐れおののき、南端の階段めがけて脱兎のごとく(と言っても遅いのですけれどね)、逃げ出しました。
 私は相手の男の右足首を空間魔法で拘束したので、男は無様に廊下に転倒しました。

 男が勢いよくこけましたので、もしかすると足首が折れたかもしれませんが、些細なことです。
 で、次に私がやったことは、空間魔法で男の身体を拘束し、廊下で大きな音を立てることでした。

 「バン」という大きな破裂音がすると、間もなく二階の全住民が何事かと廊下に顔を出しました。
 中には階段から三階より上の住人も顔出しをして来ています。

 殆どの皆さんが寝間着姿ですが、三階から降りて来た人の中には、片手に剣を持っている方もいらっしゃいます。
 ダンカンさんやクレバインさんなんかは流石に危機意識を持っていらっしゃるようです。

「どうした、何があった。」

 中央階段から降りて来た寝間着姿のダンカンさんが私の傍らに来て尋ねました。

「そこに転がっている魔法師の方が隠密の魔法を使い、無断で寮内に侵入しました。
 誰何すいかしたところ、慌てて逃げようと多分転移魔法陣ではないかと思われるものを出現させましたので、それを強制的に解除しました。
 更に無言で攻撃魔法を仕掛けようとしましたのでそれ等全てを解除したら、慌てて逃げ出しましたので、今現在は身体全体を拘束して見動きが取れないようにしています。
 どうしましょうかねぇ。
 あっさりと殺します?」

「いや、拘束できているんならその必要はねえだろう。
 むしろ、背後関係を調べた方がいい。
 魔法師ギルドの会員となると、あっちに貸しを作っておいた方が良いのじゃないか?
 なぁ、事務部長さんよ。」

 私の後ろにはやはり寝間着姿のコードウェル事務部長が立っていました。

「あぁ、まぁ、殺してもなんら問題は無いのだが、ここは生かしておいて魔法師ギルドの出方を見てみよう。
 死体よりは生きている方が交渉もしやすいからね。
 明日の朝、幹部会にかけてどうするかを決める。
 それまでは事務部でこの男を預かろう。
 ところで、この状態で危険は無いのだな?」

 私は大きく頷いておきました。
 拘束結界の中では、魔法の発動そのものができません。

 そんなわけで、捕らえた男についてはそのまま空いている部屋に拘束をかけたまま放り込み、その夜は、事務部の方が交代で張り番を立てることになりました。

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 8月29日、一部の字句修正を行いました。

   By さくら近衛将監
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