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第七章 変革のために
7ー1 変革への動き
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ハーイ、一級採掘師と二級加工師になったばかりのシルヴィですよ。
クロマルド王国への二度の派遣から色々と周囲が変化してきました。
12歳(地球の年齢でいうと18歳かな?)の女の子なんですけれど、ギルド内での発言力が物凄く強くなったみたいなんです。
ですからある意味では迂闊なことは言えません。
私の専任担当であるユリアさん曰く、私の普段の言動で幹部会ですらも左右されるぐらいなんだそうです。
ですから自分の言動には責任を持てるようにしなければならないとこれまで以上に戒めている私です。
確かに私が採掘師としては断トツの稼ぎ頭ですし、加工師としても私が部品を造らないと完成できないものが多々あります。
その製品が各国にバカ売れしていて、今や需要が供給を完全に上回っているので、徐々に値上がりしているようなんです。
通信機なんか当然のようにクロマルド王国やカロス首長国でも使われていましたから、少なくとも重要な装備品として扱われているのでしょうね。
それに特殊機器ながら、防護車両、結界放射器、防護服等々は、少なくともクロマルド王国やカロス首長国ではその存在が知られていますし、マジックバックを複数入れることのできるマジックバックの存在も魔法師ギルドに知られたようで、私から偵察監視をお願いしている妖精さん達の情報ではどうも魔法師ギルドが動き出しそうです。
ついでに言うならばカメラについても魔法師ギルドと錬金術ギルドが興味を示しているようです。
もう一つ治癒師ギルドが現地からの報告を受けて点滴に興味を示したようです。
少なくとも治癒師の世界で点滴などという処方は全く考慮されていなかったものなので、何とか自分たちも利用したいと思っているようですね。
確かに、水分補給なんかは治癒師では物理的に飲ませるしか方法がなかったわけですから、意識が無い者に水分と栄養を補給できる点滴は革命的な代物に思えるのでしょう。
でも点滴はシビアなんですよ。
血管に針を差し込んで、本当にわずかずつリンゲル液などを補給するのであって、補給量や濃度を間違えると血液内の赤血球を破壊したりして逆に重篤になります。
従って最低限度の医療知識がある者でなければ点滴を任せられません。
リンゲル液の製造についても同様ですよね。
衛生観念の無い人が造ったリンゲル液なんて到底使用出来ません。
仮に治癒師ギルドで何らかの点滴を実施しようと思うならば、これまでの山勘に頼った治癒魔法の行使ではなく、症状から原因を推測できるぐらいの医療知識を持ってもらわねばなりませんし、人体構造についても最低限度の知識を持っていただかねばならないでしょう。
尤も、正直なところをいいますと、自分が医療知識を十分に持っているかというとそうでもないんですけれどね。(;_;)/~~~)。
でもね、この世界の人が有する医療知識よりは常識があると思っています。
この世界の医療知識はおそらく18世紀の解体新書以前のものだと思います。
ですから仮に治癒師ギルドから講習の申し入れがあった場合は、魔晶石ギルドに来てもらってそこで教えることにしようかと思っています。
流石に私が出張して短時間教えれば良いと云う代物じゃないんです。
私が魔晶石ギルドの仕事をしながらであれば、どうしても数か月もしくは年単位の研修期間が必要じゃないかと思います。
幸いにして、今回作ったP-Ⅳレベルの研究所の周囲には結構な空き地がありますので、寮付属の研修所ぐらいならすぐにできちゃいます。
もし、治癒師ギルドから要請があった場合には、幹部会でその是非を検討してもらいましょう。
魔法師ギルドや錬金術ギルドへの対応については、魔道具の制作方法などを教えるつもりはありません。
必要ならば自分達で造るか若しくは魔晶石ギルドから購入すればいいのです。
一方で、魔晶石ギルドの方ですけれど、今回の一連の派遣の中で私が現場で色々魔道具や土属性魔法により建造物を造れることを公表してしまいましたので、これを契機に、魔境三か所に採掘師の休憩所を設けることを提案することにしました。
一つは三級採掘師のための休憩所で、これはパデルで精々一刻ほどの移動距離を考えており、ギルド本部からは非常に近い場所になります。
残り二つは前線基地ともなる休憩所で、パデルに乗って二刻若しくは二刻半程度で到達できる場所に作ります。
いずれも堅牢な全金属製の砦のような建造物であり、付与魔法をつける予定ですので魔物の襲撃程度では壊れませんが、私が造ったバンカーバスターならば壊れるかも・・・。
そうしてギルド本部にも設置されている魔物除けのバリアーが張れるようにします。
ギルド本部のバリアーは直径半尋ほどの結構大きな黒の魔晶石を使った装置ですが、私ならいつでもその程度の大きさの魔晶石を採掘できますから問題はありません。
人やパデルを通せても、魔物は弾くように魔法陣を描くのが結構面倒でしたけれど、半月ほどで何とか作り上げました。
場所の選定は、幹部会に任せることにします。
私が勝手に選んで下手な場所に作ると採掘師同士の争いが生じかねませんからね。
その意味ではギルド本部事務局の者が休憩所に常駐して管理してくれるといいのですが、どうなんでしょうね?
事務局というか本部で内勤している人は、一般的に魔物に対しては左程の対抗力は持ち合わせていない人が多いんです。
主として、採掘師にも加工師にもなり切れなかった人だったり、二級になれない元加工師だったり、採掘師で大きな怪我を負ったために採掘師から身を引いた人だったりするんです。
戦えない人を前線の休憩所に運ぶことが結構面倒ですよね。
水や食料は複数のマジックバックを用意できれば一度に運搬できますけれど、人間はそうは行きません。
護衛していってもらうとなると結構な手間暇になるんです。
事務局の職員も出ずっぱりというわけには行かないでしょうから交代制になると思うのですよね。
そんな面倒を掛けるぐらいなら、休憩所には誰も居ない方が、面倒が無くて良いと思うのが普通の採掘師の考え方なんです。
縄張り根性の強い採掘師を宥めるためにも仲介役が必要だと私は思うのですけれどねぇ。
とにかくユリアさんを通じて、前線基地ならぬ休憩所の設置案を幹部会に上伸してみました。
ユリアさんに関連情報と共に上伸内容を伝えた翌日には反応があって、私は翌々日の幹部会に呼ばれました。
幹部から色々な質問が出て発案者の私が説明するような場であり、何となく前世のプレゼンテーションを思い浮かべちゃいました。
生憎とビジネススーツじゃなくって、採掘師としてはごく普通のユニフォームであり、女の子ですから多少の彩はつけているものの採掘師が身に着ける普通の皮革衣装ですからね。
余りおしゃれとは言えないかなぁ。
公都に行くときはごく普通のおしゃれ着を着て行きますけれどあれは遊びに行くための衣装であって仕事着じゃないですもんね。
いずれにしろ総務部長の司会進行で、幹部から質問が始まりました。
ぶっちゃけ、いちいち面倒なので質問者の名前は省かせてもらいます。
「シルヴィ君の提案書によれば、休憩所の設営は今後のギルド運営にどうしても必要ということのようだが、その理由の一つである採掘が今後徐々に難しくなるという理由が解せない。
何となれば、採掘による利益はここ数年の比較でみると昨年は6割増しとなっており、実績は上向いていると思うのだが、何故に今後下降すると予測されるのかね?」
「失礼ながら、実績を金額でのみ見ているのならそうでしょうね。
昨年の成果が6割増しだったのは、私が黒魔晶石を大量に納品したからであり、それ以外の採掘師の実績を見るならば間違いなく生産は少しずつ減っています。」
この連中は単細胞なのかと疑いつつも、傍らに準備していた大画面の液晶に過去二十年分の採掘実績を色々なグラフで表示しました。
このグラフという代物もこの世界では余り発達していないようなんです。
「御覧のようにここ二十年間の採掘実績は徐々にではありますが下降線をたどっています。
因みに昨年分の青の色で表示されたものが、私を除く採掘師の採掘量とその金額を示しています。
また別の表で見ると一目瞭然なのですが、採掘量は増えているのにその金額は横ばい若しくは漸減しています。
一方で、採掘師の行方不明者は徐々に増えているということが判ります。
これが意味していることは、採掘師がかなり無理をして採掘をしていること、また、その一方で現状の鉱区には価値のある濃い色の魔晶石が採掘できなくなったことを示しています。
その傾向は、この魔晶石の色別生産量の推移から見ても推測できます。
私が採掘し始めた昨年の実績については、この際度外視してください。
二十年前と比べると色の濃い魔晶石の採掘が徐々に減っていること、そうしてその代わりに色の薄い魔晶石の採掘が増えている傾向が明確にわかります。
このまま放置して、仮に私が死んだりして黒の魔晶石が採掘できなくなれば、魔晶石ギルドそのものが崩壊しかねません。
第二に採掘師になりたての若い採掘師の行方不明が多すぎます。
ここ二十年の平均で見ると、採掘師になって5年未満の者の死亡行方不明者数が、最低でも三人、平均で4.2名の若い採掘師が亡くなっています。
大事に育てていれば、あるいは増産に寄与してくれたかもしれない有能な人材を失っています。
因みに、新規のギルド会員数はここ二十年余り変わってはいません。
会員全体の年間の採掘師の死亡・行方不明者数は概ね10名であり、新規の会員数を少し下回っていますが、新規会員から採掘師になる数は平均しても8名乃至9名前後、このままでは採掘師の総数が間違いなく減少します。
原因の一つは三級採掘師になりたての者が採掘できる鉱区が非常に限られていること、また、当該鉱区は露出した鉱床がほとんど堀尽くされて、白色若しくはバラ色以外の魔晶石を採掘できる場所がほとんどないことが挙げられます。
さらにまた、経験の乏しい者にとっては、そこに至る経路が遠くなるほど危険が伴うことも、当然お分かりのことと思います。
彼らはギルドに借金を抱えており、生活しているだけでその借金が増える現状に有って、白やバラの採掘だけでは借金が減らないのです。
当然に無理を押して遠方の鉱区へ進出して、その往復の途上で複数の魔物と遭遇して命を散らしています。
以前、幹部の方のどなたかが、私に鉱区を見つけてもらい別の者に採掘させるような方式の可否を提案されましたが、仮にそんなことをして、それが永続的に続くとお考えですか?
また、それらすべてを堀尽くし、設定された鉱区のどこからも魔晶石が採掘できなくなれば、その後はどうされますか?
極端な例を申し上げると、白やバラでさえも納品できなくなれば、通信機も液晶パネルも製造できなくなりますがその点をお忘れではないでしょうね。
今は有り余ると思えても資源は有限なのです。
ギルドの移転及び生産物の変更も視点に入れた長期的な展望が是非とも必要です。
しかしながら、それはあなた方幹部の仕事です。
私としては、取り敢えずここ十年ほどの間に起こり得る障害を取り除き、私の仲間である採掘師の安全を守りたいだけです。
特に成り立ての採掘師には、より一層の保護をしなければいずれ採掘師はいなくなります。
無論甘やかしているだけでは人は育ちませんが・・・・。
このまま放置すると十年後には、採掘師の数が二割近く減っているでしょうし、当然に採掘量もそれに輪をかけて減ります。
安易な方法ではありますけれど、今取り得る手法としては、前線基地に似た休憩所を設けて、彼らの安全性を確保しつつ、進出距離を延ばすしかありません。
但し、先ほども申し上げた通り、資源は有限なのですから、この手法でも将来の先細りは見えています。
将来展望を踏まえたしっかりとした計画を立てていただくことを切に望みます。
更には採掘師が持つ武器についても一考を要すると考えていますが、これはまた別の機会にいたしましょう。」
「フム、一応の理由はわかった。
上伸された立案書では、シルヴィ君がその休憩所を設営するとあるが、その費用はいくらぐらいかかるのかな?
それによっては、できるものとできない物がある。」
「失礼ながら会員の命がかかっているというのに、幹部の方はその経費を渋られるのですか?
私には治癒師に勝る方法で病気や怪我を治すスキルがありますけれど、あなたのお考えでは、死に瀕した人に大金を請求して、それが支払われない場合は、放置してかまわないということでしょうか?
ならば、高給取りの幹部の方々がお困りの時は目一杯の高い報酬を吹っ掛けることにいたしましょうか?
そもそも、私の出している立案書は、今後10年を目途に、ギルドとその会員が無事に切り抜けることができるようにと考えたものです。
極端な話、ギルドの年間予算を全て振り向けても良い話だと思っています。」
私はわざと話を切って、10秒ほど無言でいた。
ある者は驚き、あるものは頭を抱えていたが、総務部長が何かを話そうとしたのを制して私が再び話し始めた。
「とは、言いながら、私も強欲ではありません。
正直な話、私は生涯遊んで暮らせるほどの大金をこの一年で稼ぎましたけれど、今のところその使途が無いんです。
ですから、今回の計画に関する限り、設営費用は不要です。
日当だけを頂けますか?
三か所の休憩所の設営に要する日数は多く見積もっても延べで6日間ぐらいでしょう。
日当は・・・。
そうですね、1日当たり50万ヴィルでは如何でしょう?
総額で300万ヴィルは、物凄く安いと思いますよ。」
===========================
7月25日、一部の字句修正を行いました。
By サクラ近衛将監
クロマルド王国への二度の派遣から色々と周囲が変化してきました。
12歳(地球の年齢でいうと18歳かな?)の女の子なんですけれど、ギルド内での発言力が物凄く強くなったみたいなんです。
ですからある意味では迂闊なことは言えません。
私の専任担当であるユリアさん曰く、私の普段の言動で幹部会ですらも左右されるぐらいなんだそうです。
ですから自分の言動には責任を持てるようにしなければならないとこれまで以上に戒めている私です。
確かに私が採掘師としては断トツの稼ぎ頭ですし、加工師としても私が部品を造らないと完成できないものが多々あります。
その製品が各国にバカ売れしていて、今や需要が供給を完全に上回っているので、徐々に値上がりしているようなんです。
通信機なんか当然のようにクロマルド王国やカロス首長国でも使われていましたから、少なくとも重要な装備品として扱われているのでしょうね。
それに特殊機器ながら、防護車両、結界放射器、防護服等々は、少なくともクロマルド王国やカロス首長国ではその存在が知られていますし、マジックバックを複数入れることのできるマジックバックの存在も魔法師ギルドに知られたようで、私から偵察監視をお願いしている妖精さん達の情報ではどうも魔法師ギルドが動き出しそうです。
ついでに言うならばカメラについても魔法師ギルドと錬金術ギルドが興味を示しているようです。
もう一つ治癒師ギルドが現地からの報告を受けて点滴に興味を示したようです。
少なくとも治癒師の世界で点滴などという処方は全く考慮されていなかったものなので、何とか自分たちも利用したいと思っているようですね。
確かに、水分補給なんかは治癒師では物理的に飲ませるしか方法がなかったわけですから、意識が無い者に水分と栄養を補給できる点滴は革命的な代物に思えるのでしょう。
でも点滴はシビアなんですよ。
血管に針を差し込んで、本当にわずかずつリンゲル液などを補給するのであって、補給量や濃度を間違えると血液内の赤血球を破壊したりして逆に重篤になります。
従って最低限度の医療知識がある者でなければ点滴を任せられません。
リンゲル液の製造についても同様ですよね。
衛生観念の無い人が造ったリンゲル液なんて到底使用出来ません。
仮に治癒師ギルドで何らかの点滴を実施しようと思うならば、これまでの山勘に頼った治癒魔法の行使ではなく、症状から原因を推測できるぐらいの医療知識を持ってもらわねばなりませんし、人体構造についても最低限度の知識を持っていただかねばならないでしょう。
尤も、正直なところをいいますと、自分が医療知識を十分に持っているかというとそうでもないんですけれどね。(;_;)/~~~)。
でもね、この世界の人が有する医療知識よりは常識があると思っています。
この世界の医療知識はおそらく18世紀の解体新書以前のものだと思います。
ですから仮に治癒師ギルドから講習の申し入れがあった場合は、魔晶石ギルドに来てもらってそこで教えることにしようかと思っています。
流石に私が出張して短時間教えれば良いと云う代物じゃないんです。
私が魔晶石ギルドの仕事をしながらであれば、どうしても数か月もしくは年単位の研修期間が必要じゃないかと思います。
幸いにして、今回作ったP-Ⅳレベルの研究所の周囲には結構な空き地がありますので、寮付属の研修所ぐらいならすぐにできちゃいます。
もし、治癒師ギルドから要請があった場合には、幹部会でその是非を検討してもらいましょう。
魔法師ギルドや錬金術ギルドへの対応については、魔道具の制作方法などを教えるつもりはありません。
必要ならば自分達で造るか若しくは魔晶石ギルドから購入すればいいのです。
一方で、魔晶石ギルドの方ですけれど、今回の一連の派遣の中で私が現場で色々魔道具や土属性魔法により建造物を造れることを公表してしまいましたので、これを契機に、魔境三か所に採掘師の休憩所を設けることを提案することにしました。
一つは三級採掘師のための休憩所で、これはパデルで精々一刻ほどの移動距離を考えており、ギルド本部からは非常に近い場所になります。
残り二つは前線基地ともなる休憩所で、パデルに乗って二刻若しくは二刻半程度で到達できる場所に作ります。
いずれも堅牢な全金属製の砦のような建造物であり、付与魔法をつける予定ですので魔物の襲撃程度では壊れませんが、私が造ったバンカーバスターならば壊れるかも・・・。
そうしてギルド本部にも設置されている魔物除けのバリアーが張れるようにします。
ギルド本部のバリアーは直径半尋ほどの結構大きな黒の魔晶石を使った装置ですが、私ならいつでもその程度の大きさの魔晶石を採掘できますから問題はありません。
人やパデルを通せても、魔物は弾くように魔法陣を描くのが結構面倒でしたけれど、半月ほどで何とか作り上げました。
場所の選定は、幹部会に任せることにします。
私が勝手に選んで下手な場所に作ると採掘師同士の争いが生じかねませんからね。
その意味ではギルド本部事務局の者が休憩所に常駐して管理してくれるといいのですが、どうなんでしょうね?
事務局というか本部で内勤している人は、一般的に魔物に対しては左程の対抗力は持ち合わせていない人が多いんです。
主として、採掘師にも加工師にもなり切れなかった人だったり、二級になれない元加工師だったり、採掘師で大きな怪我を負ったために採掘師から身を引いた人だったりするんです。
戦えない人を前線の休憩所に運ぶことが結構面倒ですよね。
水や食料は複数のマジックバックを用意できれば一度に運搬できますけれど、人間はそうは行きません。
護衛していってもらうとなると結構な手間暇になるんです。
事務局の職員も出ずっぱりというわけには行かないでしょうから交代制になると思うのですよね。
そんな面倒を掛けるぐらいなら、休憩所には誰も居ない方が、面倒が無くて良いと思うのが普通の採掘師の考え方なんです。
縄張り根性の強い採掘師を宥めるためにも仲介役が必要だと私は思うのですけれどねぇ。
とにかくユリアさんを通じて、前線基地ならぬ休憩所の設置案を幹部会に上伸してみました。
ユリアさんに関連情報と共に上伸内容を伝えた翌日には反応があって、私は翌々日の幹部会に呼ばれました。
幹部から色々な質問が出て発案者の私が説明するような場であり、何となく前世のプレゼンテーションを思い浮かべちゃいました。
生憎とビジネススーツじゃなくって、採掘師としてはごく普通のユニフォームであり、女の子ですから多少の彩はつけているものの採掘師が身に着ける普通の皮革衣装ですからね。
余りおしゃれとは言えないかなぁ。
公都に行くときはごく普通のおしゃれ着を着て行きますけれどあれは遊びに行くための衣装であって仕事着じゃないですもんね。
いずれにしろ総務部長の司会進行で、幹部から質問が始まりました。
ぶっちゃけ、いちいち面倒なので質問者の名前は省かせてもらいます。
「シルヴィ君の提案書によれば、休憩所の設営は今後のギルド運営にどうしても必要ということのようだが、その理由の一つである採掘が今後徐々に難しくなるという理由が解せない。
何となれば、採掘による利益はここ数年の比較でみると昨年は6割増しとなっており、実績は上向いていると思うのだが、何故に今後下降すると予測されるのかね?」
「失礼ながら、実績を金額でのみ見ているのならそうでしょうね。
昨年の成果が6割増しだったのは、私が黒魔晶石を大量に納品したからであり、それ以外の採掘師の実績を見るならば間違いなく生産は少しずつ減っています。」
この連中は単細胞なのかと疑いつつも、傍らに準備していた大画面の液晶に過去二十年分の採掘実績を色々なグラフで表示しました。
このグラフという代物もこの世界では余り発達していないようなんです。
「御覧のようにここ二十年間の採掘実績は徐々にではありますが下降線をたどっています。
因みに昨年分の青の色で表示されたものが、私を除く採掘師の採掘量とその金額を示しています。
また別の表で見ると一目瞭然なのですが、採掘量は増えているのにその金額は横ばい若しくは漸減しています。
一方で、採掘師の行方不明者は徐々に増えているということが判ります。
これが意味していることは、採掘師がかなり無理をして採掘をしていること、また、その一方で現状の鉱区には価値のある濃い色の魔晶石が採掘できなくなったことを示しています。
その傾向は、この魔晶石の色別生産量の推移から見ても推測できます。
私が採掘し始めた昨年の実績については、この際度外視してください。
二十年前と比べると色の濃い魔晶石の採掘が徐々に減っていること、そうしてその代わりに色の薄い魔晶石の採掘が増えている傾向が明確にわかります。
このまま放置して、仮に私が死んだりして黒の魔晶石が採掘できなくなれば、魔晶石ギルドそのものが崩壊しかねません。
第二に採掘師になりたての若い採掘師の行方不明が多すぎます。
ここ二十年の平均で見ると、採掘師になって5年未満の者の死亡行方不明者数が、最低でも三人、平均で4.2名の若い採掘師が亡くなっています。
大事に育てていれば、あるいは増産に寄与してくれたかもしれない有能な人材を失っています。
因みに、新規のギルド会員数はここ二十年余り変わってはいません。
会員全体の年間の採掘師の死亡・行方不明者数は概ね10名であり、新規の会員数を少し下回っていますが、新規会員から採掘師になる数は平均しても8名乃至9名前後、このままでは採掘師の総数が間違いなく減少します。
原因の一つは三級採掘師になりたての者が採掘できる鉱区が非常に限られていること、また、当該鉱区は露出した鉱床がほとんど堀尽くされて、白色若しくはバラ色以外の魔晶石を採掘できる場所がほとんどないことが挙げられます。
さらにまた、経験の乏しい者にとっては、そこに至る経路が遠くなるほど危険が伴うことも、当然お分かりのことと思います。
彼らはギルドに借金を抱えており、生活しているだけでその借金が増える現状に有って、白やバラの採掘だけでは借金が減らないのです。
当然に無理を押して遠方の鉱区へ進出して、その往復の途上で複数の魔物と遭遇して命を散らしています。
以前、幹部の方のどなたかが、私に鉱区を見つけてもらい別の者に採掘させるような方式の可否を提案されましたが、仮にそんなことをして、それが永続的に続くとお考えですか?
また、それらすべてを堀尽くし、設定された鉱区のどこからも魔晶石が採掘できなくなれば、その後はどうされますか?
極端な例を申し上げると、白やバラでさえも納品できなくなれば、通信機も液晶パネルも製造できなくなりますがその点をお忘れではないでしょうね。
今は有り余ると思えても資源は有限なのです。
ギルドの移転及び生産物の変更も視点に入れた長期的な展望が是非とも必要です。
しかしながら、それはあなた方幹部の仕事です。
私としては、取り敢えずここ十年ほどの間に起こり得る障害を取り除き、私の仲間である採掘師の安全を守りたいだけです。
特に成り立ての採掘師には、より一層の保護をしなければいずれ採掘師はいなくなります。
無論甘やかしているだけでは人は育ちませんが・・・・。
このまま放置すると十年後には、採掘師の数が二割近く減っているでしょうし、当然に採掘量もそれに輪をかけて減ります。
安易な方法ではありますけれど、今取り得る手法としては、前線基地に似た休憩所を設けて、彼らの安全性を確保しつつ、進出距離を延ばすしかありません。
但し、先ほども申し上げた通り、資源は有限なのですから、この手法でも将来の先細りは見えています。
将来展望を踏まえたしっかりとした計画を立てていただくことを切に望みます。
更には採掘師が持つ武器についても一考を要すると考えていますが、これはまた別の機会にいたしましょう。」
「フム、一応の理由はわかった。
上伸された立案書では、シルヴィ君がその休憩所を設営するとあるが、その費用はいくらぐらいかかるのかな?
それによっては、できるものとできない物がある。」
「失礼ながら会員の命がかかっているというのに、幹部の方はその経費を渋られるのですか?
私には治癒師に勝る方法で病気や怪我を治すスキルがありますけれど、あなたのお考えでは、死に瀕した人に大金を請求して、それが支払われない場合は、放置してかまわないということでしょうか?
ならば、高給取りの幹部の方々がお困りの時は目一杯の高い報酬を吹っ掛けることにいたしましょうか?
そもそも、私の出している立案書は、今後10年を目途に、ギルドとその会員が無事に切り抜けることができるようにと考えたものです。
極端な話、ギルドの年間予算を全て振り向けても良い話だと思っています。」
私はわざと話を切って、10秒ほど無言でいた。
ある者は驚き、あるものは頭を抱えていたが、総務部長が何かを話そうとしたのを制して私が再び話し始めた。
「とは、言いながら、私も強欲ではありません。
正直な話、私は生涯遊んで暮らせるほどの大金をこの一年で稼ぎましたけれど、今のところその使途が無いんです。
ですから、今回の計画に関する限り、設営費用は不要です。
日当だけを頂けますか?
三か所の休憩所の設営に要する日数は多く見積もっても延べで6日間ぐらいでしょう。
日当は・・・。
そうですね、1日当たり50万ヴィルでは如何でしょう?
総額で300万ヴィルは、物凄く安いと思いますよ。」
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7月25日、一部の字句修正を行いました。
By サクラ近衛将監
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授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。
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