魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

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第五章 黒杜の一族

5ー19 手料理とおめでた?

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 ハーイ、シルヴィですよぉ。
 肝臓に巣くう例のアメーバー状の謎生物(以前にと名付けています。)ですが、結局、デモニシスAには反応しないことがわかりました。

 実は思い付きみたいな実験をしたんです。
 ちょっとやり方を変えて、メデュセニアαを、デモニシスAで四方八方を囲んだ場所にアスポートさせると、そこから動けなくなるんです。

 普通にアスポートするだけなら、元の場所(寄生した人または猿人の心臓脇)にすぐに転移で戻っちゃうのですけれど、その帰巣本能の権化のような能力がデモニシスAの結界みたいなもので阻害されちゃうみたいです。
 当然そこに居残ったメデュセニアには、周囲にあるデモニシスAによって魔素を吸われ、消滅の運命しか残されていません。

 ですから、わざわざ患者さんを一か所に1時間ほど固定しなくても、体内からメデュセニアαをアスポートできればメデュセニアは簡単に除去できそうです。
 で、おなじことをネグレリア(肝臓に巣くうアメーバー状寄生生物)に試してみたんですけれど、ネグレリアには全く効かず、すぐに転移で肝臓の周囲に戻っちゃうのです。

 メデュセニアは呪縛されて動けなくなるけれど、ネグレリアはそうではないということのようです。
 この推論を確認するためにダンカンさんとユリアさん、それに時折討伐した魔物の魔石の処理をお願いする係のマイケルさんの三人を招待して、寮にある自炊用のキッチンで私の手料理をふるまうことにしました。

 三人ともにメデュセニアを飼っている人達で、放置すればいずれどこかの段階で心臓石化が始まるはずです。
 それから、ユリアさんには寄生していないのですが、ダンカンさんとマイケルさんはともにネグレリアが寄生していますね。

 最初にやったのは、メデュセニアのアスポートです。
 ダンカンさん、ユリアさん、マイケルさんの順で、メデュセニアをヒラトップの隔離室へ転送します。

 転移させたメデュセニアの監視は精霊サルスにお願いしました。
 サルスは、デモニシスAの影響を受けませんから適任なのです。

 自炊用のキッチンには小さな食堂がついていますので、ダンカンさん達を座らせてから認識阻害をかけたデモニシスAを周囲に配置したのです。
 ダンカンさん達をお招きした夕食のメニューは、お酒の進みそうな酒の肴が多かったのですけれど、主として私が出入りしていた居酒屋さんの得意料理でした。

 当然のことながら和食主体ですね。
 似たような調味料を探したり産み出したりするのがちょっと面倒でしたけれど、概ね和食で使いそうな調味料若しくはその代用品は揃えられたと思います。

 特に、魔晶石ギルド本部のあるワイオブール公国は内陸国ですから、海産物はあまり出回りません。
 今日のために私はファルデンホーム王国の市場に出かけ、色々な海産物を買い込んできました。

 魚は言うに及ばず、貝、イカ、タコ、カニ、ウニ、海藻も購入し、あるいは、海に潜って自ら採りました。
 実のところ、漁師さんが毛嫌いして採らないために、市場では売っていないようなものもあるのです。

 特に、イカやタコなどの軟体動物やウニなんかは、その見栄えから嫌われているみたいですよ。
 でも前世の私は日本人ですから、イカやタコそれにウニの美味しさを十分に知っていますし、あらかじめ鑑定をかけて食用かどうかの確認もしています。

 魔晶石ギルド本部の食堂は非常においしい料理を出すのですけれど、どうしても味付けが洋風の骨とか肉とかの出汁だけなので私にとってはちょっと物足りないのです。
 そこへ和風だしを多用した海産物の料理ですから、絶対にダンカンさん達にも受けると思いました。

 もちろん、肉類だけじゃなくって野菜もそれにデザートの果物なんかもたっぷりと用意しましたよ。
 メインディッシュは、ヴァーカ・マリャードのステーキ丼です。

 ヴァーカ・マリャードは、単純に言えばバイソンタイプの魔物ですね。
 体長12mほど、重量は30トンを超えますし、こいつは群れを作りますからね。

 下手に刺激するとスタンピードを起こしかねません。
 たまたま新しい私の鉱区の近く(別の鉱区ですけれどギルドには内緒です)にいたのを見つけてハントしてきました。

 お肉は部位にもよりますけれど、概ね霜降り牛肉のサーロインをイメージしてください。
 とても美味なんです。

 丼ものですから大きなどんぶりを用意しましたよ
 食堂で皆さんの食べっぷりをみていますからね。

 今回用意した料理は私の分も含めて二十人前なんです。
 あ、私の分はステーキ丼を含めてみんなミニサイズですよ。

 私は今のところ過食症になっていませんから至って小食なのです。

「つきだし」には、緑野菜を添えたアジのゴマ酢和え。
八寸はっすん」には、えびの艶煮、伊達巻、昆布巻き、カニシンジョ、栗きんとん。

向付むこうづけ」には鯛の昆布締め。
「煮物」には、ブリみそ大根。

御造りおつくり」は、もちろん魚介類の刺身と海藻を彩りよく配置しました。
 さすがに生け作りは行き過ぎなのでやめました。

 私には可能ですが、内陸部で生きた海の魚を出すのは常識的に無理です。
 「焼物」は、多分カジキマグロの変異種か魔物ですけれど体長20m近い大物の切り身をタタキにしたもので、しょうが醤油で半生の味が楽しめます。

 メインディッシュのステーキ丼はここで出しました。
 私の分は直径15センチぐらいの小丼ですけれど、ダンカンさんとマイケルさんのは直径30センチの大丼、ユリアさんの分はちょっと小さめの25センチの中(?)丼に酢飯がいっぱいで、その上に切り身でミディアムに焼いたステーキがたれ付きでたくさん載っています。

 ご飯は米に似たものがあるという話をアジャム皇国出身のハルナ・ザクマから聞いていたので、アジャム皇国へ飛んで行ってジャポニカ米に似た品種を見つけ手に入れたのです。
 アジャム皇国では、日本の調味料に似たものを色々と見つけました。

 「吸物すいもの」は、貝類と春野菜の具でカツオ出汁に薄い味をつけたもの。
 「香物こうのもの」大根とキュウリの糠漬け。

 「揚物あげもの」は魚介類と野菜の天ぷらです。
 和食にはもちろんお酒なんですが、生憎とこの世界に清酒はありませんでしたので、私が作りました。

 アジャム皇国ではどぶろくや焼酎は作られていましたけれど、清酒はなかったのです。
 私はワインに似た味の清酒を生み出し、また、泡盛に似た古酒を生み出しました。

 紅麹を使った淡いピンク色の清酒の方は五年物、古酒の方は50年ものです。
 もちろん私の時空間を操る能力で亜空間の酒蔵の時間を早めて作ったものなんです。

 ユリアさんは清酒を、ダンカンさんとマイケルさんは度数の高い古酒を好んで飲んでいましたね
 一応清酒を一升、古酒は二章用意していたんですけれど、二時間ほどの会食の間に料理を含めて全て空になりました。

 二十人前ですよ。
 恐るべし過食症。

 ダンカンさんは八人前、マイケルさんは6人前、ユリアさんは五人前ほど食べたと思います。
 がたいの大きなダンカンさんならいざ知らず、ユリアさんなんか、あれだけの量がどこに入ったのかと思いますよね。
 但し、メデュセニアも除去したので、もし過食症にメデュセニアが関わっているならば。あるいは過食症は消えるかもしれないので今後は要観察ですね。

 初めての夕食会は成功裏に終わりました、
 三人とも大いに満足していただけたようでした。

 ダンカンさんなんかは意外に渋くって、大根とキュウリののお漬物を旨い旨いと言いながらたくさん食べていました。
 少なめの塩加減と、若干のだしを加えたのがよかったのかもしれません。

 一応お世話になったダンカンさん達へのお礼だったわけですが、主目的の実験の方は滞りなく終了しました。
 メデュセニアαは退治できましたが、ネグレリアには何の影響も与えないことがこの実験で明確になりました。

 もしかするとネグレリアも何らかの悪さをするかもしれませんので今後とも要注意ではありますが、一応メデュセニアについては退治する目途がついたことになります。
 ところでお世話になったお礼のつもりでふるまった手料理でしたが、ダンカンさんやユリアさんが周囲に誇大に触れ回ったせいで、ギルドの給食部からお呼びがかかりました。

 レシピを教えてほしいというお願いでしたけれどね。
 レシピを教えるのはいいけれど、実のところ、披露した料理の主要な食材がここでは手に入らないんですよね。

 色々聞かれましたけれど、食材の出どころは私の秘密といって情報提供を拒みました。
 調味料や出汁については出せるものは提供し、また、いろいろと教えてあげましたので、今後は、ギルドでの給食が少し変わりそうです。

◇◇◇◇

 例によって一月に二度程度のカル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤの訪問です。
 私が初めて彼らの集落を訪れてから2か月になりますけれど、医者の真似事はもう既成事実化しています。

 私が行くのは、間に15日を挟んだ銀曜日ですから、医療が必要な人は私が来るのを待ち構えています。
 私が診られるのは一刻(約二時間)に二十名前後です。

 診療時間は午後に取っていますので明るいうちの二刻で40名から50名程度を診るのが限度でしょうか。
 そんな中に、以前不妊症で相談に来たヒレア・フィットリングさんとボーレンド・フィットリングさん夫婦がいました。

 ヒレアさんの生理が止まって、妊娠の兆候があるので診てほしいとのことでした。
 生体スキャナーで確認しましたら、ヒレアさんのおなかに新たな命が宿っているのが確認できました。

「おめでとうございます。
 間違いなくお子さんができていますよ。」

 私がそう言うと、二人ともパーッと花が咲き誇るような笑みを浮かべました。
 この夫婦は、長く妊娠しなかっただけにとっても不安だったのでしょう。

 ヒレアさんが涙ぐみ、それをなだめているポーレンドさんでしたが、そのポーレンドさんがおずおずと私に尋ねました。

「あの・・・、生まれてくれさえすれば、男でも女でもよいとは思っているんですが・・・。
 ひょっとして、シルヴィさんならどちらが生まれてくるのかがわかりますか?」

 正直なところ今の段階(妊娠5週目から6週目前後)で胎児の染色体を調べればあるいはわかるかもしれないですね。
 でも前世でも男女の違いが判るのは、早くて三か月、超音波検査で分かるようになるのが5~6か月でしょうかねぇ。

 仕方がないので三か月から四か月経ったらわかるかもしれませんと答えておきました。
 それと妊婦が心がけるべき注意点を教え、紙に書いて渡してやりました。

 もちろん旦那さんの協力と支えも必要です。
 そうしてまだ先の話ではあるのですけれど、出産の際の衛生にも気を配らねばなりません。

 実は、その日来た診療患者に四組もおめでたカップルがいたのです。
 中世の社会では出産時の不衛生がゆえに産褥熱で死亡したり、嬰児が死亡したりする事例が後を絶たなかったのです。

 それで、産婆さん等を集めて衛生に関する講習会を次の機会にすることにしました。
 せっかくはぐくんだ命です、母子ともに健康でなければ意味がありませんからね。

 カル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤの医師擬きではありますが、きっと私がしなければならない義務なのでしょう。

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 4月27日、一部字句修正を行いました。
 
   By サクラ近衛将監

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