魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

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第五章 黒杜の一族

5ー15 石化の元凶

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 ギルドの屋舎から10キロ圏外の巣穴は取り敢えず放置して様子見です。
 研修生の実地研修については、私が以前A136区で見つけて置いたバラ色の魔晶石の露出鉱床が使われる予定(因みに指導員は私)ですが、そこまでの距離は直線距離で1.2キロですから、今回の予防措置をおこなったことで、実地研修の最中にホープランド・ミニに遭遇する可能性は極めて低くなったはずです。

 で、ツアイス症候群の犯人の一つが此奴こやつ関連かどうかなんですけれど、5日間の観察実験では、ホープランド・ミニの体内にパラサイトと思われる微生物が居るのが確認できました。
 しかもホープランド・ミニの口器(蚊の針でーす。)から麻痺毒を流し込む際に、人の身体に入り込みます。

 残念ながら、取り敢えず実験に使ったのは人体ではなく、限りなく人体に近いゴーレム?ホムンクルス?なんです。
 血管擬き内部の血流を動かしているのは、生身の心臓ではなくって、魔導モーターで動くポンプです。

 この人造人間君、魔力で人工血液を動かしてはいますけれど、やっぱり異質なんでしょうね。
 人そっくりですけれど、簡単な作りなんで、動けないマネキンみたいなものですから、パラサイトと思しき微生物がびっくりしたのか固まってしまって自ら動こうとはしません。

 まぁ、元から他力本願で血流に乗って心臓へ辿り着くのかもしれませんけれど、近傍に辿り着いたら途中下車しなければ心臓の傍には居られないですよね。
 だから、どこかで自発的に動くと思っていたんですけれど、ポンプの箇所は通り過ぎてぐるぐると血管擬きの中を周回してます。

 ホープランド・ミニから押し出されたのは良いけれど、自分が居るべき場所ではないと気づいたのかもしれませんし、心臓のあるべき場所が見つけられないのかも知れません。
 生体の中へ潜り込むのとは状況が違いますからね。

 戸惑うのも無理は無いと思います。
 脳みそがあるなら、きっとオーバーヒート状態なんでしょう。

 でも、これじゃぁ、こいつが犯人なのかどうかわかりません。
 またまた、頭を抱え込んでしまいましたが、そこで再びヒントをくれたのがノーム君です。

「そう言えば、ここの略北方向に居る猿人の集落近くにもこいつが居るぜよ。
 で、その集落の猿人がかなり犠牲になっておるがよ。」

「ン、犠牲って、どんな風に?」

「あぁ、刺されてしばらくすると死ぬがや。
 人間は埋葬したりするけんど、奴らは放置じゃけん。
 そのうち全部石に変わるもんと、腐りよるもんに分かれ寄るち。
 石に変わり寄った亡骸からはスライムごつもんが染み出てきて、そいつが地面に潜り寄る。
 腐りよった遺骸からも同様じゃが、腐敗した方が外に出よるんは早いように思えるな。
 今じゃぁ、石化したのは別として遺骸の方はほとんど白骨化しよるが・・・。
 そのスライムごつもんが潜った場所が、あの蚊の良い棲み処になりよるんじゃ。
 何らかの栄養的なものを与えているんかも知れんで。
 オイはよう知らんど。」

 私は早速その現場に行きました。
 危険はありますよ。

 ですから養蜂家が使うような防具で全身を覆った上に、魔法でしっかりと五重の結界を張っての出動です。
 いくらチート能力があって、神様からの加護を頂いていると云っても、万が一のことがあるやも知れません。

 私は、絶対にあいつに刺されたくはありません。
 ついでに私の身体の周囲には冷気を纏わせています。

 蚊は熱や二酸化炭素に聡(さと)いようですので、念のために熱をカットです。
 二酸化炭素?

 うーん、吐く息は仕方ないですよね。
 前世にあった二酸化炭素を排出しない循環式酸素ボンベを造るって方法もなくはないですけれど。

 時間がかかりそうです。
 で、見切りスタート。

 ノームに教えられた現場に着いてすぐに石化した猿人を見つけました。
 カル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤで遺骸を確認しましたけれど、野外では初めて見る死亡形態ですが、なるほどカル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤの遺骸と同じように全身の細胞が固化しています。

 スキャンをかけると心臓のすぐ脇に空洞箇所がありました。
 その他の腹腔内と胸腔内は、な組織の状態で固化されていますので、あるいは液状のものが固化したのかもしれません。

 なのに、心臓部分の裏側にだけ空洞があるんです。
 なるほど、ここに潜んでいたわけですね。

 腐敗したはずの遺骸も調べましたが、白骨と石化した心臓があるだけで、パラサイトもその寄生の痕跡もよくわかりませんでした。
 因みに遺骸のあった周辺の地下をスキャンすると、アメーバー状というのかスライム状というのか、土と同化若しくは融合したような形で存在していました。

 大体地下3m程度を中心に直径2mほどの球状になっていますけれど、生きているのかどうかすらよくわかりません。
 これがそのまま巣になるんでしょうか?

 あれ?じゃぁ、ギルド敷地内の巣は何であそこにあるの?
 パラサイトがあそこで抜け落ちたってこと?

 いや、いや、そもそも直近であそこに巣ができたとは限らないのかな?
 もしかすると、かなり以前にパラサイトが地中に潜り、ホープランド・ミニが棲み付いた?

 そもそもここ最近の話ではなくって、そこでホープランド・ミニが繁殖していればそのまま長期間棲み処になるってこともあり得るか・・・。
 じゃぁ、パラサイトの本体である球状の泥団子は、己の自らの身体を使ってホープランド・ミニを増殖させると同時に、ホープランド・ミニを運び役として用いて共存しているということかな? 

 いずれにしろ、中庭付近にあった泥団子ができたのは昨年のことでは無いと思われます。
 記録で調べた限り、ギルド内でのツアイス症候群による死亡者は、昨年のヒューム部長を除くと、ここ4年ほど出ていないし、死亡したのは中庭などでは無いようです。


 おそらくこの泥団子状の巣穴は一旦できると暫く持つのでしょう。
 それでも、パラサイトも生き物だから、例え仮死状態だとしても、ホープランド・ミニに取り込まれて稼働できるようにならないと意味がありません。

 可哀想なんだけれど、猿人の集落から6匹ほど実験体を確保しました。
 相手の同意は得ていません。

 もちろんご本人たちの意志に関わらず強制徴用です。ハイ。
 ヒラトップの工房で檻の中に入れて、被検体(モルモット)になってもらいます。

 それと他の動物への影響はどうなのかを確認するために、ネズミやモグラそれにウサギを捕まえました。
 どれもギルド周辺に生息しているからなりは小さいけれど魔物の類いですよ。

 羽化したホープランド・ミニに刺された猿人二匹は、一匹はすぐに石化を始めましたが、もう一匹はすぐには石化しませんでした。
 ホープランド・ミニの体内からパラサイトと思われる微生物を抽出、これを直接猿人の体内に注射しましたが、この場合は、二匹とも即時石化の症状は現れませんでした。

 猿人以外の魔物ですが、まず、ホープランド・ミニがネズミとウサギにはそもそもとりつきませんでした。
 対象外となっている理由は今のところ不明です。

 一応モグラには取り付いて血を吸っていましたが、実際問題として地中で同じ事をするのはかなり難しそうですよね。
 で、当然、ネズミとウサギは刺されていないですから発症しません。

 モグラですけれど、これも即時の石化開始は認められません。
 うーん、もしかすると、モグラ君に耐性があるのかも。

 次いで、パラサイトを直接被検体に注射する方法。
 ネズミ、ウサギ、モグラとも全然変化がありません。

 一匹ぐらい即時の石化症状が現れてもいいのに・・・・。
 ふと思い出して、ホープランド・ミニが刺したときに吐き出す麻痺毒も併用してみました。

 効果がありました。
 但し、猿人の方ですけれど、二匹のうち一匹が即時石化を始めました。

 どうやらホープランド・ミニの持つ麻痺毒との併用で即時石化が開始される場合があるようです。
 但し、魔物三種については全く変化なしです。

 次いで行ったのは、猿人と魔物三種から事前に採取した血液の分析です。
 もちろん事後の血液採取も行って分析を同時並行で行っています。

 その結果わかったことがいくつかあります。
 まず猿人については、即時石化を始めた個体には、血液中のタンパク質が四種類あります。

 このタンパク質、おそらく前世で何とかブリンとか何とかブミンと言うような名が付いていたはずですけれどもともとあまり興味が無かった分野ですし良く覚えていません。
 しょうが無いのでAブリン、Bブリン、Cブリン、Dブリンと勝手に名付けちゃいました。

 このうちBブリンについて、即時石化した個体の血液では、アミノ基の数が5割増しなんです。
 私の顕微視能力で見た途端に数が多いとわかりましたから間違いありません。

 アミノ基の数が少ないBブリンをαBブリン、多い方をβBブリンとしたのですけれど、猿人の場合はβBブリンを持つ個体が半数ほどでした。
 一方で私たちヒト族(ギルド会員及び公都の住民に限る)は、βBブリンを持つ人は皆無です。

 その代わりβブリンの亜種であるアミノ基が2割増し程度のγBブリンを持つ人が5%ほどいました。
 私が採取できたヒト族の検体数は千件前後ですから、統計的には十分検証にはなる数字と思います。

 もう一つカルバン氏族なんですが、彼らは何故かβBブリンを持っている人が9割と猿人よりも多いんです。
 これは、閉鎖社会での血族婚の弊害なのかもしれません。

 確実ではないかもしれませんが、ギルドの人に即時石化が無いのはβBブリン保有者が居ない所為かも知れません。
 一方で、カルバン氏族がホープランド・ミニに刺されると約9割の確率で即時石化が始まることになります。

 但し、カルバン氏族全員の血液を採取したわけでは無く、検体数は今のところ25体なので、統計上は当てにならない数値です。
 今度、できるだけカルバン氏族の血液採取をして確認してみましょう。

 これで、猿人の場合で、即時石化するものと、心臓の石化でいずれ死ぬものとの差が出ることについて一応の説明がつきました。
 今一つ興味深いことは、魔物には石化現象が発現しそうにないことです。

 以前、過食症のウィルス擬きでも同様のことが起きたのですが、猿人を除く現地生息の魔物には特別な抗体が存在するのかもしれません。
 血液中に送り込まれたパラサイトは、ヒト擬きのホムンクルスと同じく、血液中を周回するだけで、心臓付近にとりつく動きを全く見せないのです。

 一方で、猿人に取り込まれたパラサイトはαBブリンとβBブリンの血液両方で心臓の周辺に取りついています。
 数秒以内に変化がありますから、動きは速いですね。

 刺され若しくは注射器で血管内に入れられるとすぐにも心臓周辺に居座ります。
 但し、ホープランド・ミニの麻酔毒の併用が無いとパラサイトは正常に動けないみたいです。

 ですからパラサイトのみを注射器で送りこんだ猿人の身体には一向に変化が無いのです。
 いずれにしろ、パラサイトの元凶を特定できたのじゃないかと思います。

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 3月16日、誤字脱字のために修正を行いました。

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