魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

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第五章 黒杜の一族

5-4 未知との遭遇? その二

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 本来の大型のクロスボウというのは、どちらかと言うと戦争用でしょうか。
 攻城戦の際に攻防両方で使われますが、重いことと扱いにくいので一般的には据え置きで使われるものなんです。

 まぁ、そうは言いながらも、目の前の彼らが持っているのは携帯には少し不便な程度の大きさで、据え置き型まで行かないタイプですね。
 矢はつがえてあるし、弦も引き絞った状態ですから狙ってトリガーを引けばすぐに撃てる状態です。

 おそらくは、いつでも撃てる状態で安全装置がかけられているのでしょう。
 但し、フィノセロ・ニジェロの表皮は凄く硬いんです。

 普通の強弓程度の威力なら、絶対に厚く硬い皮膚が弾いてしまいます。
 目の前の狩人らしき彼らも経験上はそのことを知っているはずですが、さて、このクロスボウはそれほどの威力があるのかな?

 私が森の木陰から様子をうかがっていると、ものすごく慎重に動いていた彼らの前進が止まりました。
 その上で三人がクロスボウを構えています。

 仮にクロスボウが命中したにしても三匹までです。
 残りのフィノセロ・ニジェロは絶対に、彼らに気づいて襲ってきます。

 その突撃に迎え撃つだけの能力があるかどうかですが・・・。
 結果は意外なものでした。

 三つのクロスボウから放たれた矢には魔法がかけられていました。
 付加魔法とでもいうのか、風と樹属性の魔法が付加されていたのです。

 何故そんなことがわかったかって?
 それは、ここ数ヶ月の私の成長の証です。

 「鑑定」は、魔力を使って魔素を能動的に動かして何かを探るのですけれど、それではそれなりの能力のある人には気づかれてしまいます。
 例えば他人のステータスを見ようとすると、どうしても魔素を動かして対象の人を探らねばなりません。

 具体的に何をどうこうとは説明できないのですが、鑑定をかけるために周囲の魔素を能動的に動かしているのは事実なんです。
 ですから、どれほど隠密裏にやっても、気づかれる恐れは多分にあるんです。

 それなので、陰陽術にある「透視」を試してみたら、鑑定とは違って魔素の動きが見えるようになったのです。
 「鑑定」はどちらかと言うとレーダーや音波によるアクティブ・スキャナーのように、自ら電波や音波を発信して反射波を捕えるようなもの。

 一方で、「透視」は、パッシブ・モードというのか待ち受けて捉えるタイプなので、対象には気づかれないんです。
 これは「鑑定」と違って数値や文字では出てきませんが、魔力の流れが目で見えるんです。

 ですから、目の前の三人の名前はわからずとも、彼らが使う魔法の種類やその効果が、ある意味目で追えるんです。
 こちらの世界で言えばある種の「魔眼」なのかもしれません。

 いずれにせよ、その能力を持っているので彼らの付加魔法やその威力が概ね分かったわけです。
 クロスボウから放たれた矢は、初速も早かったのですがそこから風魔法でさらに加速し、フィノセロ・ニジェロの横っ腹、心臓がある辺りに深々と刺さりました。

 その上で刺さった矢が急激に伸びたのです。
 お陰でフィノセロ・ニジェロは心臓を貫かれ、一発でご臨終です。

 風魔法の付加による威力はかなり大きいですけれど、更に、刺さった矢が一瞬のうちに伸びるのですから、攻撃を受けた方は堪りません。
 但し、仲間のフィノセロ・ニジェロが流石に三人の攻撃者に気づきました。
 
 討ち取られた三匹を除いて、群れが一斉に動き出しました。
 フィノセロ・ニジェロは好戦的ですからね。

 もちろん逃げる方向ではなくって、狩人三人に突進して来るのです。
 ここで攻め手が無ければ、普通は逃げるんですけれど・・・。

 うーん、三人は受けて立つみたいです。
 逃げようという素振りが全く見えません。

 他人事ひとごとながらドキドキしつつ 見守っている私でした。
 フィノセロ・ニジェロの群れの先頭が50mほどに迫ったときに、狩人の一人が魔法を放ちました。

 土属性の魔法でかなりの魔素が動きました。
 結果として、フィノセロ・ニジェロの足元に大きな穴が出現しました。

 長径約80m、短径では約40mの楕円形の穴で、深さは50m近くありそうです。
 えぐいことに、下にはとがった石の杭が斜めに山ほど待ち受けています。

 時速80キロほどの速力でフィノセロ・ニジェロがこの穴にダイビング。
 半数ほどはそのまま石の槍に貫かれてご臨終です。

 残りは、大なり小なり怪我をして穴から出られず、蠢いているところでしたが、それを上からクロスボウで狙い撃ちです。
 終わってみれば22匹のフィノセロ・ニジェロの群れが三人の狩人の手で殲滅されていました。

 そのうちに狩人の一人が狼煙のろしをあげました。
 半時ほどもすると応援の人たちが到着。

 三人の狩人と合わせると全部で12名。
 一人が二匹のフィノセロ・ニジェロを収納して、全部で22匹を収容し、そのまま戻るようです。

 フィノセロ・ニジェロの肉がおいしいのかどうかはわかりませんが、今日は大猟だったようですね。
 それにしても彼らの能力は侮れません。

 間違いなく、ウチの一級採掘師よりも戦闘力では勝っています。
 インベントリなのかマジックバッグなのかは分かりませんでしたが、収容能力はフィノセロ・ニジェロ二匹は間違いなく入りそうですが、ひょっとして三匹は難しいのかもしれません。

 その点、私のインベントリも亜空間格納も収納量に制限はありませんから、私の方が収納に関しては上ですね。
 私は、隠密に徹したまま、彼らを尾行しました。

 12人の集団が向かっているのは、私の脳内マップで黄点の密状態となっている集落の方向です。
 因みにこの密状態になっている集落について、ファルデンホーム王国の図書館にあった資料には何の記載もありませんでした。

 そもそも、この魔境に入り込んだ地域については地図どころか何の情報もない場所なのです。
 私は50尋ほど離れて彼らを尾行しています。

 勿論、隠形と認識疎外の効果を最大限に上げたうえで、光学迷彩もそのままです。
 一応彼らに気づかれてはいないと思うのですが、集落についてはどうでしょう。

 魔晶石ギルド本部と同じく結界が張られていれば、その中への侵入は難しいかもしれません。
 ギルド本部の結界の場合、会員証が結界の通行証代わりになっているんです。

 通行証を持たない者が結界に触れると、弾くようになっていますし、管理室では警報が鳴ります。
 尤も、小動物の接触程度では警報が鳴らないようになっているようです。

 そもそも小動物では、結界に弾かれて侵入できませんけれどね。
 仮に結界があれば、その生成魔力が私には見えますので、結界に触れなければいいだけのことですが、侵入はできないかもしれません。

 概ね一時ほど歩いて集落の近くへやってきました。
 集落にはやはり結界が張ってありました。

 止むを得ないので、近くにあった樹木に上り、高いところから俯瞰してみました。
 集落は周囲を高い石壁で囲まれ、石で造られた家屋で街並みが造られています。

 集落の中心部に泉があってそれを中心に街並みが放射状に作られているようです。
 人口はざっと数えて500名を超えていますが千名には少し足りないくらいでしょうか。

 魔力の流れから言うと、多分そこかしこに魔道具も使われているようです。
 老若男女が見えますし子供が中央の泉のある広場で遊んでいるのが見えます。

 特異な場所にありますけれど、ごく普通の村のように見えますね。
 家を石造りにしているのは、あるいは山野分や魔物の襲来対策かもしれません。

 私の出身地であるバンデルは石造りが半分、木造家屋が半分程度でした。
 石造りの家は手間と経費が掛かります。

 木造住宅の方が安上がりなんです。
 この集落に木造住宅が見えないのは、安普請よりも安全を重視した結果なのでしょう。

 端的に言って、ワイバーンの攻撃にさらされたら木造家屋は堪えられませんからね。
 そう思っていたら、フラグが立っていたみたいで、空から脅威がやってきました。

 ハイリオスという種類で、ワイバーンよりは強く、マグナドレイクよりも弱いかもしれませんがほぼ同格です。
 こいつは毒ブレスを吐きますので要注意なんです。
 私には気づいていないようですが、まっすぐ集落に向かっています。

 集落は結界に囲まれているから大丈夫かとも思いますけれど・・・。
 狩人の一行は既に石壁の中に入っていますが、石壁の外には数人ですが人が居ます。

 女性の様で、あるいは山菜取りか薬草採取なのかもしれません。
 厄介なことにハイリオスは超低空で飛翔しているために、石壁の上に立つ歩哨から見えていないようです。

 歩哨が気づいて慌てて警報の鐘を鳴らしますが、ハイリオスは時速100キロほどの速度で女性たちに半ガーシュほどにまで迫っていました。
 時速百キロ(秒速約27.8m)で半ガーシュの距離は30秒もかかりません。

 一方で女性たちは門の近くとは言いながら、400mほども離れています。
 相当に足が速くないと逃げきれませんが、さてどうでしょう?

 あ、駄目ですね。
 籠を放り出して門の方へ一斉に逃げ始めましたけれど、このままだと半分も行かないうちに絶対に誰かが攫われます。
 
 それに、そのうちの一人が躓いたのか倒れちゃいました。
 私は、瞬時にリスクを負ってでも助けることを選択しました。

 短距離遷移を二回駆使して、ハイリオスへ百尋まで迫り、そこでライトアローを放って一発で仕留めます。
 ハイリオスは、飛んだままでご臨終。

 そのまま猛烈な勢いで地面に落ちて周辺の灌木類を薙ぎ倒しながら、轟音を立てて転がります。
 一応当面の危難は去ったわけですが、50尋も離れていないところに赤髪の女の子が座り込んだまま、私を吃驚した目で見ています。

 私、今回の探索のために一応着替えたけれど、自作の灰色ジャージ風衣装の上下ですからね。
 前世ならトレーニング中で通るけれど、ここではギルドでも見せたことのない格好だから・・・。


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 12月24日及び同28日に、一部の字句修正を行いました。

   By サクラ近衛将監
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