魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

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第五章 黒杜の一族

5ー2 謎の一族

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 今日は中春下月11日の銀曜日、私、二級魔晶石採掘師シルヴィ・デルトンは、久しぶりにワイオブール公国の公都に来ています。
 先日、私の疑似百葉箱に増設したばかりのカメラアイに知らない人が写っていたから・・・。

 いや、その、・・・。
 そもそも疑似百葉箱は、人気のない場所に目立たないように、しかもそれとはわからないように設置してあるものだし、200ガーシュ四方以上の地域に設置してあるから、その一つにたまたま人の姿が見えたからと言って格別おかしいことではないんだけれど・・・。

 そのカメラアイが捉えた場所が人の恐れる魔境の一角であることが問題なんです。
 私のこれまでの常識では、【魔晶石ギルドが魔晶石を採掘している魔境という場所は採掘師以外の人が入れない場所】と言う固定観念があったのです。

 でも違っていました。
 魔晶石ギルドが魔境への入域を規制しているのは、ギルドに所属する会員だけであり、非会員については何ら規制が無いのです。

 とは言いながらも一応自分たちの縄張りである魔境域内に一般人が入ることを必ずしも喜んではいません。
 特に採掘師が仲間内にも秘匿している鉱床の場所が外部に知れることは大問題です。

 ですから、明確な入域拒否の意思表示はしていますよ。
 但し、ギルドが管理できる範囲内に限られています。

 端的に言えばギルド本部施設内の入域には厳しい制限を設けていますし、たとえ外国政府の高官であろうとも、ゲートを通じて魔境に入ることなんか物理的に許していません。
 一方で、ユリアさんに聞いた情報によれば、魔境に接する国や地域でも魔境に入ることを禁ずる法令や律令を作っているところもあるけれど、何の規制もないところもあるそうなんです。

 仮にその法令違反を犯したとしても特段の罰則などは無く、入った者の自己責任とされて、仮に行方不明になっても国や地域の為政者は一切の保護義務や救助義務等の責任を負わないことが明記されているだけなのだそうです。
 単純な話で言えば、長城の外に勝手に出てその場で魔物に襲われても長城の守備兵は助けには出て行かないのです。

 むしろ助けに出た兵士は長城を警備する任務を放棄した者として処罰される恐れさえあります。
 だから、冒険者を含めて普通の人は魔境には絶対に入りません。

 例えAランクの冒険者パーティであっても魔境に生息する地竜クラスの魔物に対抗するには最低でも10人以上のベテラン冒険者が必要でしょう。
 しかも対抗できるのは精々一匹まで、二匹目が出現すればいかな精鋭であろうとも逃げるしかないはずです。

 そこで討伐された魔物を市場に出せば、おそらく高値で取引されるのでしょうが、どのみち100トンから200トンもあるような大きな魔物の亡骸を人里までそっくり運べるわけもなく、精々価値の高い部位だけを切り取って持ち帰るしかないので、危険を冒してまで魔境に入るメリットは余り無いのです。
 そのような状況に在って、魔境の浅い地域ならばともかく、魔境奥地にかなり入り込んだ地点に設置された疑似百葉箱から人の姿が見えたということは物凄く異常なことなのです。

 疑似百葉箱の設置場所は私自身が設置しましたので良く解っていますが、正直なところ設置した段階ではどこの国に属するのかなどと言うことには注意を払ってはいませんでした。
 どのみち誰にも内緒で設置するつもりでいたものだし、あくまでギルド本部を中心とした当面400ガーシュ四方程度の範囲での気象観測を目的としていたからです。

 しかも、そもそも他人目に触れない事を前提に設置したものですからね。
 そこがどこの領域であろうと一切構わなかったのです。

 問題の場所がかなり魔境に入り込んだ場所であって、そこに誰か不明な人物が写り込んでいたからこそ、当該場所の最寄りの国または地域は一体どこなんだろうと初めて関心を持ったわけなんです。
 当該場所をギルドの資料室で調べたところ、地図情報では位置的にファルデンボーム王国の領域でした。

 ファルデンホーム王国は、先日山野分の際に救援活動で訪れたオブテラス獣王国よりも更に北側に位置する王国であり、北氷洋に面している大陸北側の一地域です。
 ファルデンホーム王国自体は、北西部にある海岸地帯に人口が集中しており、魔境に面した南部地域はどちらかと言うと辺鄙な山岳地帯となっていて、人口密集地域からはかなり離れた場所になります。

 疑似百葉箱のカメラに映ったのは過疎地に棲む村人かもしれませんが、農民や樵の出で立ちではなく、少なくとも狩人に近い雰囲気であったように思えました。
 実は、ギルド内の資料室で魔境に入り込む狩人などが居ないのか調べましたが、生憎とそういった関連情報を記した書籍はありませんでした。

 そのために公都の図書館で改めて関連情報を調べようと思ったのです。
 その日は、半日を使って図書館で色々調べましたが、ファルデンホーム王国南部の情報を見つけることはできませんでした。

 止むを得ず、次の銀曜日(中春下月19日)には、再度公都に外出、公都の人目に付かない場所から私が設置した疑似百葉箱の北端に当たる場所に転移して、そこから隠形のままでファルデンホーム王国王都であるベグレムに飛行魔法で移動しました。
 隠密裏にベグレムに潜入し、図書館へ認識疎外と隠形をかけたまま忍び込みました。

 だって図書館では身分証の提示を求められるんです。
 魔晶石ギルドの身分証は多分ファルデンホーム王国内でも有効だとは思うのですけれど、そもそも入国記録の無い私が王都で身分証を提示するのはまずいですよね。

 ですから認識疎外と隠形を掛けたまま勝手に入館し、勝手に情報収集をしたのです。
 色々調べた中に「幻の民」という記述がありました。

 出典は500年以上も前の文献でした。
 図書館でも古文書に分類される棚に置かれており、その中でもさらに古い統一言語以前の言語による文献として流浪の民として黒い杜の一族なる表記がありました。

 統一言語以前の言語は、地域ごとによってバラバラでしたので現在では言語学者以外の人で読み解ける者はほとんどいません。
 私の場合は、その点、言語理解ランク5(MAX)のスキルを与えられていますのでどんな古語でも読み解くのに苦労はありませんでした。

 私が見つけた『ザウノード記』によると、およそ780年前に現在のファルデンホーム王国の中部地域を支配した豪族で、黒目、黒髪という身体特徴を有するカルヴィン氏族という一族が居たようです。
 優れた身体能力と大きな魔力を保有していたために、かなりの武勇をもって周囲の部族に知られていたようです。

 ところが、ある時、西側から侵入してきたクノップ氏族との戦闘状態に陥り、何とかその侵攻を阻みはしたものの、激戦によりカルヴィン氏族の力ある者も多数が戦死したようで、一族全体の戦力が大きく減退したのです。
 そんな折、カルヴィン氏族と互いに不可侵の誓いを立てていた東側のディラゾ氏族が、その機に乗じて攻め入り、カルヴィン氏族は滅亡寸前にまで陥ったのです。

 カルヴィン氏族の長は二つの戦いで相次いで亡くなりましたが、その後継者は氏族繁栄の地であった中部地帯を捨てて、南部の山岳地帯に一族を引き連れて落ち延びたようです。
 その後カルヴィン氏族と言う名称は歴史に全く出てこないのですが、ファルデンホーム建国記によれば、438年前に群雄割拠を制してファルデンホーム王国を樹立した際には、南部山岳地帯にカル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤ(黒の森の一族)という凄まじい武威を持つ黒目・黒髪の部族がいて南部の征服は困難であった旨の記述がありました。

 しかしながら、カル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤの居る地域が公的に独立した地域と認められることは無く、対外的にはファルデンホーム王国の統治域と見做されています。
 尤も、統治の実態は無く、現在も南部の山岳地域は放任状態が続いているようです。

 従って、カル・ヴァン・タラ・ヴァンセヤの勢力や文化程度などは全くと言って良いほど情報がありません。
 うーん、これはこの地域自体が没交渉で一種の鎖国状態なのかしらん?

 何だかラノベに出てくるエルフの里みたいな感じ?
 交易をせずとも暮らして行ける状態であれば、鎖国でも構わないのだけれどね。

 因みに設置した疑似百葉箱の中央線北端からベグレムまでおよそ120ガーシュほどの距離があり、ベグレムから例の狩人らしき人物が映っていた疑似百葉箱までは南南西方向に180ガーシュ(270キロ)ほども離れています。
 また、ファルデンホーム王国でこれまで山野分の被害が生じたという記録はありませんでした。

 或いは魔境の境にある山岳部が長城の役目をはたして魔物の侵攻を抑えてくれているのかもしれません。
 さてどうしようかしらん。

 カメラアイに映った者を追いかけてみる?
 それとも放置?

 でももし、カメラアイに映った人物が魔境でも生きて行ける人物ならば、ツアイス症候群との関連で一応調べてみたいなと思っている。
 今のところ魔境に棲むという類人猿の棲み処も見つかっていないし、ツアイス症候群の調査も手詰まり感が強いんだ。

 もう少しすれば、この地域独特のホープランドミニも活動を始めるから、それを捕獲すれば幾分かは進展が期待できるとは思うけれどね。

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 12月29日、字句修正を行いました。
 1月19日、一部の字句修正を行いました。
  
    By サクラ近衛将監
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