魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

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第五章 黒杜の一族

5-1 誰?

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 シルヴィは遠出していた。
 疑似百葉箱の改造のための遠出である。

 概ね20ガーシュのマス目に一つの自然石に偽装した疑似百葉箱を設置しているけれど、その場所が川や池であったり、樹木があったりで地形的に設置するのが難しい場所については、やむを得ず避けているので、必ずしも位置はマス目の中心にはない。
 今回の改造は、センサーとカメラアイの増設なのです。

 光をキャッチする受光素子がようやく造れるようになったのでそれを組み込むのと、パッシブで周囲の魔力を探知するセンサーを増設するのです。
 センサーの方は、以前、碌な確認もせずに転移したら魔物と鉢合わせしたことがあり、そのときは無事に討伐できたけれど、出会いがしらというのはどちらにとっても不幸だから、念のために事前に周囲の状況を確認できるようにと考えたものなのです。

 人であれ、魔物であれ、アスレオール世界で生きているモノは何らかの魔力を体内に持っているので、その魔力を感知して情報として私(シルヴィ)の持つタブレットタイプの通信機(能力的にはほとんどタブレットPC?)にデータを送ってくれる優れものなのですよ。
 疑似百葉箱一基につき半球状の魚眼レンズを備えたカメラアイは4個であり、その映像は歪んでいるけれど魔方陣プログラムで修正して任意の画像を正常な映像に変換するようにしているのです。

 カメラアイそのものは、直径三ミリ程度の非常に小さなものなので、一見すると小さなガラス玉がちょこっと岩にくっついているようにしか見えないのです。
 全部で四百基の疑似百葉箱の改造作業が終わったのは、作業を開始してから一か月後のことでした。

 この結果、これまで気温や湿度はわかるけれど晴れてるのか曇っているのかわからないという状態が改善され、疑似百葉箱からのデータを元にかなりの確率で天気予報ができるようになったのです。
 魔晶石ギルドを中心に東西400ガーシュ、南北400ガーシュの範囲の気象観測と定点監視ができるようになったのです。

 別にその天気予報をギルドに知らせるわけでもなく、単なる自己満足に過ぎないのですけれど、同時に400カ所の定点に自由にそして安全に転移できるようになったのが一番のメリットだと思っています。
 この範囲には当然ホープランドの全域が含まれています。

 公都なんかは近いから間違いなくその範囲内なのですけれど、そういった人口密集地は疑似百葉箱の設置場所としてはできるだけ避けているので、設置個所が一辺20ガーシュのマス目の中心点からかなりずれている場所もあるけれどこれは仕方がないですよね。
 そうして気象予報の更なる精度向上を目指して、月に一度は疑似百葉箱の増設を図っています。

 今現在は、中春下月の始めですから、多分二か月後の初夏月の始め頃には、観測エリアが3割増し(一辺が概ね460ガーシュ四方の領域)になっているはずです。
 少なくとも大陸全土をカバーするとなれば数十年単位での話になりますね。

 人から頼まれた仕事というわけでもないですし、急ぐ必要も無いので地道に少しずつ整備して行くことにします。
 そうしてある日何の気なしにチェックしていたら、偶然にもN8W4のポイントで人影を見つけてしまいました。

 ギルド本部を中心に南北へ20列、東西に20列の並びで、中心からN○○W△△、S□□E◇◇のように番号をつけていますから、ギルド本部から北へ8マス(160ガーシュ)、西へ4マス(80ガーシュ)の地点にある疑似百葉箱のデータなのですが、この位置はギルドから見てホープランドのかなり奥に当たります。
 魔晶石採掘師が進出している地域は、最大でもギルド本部から直線距離で50ガーシュ(75キロ)前後なので、ギルドから179ガーシュほども離れた魔境域に人が入っているはずがない場所なんです。

 送られてきた画像は、2秒一コマの静止画像(ぶっちゃけ写真ですよね)なんですが、これを詳細に分析すると、粒子が結構荒いのですけれど、写っているのはどうやら男性であり、騎士又は狩人のような雰囲気です。

 ツーハンドソードと思われる大剣を背負っておりながら、右手にはファルシオンと思しき幅広の短剣を持っています。
 魔物相手の武装としては貧弱ですが、実は一級採掘師でも携行武器はさほど変わりません。

 魔物に対抗するための採掘師の最大の武器は魔法なんです。
 従って、もしかするとこの映像に映っている人物も魔法主体での戦いをするのかもしれません。

 それにしても、魔晶石ギルドが管理できるエリアの外とはいえ、ギルド職員以外の者が魔境に入っているとは思いもしませんでした。
 アレっ、ひょっとして魔晶石ギルドを通さずに魔晶石を採掘している闇の同業者なのかしら?

 私は疑問に思って、事務部のユリアさんに相談に行きました。

「ユリアさん、ホープランドの魔境に入り込むのは魔晶石ギルド以外の人でも可能なんですか?」

「ウン?
 シルヴィの質問の意図が良く分からないけれど、B121区でギルド会員以外の人を見かけたということ?」

「いえ、そうではなく、魔境は魔物の生息地ですから一般の人が立ち入るのは危険なので制限されているのじゃないかと漠然と思っていたのですけれど、・・・。
 特に制限とか法律で禁止されているとかじゃないのですか?」

「魔晶石ギルドの規則は、会員のための規則なのでギルド会員以外を規制するものじゃないわよ。
 但し、ホープランドに面した国又は地域では、法令や律令で立ち入りを制限しているところが多いわね。
 先日、シルヴィが派遣で行ったオブテラス獣王国やヘイネマン共和国なんかは、長城の外へ出入りすることを原則として禁じている。
 但し、罰則はないみたいね。
 禁止に反して危険地帯に入った者には救助の手は差し伸べられないと言うだけのこと。
 それを覚悟の上ならご自由にどうぞってところかしら。
 それに、そうした規制が一切定められていない国や地域もあるはずよ。
 私の知っているのではワイオブール公国がそうね。
 公国では特段の規制がなされていないけれど、それでもホープランドに近づきたいと思う人はいないみたいよ。
公国の住民はホープランドの魔物がいかなるものかを噂話で十分承知しているもの。」

「なるほど、規制されていようがいまいが実質的に魔境に入り込む者は居ないと、そういうことですね?」

「ええ、冒険者ギルドのAランクパーティでもホープランドの魔物と戦って生き残るのは難しいわね。
 シルヴィも知っているでしょう?
 魔境にはゴブリンやオークどころかオーガでさえ存在しない。
 弱肉強食の世界だから、弱者はうの昔に消えてなくなっている。
 本来の冒険者が標的にするような魔物は魔境には居ないのよ。
 だから冒険者ギルドも魔境には手を出そうとはしない。
 そんな風潮の中で、わざわざ魔境の中に入って魔物退治をする者が居たら驚きだわね。
 まぁ、魔物を討伐できたなら結構な金にはなるんでしょうけれど、よほど大きなマジックバックを持っていないと獲物自体を運び出せないでしょう。
 体長が10尋を超えるのが当たり前の魔境の魔物をどうやって運び出すの?
 精々が価値の高い部位を切り取って帰るぐらいしかないじゃない。
 労多くして功成らずって、余り利益にならないんじゃないかなぁ。
 魔晶石でも採掘できるんなら別だけど・・・。」

「あ、そういえば、魔晶石って魔晶石ギルドに入らずに採掘してもいいのですか?」

「うーん、ギルド会員にはギルドに収めるよう義務付けされているけれど、会員以外には特段の制限はないわね。
 だから自由に採掘してもいいのじゃないかと思うけれど、魔晶石カッターのような魔道具が無いと採掘は先ず無理よ。
 仮に一般の人が魔境に入ることができたとしても、できるのは、精々、地表にある露出鉱床から崩落した魔晶石の欠片かけらを拾うぐらいかな。
 そんなんだとそれこそ金にはならないと思うよ?
 それに魔晶石ギルド以外で魔晶石の加工ができるところは正式には無いの。
 そもそも魔晶石って加工してなんぼのところがあるからね。」

 疑似百葉箱で遠くの場所を監視してますとは言えないので、ユリアさんに尋ねるとしても通り一遍の話しかできませんでした。
 それでも、むしろ疑問が深まりましたね。

 あの男性、魔境に入って何をしているんだろう。
 冒険者?それとも魔晶石の潜りの採掘?

 目的があって入っているのだろうけれど・・・。
 それなりの見返りがあるのかしらん?


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  1月19日、一部の字句修正を行いました。
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