魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

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第四章 魔晶石採掘師シルヴィ

4-18 山野分 その二

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 山野分とスタンピードの違いは、下降寒気団の規模と威力の違いなのでしょうけれど、山野分の方が大規模でスタンピードの方が小規模なことでしょうか。
 そうして魔物の動きも違います。

 スタンピードの場合は、被害を受ける地域が局所的なので、中心域の魔物が周辺に移動することでテリトリー争いが起きるわけですけれど、左程広範囲には拡がらないのが普通なんです。
 ところが山野分の場合は、被害を受ける地域が数倍から数十倍になることと、強烈な風速が至る所で共鳴現象を引き起こすために、魔晶石の鉱床が破壊されることもあるわけで、この寒気と強風と共鳴現象を嫌がって魔物たちが一斉にその中心点から避難しようとします。

 もちろん後々縄張り争い的なものも起こりますが、当面は寒気と共鳴現象による騒音から逃れるために魔物が放射状に暴走するのです。
 その暴走中は、魔物同士が触れ合うほど接近しても喧嘩はしません。

 喧嘩する余裕があれば、先ず逃げることが優先なのです。
 そうして進路上にあるものは何でもなぎ倒すのが山野分の際の魔物の特徴でしょうか。
 
 そのために頑丈に作られた長城ですら破壊されることがしばしば起きるのです。
 そうして破壊された長城の内部に入り込んだ魔物は、山野分の収束と共にそこで縄張り争いを始めるわけです。

 この際の攻撃対象は、魔物であるかヒト族、亜人族若しくは獣人族であるかなど一切問いません。
 近くに生息するもの全てが魔物にとっての敵なのです。

 共鳴現象の所為で一時的に聴覚が失われて魔物が非常に興奮している状態ですので、スタンピードの際と違って見境なく攻撃を仕掛けてくるのが特徴です。
 その意味では城壁内で防衛に当たるスタンピードの方が余程安全のような気がします。

 魔物も城壁や隔壁を邪魔とは思ってはいても、さすがに敵とは認識していませんから・・・。
 いずれにせよオブテラス獣王国およびヘイネマン共和国からの救援要請により、晩冬月6日早朝、魔晶石ギルドから採掘師二班と支援班一班の総勢30名が、ワイオブール公国の公都飛行場に移動し、準備されていた特別飛空艇でヘイネマン共和国の飛行場へ飛び立ったのです。

 私にはこの二か国の地理の方はよくわかりませんが、オブテラス獣王国の飛行場よりもヘイネマン共和国の飛行場の方が現場に近いのだそうですよ。
 ヘイネマン共和国の飛行場に到着したのは、6の時をわずかに越えた辺りでした。
 
 共和国手配の馬車に乗って揺られること約一時間、ようやく現場に付きましたが、長城から2ガーシュ程離れた都市近傍で魔物との攻防が繰り広げられて居ました。
 応急用の防衛柵を張り巡らして、共和国軍と獣王国軍が連合して必死の防戦に努めていますが、魔物に対して左程のダメージを与えられず、負傷者が増えて行くので正にじり貧でした。

 もう半日私たちの到着が遅ければ危なかったかもしれません。
 目の前には体長30m越え、重量で150トン超えの地竜のような大物多数が群れており、防衛柵も半壊しています。

 ダンカンさんの了解を得て、私がすぐにライトアローを連射し、一気に群れを殲滅します。
 現場には怪我人が多数いました。

 後方には仮設テントがあって負傷者の救護・治療に当たっているようですが、明らかに手が足りなさそうです。
 支援班には4名の治癒師が派遣されていて、すぐに仮設テントの方へ手伝いに行きましたが、この防衛柵付近にいる怪我人までは手が回らない様子です。

 中には、手足がもげたりしてかなりの重傷者が見えるのですが・・・。
 正直なところ随分迷いましたが、人の命をはかりにかけるわけにも行きません。

 誰にも断らず、私が無詠唱でエリアヒールを掛けました。
 手足の再生まではしませんでした。

 あるいは、できるかも知れませんけれど、場合によっては魔力切れになる恐れがあったからです。
 怪我人は、自分たちの怪我が快方に向かったのを知って小さな歓声を上げました。

 しかしながら、彼らにはなぜ怪我が治って行くのかがわからなかったはずです。
 でも、それに気づいた人が居ました。

 第二班の班長であるクレバインさんです。
 吃驚びっくりしたような表情を見せながらも、小声で言いました。

「何だ?
 シルヴィ、お前、上級の治癒魔法が使えるのか?」

 あれ?
 無詠唱だし、ライトアローを放ちながらだから私の仕業ってわかるはずないのに。何で分かったんだろう?

 その声に誘われるようにダンカンさんも言いました。

「また、やらかしたな。
 クレバインは魔力の流れが見えるんだから内緒にしようたって無駄だぞ。
 まぁ、エリアヒールあたりか・・・。
 お前は本当に何でもありだな。
 多分、ウチの治癒師ではできる者が居ないな。
 できるだけ隠しておけ。
 知られると、他所のギルド辺りから色々とうるさく言ってくる奴が居るからな。」

 あんれ、まぁ。
 魔法を使うと人にばれるなんて初めて知りました。

 魔法の二重発動ができる人は少ないから、ほぼ同時に使えば気づかれないと思っていたんだけれど・・・。
 うーん、甘かったか。

「はい、気を付けます。
 でも放置するわけにも行かなかったので・・・。」

 にやりと笑ってダンカンさんが言った。

「おうよ。
 ただなぁ、今回の俺たちの仕事は魔物討伐だ。
 怪我人は治癒師に任せておけ。
 まぁ、奴らでどうにもならないようならお前が手伝ってもいい。
 但し、あまり目立つなよ。
 少なくとも欠損部位を再生したり、死人を生き返らせるのは無しだ。
 お前ならひょっとすればやりかねんからな。」

 あれ、ドキッとしちゃいましたよ。
 うん、・・・、確かに「黄泉帰りよみがえり」って陰陽術にあったはず。

 やったことは無いけれど、あるいはできるかもしれません。
 怪我や病気を修復しないまま掛けたらアンデッドになりそうな気もするけれど、二日以内の死亡ならば一時的に生き返らせることができるみたいなんです。

 但し、ヒューズ総務部長さんみたいに死因が明確でない者を生き返らせても結局は同じ原因で死なせてしまいますよね。
 怪我や病気で死亡の場合は、黄泉帰りの術後に治療を施して完治できれば生き続けることができるかもしれません。

 四肢の再生は、オドに関わるのですけれど、失われた欠損部位に代わるオドを生成することで再生できるとされていますが、一瞬で手足が生えるわけではありません。
 陰陽術のそれは、魂治生法こんぱるせいほうという術です。

 欠損部位のオドを生み出すことに莫大な魔力を要し、そのオドの維持が結構難しいようです。
 そうして、十日から三月ほどの時間をかけてゆっくりと再生するものです。

 まぁ、そうは言いながらも指やら手がじわじわと生えてくるわけですから少々不気味ですよね。
 余り、他人目ひとめを引くようなことはできるだけ避けましょう。

 
 今回使ったエリアヒールは、治癒師が使っていたヒールを私なりに改良し、領域を限定してヒールを掛けることにより一挙に複数の治癒を促すことができるんです。
 クレバインさんは上級の治癒魔法と判断したようですが、正直なところエリアヒールが治癒魔法にあるのかどうかも私は知らないんです。

 それはさておき、今は長城内に侵入した魔物の殲滅を急がねばなりません。
 長城の決壊により長城の内側に入り込んだ魔物は百匹以上の数になります。

 そのうち三割から四割はこの防衛柵近辺で討伐しましたが、残りは周辺に拡散しています。
 私が、周辺探査をかけ魔物のいる場所へ移動し、順次殲滅を図ることにしました。

 生憎と騎竜は居ませんので、共和国が手配してくれた馬に乗って移動します。
 但し、この馬は魔物に近づくとビビッて動かなくなりますので精々百メートルぐらいまで近づくのがやっとです。

 まぁ、その距離まで近づけば、ライトアローで狙撃できますから大丈夫なんですけれどね。
 私のボディガード兼お目付け役(私って信用ないのかしらん?)で、ダンカンさんがついて回り、第一日目で決壊した長城の南部地域を掃討し、次いで二日目は北部地域に回りました。

 この二日間で長城内に侵入した魔物の掃討戦は終わりましたが、決壊した長城の仮修理完了までは共和国に滞在しましたので、それから三日逗留し、晩冬月11日、私たちは所期の目的を達成して引き上げることになりました。
 因みに出立前日には共和国と獣王国の幹部連中が勢ぞろいで祝宴を上げてくれました。

 私も成人していますのでお酒は飲めますけれど、たしなむ程度にしてますので、後は班長達に任せてさっさと部屋に引き上げましたよ。
 転生前も今も、酔っ払いに絡まれるのは嫌ですからね。

 そうして明くる日、共和国の飛行場から飛び立つ準備をしている飛空艇の中で異変を感じ取りました。
 凄まじい轟音が響き渡り、近場で再度山野分が発生したことを知ったのです。

 私の疑似百葉箱で位置を確認すると前回よりも少し北側の位置で山野分が正しく発生している最中でした。
 派遣された人達は、飛空艇の中に居るというのに、皆耳を抑えています。

 採掘師や加工師の職を持つ人は、いずれも音に敏感な者が多いですから、この耳をつんざくような様々な周波数が入り混じった雑音には耐えられないのでしょう。
 私は慌てて周囲に大きな結界を張って音を遮断しました。

 急に音が消えたので、ダンカンさんが顔を歪めながら言いました。

「シルヴィ、何かやったのか?」

「はい、結界を張って音を遮断しています。
 皆さんが辛そうなので・・・。」

「お前は大丈夫だったのか?」

「あ、私は常時結界を張っていて、過剰な音や攻撃はいつでも遮蔽できるようにしているんです。」

「はぁ、つくづくお前は規格外だなぁ。
 まぁ、それはともかく、続けて二度目の山野分か・・・。
 本来の救援作業は終わっているんだが、この分ではもう一度要請がかかりそうだな。

 ダンカンさんの話を裏付けるかのように、飛空艇の方はと言えば、飛び立つのをやめて慌てて格納庫へ避難を始めています。
 このまま戸外に居ると強風で吹き飛ばされかねないからでしょうね。


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  11月25日、字句の修正をいたしました。

    By サクラ近衛将監
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