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第四章 魔晶石採掘師シルヴィ
4-9 ユリア視点 その一
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私はユリア、魔晶石ギルドの事務部で採掘師たちの窓口業務をやっています。
元々は加工師の職に適性があったのですけれど、研修生の段階で落ちこぼれてしまいました。
魔晶石カッターの操作がうまく出来なかったのです。
魔石で切り出し訓練をしている時は同期生とほぼ同じレベルでした。
でも、切り出し対象が魔晶石に変わった途端、切り出し時の音程が安定せず、少なくとも黄色以上の魔晶石の切り出し調整は不適と判断されてしまったのです。
白やバラならできますけれど、残念ながら白やバラの切り出し調整では余程大きなものでない限り収入には結び付きません。
ギルドの借金を返済するためには、三級以上二級未満がぎりぎりのラインなのですが、白とバラでは最底辺の三級でしかなく、借金は減らず増え続けるのです。
従って、指導員の助言と斡旋もあって、私は加工師になることを諦め、支援部配置になったのです。
元々私の家は商人でしたから、人相手の仕事は慣れていましたので、事務部で採掘師相手の窓口業務が私の天職ではないにしても結構向いている仕事でした。
そうして過ごしてきた5年間、何とか借金を細々ながらも減らしている中で、とんでもない新人研修生が現れました。
その子は、研修二か月で研修生を卒業し、三級採掘師と三級加工師に任命されたのです。
そうなる切っ掛けは、ギルドでも稼ぎ頭として知られる一級採掘師のダンカンさんと、とある研修生のもめごとでした。
天候の急変で非常に込み合ったビット内で、台車二台が接触事故を起こし、その際に偶々駆り出されて台車を押していた研修生が禁じられているのに声を出してしまったのです。
採掘師は切れやすいですからねぇ。
特に天候の悪化で切り出しを早めなければならなかったストレスも災いしたのでしょうか、ダンカンさんがその声を出した研修生を袈裟懸けに切り殺そうとしたようです。
でもその一級採掘師の怒りに任せた一撃を寸でのところで無手で止めたのがこともあろうか、研修一月目の女の子でした。
研修生の場合、特段の事情が無い限りは成人したばかりの11歳です。
そんな子が強力な魔物相手に無傷で帰ってくるような一級採掘師の剣戟を止めることなど本来できる筈が無いのです。
ダンカンさんは、その場でさらに争うことを自重してくれて、魔晶石を納品した後で研修生二人を前に、罰を言い渡しました。
ダンカンさんらしいのは体罰ではなく、罰金を科したことでしょうか。
それもダンカンさんの一撃を止めた女の子に、採掘して来た魔晶石の切り出し調整をしろと迫り、それが出来ない場合、もしくは失敗した場合には、研修生二人に大金貨二十枚の借金を負わせると宣言したのです。
一旦言い出したなら、他人の言うことなど聞かないのが採掘師です。
魔晶石の色は暗褐色でした。
この色の魔晶石は通常であれば一級加工師が手掛けるべきものなのです。
しかしながら、採掘して来たダンカンさんの無理押しともいえる意見が通り、前代未聞の未だ資格を持たない研修生に切り出し調整をさせることになってしまったのです。
結局、一週間以内に切り出し調整をその女の子がすることになって、一級加工師のグラバンさんの元で三日間修業をし、四日目には関係者が見守る中で切り出し調整を行ったのです。
驚くべきことに、その研修生は、魔晶石の大きさから判断して一級加工師でも難しいと思われる三オクターブ分21個の切り出し調整を行い、見事にダンカンさんの課題をクリアしたのです。
ダンカンさんは、何故かその女の子を気に入り、それから度々採掘に同行したり、採掘した魔晶石の切り出し調整をその子にさせたりするようになったみたいです。
本来なら許可されない筈の異例の措置ですが、実績があることとダンカンさんが稼ぎ頭であることもあって、その無茶が通っていましたね。
そんなこんなで、私がその女の子の名前を知ったのは、ダンカンさんがそんな無茶をしているとの話を同僚から聞いてからでした。
女の子の名前は、シルヴィ・デルトン。
採掘師と加工師の両方の適性を持っている子で、研修生の中でも特に優秀らしく、指導員達から要注意人物として目を付けられているようでした。
あ、要注意人物とは言いながら、悪い意味ではなく、どうも桁外れの潜在能力を持っているらしいので指導員達がその動向に注意を払っているようなのです。
何でも昨年の研修生で落ちこぼれだった四名の内二名を無事卒業できるようにした陰の立役者でもあったようです。
未だに卒業できていない残り二名は加工師候補であり、卒業した二名は採掘師候補でした。
研修班から見て、この二人の採掘師候補生は非力故に採掘師になることは無理だろうと思われていたのですが、シルヴィは魔法と使っての身体強化の方法を教えて卒業試験に合格させたようです。
研修班では、今後は当該身体強化の手法について研修プログラムに織り込む予定のようです。
何でも、一々教えなくてもできるようになるだろうと思われていたことであり、これまで、その方法を知らないがために採掘師になれなかった者が結構いるとの噂が広がっていました。
まぁ、研修の中にしっかりと取り込まれればそうした落ちこぼれが今後は減ることになるでしょう。
それにしても、指導員も気づかなかったそうした細事に気付いて先輩である研修生に教えたシルヴィが優秀であることは間違いないようです。
私の同期のゼイラム・フォービングは、実績から言うと間もなく三級から二級に上がる気配が見えているのですが、たまたま臨時の助講師として研修班に属し、一時的にシルヴィの担当になったようなのですが、主任講師の言いつけだったので無理だろうと思いながらも、連続でファイアボール約千発、エアーカッター約千発、アイスランス同じく約千本、サンダーランス同じく約千本をやらせてみたら、それをしのけて更に余裕があるようだったとびっくりしていましたね。
偶々、ダンカンさんとのやり取りが噂になった時に、そう言えばと言いながら仲間内に話してくれた逸話です。
ゼイラム曰く、「あの子は化け物だよ。」と言っていましたネ。
そうしてそのシルヴィが、三級採掘師となってすぐに鉱区を指定して採掘に出かけ、あろうことか、ここ数年採掘されていなかった黒の魔晶石を採掘してきたのです。
しかも、57ゲール程の大きさで黒の採掘としては中程度のものでした。
それ以前にダンカンさんの採掘場で深緑色の巨大な魔晶石(重量で約6ゲレット)を採掘してきた実績もあり、シルヴィの実力は本物だと認定されました。
何度目かの黒の魔晶石の採掘が続く中、稀なことなのですが稼ぎ頭の採掘師には専任の窓口が就く慣例となっており、ライバルを押しのけて私がその栄誉を勝ち取りました。
黒の魔晶石の場合は希少価値があるため、ビットの作業員、分別所の加工師、切り出し調整の加工師、販売部の担当者など、関連の業務で黒の魔晶石に携わった者にはボーナスが出るのです。
採掘師の収入に比べればさほどの収入というわけでもありませんが、黒の魔晶石は単価が高いですからね。
相場は需給により変動しますが、黒の魔晶石2ゲールで大金貨一枚(50万ヴィル)程度、その千分の1でも2ゲールあたりで500ヴィルの金額になります。
最初の一月足らずで1350ゲールの黒の魔晶石を採掘したシルヴィは一気に稼ぎ頭に躍り出ました。
3億ヴィルを超える額を一人で稼ぐ採掘師の出現は、少なくとも私が窓口業務を始めてから初めてのことです。
まぁ、収入の三割はギルドに収められ、借金返済とギルド運営の会費になりますが、シルヴィの場合大金貨三枚ほどの借金だったので、ギルド加入後三か月足らずで既に黒字になっています。
黒字になっても三割のギルド納入金は変わらないのですが、シルヴィの場合2億ヴィル以上の貯えがありますから、極端な話、現時点で何もせずとも悠々自適の生活が送れますよね。
私の場合、シルヴィが黒の魔晶石(暗褐色や深緑色ではダメなのです。)を採掘してくると、見積価格の0.15%がボーナスとして支給されるんです。
因みに切り出し調整の加工師には正規の加工賃のほかに0.2%、分別所の加工師は0.1%、ビットの作業員は0.05%のボーナスになっています。
仮にシルヴィが今後一月の間に1000ゲールを超える黒の魔晶石を採掘してきたなら、見積価格二億五千万ヴィルの0.15%、37万5千ヴィルが私のボーナスになります。
私の月給は約12万ヴィルですからね。
その三倍のボーナスが毎月入ってくるとなれば、1年以内にギルドの借金がなくなりますよ。
そうそう、シルヴィの躍進ぶりは当然に他の採掘師たちの妬みを買うことにもなりました。
中でも支援部が普段から素行が悪いと目を付けていた者たちが徒党を組んでシルヴィを襲撃したようです。
ここでもシルヴィの規格外が炸裂、反撃を食らって襲撃者四人は一撃のもとに死体になったようです。
治癒班の報告書では、死亡者四人はいずれも高熱の物体もしくは光線で眉間を撃ち抜かれ即死したと記されていました。
現場には鏃部分が圧壊した二本の矢が残されていたのが別途確認されています。
この件については、研修班のエリオット元二級採掘師が現場検証を行って報告書を作成しています。
次いで数日後に、日ごろから素行の悪かったフィッツ・ベルンハルトが寮内で中毒(毒虫に噛まれたものと推測)で死亡しました。
更に、また毒矢を用いた仕掛け弓がA136区の入り口付近で発見され、明らかにシルヴィを狙ったものと思われますが、関係者の話では確証はないもののフィッツが前日辺りに仕掛けたものだろうと推測されています。
仕掛けは発動したものの、シルヴィには当たらず近くの岩に当たって変形した鏃付きの矢をシルヴィが私の元へ届けて来ました。
矢には毒が塗ってあるとのことで取り扱いにはずいぶん気を使いました。
フィッツの死亡については、最終的には法務部門で事故死と判断したようです。
当初はシルヴィの関与が疑われたのですが、シルヴィが採掘に出かけている間の事件発生だったので、嫌疑がかかりませんでした。
シルヴィが毒矢の仕掛けで襲撃を受けた件は、フィッツの関わりが強く疑われたところですが、本人は死亡しているために一応犯人不詳のまま終結したようです。
それやこれやで、シルヴィは「黒の魔女」とか綽名されてギルド内でも非常に目立つ存在になっていますが、私にしてみればシルヴィは絶対に福の神になるはずでした。
それにもかかわらず、正式に私が専任窓口となってすぐに鉱区変更の申請がなされたんです。
黒の魔晶石が千ゲール超えで採掘された極めて有望な鉱区を変更するなんて一体どういうことですか?
シルヴィには何とか翻意するように盛んに促してはみたのですが、いとも簡単に言いやがってくれました。
「A136区にはこれ以上黒の鉱床がありませんので他の鉱区に移ります。」
嘘でしょう?
私専任になったばかりなのに、ボーナスなしのまま?
しかしながら、シルヴィの鉱区変更の意志は固く、単なる窓口部門の私がそれ以上の無理強いもできませんので止む無く鉱区変更の手続きを進めました。
前のA136区は近場でしたけれど、シルヴィが変更先に選定したB121区もまた近場なのです。
以前のA136区は有望な鉱床が無いものと随分前に見限られた鉱区でしたが、同様にB121区もまた有望な鉱床がない地区と判断されている地域です。
おまけにA区に比べるとB区は魔物の出現頻度が高い地区なので、シルヴィにはくれぐれも注意をするように促しました。
鉱区変更してから初日は探査を行ったようですが、鉱床を発見するには至らなかったようです。
まぁ、おそらくそういうことになるだろうと予測はしていたものの、シルヴィから淡々と告げられるとやはりがっかりしますよね。
私のボーナスはどこ行った?
借金返済はどうなるの?
しかしながら、落胆した正にその翌日、シルヴィが笑顔で帰って来ました。
またまた黒の魔晶石の鉱床を見つけて、何と300ゲール超えを採掘してきたとの正式報告です。
分別所での計量では352ゲールだったということですから、凡その見積価格は8千8百万ヴィル。
私のボーナスは、これ一個だけで13万2千ヴィルですよ。
月給より多くなりますよね。
もう、これだけで頬が緩みっぱなし、目じりが下がりっぱなしです。
翌日開催された利用計画会議でのシルヴィの発言では、鉱床の埋蔵量はおよそ800ゲレット(単位がゲールではなくその千倍のゲレットですよ!!)と見込まれるそうで、おそらく採掘だけでも半年以上はかかる量になりそうです。
一番大きな塊は長さ3,3尋、最大径で2尋の巨大な魔晶石になるそうです。
間違いなくこれまでの記録を塗り替える代物ですね。
シルヴィは、それだけ大きな代物を運搬する方法が無ければ小分けするしかないけれど、それでも良いかと居合わせた幹部に尋ねたのです。
まぁ、確かに大きければよいというものではなさそうですね。
利用先もしくは販路があるならばそのまま採掘もあり得るのでしょうけれど、販路がないのであれば小分けした方が合理的ですね。
その意味では魔晶石利用計画会議に巨大魔晶石の採掘方法について諮問したのは時宜を得ていると思います。
結局販路及び運搬手段の両方についてギルドの関係先で協議するのに三か月ほど時間をもらい、方針決定を待つことになりました。
いずれにせよ、この件でもシルヴィは規格外というのが良く分かりました。
ここ最近は、ギルド全体の魔晶石採掘量が漸減していたのですけれど、シルヴィ一人の活躍で少なくとも金額収支面ではしっかりと持ち直しそうです。
元々は加工師の職に適性があったのですけれど、研修生の段階で落ちこぼれてしまいました。
魔晶石カッターの操作がうまく出来なかったのです。
魔石で切り出し訓練をしている時は同期生とほぼ同じレベルでした。
でも、切り出し対象が魔晶石に変わった途端、切り出し時の音程が安定せず、少なくとも黄色以上の魔晶石の切り出し調整は不適と判断されてしまったのです。
白やバラならできますけれど、残念ながら白やバラの切り出し調整では余程大きなものでない限り収入には結び付きません。
ギルドの借金を返済するためには、三級以上二級未満がぎりぎりのラインなのですが、白とバラでは最底辺の三級でしかなく、借金は減らず増え続けるのです。
従って、指導員の助言と斡旋もあって、私は加工師になることを諦め、支援部配置になったのです。
元々私の家は商人でしたから、人相手の仕事は慣れていましたので、事務部で採掘師相手の窓口業務が私の天職ではないにしても結構向いている仕事でした。
そうして過ごしてきた5年間、何とか借金を細々ながらも減らしている中で、とんでもない新人研修生が現れました。
その子は、研修二か月で研修生を卒業し、三級採掘師と三級加工師に任命されたのです。
そうなる切っ掛けは、ギルドでも稼ぎ頭として知られる一級採掘師のダンカンさんと、とある研修生のもめごとでした。
天候の急変で非常に込み合ったビット内で、台車二台が接触事故を起こし、その際に偶々駆り出されて台車を押していた研修生が禁じられているのに声を出してしまったのです。
採掘師は切れやすいですからねぇ。
特に天候の悪化で切り出しを早めなければならなかったストレスも災いしたのでしょうか、ダンカンさんがその声を出した研修生を袈裟懸けに切り殺そうとしたようです。
でもその一級採掘師の怒りに任せた一撃を寸でのところで無手で止めたのがこともあろうか、研修一月目の女の子でした。
研修生の場合、特段の事情が無い限りは成人したばかりの11歳です。
そんな子が強力な魔物相手に無傷で帰ってくるような一級採掘師の剣戟を止めることなど本来できる筈が無いのです。
ダンカンさんは、その場でさらに争うことを自重してくれて、魔晶石を納品した後で研修生二人を前に、罰を言い渡しました。
ダンカンさんらしいのは体罰ではなく、罰金を科したことでしょうか。
それもダンカンさんの一撃を止めた女の子に、採掘して来た魔晶石の切り出し調整をしろと迫り、それが出来ない場合、もしくは失敗した場合には、研修生二人に大金貨二十枚の借金を負わせると宣言したのです。
一旦言い出したなら、他人の言うことなど聞かないのが採掘師です。
魔晶石の色は暗褐色でした。
この色の魔晶石は通常であれば一級加工師が手掛けるべきものなのです。
しかしながら、採掘して来たダンカンさんの無理押しともいえる意見が通り、前代未聞の未だ資格を持たない研修生に切り出し調整をさせることになってしまったのです。
結局、一週間以内に切り出し調整をその女の子がすることになって、一級加工師のグラバンさんの元で三日間修業をし、四日目には関係者が見守る中で切り出し調整を行ったのです。
驚くべきことに、その研修生は、魔晶石の大きさから判断して一級加工師でも難しいと思われる三オクターブ分21個の切り出し調整を行い、見事にダンカンさんの課題をクリアしたのです。
ダンカンさんは、何故かその女の子を気に入り、それから度々採掘に同行したり、採掘した魔晶石の切り出し調整をその子にさせたりするようになったみたいです。
本来なら許可されない筈の異例の措置ですが、実績があることとダンカンさんが稼ぎ頭であることもあって、その無茶が通っていましたね。
そんなこんなで、私がその女の子の名前を知ったのは、ダンカンさんがそんな無茶をしているとの話を同僚から聞いてからでした。
女の子の名前は、シルヴィ・デルトン。
採掘師と加工師の両方の適性を持っている子で、研修生の中でも特に優秀らしく、指導員達から要注意人物として目を付けられているようでした。
あ、要注意人物とは言いながら、悪い意味ではなく、どうも桁外れの潜在能力を持っているらしいので指導員達がその動向に注意を払っているようなのです。
何でも昨年の研修生で落ちこぼれだった四名の内二名を無事卒業できるようにした陰の立役者でもあったようです。
未だに卒業できていない残り二名は加工師候補であり、卒業した二名は採掘師候補でした。
研修班から見て、この二人の採掘師候補生は非力故に採掘師になることは無理だろうと思われていたのですが、シルヴィは魔法と使っての身体強化の方法を教えて卒業試験に合格させたようです。
研修班では、今後は当該身体強化の手法について研修プログラムに織り込む予定のようです。
何でも、一々教えなくてもできるようになるだろうと思われていたことであり、これまで、その方法を知らないがために採掘師になれなかった者が結構いるとの噂が広がっていました。
まぁ、研修の中にしっかりと取り込まれればそうした落ちこぼれが今後は減ることになるでしょう。
それにしても、指導員も気づかなかったそうした細事に気付いて先輩である研修生に教えたシルヴィが優秀であることは間違いないようです。
私の同期のゼイラム・フォービングは、実績から言うと間もなく三級から二級に上がる気配が見えているのですが、たまたま臨時の助講師として研修班に属し、一時的にシルヴィの担当になったようなのですが、主任講師の言いつけだったので無理だろうと思いながらも、連続でファイアボール約千発、エアーカッター約千発、アイスランス同じく約千本、サンダーランス同じく約千本をやらせてみたら、それをしのけて更に余裕があるようだったとびっくりしていましたね。
偶々、ダンカンさんとのやり取りが噂になった時に、そう言えばと言いながら仲間内に話してくれた逸話です。
ゼイラム曰く、「あの子は化け物だよ。」と言っていましたネ。
そうしてそのシルヴィが、三級採掘師となってすぐに鉱区を指定して採掘に出かけ、あろうことか、ここ数年採掘されていなかった黒の魔晶石を採掘してきたのです。
しかも、57ゲール程の大きさで黒の採掘としては中程度のものでした。
それ以前にダンカンさんの採掘場で深緑色の巨大な魔晶石(重量で約6ゲレット)を採掘してきた実績もあり、シルヴィの実力は本物だと認定されました。
何度目かの黒の魔晶石の採掘が続く中、稀なことなのですが稼ぎ頭の採掘師には専任の窓口が就く慣例となっており、ライバルを押しのけて私がその栄誉を勝ち取りました。
黒の魔晶石の場合は希少価値があるため、ビットの作業員、分別所の加工師、切り出し調整の加工師、販売部の担当者など、関連の業務で黒の魔晶石に携わった者にはボーナスが出るのです。
採掘師の収入に比べればさほどの収入というわけでもありませんが、黒の魔晶石は単価が高いですからね。
相場は需給により変動しますが、黒の魔晶石2ゲールで大金貨一枚(50万ヴィル)程度、その千分の1でも2ゲールあたりで500ヴィルの金額になります。
最初の一月足らずで1350ゲールの黒の魔晶石を採掘したシルヴィは一気に稼ぎ頭に躍り出ました。
3億ヴィルを超える額を一人で稼ぐ採掘師の出現は、少なくとも私が窓口業務を始めてから初めてのことです。
まぁ、収入の三割はギルドに収められ、借金返済とギルド運営の会費になりますが、シルヴィの場合大金貨三枚ほどの借金だったので、ギルド加入後三か月足らずで既に黒字になっています。
黒字になっても三割のギルド納入金は変わらないのですが、シルヴィの場合2億ヴィル以上の貯えがありますから、極端な話、現時点で何もせずとも悠々自適の生活が送れますよね。
私の場合、シルヴィが黒の魔晶石(暗褐色や深緑色ではダメなのです。)を採掘してくると、見積価格の0.15%がボーナスとして支給されるんです。
因みに切り出し調整の加工師には正規の加工賃のほかに0.2%、分別所の加工師は0.1%、ビットの作業員は0.05%のボーナスになっています。
仮にシルヴィが今後一月の間に1000ゲールを超える黒の魔晶石を採掘してきたなら、見積価格二億五千万ヴィルの0.15%、37万5千ヴィルが私のボーナスになります。
私の月給は約12万ヴィルですからね。
その三倍のボーナスが毎月入ってくるとなれば、1年以内にギルドの借金がなくなりますよ。
そうそう、シルヴィの躍進ぶりは当然に他の採掘師たちの妬みを買うことにもなりました。
中でも支援部が普段から素行が悪いと目を付けていた者たちが徒党を組んでシルヴィを襲撃したようです。
ここでもシルヴィの規格外が炸裂、反撃を食らって襲撃者四人は一撃のもとに死体になったようです。
治癒班の報告書では、死亡者四人はいずれも高熱の物体もしくは光線で眉間を撃ち抜かれ即死したと記されていました。
現場には鏃部分が圧壊した二本の矢が残されていたのが別途確認されています。
この件については、研修班のエリオット元二級採掘師が現場検証を行って報告書を作成しています。
次いで数日後に、日ごろから素行の悪かったフィッツ・ベルンハルトが寮内で中毒(毒虫に噛まれたものと推測)で死亡しました。
更に、また毒矢を用いた仕掛け弓がA136区の入り口付近で発見され、明らかにシルヴィを狙ったものと思われますが、関係者の話では確証はないもののフィッツが前日辺りに仕掛けたものだろうと推測されています。
仕掛けは発動したものの、シルヴィには当たらず近くの岩に当たって変形した鏃付きの矢をシルヴィが私の元へ届けて来ました。
矢には毒が塗ってあるとのことで取り扱いにはずいぶん気を使いました。
フィッツの死亡については、最終的には法務部門で事故死と判断したようです。
当初はシルヴィの関与が疑われたのですが、シルヴィが採掘に出かけている間の事件発生だったので、嫌疑がかかりませんでした。
シルヴィが毒矢の仕掛けで襲撃を受けた件は、フィッツの関わりが強く疑われたところですが、本人は死亡しているために一応犯人不詳のまま終結したようです。
それやこれやで、シルヴィは「黒の魔女」とか綽名されてギルド内でも非常に目立つ存在になっていますが、私にしてみればシルヴィは絶対に福の神になるはずでした。
それにもかかわらず、正式に私が専任窓口となってすぐに鉱区変更の申請がなされたんです。
黒の魔晶石が千ゲール超えで採掘された極めて有望な鉱区を変更するなんて一体どういうことですか?
シルヴィには何とか翻意するように盛んに促してはみたのですが、いとも簡単に言いやがってくれました。
「A136区にはこれ以上黒の鉱床がありませんので他の鉱区に移ります。」
嘘でしょう?
私専任になったばかりなのに、ボーナスなしのまま?
しかしながら、シルヴィの鉱区変更の意志は固く、単なる窓口部門の私がそれ以上の無理強いもできませんので止む無く鉱区変更の手続きを進めました。
前のA136区は近場でしたけれど、シルヴィが変更先に選定したB121区もまた近場なのです。
以前のA136区は有望な鉱床が無いものと随分前に見限られた鉱区でしたが、同様にB121区もまた有望な鉱床がない地区と判断されている地域です。
おまけにA区に比べるとB区は魔物の出現頻度が高い地区なので、シルヴィにはくれぐれも注意をするように促しました。
鉱区変更してから初日は探査を行ったようですが、鉱床を発見するには至らなかったようです。
まぁ、おそらくそういうことになるだろうと予測はしていたものの、シルヴィから淡々と告げられるとやはりがっかりしますよね。
私のボーナスはどこ行った?
借金返済はどうなるの?
しかしながら、落胆した正にその翌日、シルヴィが笑顔で帰って来ました。
またまた黒の魔晶石の鉱床を見つけて、何と300ゲール超えを採掘してきたとの正式報告です。
分別所での計量では352ゲールだったということですから、凡その見積価格は8千8百万ヴィル。
私のボーナスは、これ一個だけで13万2千ヴィルですよ。
月給より多くなりますよね。
もう、これだけで頬が緩みっぱなし、目じりが下がりっぱなしです。
翌日開催された利用計画会議でのシルヴィの発言では、鉱床の埋蔵量はおよそ800ゲレット(単位がゲールではなくその千倍のゲレットですよ!!)と見込まれるそうで、おそらく採掘だけでも半年以上はかかる量になりそうです。
一番大きな塊は長さ3,3尋、最大径で2尋の巨大な魔晶石になるそうです。
間違いなくこれまでの記録を塗り替える代物ですね。
シルヴィは、それだけ大きな代物を運搬する方法が無ければ小分けするしかないけれど、それでも良いかと居合わせた幹部に尋ねたのです。
まぁ、確かに大きければよいというものではなさそうですね。
利用先もしくは販路があるならばそのまま採掘もあり得るのでしょうけれど、販路がないのであれば小分けした方が合理的ですね。
その意味では魔晶石利用計画会議に巨大魔晶石の採掘方法について諮問したのは時宜を得ていると思います。
結局販路及び運搬手段の両方についてギルドの関係先で協議するのに三か月ほど時間をもらい、方針決定を待つことになりました。
いずれにせよ、この件でもシルヴィは規格外というのが良く分かりました。
ここ最近は、ギルド全体の魔晶石採掘量が漸減していたのですけれど、シルヴィ一人の活躍で少なくとも金額収支面ではしっかりと持ち直しそうです。
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その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
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そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。
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