魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

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第四章 魔晶石採掘師シルヴィ

4-6 新たな鉱床

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 晩秋月25日(橙曜日)、朝食を済ませてからアルスと一緒に竜舎のゲートを出ます。
 向かう先は略西北西、B区と呼ばれる地域であり、A区と並んでギルド創設当時に採掘が手掛けられた地区と聞いています。

 最初の百年余りで鉱床は枯渇し、以後は全く出ていない地区の様です。
 A136区も似たような状況だったのですが、少なくとも40年ほど前までは魔晶石が出ていたところだったようですよ。

 そんなこんなで、もう百年余りも魔晶石が出ていないところから黒の魔晶石を持ち帰ったなら、またまた大騒ぎになるのでしょうね。
 尾行者がいないことを確認の上、アルスと共に昨日確認していた位置へ転移です。

 そこから南側の崖を掘り進み、ある程度進んでから今度は下向きのトンネルを掘ります。
 途中に少し広めの待機所を作って、アルスにはそこで待ってもらいます。

 アルスも最初に転移した時には随分と驚き興奮していたようですが、乗り手がしっかりと手綱を抑えていると落ち着くものです。
 今では転移にもすっかり慣れて、少々のことがあっても全く動じません。、

 例によってトンネル入り口は岩で埋め隠し、待機所にはLEDもどきの照明をつけておきます。
 そこから徐々に斜めのトンネルを折り返しながら掘り進め、地下42mに達しました。

 私の目の前に見える鉱床はかなり大きなもので、最大の大きさで切り出せば、長さが5m最大径で3mほどの24面体がとれそうですが、さすがにその大きさはマジックバックでは運べません。 
 取り敢えず、周辺の支脈鉱床から切りだして、ほどほどの大きさにし、最大級のものは後回しにすることにしました。

 これほど巨大な黒の魔晶石の利用先が、私ではちょっと思いつかないのですが、販売部もしくは開発部なら何かアイデアがあるのでしょうかね?
 ひとつ、利用計画会議で爆弾を落としてみましょうか?

 その日は、トンネル内で半日を費やし、350ゲール前後の黒の魔晶石二塊を採掘しました。
 例によって、絶縁布で厳重に梱包した後、1個はマジックバッグへ、もう一個はインベントリに収容です。

 11の時には、入り口近くの峡谷の底にあって、一路ピットを目指します。
 昨日は遭遇しなかったのに、今日は帰宅途中で二回も魔物と遭遇しちゃいました。

 一匹は肉食恐竜のティラノザウルスを更に大きくしたようなアブレノルスと言う恐竜です。
 二足歩行ができるところも、顔立ちも、昔図鑑で眺めたティラノザウルスの画像によく似ていますが、体長12尋(約18m)、重量44ゲレット(約22トン)は、さすがにでかすぎです。

 でもアレスが怖がっていますからサクッと倒しちゃいます。
 向こうが餌とみて接近している間にライトアローで、眉間に穴を開けました。

 でもすぐに倒れないのは、自分が死んだことを末端の筋肉が認識していないからです。
 で、次に放ったのが、エアーカッターです。

 狙ったのはぶっといアンヨです。
 三本指の足跡だけで2mを超しますから、太さも並のものじゃありません。

 アンヨで一番細い部分でも太さは80センチぐらい?
 胴体近くの腿の部分は2mを優に超すでしょう。

 で、その片脚の細い部分を狙って特大のエアーカッターを放ちました。
 見事に命中し、大きな片脚がバッサリと切断されたのです。

 いくら筋肉の反応が遅くても、足の支えがなければ突進は止まります。
 盛大な砂煙を上げて30mほど手前で倒れて、もがいています。

 倒れてから動かなくなるまでは2分ほどかかったかもしれません。
 恐るべし恐竜。

 脳が死んでから二分以上も動き回れる可能性があるということです。
 今後ともその点を勘案しつつ魔物狩りをすることにいたしましょう。

 因みに、でかすぎるので持ち帰ってギルドに提出する部材は、魔石と牙と爪だけにしました。
 勿論、身体の方もインベントリに収納してます。

 将来的に何かに売れる可能性もありますし、アブレノルスの肉は少々固いけれど食べられるのです。
 もう一匹は、肉食飛行生物でブリザデスという犬の亜人であるコボルトに羽をくっつけたような魔物です。

 翼長はせいぜい3mと可愛いものですが、こいつは群れで襲ってきます。
 この時も20羽近くが空から襲ってきました。

 周囲に結界を張り、同時に高周波による衝撃波を周辺に放ちました。
 勿論周囲1キロ以内に人がいないことを確認した上での攻撃魔法です。

 空気の衝撃が、ブリザデスの軽い身体を吹き飛ばし、内臓を損傷させて一瞬で殲滅しました。
 このブリザデスは、魔物図鑑によれば、有用な素材がありませんし、肉も不味いらしいので、魔石のみ回収しました。

 二度の魔物襲撃に遭っても無事に切り抜け、私とアルスはピットに帰着しました。
 時刻は日没まであと半時ほどでしょうか。

 例によって分別所で魔晶石を預け、いつもの通り、色、重量、採掘師の名前の確認等に立ち会い、事務部のユリアさんに今日の報告です。
 300ゲール超えの黒魔晶石を取ってきたという簡易の報告書を提出すると、本当にあふれんばかりの笑顔を見せました。

 よかったですね。
 少ないですけれどユリアさんにもボーナスが入りますよ。

 ついでに解体所に立ち寄って、魔石と牙と爪を預けてきました。
 ほとんどの採掘師は、魔物の魔石なんか持ち帰ってはくれないのですけれど、私だけは持ち帰ってくることを解体所の係員は知っています。

 係員の名はアレックス君、この半月足らずですっかり顔なじみになってしまいした。
 この魔石や有用物もちゃんと小遣い程度の金にはなるのです。

 多分、大銀貨二枚から三枚程度にはなるはずなのです。
 チリも積もれば何とやらで、数が多ければ馬鹿にならない額になるはずなんですけれど、確かに面倒ではありますね。

 例えば、解体に時間を取られると採掘の作業時間に影響を与えますし、帰路であれば日没を心配しなければなりません。
 特に普通の採掘師は、ピットから離れたところに鉱区設定をしていますから、時間的に余裕が無いというのが実情でしょう。

 魔境でしかも単独で野営をするなんてことは無謀に過ぎるし、陽が沈んでからの行動は余程のことがない限り、してはならない禁忌の一つなのです。
 私は、命大事にがモットーですから、無茶はしないつもりです。

 明日は、巨大な黒の魔晶石の利用方法について、魔石利用計画会議に出してみましょう。
 明日の会議で議案になるのは今日収めた352ゲールの黒の魔晶石ですが、これから一連の黒魔晶石の採掘が続きますし、事前に決めてもらわないと巨大な魔晶石をどう扱うべきか私も困ってしまいます。

 まぁ、正直に言えば、今日の採掘場所から巨大な魔晶石をそのまま取り出すのは普通の方法では至難の業です。
 トンネルを広げて人海作戦で運び上げるか、私がインベントリの秘密をばらして運び込むか、それとも運べるように小さく分割してピットに運び込むかの三通りしかありません。

 一番目の方法は、私の能力の一つである探査能力がばれてしまいますからね。
 できれば避けたいところです。

 二番目の方法もインベントリ持ちがばれると色々と妬みを買いそうですので、やはり避けたいところです。
 従って消去法で三番目の方法しかないわけですが、お歴々がそれを許してくれるかどうかですよね。

 単純に言ってピンポイントの採掘場所はギルドに対しても秘匿できるのが採掘師の権利です。
 仮にこれが守れないとなれば、ギルドが採掘師を出し抜いて横取りできちゃいます。

 ギルドの創立趣旨に反することにもなるでしょう。
 ギルドはそもそも会員の特権を守るための組織で会って、会員を従属させる組織ではないのです。

 まぁ、明日の会議では巨大な黒の魔晶石の塊が存在することと、ピットに運ぶためにはどうしても細分化するしか現状では方法がないことを伝えることにしましょう。
 例えばもっと大きなマジックバックなどがあるのであれば、それを教えてもらうことにしましょう。

 幹部の方が採掘場所を見せてくれと言ってもお断りするつもりですよ。
 私の能力の秘密を守るためには相応のツッパリも辞しません。

 ◇◇◇◇

 夕食後は例によってヒルトップへ跳んで、ツアイス症候群の関連で、ああでもないこうでもないと試行錯誤を繰り返しましたが、進展はゼロのまま寮に戻りました。
 労多くして功ならずとは、こういうことでしょうか。

 すんごく疲れた気がします。
 また、明日、頑張ろう。

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