魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

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第四章 魔晶石採掘師シルヴィ

4-3 「黒の魔女」?「黒の死神」?

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 例の襲撃者四人を正当防衛で殺害してから三日足止めを食らいました。
 聴聞会的なものが開催されて色々と聞かれましたが、一応無事に切り抜けた様です。

 それまでは原則的に禁足処置で、寮から出られませんでした。
 それが解けたのは晩秋月の1日(橙曜日)でした。

 因みにこの日、前月分の私の収支決算表を事務部から渡されました。
 それによると、収入の部が黒の魔晶石2塊で大金貨58枚相当(2千9百万ヴィル)、深緑の魔晶石の1割分で大金貨102枚(5100万ヴィル)、暗褐色の3オクターブ分の加工労賃が大金貨20枚(千万ヴィル)で合計九千万ヴィルというとんでもない報酬額になりました。

 このうち3割がギルドに源泉徴収されますので、差額は6千3百万ヴィルになり、ここからこれまでの借金が棒引きされます。
 借金総額では現在注文中の装備まで含めても今のところ大金貨6枚分(300万ヴィル)に満たない額でしたので、私の口座には6千万ヴィル(ファンダレル通貨では1億2千万ルーネ)を超える額が丸々残っているのです。

 6千万ヴィルは大金貨で120枚相当になりますから、父曰く、大金貨10枚で父の7年から8年分の収入になるようなので、その12倍というと、父並みの収入が得られる人の生涯収入の3人分を超えるような気がします。
 うーん、これでもう仕事をしないもいいぐらいなのですが、若いものが遊んで暮らしてはいけませんよね。

 魔晶石採掘師や加工師の「職」は、神様から頂いた大事な天職ですから命大事に長続きするようにいたしましょう。
 但し、私ばかりが黒を採掘してくるとやっぱり妬みを買っちゃいますよね。

 この辺をどうしようかとは思っているのですけれど・・・。
 なんか周りが色々噂を立てて居るみたいです。

 聴聞会も終わって私の正当防衛がほぼ認められたことから、噂も好意的なモノが多いのですが、それでもちょっと危ない話もありそうです。
 研修中の同期生から聞いた話ですが、講師や助講師の間では「黒の魔女」とか「黒い死神」とか言う余り喜べない渾名が出てるそうです。

 何でも「魔女」は手を出すと危ない女の意味だそうで、「死神」は四人の採掘師を瞬殺したからだそうですが・・・。
 瞬殺って、誰か見ていたんでしょうか?

 周辺には誰もいなかった筈なのに・・・。
 うん?

 そうか、死体の検視をやって死因がいずれもライトアローの一発だけだからそんな推測がなされたのかな?
 でも魔女とか死神とか成人なりたての女の子に付ける渾名あだなじゃないですよねぇ。

 まぁ、そのお陰でチョットは恐れられたようで、ストーカーも5名ほど減りまして、今は二人だけがついて来てますね。
 この二人仲は良くなさそうで互いにけん制しながらも、私の後を付け回しています。

 まぁ、いつものように曲がりくねった谷間の道や幾つもの分岐がある場所で、視界から消えては採掘所へ向かっていますので、彼らは毎日無駄にA136区内を彷徨さまよっているだけなんですけれどね。
 晩秋月3日と11日の銀曜日はお休みですが、後は一日おきに採掘に向かっていましたので、12日(白曜日)には実質的な切り出しを終えていました。

 切り出しに出かけた日は、都合8回で魔晶石は全部で12個、内9個は60ゲール程度の小さいものですが、3個は200ゲールを超える大物です。
 12日にビットに戻った時には、小1個、大3個がインベントリに収納されており、小1個がマジックバックに入っていました。

 勿論、分別所に出すのはマジックバックのものです。
 私がビットに戻ると、それこそ下にも置かない扱いです。

 まぁ、簡易梱包された品が黒と知っていれば誰でも慎重になりますけれどね。
 これで連続8個目、重量にすると500ゲールほどの黒の魔晶石(値段にすると総額で1億ヴィル超え)を納めているのですから、当然にビットで働いている人も期待をし、そうして分別所で黒が確認されるとほっとした顔を見せるのです。

 まぁ、黒がビットに入ると作業に従事している人にも相応のボーナスが出る仕組みになっていますので、皆さんが気にする大きな理由の一つですね。
 さて、明日は採掘して来た魔晶石の利用計画会議があるので現場に出ない予定なんですが、明後日からはインベントリに収容している魔晶石を順次出して行きます。

 周囲の目を誤魔化すために、一応は現場に出かけますが、A136区内の鉱床探しがメインとなりますね。
 勿論、尾行者が居れば撒いてしまいますけれどね。

 この12日まででストーカーも無駄を悟ったのか二人の内一人は完全に落伍しました。
 まぁ、結構長い間本業をせずに、鉱床の影すら見えないA136区をさ迷い歩いたのですから、さぞや借金が増えたことでしょう。

 耐えきれなくなったというところでしょうが、一人残ったのは、ダンカンさんとの話で話題に上ったフィッツ・ベルンハルトです。
 彼はスキルで毒物扱いというのを持っています。

 まぁ、私の場合、何でも鑑定を掛ければモノがわかりますけれど、本当に注意をしなければならないので新たな陰陽術というか魔法も考えねばならないでしょうかねぇ。
 翌日は午後からは暇でしたので図書館に籠り、書籍を鑑定に掛けて頭に入れる一方で、次の書籍を開けるまでの20分ほどの合間に陰陽術の色々を検討してみました。

 陰陽術と言いながら、中身はゼファー様の陰陽術擬きですから魔力を使いますし、亜空間魔法の様に他人に気付かれるような痕跡を残すわけにも行きません。
 で、見つけたのが守護霊でした。

 アスレオール世界では守護霊という発想はなく、有るのは精霊魔法や精霊召喚でしたが、これは使えそうと思ったので、早速その夜ヒラトップで試してみました。
 ある意味で十二神将を式神で呼び出すのも精霊召喚に近いものですが、クビラさんやバサラさんは精霊というより異界の騎士という感じでしょうね。

 で、アスレオール風の精霊として風と大気の精霊シルヴェストル(別名シルフ?)をイメージして召喚してみたのですが、・・・。
 出て来たのはエアリアという名の風の妖精でした。

 ちびっ子というか幼女さんなのですが、ちょっとツンデレさん風なんです。
 でもシルフでもエアリアでもお願いする役割は一緒なのです。

 フィッツ・ベルンハルトの監視をし、不審な行動がある場合は通知してもらうようにお願いしました。

 もう一人というか一体というか、水の精霊ウンディーヌを召喚したかったのですが、出て来たのは水神すいじん様、中国や日本で知られている龍ですね。
 まぁ、顕現したのは長さが1mぐらいの青い龍なんですが・・・。

 鱗がとてもきれいなコバルトブルーなんです。
 それにミニチュアなのでとってもかわいいんですよ。

 名前がないらしく、私がアスールと名付けました。
 スペイン語の「青」です。

 アスールには私の身辺警護で毒物に特化した防御をお願いしました。
 アスールは私の身体の周囲に薄い膜を張り巡らしました。

 普通の人には見えない膜ですが、この膜を毒物は通過できないのだそうです。
 従って毒物に関する限り心配する必要は殆どなくなりました。

 依然として、私の脳内センサーの中では真っ赤の色を呈しているフィッツ・ベルンハルトですが、襲撃に出たなら迎撃してあと腐れの無いよう始末します。
 毒物を使って来たなら、報復で私も毒物を使います。

 陰陽術って呪術もありますけれど、暗殺術も長けているんです。
 蠱毒といって毒を持つ生物を同じ甕の中で殺し合わせ、その中で生き残った一番最強のモノを暗殺に使うと言う秘法があります。

 正直言って、余り好みじゃないんですけれど、大きな甕の中に至る所から集めた有毒生物を放り込みました。
 そうして5日後、甕の中で他の生物を食い尽くして生き残っているのは毒百足のブラックでした。

 「ブラック」というのは、私が単に色から名づけただけで、長さが10センチもある百足で黒光りしている体色は、それだけで怖いですよね。
 これを小さな容器に入れてヒラトップで保管(飼育?)していますが、必要なときはアポート及びアスポートで任意の場所に送り込めるんです。

 あ、あくまで報復手段であって、何もないのに使ったりはしませんよ。
 ですけれど、邪悪に染まってはいません。

 奴が動いたのは、晩秋月17日(橙曜日)に280ゲール超えの大きな黒の魔晶石を分別所に預けてからでした。
 280ゲールの黒の魔晶石は、大金貨百四十枚の価値があります。

 価格にして7千万ヴィル以上です。
 その価格に目がくらんだのか、採掘場所もわからないまま私を殺そうと企み、A136区の入り口に卑劣な罠を仕掛けたようです。

 仕掛けたのは私が出かけるであろう19日(土曜日)を見越して、その前日18日緑曜日の夕暮れ時です。
 A136区入口に、彼独自のスキルで見えない警戒線を張り、其処を通過した者に弓矢を射かけると言うもので、エアリアに教えて貰いました。

 見えない警戒線と言いながら、魔力の残滓があるので私には何か異常があると言うことがわかりますけれど、他の人には見えない筈です。
 そうして、その日奴はアリバイ作りのために寮内に籠る計画のようです。

 殺気を見せなければ、或いは後をつけなければ悟られないと、判断したのでしょうが、愚かですね。
 私は、土曜日にいつものように竜舎を出て、A136区に向かいました。

 竜舎の舎監がそれを確認していますから、私のアリバイはこの時点で成立です。
 A136区の入り口付近に仕掛けられた弓矢の罠を簡単に解除しましたが、弓と仕掛けはそのまま残して事務部に通報するつもりです。

 そのことがアリバイにもつながりますからね。
 矢は放たれたけれど、私には偶々当たらなかったということにしておくのです。

 その上でお昼過ぎに寮内の自室にいるフィッツ・ベルンハルトにブラックを差し向けました。
 呆気なかったですね。

 ベッドに寝転がっていたフィッツめがけて、空中からぽとりとブラックが顔の上に落ち、瞬時に鼻っぱしに噛みつきました。
 蠱毒の秘法で高められたブラックの毒はほとんど瞬時に全身に回り、痙攣をおこしながらフィッツは死亡しました。

 その様子をエアリアが念話で実況中継してくれましたから、フィッツの最期を見届けたのは、私だけということになりますが、無論、誰にも話しません。
 その日、私は予定通りにビットに帰り、A136区の入り口に仕掛けられた罠の事を事務部の担当者に報告しておきました。

 持ち帰ったのは放たれてから岩に当たって矢じりが少し潰れた矢だけで、本体の弓はそのまま置いてあると報告しました。
 事務部の方で適当な人物を派遣して調査することでしょう。

 フリッツの不審死はギルド内でも話題になりましたが、鼻先に蟲の噛み跡があり、毒物が検出されたことから、或いはフリッツ自身が誤って蟲を操ろうとして失敗した結果ではないかと結論付けられました。
 フリッツが毒物の扱いに長けていることは従前から仲間内で知られていたのです。

 ブラックは、無論用済み後にヒラトップに戻しましたから、寮内でいくら探しても見つかりません。
 こうして一つの完全犯罪が終わり、姑息な手段を採ろうとした哀れな男の魂が天上?いや地獄でしょうかねぇ・・・、ともかく何処かへ召されたわけです。

 私が持ち帰った矢には当然の様に毒物が塗られており、罠の痕跡からフリッツの仕業ではないかという憶測がギルドに流れましたが、本人が既に死亡していることから、すぐに噂は消えて行きました。
 その代わり、「黒の魔女には絶対手を出すな、下手に手を出せば祟られるソ。」という噂が徐々に広がっていましたね。

 うん、想定外だけれど・・・・、これで私に余計なちょっかいを出す人が減ればそれでもいいかな?
 しょうがないのでそう思うことにしています。

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