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第四章 魔晶石採掘師シルヴィ
4-2 ストーカーって嫌らしいですよね
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黒の魔晶石を採ってきた翌日は、魔晶石の利用計画の会議ですので、採掘には出かけません。
まぁ、幹部連中が集まっての出来レースみたいなものですから、あれよあれよという間に魔晶石の利用計画が決まり、了承されました。
私が採掘して来た魔晶石ですので自分でカッティング調整をやってもいいのですが、其処は加工師さんに譲ります。
だって、私は三級加工師、本来は黒の魔晶石の加工はできないのです。
なぜか、採掘自体は三級でも構わないのですけどね。
従って、会議の後は骨休めで、図書館で書籍を漁り、それに飽いたら寮でごろごろしていました。
昼食、夕食とも、ねめつける様な嫌な視線を何度となく感じていますね。
私の脳内マップで赤色を呈する要注意人物が最低でも8人はいそうです。
勿論、鑑定をかけてますので名前を含めて個人データは全てわかって居ます。
プライバシーの保護?個人情報の保護?そんなもの、外に出さなけりゃわからないでしょう。
翌日は、朝食を終えたらA136区に出かけました。
竜舎を出て間もなく、ストーカーらしき人物の群れに気付きました。
少なくとも2グループか3グループ、全部で11名ほど居そうです。
これがつかず離れず後をついてくるみたいです。
距離的には数百メートル離れてますけれどね・・・。
まぁ、普通は単独で動く採掘師にしては、寄り集まってつるむなんて非常に珍しい行動ですよね。
私が採掘区画として申請したA136区には、入ってすぐに、幾度か曲がりくねった隘路があって、背後をつけていても視界から消える部分がたくさんあるんです。
そこに入ってから、私はアルスをかなり速いペースで走らせました。
尤も、走るのは精々数百メートルで、相手の視界から一時的に消えた時点で、アルスと一緒に別な場所へ転移なのです。
消えた場所から1ガーシュほども東へ離れた谷間の道へ移動、アルスを一旦止めて、そこからさらに転移して、一昨日に採掘したトンネル内に転移しました。
ストーカーの連中は、私の姿を突然見失って、焦りながら、あらぬ方向を探している筈です。
入口が大量の岩で覆われたトンネル内ですので、少なくとも外から見たんじゃ絶対に居場所はわかりません。
まぁ、彼らの目的は、三級になったばかりの小娘の採掘場所を突き止めて奪うつもりなのでしょうけれど・・・。
良くも似た者同志を集めたものですね。
それに私が生きている限り、採掘場所の指定者の名義変更はできませんから、採掘場所が目当てなら私を生かしておくつもりはないのでしょう。
今のところは単に私の後をつけているだけなので、このアスレオールでは犯罪という訳ではありません。
何か手を出してくるようならば、採掘師を廃業するぐらいの罰は与えても構わないですよね。
私って、結構ネクラで腹黒なんですよ。
トンネルの中は暗いですからね、入るとすぐにLED擬きの照明を付けました。
私は暗闇でも空間把握はできますけれど、アルスが可哀そうですから、灯りは必要なんです。
アルスは階段の下で待ってもらい、私は斜路の階段を上って採掘場所へ。
お昼まで作業をして、一旦、アルスのところに戻ります。
アルスは飼葉代わりに配合飼料を食べますし、相応の水分補給も必要なのです。
一応、配合飼料も五食分ほどインベントリに入れてありますが、一食分出してアルスと一緒にお昼を食べるんです。
インベントリの中にはお弁当が結構溜まっていますね。
二食分は要らないのですけれど、最低でも二食分、多い時は三食分をコックさんが寄越すのです。
食堂のコックさんに言わせると、三級採掘師の最初の頃は二食でも余るぐらいでも、半年ほどで二食では足りなくなるということらしいのです。
エネルギー切れで動けなくなるよりは余分に持って行けと言うことのようですね。
更には事務部から何か通知が来ているらしく、私の弁当には特に気を付けてくれと言われているらしいのです。
うーん、黒の魔晶石採掘が効いているのでしょうかねぇ。
細かい話は分かりませんけれど、私の借金はほぼ解消し、今のところ黒字に変わったと事務部の担当者から聞いています。
毎月月末には収支表が個人宛に発行されますので、それをみればはっきりわかりますが・・・。
まぁ、黒の魔晶石ですからねぇ。
小指の先ほどの大きさでも大銀貨5枚ぐらいにはなります。
私が採掘してきたのは重量にして57ゲール(≒28.5キロ)ぐらいの代物ですので、最低でも大金貨27枚か28枚程度にはなるのじゃないかと、捕らぬ狸の皮算用をしています。
あ、その前に、深緑色のデカい魔晶石もありましたね。
あれは、ダンカンさんの採掘場から掘り出したモノですので、八割がダンカンさんに、一割がギルドに、残りの一割が私の臨時収入になるようです。
これは研修員が指導員について行って、指導の一環で切り出しを行った場合の料率計算ですけれど、モノがでかいだけに、あれだけでも結構なお値段になりますからね。
いずれにせよ魔晶石の採掘で赤字から黒字に転換になっていると思います。
今、インベントリに入れてある、前回と同じような大きさの黒を出せば、完璧に暫くは遊んで暮らしても大丈夫なはずです。
まぁ、遊ぶつもりはありませんけれど・・・・。
そうだなぁ、バンデルの実家に仕送りでもしましょうか?
そうそう、三級採掘師と加工師になった際に、新たに装備を貰う(買う?)ことになりました。
全部、オーダーメイドですからね。
高いんです。
大金貨数十枚程度にはなるんですが、命大事にがモットーですので、借金が増えてもやむを得ないと判断してお願いしました。
注文してから早いもので二週間、遅いものは三カ月後に手に入るようです。
今はまだ、研修生の時に支給された服装と、事務部から借りたものだけです。
マジックバッグも借りているわけですが、上級者はマジックバッグを購入している方もいらっしゃるとか聞いています。
マジックバッグ一個が大金貨五十枚だそうですからやっぱり高いですよね。
今度の黒を納めてその収支状況が分かってからの話になりますが、マジックバッグを二、三個購入しようと思っています。
遭遇する魔物を放置するのも何となくもったいない気がするんですよ。
ですから有用な部位を集めて持ち帰ろうと思うのです。
インベントリに収容はできますが、その存在を隠して魔物を持ち帰るのは至難の業ですからね。
マジックバッグが余分にあれば、討伐した魔物の有用な部位を持ち帰っても不審には思われないでしょう。
解体作業もインベントリに入れればスキルで簡単にできちゃいますから、それほど面倒ではないんです。
A136区までの道筋は、ギルドに近い場所ですので今のところ魔物には遭遇していませんけれどね。
◇◇◇◇
その日は11の時(地球時間で午後四時半頃)まで切り出し作業を行い、前回より少し小さめのモノと前回よりも大きなモノの二個を採掘できました。
無論、黒ですよ。
インベントリに大きな方を入れ、小さな方をマジックバックに入れました。
小さな方と言っても。長さが25センチ、径が17センチほどの18面体ですから、これでもかなりのお値段の筈です。
マジックバッグに入れた方は、今回みたいに変なストーカー擬きが居る場合の対策につかいます。
例えばヒラトップに行って、訓練したり、実験室に籠っていたりして、採掘作業をしなくても採掘で持ち帰ったように偽装できますからね。
いずれ、この場所から大物を採掘するのは難しくなります。
まぁ、それなりに金になる黒は入手できますけれど、労力の割に収入は小さくなることになりますから、それよりは別の採掘場所を探した方が早いのです。
そんなわけで、採掘場所から転移して朝方消えた場所付近に現れ、帰途に着いた訳ですが、A136区の境界付近に待ち受けているのが四人ほど居ました。
転移する前に周辺の索敵を行いましたから、彼らが待ち受けているのは知っていました。
彼らを避けてギルドのビットに帰ることはできますけれど、次回も同じことが起きるでしょうから、避けられない衝突ならば、早い方がいいでしょう。
彼らも一応覚悟はできている筈です。
岩陰に隠れて魔法を準備している者が二名、崖の上で弓矢を構えている者が二名です。
彼らが動いた時が彼らの命の消える時。
人の命を狙うと言うことは、自分の命も危険に晒すと言うことを十分に承知しているでしょう。
二人が魔法を発動し、別の二人が崖の上の物陰から矢を放ちましたした。
魔法については陰陽術の「破却」で消滅させ、弓矢については結界で防ぎます。
それらの防御と同時に魔法を発動、ライトアローで四人の額を貫きました。
私の命を狙ってきた人を四人も自らの意志で殺しましたが、意外に精神的な反動はありませんでした。
もっと、なにか、こう、正当防衛にしろ人を殺せば、悔いのようなものが残るんじゃないかと考えていたんですが、私って、ネクラで腹黒な上にかなり冷酷な女みたいです。
彼らの乗って来た騎竜が居ましたので、彼らの遺体を騎竜に乗せ、手綱をアルスの鞍に付けて数珠つなぎでギルドに戻ります。
襲ってきた奴らの遺体なんぞ、面倒ですから放置しておいてもいいのですけれど、騎竜はギルドに連れ帰ってやらねばいけませんし、襲撃があった事をギルドに報告して同時に他のストーカーの戒めとしなければなりません。
無論、私が色々と疑われるのは承知の上ですが、私には彼らを襲う理由がありませんけれど、彼らにはそれなりの疑惑がかけられます。
黒の採掘を為した者を待ち伏せし、それを奪おうとしたという疑惑です。
どのみち、証人なんて居ませんから、疑われたなら疑われたで仕方がありません。
でも明白な証拠がない限り私の証言を信ずるしかない筈です。
第一に彼らは黒の魔晶石を採掘したことはこれまでに無い者であること。
第二に、彼らの申請している採掘場所はA136区とはかけ離れた場所であること。
この二つからして、彼らが殺されたのがA136区の出口付近であれば、何故彼らがそこに居たのかということが問題になる筈です。
まぁ、この関連で何日か取り調べや足止めを食らうのは仕方がないと覚悟はしています。
そんな面倒を避けるためには、遺体もパデルも放置すると言う手段もあったのですが、先ほども言ったように私は見せしめの効果を狙ったのです。
他の者がどう出て来るか・・・。
それによってまた対応を考えます。
案の定、ギルドに戻ると大騒ぎになりました。
まぁ、それでも、黒の魔晶石を分別所で加工師に引き渡し、その後、事務部へ行って事の詳細を職員に説明しました。
事情聴取は、夕食を挟んで二度にわたり行われ、深夜までかかりました。
このため、今夜はヒルトップでの訓練は無しですね。
お風呂に入って、すんなりとお休みしました。
翌日のギルド内は、四人のストーカーとそれを殺害した私の噂で持ちきりでした。
流石に私に面と向かって噂する人は居ないのですけれど、ダンカンさんが私の傍にやってきて慰めるように言いました。
「お前なら、大概の襲撃は撥ね退けるとは思っていたが、流石に四人の襲撃をはね返して、皆殺しにするとは思わなかったぜ。
まぁ、あいつらは普段から素行が悪くて、事務部の監察部門から目を付けられていた連中だ。
お前に処分はかからねぇと思うが、他にもいるかもしれないので注意は怠るなよ。」
「ありがとうございます。
今のところ、問題を起こしそうな人は、7人残ってますね。
今回の件で、諦めてくれるといいのですが・・・。」
「ほう、そこまで掴んでいるか・・・。
まぁ、向こうから仕掛けてきたら、遠慮なく殺って良いぜ。
正当防衛は許されているからな。
ただ、中には罠を仕掛けてくる奴もいるから気をつけろよ。
毒物を使う奴もいるしな。」
「毒・・・ですか?
もしや、フィッツ・ベルンハルトという人ですか?」
「何だ、知っているのか?」
「面識はありませんけれど、昨日竜舎からつけて来たグループの一人ですね。」
「なるほど、付け回されているのを承知していたのか、・・・。
なら、今後も大丈夫だろう。
お前は、ギルドのホープだからな。
絶対に潰れてくれるなよ。」
ダンカンさん、中々裏事情にも詳しい人のようですね。
少々短気なんですが、一度人柄を見込むとお節介焼きでもあり、色々知らんふりしてるくせに事情通でもあるけれど、基本的に一匹オオカミなんでしょうね。
顔を見ると若いんですけれど、年齢は57歳、ツアイス症候群のこれまでの症例から言うと危険な年齢に入っている人かもしれません。
彼を含めて、色々な血液データを内緒で集めていますけれど、顕著な研究成果はありません。
まぁ、少なくとも1年単位で見込んでいた調査研究ですから、直ぐに解かるとも思ってもいませんが、私を含めて同期生の中にツアイス君のような突発的に死亡するケースが無いことを祈るだけです。
それはともかく、今日は、魔晶石の利用計画会議もありますが、四人の襲撃者に対する正当防衛殺人について各関係先からの事情聴取が続くようですから、丸々一日が潰れそうです。
まぁ、幹部連中が集まっての出来レースみたいなものですから、あれよあれよという間に魔晶石の利用計画が決まり、了承されました。
私が採掘して来た魔晶石ですので自分でカッティング調整をやってもいいのですが、其処は加工師さんに譲ります。
だって、私は三級加工師、本来は黒の魔晶石の加工はできないのです。
なぜか、採掘自体は三級でも構わないのですけどね。
従って、会議の後は骨休めで、図書館で書籍を漁り、それに飽いたら寮でごろごろしていました。
昼食、夕食とも、ねめつける様な嫌な視線を何度となく感じていますね。
私の脳内マップで赤色を呈する要注意人物が最低でも8人はいそうです。
勿論、鑑定をかけてますので名前を含めて個人データは全てわかって居ます。
プライバシーの保護?個人情報の保護?そんなもの、外に出さなけりゃわからないでしょう。
翌日は、朝食を終えたらA136区に出かけました。
竜舎を出て間もなく、ストーカーらしき人物の群れに気付きました。
少なくとも2グループか3グループ、全部で11名ほど居そうです。
これがつかず離れず後をついてくるみたいです。
距離的には数百メートル離れてますけれどね・・・。
まぁ、普通は単独で動く採掘師にしては、寄り集まってつるむなんて非常に珍しい行動ですよね。
私が採掘区画として申請したA136区には、入ってすぐに、幾度か曲がりくねった隘路があって、背後をつけていても視界から消える部分がたくさんあるんです。
そこに入ってから、私はアルスをかなり速いペースで走らせました。
尤も、走るのは精々数百メートルで、相手の視界から一時的に消えた時点で、アルスと一緒に別な場所へ転移なのです。
消えた場所から1ガーシュほども東へ離れた谷間の道へ移動、アルスを一旦止めて、そこからさらに転移して、一昨日に採掘したトンネル内に転移しました。
ストーカーの連中は、私の姿を突然見失って、焦りながら、あらぬ方向を探している筈です。
入口が大量の岩で覆われたトンネル内ですので、少なくとも外から見たんじゃ絶対に居場所はわかりません。
まぁ、彼らの目的は、三級になったばかりの小娘の採掘場所を突き止めて奪うつもりなのでしょうけれど・・・。
良くも似た者同志を集めたものですね。
それに私が生きている限り、採掘場所の指定者の名義変更はできませんから、採掘場所が目当てなら私を生かしておくつもりはないのでしょう。
今のところは単に私の後をつけているだけなので、このアスレオールでは犯罪という訳ではありません。
何か手を出してくるようならば、採掘師を廃業するぐらいの罰は与えても構わないですよね。
私って、結構ネクラで腹黒なんですよ。
トンネルの中は暗いですからね、入るとすぐにLED擬きの照明を付けました。
私は暗闇でも空間把握はできますけれど、アルスが可哀そうですから、灯りは必要なんです。
アルスは階段の下で待ってもらい、私は斜路の階段を上って採掘場所へ。
お昼まで作業をして、一旦、アルスのところに戻ります。
アルスは飼葉代わりに配合飼料を食べますし、相応の水分補給も必要なのです。
一応、配合飼料も五食分ほどインベントリに入れてありますが、一食分出してアルスと一緒にお昼を食べるんです。
インベントリの中にはお弁当が結構溜まっていますね。
二食分は要らないのですけれど、最低でも二食分、多い時は三食分をコックさんが寄越すのです。
食堂のコックさんに言わせると、三級採掘師の最初の頃は二食でも余るぐらいでも、半年ほどで二食では足りなくなるということらしいのです。
エネルギー切れで動けなくなるよりは余分に持って行けと言うことのようですね。
更には事務部から何か通知が来ているらしく、私の弁当には特に気を付けてくれと言われているらしいのです。
うーん、黒の魔晶石採掘が効いているのでしょうかねぇ。
細かい話は分かりませんけれど、私の借金はほぼ解消し、今のところ黒字に変わったと事務部の担当者から聞いています。
毎月月末には収支表が個人宛に発行されますので、それをみればはっきりわかりますが・・・。
まぁ、黒の魔晶石ですからねぇ。
小指の先ほどの大きさでも大銀貨5枚ぐらいにはなります。
私が採掘してきたのは重量にして57ゲール(≒28.5キロ)ぐらいの代物ですので、最低でも大金貨27枚か28枚程度にはなるのじゃないかと、捕らぬ狸の皮算用をしています。
あ、その前に、深緑色のデカい魔晶石もありましたね。
あれは、ダンカンさんの採掘場から掘り出したモノですので、八割がダンカンさんに、一割がギルドに、残りの一割が私の臨時収入になるようです。
これは研修員が指導員について行って、指導の一環で切り出しを行った場合の料率計算ですけれど、モノがでかいだけに、あれだけでも結構なお値段になりますからね。
いずれにせよ魔晶石の採掘で赤字から黒字に転換になっていると思います。
今、インベントリに入れてある、前回と同じような大きさの黒を出せば、完璧に暫くは遊んで暮らしても大丈夫なはずです。
まぁ、遊ぶつもりはありませんけれど・・・・。
そうだなぁ、バンデルの実家に仕送りでもしましょうか?
そうそう、三級採掘師と加工師になった際に、新たに装備を貰う(買う?)ことになりました。
全部、オーダーメイドですからね。
高いんです。
大金貨数十枚程度にはなるんですが、命大事にがモットーですので、借金が増えてもやむを得ないと判断してお願いしました。
注文してから早いもので二週間、遅いものは三カ月後に手に入るようです。
今はまだ、研修生の時に支給された服装と、事務部から借りたものだけです。
マジックバッグも借りているわけですが、上級者はマジックバッグを購入している方もいらっしゃるとか聞いています。
マジックバッグ一個が大金貨五十枚だそうですからやっぱり高いですよね。
今度の黒を納めてその収支状況が分かってからの話になりますが、マジックバッグを二、三個購入しようと思っています。
遭遇する魔物を放置するのも何となくもったいない気がするんですよ。
ですから有用な部位を集めて持ち帰ろうと思うのです。
インベントリに収容はできますが、その存在を隠して魔物を持ち帰るのは至難の業ですからね。
マジックバッグが余分にあれば、討伐した魔物の有用な部位を持ち帰っても不審には思われないでしょう。
解体作業もインベントリに入れればスキルで簡単にできちゃいますから、それほど面倒ではないんです。
A136区までの道筋は、ギルドに近い場所ですので今のところ魔物には遭遇していませんけれどね。
◇◇◇◇
その日は11の時(地球時間で午後四時半頃)まで切り出し作業を行い、前回より少し小さめのモノと前回よりも大きなモノの二個を採掘できました。
無論、黒ですよ。
インベントリに大きな方を入れ、小さな方をマジックバックに入れました。
小さな方と言っても。長さが25センチ、径が17センチほどの18面体ですから、これでもかなりのお値段の筈です。
マジックバッグに入れた方は、今回みたいに変なストーカー擬きが居る場合の対策につかいます。
例えばヒラトップに行って、訓練したり、実験室に籠っていたりして、採掘作業をしなくても採掘で持ち帰ったように偽装できますからね。
いずれ、この場所から大物を採掘するのは難しくなります。
まぁ、それなりに金になる黒は入手できますけれど、労力の割に収入は小さくなることになりますから、それよりは別の採掘場所を探した方が早いのです。
そんなわけで、採掘場所から転移して朝方消えた場所付近に現れ、帰途に着いた訳ですが、A136区の境界付近に待ち受けているのが四人ほど居ました。
転移する前に周辺の索敵を行いましたから、彼らが待ち受けているのは知っていました。
彼らを避けてギルドのビットに帰ることはできますけれど、次回も同じことが起きるでしょうから、避けられない衝突ならば、早い方がいいでしょう。
彼らも一応覚悟はできている筈です。
岩陰に隠れて魔法を準備している者が二名、崖の上で弓矢を構えている者が二名です。
彼らが動いた時が彼らの命の消える時。
人の命を狙うと言うことは、自分の命も危険に晒すと言うことを十分に承知しているでしょう。
二人が魔法を発動し、別の二人が崖の上の物陰から矢を放ちましたした。
魔法については陰陽術の「破却」で消滅させ、弓矢については結界で防ぎます。
それらの防御と同時に魔法を発動、ライトアローで四人の額を貫きました。
私の命を狙ってきた人を四人も自らの意志で殺しましたが、意外に精神的な反動はありませんでした。
もっと、なにか、こう、正当防衛にしろ人を殺せば、悔いのようなものが残るんじゃないかと考えていたんですが、私って、ネクラで腹黒な上にかなり冷酷な女みたいです。
彼らの乗って来た騎竜が居ましたので、彼らの遺体を騎竜に乗せ、手綱をアルスの鞍に付けて数珠つなぎでギルドに戻ります。
襲ってきた奴らの遺体なんぞ、面倒ですから放置しておいてもいいのですけれど、騎竜はギルドに連れ帰ってやらねばいけませんし、襲撃があった事をギルドに報告して同時に他のストーカーの戒めとしなければなりません。
無論、私が色々と疑われるのは承知の上ですが、私には彼らを襲う理由がありませんけれど、彼らにはそれなりの疑惑がかけられます。
黒の採掘を為した者を待ち伏せし、それを奪おうとしたという疑惑です。
どのみち、証人なんて居ませんから、疑われたなら疑われたで仕方がありません。
でも明白な証拠がない限り私の証言を信ずるしかない筈です。
第一に彼らは黒の魔晶石を採掘したことはこれまでに無い者であること。
第二に、彼らの申請している採掘場所はA136区とはかけ離れた場所であること。
この二つからして、彼らが殺されたのがA136区の出口付近であれば、何故彼らがそこに居たのかということが問題になる筈です。
まぁ、この関連で何日か取り調べや足止めを食らうのは仕方がないと覚悟はしています。
そんな面倒を避けるためには、遺体もパデルも放置すると言う手段もあったのですが、先ほども言ったように私は見せしめの効果を狙ったのです。
他の者がどう出て来るか・・・。
それによってまた対応を考えます。
案の定、ギルドに戻ると大騒ぎになりました。
まぁ、それでも、黒の魔晶石を分別所で加工師に引き渡し、その後、事務部へ行って事の詳細を職員に説明しました。
事情聴取は、夕食を挟んで二度にわたり行われ、深夜までかかりました。
このため、今夜はヒルトップでの訓練は無しですね。
お風呂に入って、すんなりとお休みしました。
翌日のギルド内は、四人のストーカーとそれを殺害した私の噂で持ちきりでした。
流石に私に面と向かって噂する人は居ないのですけれど、ダンカンさんが私の傍にやってきて慰めるように言いました。
「お前なら、大概の襲撃は撥ね退けるとは思っていたが、流石に四人の襲撃をはね返して、皆殺しにするとは思わなかったぜ。
まぁ、あいつらは普段から素行が悪くて、事務部の監察部門から目を付けられていた連中だ。
お前に処分はかからねぇと思うが、他にもいるかもしれないので注意は怠るなよ。」
「ありがとうございます。
今のところ、問題を起こしそうな人は、7人残ってますね。
今回の件で、諦めてくれるといいのですが・・・。」
「ほう、そこまで掴んでいるか・・・。
まぁ、向こうから仕掛けてきたら、遠慮なく殺って良いぜ。
正当防衛は許されているからな。
ただ、中には罠を仕掛けてくる奴もいるから気をつけろよ。
毒物を使う奴もいるしな。」
「毒・・・ですか?
もしや、フィッツ・ベルンハルトという人ですか?」
「何だ、知っているのか?」
「面識はありませんけれど、昨日竜舎からつけて来たグループの一人ですね。」
「なるほど、付け回されているのを承知していたのか、・・・。
なら、今後も大丈夫だろう。
お前は、ギルドのホープだからな。
絶対に潰れてくれるなよ。」
ダンカンさん、中々裏事情にも詳しい人のようですね。
少々短気なんですが、一度人柄を見込むとお節介焼きでもあり、色々知らんふりしてるくせに事情通でもあるけれど、基本的に一匹オオカミなんでしょうね。
顔を見ると若いんですけれど、年齢は57歳、ツアイス症候群のこれまでの症例から言うと危険な年齢に入っている人かもしれません。
彼を含めて、色々な血液データを内緒で集めていますけれど、顕著な研究成果はありません。
まぁ、少なくとも1年単位で見込んでいた調査研究ですから、直ぐに解かるとも思ってもいませんが、私を含めて同期生の中にツアイス君のような突発的に死亡するケースが無いことを祈るだけです。
それはともかく、今日は、魔晶石の利用計画会議もありますが、四人の襲撃者に対する正当防衛殺人について各関係先からの事情聴取が続くようですから、丸々一日が潰れそうです。
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ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。
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