魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

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第三章 魔晶石ギルドの研修

3-20 幹部の目に晒されました

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 やはり私が持ち込んだ深緑の魔晶石は近年にない大きさと品質であったらしく、ギルドに騒ぎをもたらしました。
 翌朝には事務部の会議室へ呼び出されてしまいました。

 私は魔晶石採掘師及び魔晶石加工師の候補生として研修中であり、午前中の研修を受けなければいけない身の筈ですが、最近、ギルドの都合により研修の機会を取り上げられていることが多々あるようなのですが、これでよいのでしょうか?
 “責任者出てこい”、と言いたいところをじっと我慢の子なのです。

 会議室には、ダンカンさんもいました。
 エリオットさんもいますし、前にお会いした加工師のチーフであるベルモットさんやアレクセイさんもいますが、私の知らない顔も多数いました。
 
 知らない人にざっと鑑定を掛けたら、びっくりです。
 ギルドの幹部連中でした。

 ギルド会長リッジモンド・ハンセンさん、研修所所長ロベルト・バーンズさん、事務部長ヒューズ・レンブラントさん、販売部長アラン・ピーターソンさん、魔晶石利用開発部長ウィリアム・ザクセンさんという方々でした。
 因みに鑑定をかけても気づかれないようなので、最近は割合気軽にかけていますが、仮に魔法師ギルドの人が来たりしたなら気づかれる可能性もあるので、しないようにするつもりです。

 因みに魔法師ギルドの会員の方は、フードの付いた灰色のマントが制服代わりなのです。
 従って街で見かけても直ぐに魔法師と判っちゃうのです。

 そうして、何故にこんな会議に引っ張り出されたのかはすぐにわかりました。
 会議室中央の大きな台の上にはこれまた大きな箱が鎮座しています。

 箱の上から周到に巻かれた絶縁布の所為で、中身は魔晶石と判りますし、箱の大きさが長さで2mを超え、幅、高さで一尋ひとひろ近い大きさならば、私が切り出してきた深緑しんりょくの魔晶石に違いありません。
 その後の事務部長の挨拶代わりの事前説明によって、昨日持ち込まれた高品質の魔晶石の利用計画を決める会議であることがわかりました。

 その際に、この秋に入った研修生である私が、ダンカン一級採掘師の指導を受けながら当該魔晶石を掘り出したことが紹介されるとともに、魔晶石の寸法、形状および重量と色が周知されたのです。
 その上で、事務部長が言いました。

「利用計画の議事に入る前に、関係者に魔晶石を確認してもらうために、この場に運んでありますが、お見せするために只今から梱包を解くのでご静粛にお願いいたします。」

 これも儀式の一つなのかもしれませんね。
 加工師の職員二名が出て来て、丁寧に梱包を解いて行きます。

 箱は、蓋を取ると四方に開くようになっており、厳重に絶縁布で梱包された魔晶石が姿を現しました。
 さらにその布が丁寧に取り除かれると、薄暗い照明に照り映える黒に近い深緑色の24面体の魔晶石が姿を現しました。

 居合わせた幹部のほとんどが息を飲むのですけれど、流石に声を出す者は居ません。
 概ね二分程のお披露目があった後、再度梱包が施され、容器に収められ、その上を絶縁布でさらに梱包されて、会議室から静々と運び出されて行きました。

 それを確認しつつ、事務部長が再度口を開きました。

「只今、ご覧になったように近来稀に見る上質な魔晶石であり、しかも桁外れの大きさでございます。
 この魔晶石の利用につきまして是非とも皆様のご意見を賜りたく、よろしくお願い申します。」

 ということで始まりました会議ですが、未だ候補生身分でしかない私が言うべきこともなく、ひたすら聞き役だけのつもりでしたが、そのうち何故か幹部の方に目を付けられました。
 それも何だか、話の流れから言うと幹部クラスの派閥争いのような気がいたします。

 これに巻き込まれると、きっと碌なことになりません。
 何だかややこやしいことで意見を求められそうなんで、できれば避けたいのですが、・・・。

 エリオットさん助けてと視線を向けると、ア、目を背けやがった。
 ダンカンさんは、最初から我関せずで、鼻くそをほじほじしています。
 
 ウーン、傍若無人というか、場所柄をわきまえない方のようです。
 そうして飛んできましたよ、火の粉が・・・。

 発言したのは、会長さんです。

「この立派な魔晶石を採掘できたということは、シルヴィ君は、今すぐにでも正規の採掘師になれそうだが、・・・。
 実のところ、魔晶石の利用方法については、昔からギルド内でも意見の分かれるところであってね。
 一般的に細分化した利用方法を予め定め、そのルールに従って加工すべきとする案と、魔晶石の性質と大きさによりその都度利用方法を審議してから加工すべきとする案がある。
 どちらもメリット、デメリットがあって中々にギルドとしての基本的方針が定まらないのだが、君はどう思うかね。
 是非とも新進気鋭の若手の意見を聞きたいのだが・・・。」

 知り合いに視線を向けても誰も助けてくれそうにありません。
 仕方がないのでため息をつきながら言いました。

「未だ採掘師にも加工師にもなっていない若輩者がこのような場で意見を申し上げるのは大変おこがましいことながら、お言葉にございますので私なりの意見を申し上げたいと存じますが、意見を申し上げる前に確認したい事項がございます。
 先ほどご覧になった魔晶石についての利用方法について、例えば、一般的に細分化した利用方法を予め定める方式では、どのように扱われべきとされているのかを教えていただけませんか?
 また、魔晶石の性質と大きさによりその都度利用方法を審議する方法については、例えば候補生が実習中に採掘した白の魔晶石の扱いについても、その都度、個別に審議されるのかどうかをお教えいただけましょうか?」

「ほう、其処をついてきたかね・・・。
 君の質問の答えになるかどうかだが・・・。
 君が採掘して来たレベルの魔晶石については、大枠で、利用方法が三通りあるとされている。
 一つ目は、そのまま大きなままで国又は大都市用の設置魔道具として利用すること。
 二つ目は、魔導飛空船の魔力供給源のタンクとして使うこと。
 その場合でもこれほどの大きさの代物ならば、魔導飛空船に利用する場合は三つ乃至四つに分割することになろう。
 三つめは需要の多い民生用の魔道具に転用するため、16面体若しくは12面体の小さな結晶構造に切り直し、利用することになるだろう。
 当然のことながら、大都市におけるオクターブ単位の統合結界装置にも使えることになる。
 まぁ、大きく分けると、そのまま使うか、細分化して利用するかだが、黒に近い色程利用価値が高いのは君も知っての通りだ。
 そうしてもう一つの質問についてだが、利用価値の低い魔晶石の利用については、それぞれの部門別の要望に基づいて使用されるので、審議不要とされている。
 具体的には、シロとバラは余程品質の高いものでなければ、市場には出ないから、原則的に研修所で自由に利用できるようにしている。
 黄と緑については、品質の低いものは製品開発部の研究用に回すことが多い。
 茶及び暗褐色系の魔晶石はその都度個別に審議されるが、品質のレベルにより、審議メンバーが変わるようになっている。
 黒は常時最高レベルの扱いで審議員も最高のメンバーで構成されることになっている。
 因みに今回君が採取して来た深緑は、分類上は緑なんだが、黒に近い性状のため暗褐色と同等以上の品質として認定されている。」

「丁寧なご説明ありがとうございました。
 私の意見を申し上げるとすれば、製品開発部の業務に関わってくるやもしれませぬが、魔晶石の予め決められた利用先の審議をなされるよりも、魔晶石の利用の仕方をより広げるよう様々な分野で協議をされては如何かと考えます。
 例えば通信については、音声を届け合うだけではなく、其処に文字または画像を送れるように工夫はできないでしょうか?
 恐らく低品質の魔晶石には相応の限界がございましょうが、緑以上の魔晶石ならば可能なこともございます。
 また、低品位の魔晶石とされるバラ又は黄色であれば、計算機の代わりにはなるのではないかと思われます。
 但し、計算機にしても計算結果を表示する為に、文字または画像を送る場合の受像機的な装置が必要です。
 但し、それらも、魔石と魔晶石の複合物からそのような役割を果たす魔道具の製造が可能かもしれません。
 そうした利用の道を広げることで、魔晶石の利用範囲と使用される魔晶石の枠を広げることができたならば、その需要度に応じて、先ほどの大きなまま使う方式と、細分化して利用する方式のいずれを採用すべきかがおのずと決まるのではないかと思われます。
 勝手な思い込みながら、巨大な魔石のそのままの利用方法は非常に限られたものにしかならないのではありませんか?」

「フム、面白い意見だ。
 確かに大きなまま使おうとすれば利用先はおのずと決まる。
 そうしてそれは正直なところで言えば販路としては極めて少ないのだ。
 但し、シルヴィの言った通信の有り様ありようで文字やら画像の伝達が本当に可能なのか?
 製品開発部長は、どう思うかね?」

「は、正直な話、文字や画像の伝送など考えたことも無く、如何様にすれば可能なのか取り敢えずの案が浮かびません。」

「シルヴィよ、開発元が困っておるが、何か助言できるアイデアは無いのか?」

「この場で即答は難しいのですが・・・・。
 参考例としては、音声を伝える魔法陣の機構は、そのままでは音しか伝わりません。
 ですが、その音声の中に非常に高い周波数の波を恣意的に送り込み、その周波数の数をカウントできれば文字または数字として置き換えることは可能な筈でございます。
 わかりやすい話では音声の代わりに、音の有り無しを送ります。
 例えば、ピーピーと二度なればAと決めておけばそれが文字の代わりとなり数字の代わりともなります。
 音の有り無しの組み合わせで複数の文字または数字が判別できるからです。
 音声伝達の魔法陣は人の声だけを送っているわけではありません。
 鳥のさえずり、川のせせらぎもまた送っていますのでそこに雑音のような機械音を入れるのは難しくないのです。
 太鼓の音でも予め符丁を決めておけば伝達は可能な筈です。
 そうした符丁を文字に変換する方法は別の魔法陣が必要になるでしょう。
 そうして、その符丁を高速で送ることができれば、膨大な文字や数字を送ることも可能かと存じます。
 申し訳ございませんが、今お答えできる範囲は以上でございます。」

「いや、随分と参考になった。
 成るかどうかは別としても、後は、製品開発部が検討するであろう。
 貴重な意見をありがとう。」

 フウッ、何とか切り抜けられたような気がします。
 その後の協議はほぼ出来レースのようなもので、結局、大きなもの一つの利用は放棄し、多数に分割して、販売部に受注が来ている製品に回すことになったのです。

 因みにギルドでは、音声信号は通信機で、書類等は魔法陣による転送機で遠隔地に送ることができるようになっているのですが、実はこれ、黒の魔晶石を利用する魔道具のため、非常に高価なものなのです。
 単価当たりの転送料金は、十回分の転送で大金貨一枚程度になってしまうとか。

 尚且つ、一回当たりの転送量も少なく、コスト的には頻繁には使えないもののようです。
 まぁ、其処に石を投げて波紋を投げかけたわけですが、はたしてどうなることやら・・・。

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