魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

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第三章 魔晶石ギルドの研修

3-9 槍術で同期生を指導します

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 ホープランドへ来て五日目、研修としては四日目の金曜日、午前中は棒術の時間です。
 槍もやっぱり含んでいて、棒術と言うよりはむしろ槍術なのです。

 魔物相手に棒で戦うのはやはりあり得ないらしく、槍を使って突くのがメインのようです。
 槍の長さはバンデルの衛兵が用いているモノと違って少し長いですね。

 それに柄の部分が木製じゃなくって金属製です。
 だから少々重いのが玉に瑕でしょうか。

 力のない者は扱いきれないんで、非力な女子にはちょっと向かないんです。
 そう、衛兵さんの使っていた槍に比べると2倍半ほどの重量があり、長さも1.2倍ほどありますね。

 でも私とクレアは難なく使えちゃいます。
 これも身体強化のお陰ですね。

 で、ここでもパスカル、テリオスの二人が四苦八苦の大苦戦です。
 サイルズ君は昨日覚えた身体強化を使えますから、何とか使えてますけれどちょっと重さに振り回されている感じでしょうか。

 剣術もそうなんですけれど、基本ができていない分、足回り、腰回りが良くないように思われます。
 それでもサイルズ君は何とか使えてますけれど、パスカル君とテリオス君はそれ以前の問題ですね。

 仕方がないので、二人のところに行って内緒話です。
 身体強化のための魔力操作を1時間近く練習させて、何とか身体強化に成功しました。

 あとは取り敢えず本人任せです。
 私もそこまで手取り足取り面倒見るつもりはありません。

 昨日に引き続きちょっと落ちこぼれ気味の男どもに助言を与えているのを、見て見ぬふりをしているエリオット指導員がいました。

 一体何をやっているのかと不思議に思っているのかもしれません。
 私についてはゴーレムとの訓練の甲斐もあって槍術については、余裕で手加減しています。

 槍術の上手いのはドワーフ族のハーフであるハジーム君ですが、概ね彼の技量に合わせています。
 因みにハジーム君は剣術よりも槍術に適性がありそうで、槍を振っているときは殊の外生き生きとしています。

 モーガン君もそれなりには扱えていますけれど、本当に戦の神クライス様の加護があるのかしら。
 剣術と同じでやっぱり体の芯がぶれていますので、あれでは有効な突きは難しいかも。

 午前中の授業が終わったとき、解散を告げられてから、私だけエリオット教官に呼び止められました。

「お前、昨日はサイルズに、今日はパスカルとテリオスに何事か耳打ちして、しばらく傍にいたようだな。
 さぼっているわけでもなさそうだから黙っていたが、・・・。
 いったい何をしていたんだ?」

 うん、やっぱり目を付けられていましたか・・・。
 しょうがないよね。

 この際だから本当のことを言っておこう。

「あの、採掘師候補の他の同級生は皆相応に出来ているようなのですけれど、サイルズ君、パスカル君、それにテリオス君は身体強化ができていないようだったんです。
 身体強化って言うのは、えーっと、昨日、放課後の自由時間に練習場で会ったレオンさんが戦闘態勢モードって言ってましたね。
 魔力を全身に行き渡らせる方法です。
 それを行うと全身の筋肉が強化されて、戦闘能力が上がるんです。
 サイルズ君には、昨日その方法を教えたので、今日はそれなりに槍を扱えているようですけれど、パスカル君と、テリオス君は槍そのものの重さに負けている様子でしたので、身体強化の方法を教えたんです。
 で、何とか二人も槍を扱えるようになったと思うのですけれど、・・・。
 あの、教官。
 座学でも訓練でも身体強化というか戦闘態勢モードのことは教わっていないのですけれど、なぜ教えないのでしょうか。
 せっかく魔力操作は教えるのに、それを全身に行き渡らせると身体強化ができるということを教えていないのはものすごく非効率だと思います。
 その所為で、クラウディアさんは浪人したのじゃないかと思うのですけれど・・・。」

「クラウディア?
 ああ、あいつは非力ゆえにまともに戦闘ができずに落第していたな。
 俺は、筋力不足かと思っていたんだが・・・。
 そうか、戦闘態勢モードに入る方法を知らなかったのか。
 俺らは自然と覚えてしまったから、別段魔力操作の応用だとは思っていなかったのだが・・・。
 そうか、そんなことがあったのか。
 で、クラウディアはひょっとしてそいつを使えるようになったのか?」

「クラウディアさん、昨日、覚えたばかりですから今少し時間はかかるかもしれませんが、左程時間はかからずに受験できるんじゃないかと思いますよ。」

「ふむ、分かった。
 今後とも気づいたことがあれば教えてくれ。
 後輩の授業に役に立つかもしれない。」

 その日の午後の魔法の授業は、皆の力量に合わせて適度にごまかすだけに留め、訓練の間はできるだけ魔力操作に専念していました。
 そうして夕食後に練習場に行くと、昨日と同じくレオンさんとクラウディアさんが練習をしていました。

 うん、クラウディアさん昨日と比べると見違えるような動きをしているけれど、今のところ不安定に見えるね。
 あれ、これって、サイルズ君をはじめとする三人組やモーガン君の動きに似ているかも?

 基本的な剣を使う動きができていないから、筋肉が強化された時に足腰回りが不安定になるのじゃないかしら。
 重い剣じゃなく、竹刀や木剣で基本的な練習をさせて、重心移動とかを覚えさせれば動きが良くなるかも・・・。

 余計なお世話と知りながら、レオンさんとクラウディアさんにそのことを話してみた。
 で、木剣を準備して、剣の振り方を教えて見ました。

 私が練習している72手の型はちょっと多過ぎるから、基本の16手のみ、足の運びと手の動きを連動させるように30分だけ練習させ、そのあと刃びきの剣を持たせて振り回しをさせるとすごく動きが安定しました。
 うん、何事も基本が大事、力だけ入れればよいと言うものじゃない。

 その後の練習は、レオンさんに任せて私は基本の72手の練習で汗を搔き、寮に戻りました。


 丁度その頃、指導員の連中が集まりミーティングをしていました。
 エリオットさんが口火を切ります。

「今日まで五日、そろそろ研修生で優秀な奴とそうでない奴の見極めもできそうな感じだろうが・・・。
 実は今日、研修生の一人からかなり重要な指摘をもらった。
 その研修生というは、シルヴィなんだが、戦闘態勢モードの件で研修の中にその方法が入っていないのはおかしいのじゃないかと言われたんだが、皆はどう思う?」

 すぐに、リカルドが不思議そうに言う。

「戦闘態勢モード?
 あぁ、そいつは普通にやっていれば自然に身に付く奴だろう。
 別に教える必要なんかないのじゃないか?」

 だが、ミアが言った。

「何?
 その戦闘態勢モードって・・・。」

「うん?
 なんだ、ミアは知らなかったのか?
 例の戦闘時に力が湧いてくる奴だよ。」

「何それ?
 そんなこと知らないわよ。」

「おう、そう言えば、お前も落ちこぼれの一人だったか・・・。
 実は俺も無意識にやっていたんだが、シルヴィの説明では魔力操作を全身に広げることで身体強化ができるんだそうだ。
 それに関連して、浪人中のクラウディアについては、ミアと同じように戦闘時に力を出し切れずに落第したんだ。
 あの、非力ではどうにもならんから支援班行きは確定かなと思っていたんだが・・・。
 あるいは化けるかもしれない。
 昨日、シルヴィが、レオンと練習中のクラウディアを見かけて、魔力操作で身体に行き渡せる方法を教えたらしい。
 シルヴィの見立てでは、左程かからずに再受験できるかもしれないと言っていた。
 まぁ、そっちの方はシルヴィに言われるまで知らなかったんだが、昨日の剣術の時間、採掘師候補で同じく力を発揮できなそうな研修生三人がいた。
 なぜか、その一人にシンディが近づいて何やら話をし、結構な時間をかけていたんだが、そのうちにそいつの動きが良くなったんだ。
 まぁ、これまでの研修生にもそんなこともままあるから、あまり気にしていなかったんだが、今日の槍術で今度は残り二人にシンディが話しかけてたら、その二人も暫くして人並みに槍を扱えるようになったんだ。
 それまで碌に槍が突けず、重さに振り回されていた二人がわずかの間に槍を扱えるようになるのは流石に技術の問題じゃねぇだろう。
 で、午前中の研修が終わってからシンディにその件を訊いたら、シンディが身体強化の方法を三人に教えていたらしい。
 その結果、落ちこぼれが減ったかもしれないと思ってな。」

 それを聞いてミアが喚いた。

「そんな話、私も知らなかったわ。
 魔力操作なら私の得意分野だからすぐにできただろうに・・・。
 何で誰も教えてくれなかったのよぉ。」

「おう、・・・。
 そりゃぁ、悪かったなぁ。
 俺らもそんなことに気づいていたら、教えてやれたんだが、特に意識せずにやれてたからな。
 手取り足取り教えるようなもんじゃねぇと思ってたし、そもそも、魔力操作で身体中に魔力を行き渡らせているなんて気づきもしなかったよ。
 だが、そいつを理屈で説明できる奴がいたってことが重要だぜ。
 クラウディアだって、シルヴィに教えてもらわねば、おそらくは支援班行きは確実だったからな。
 俺は、どうしようもないと思って教えるのを諦めていたぐらいだから・・・。
 それはともかく、シルヴィには要注意かな。
 あいつはこれまでの研修生に比べると能力を含めて明らかに別格だ。
 ここんとこ、訓練中にはできるだけ見ているようにしているんだが、あいつかなり手抜きをしているんじゃないかと思われる節がある。
 常時観ているわけじゃないから、確実ではないんだが、できればお前たちもあいつのことを観察しておいてくれないか。
 もしかすると、あいつは、久々に一級、いや、ひょっとしたら特級に上がれる奴かもしれん。
 何せ属性魔法の数からいえば、サレンダル魔法王国の伝説の魔導士に匹敵するかもしれんからな。
 実際の力を隠しているのか、それとも本当に今見た目通りなのかの見分けが難しいんだが、俺の感では魔族のカイエンに無理に合わせているような気がしてしょうがないんだ。」

 ミアが頷きながら言った。

「うん、そういえば座学でも彼女は結構閃きがあるようね。
 ギルドでも秘匿しているような事柄を、ピンポイントで突いてくるの。
 嘘は教えるなと言われているから、例の鎮圧ガスの件まで言う羽目になったけれど。
 これまでだと、そこまで波及するような質問はなかったんだけれどね。
 特にツアイス症候群についてはかなり突っ込んで聞かれたわ。
 少なくとも成人したばかりの子が詳細に突っ込めるほどの知識もないはずなのに。
 あの子、結構人体組織には詳しいみたいね。
 少なくとも宝飾加工師と刺繍師の間にできた子では身に付かない知識を持っていそうな気がする。
 だって、心臓のどの部位が石化したのかとか、つながっている血管は石化していたのかとか、かなり細かいことを聞くのよ。
 正直なところそんなこと聞かれても、その辺は私が知らないから回答できなかったけれど・・・。
 治癒師でも心臓の本来の形を知っているものは少ないというのに・・・。
 その意味では不思議な子よね。」

 何やかやとこの日の打ち合わせで、シルヴィは教官たちにかなり注目される存在になっていたが、当の本人はそれを全く知らずにいた。

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