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第二章 色々準備です
2-2 モノブルグ魔晶石ギルド支部
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成人の儀から三日後、私は、今、魔導飛空船に乗って移動中なのです。
学園がお休みなので、領都に赴き、魔晶石ギルドに事前の確認に行くことにしたのです。
魔導飛空船の運賃は高額です。
バンデルからモノブルグまでの往復運賃でお父さんの半月分の工賃収入が消えてしまいます。
ウチは母も稼いでいて二馬力ですから左程家計に影響は与えないとは思うのですけれど、それでも高い運賃を出してくれた両親には大感謝なのです。
魔導飛空船を利用する人はどちらかと言うと商人でも大手の人、貴族やお役人などがほとんどで、私の様な平民の娘が乗り込むのは極めて珍しいようです。
遠慮会釈なくじろじろと眺められるのが何となく嫌な感じでした。
そんなことなんかは、ひたすら耐えれば良いことで、流石は魔導飛空船です。
乗り込んでから2時間後には領都モノブルグの飛行場に到着していました。
地上を走る駅馬車を使っていたなら最低でも片道三日は要していたはずです。
今日の予定は、朝一番の魔道飛空船で出発し、本日の最終便で戻らなければならないのです。
私は急ぎ足で飛行場から領都中心部へ向かう辻馬車に乗り込みました。
最終便が出るまで概ね4時間(地球では6時間程度でしょうか)ほどしかないのです。
中心街区で降りてすぐのところにギルドが固まっていました。
その中でもかなり小さな建物に掲げられている看板の魔晶石ギルドの文字を頼りに、ドアを押し開けました。
中にはカウンターと思しき机がひとつだけでその脇には応接セットがありました。
カウンター席に比較的若いおばさまがいらっしゃいましたので、軽くお辞儀をしてから話しかけました。
「あの魔晶石ギルドについてお伺いしたいのですが、こちらで宜しいのでしょうか?」
「おや、まぁ、珍しい。
もしかして成人の儀で魔晶石採掘師か魔晶石加工師の職が告げられましたか?」
「はい、その両方の職のお告げがありました。
それで、未だ学園に在学中なのですが、学園を卒業したならどのような手続きをすれば宜しいのかお伺いに参りました。」
「わかりました。
私は魔晶石ギルド・モノブルグ支部のサブマスターをしている、ジェシカ・ダーレンです。
お嬢さんのお名前を聞いてもよろしいかしら?」
「はい、私はシルヴィ・デルトンと申します。」
ジェシカさんは笑みを浮かべながら頷き、すぐ脇の応接セットに私を誘った。
それから直径が20センチほどもありそうな水晶玉をカウンターの机から持ち出し、応接セットの机の上に置いた。
「シルヴィさん、これに右手を触れてもらえますか?」
シルヴィが水晶玉に触れると透明な水晶玉が淡い光を発した。
虹の様な色合いは前部で八色ありそうだった。
ジェシカさんは満足そうに頷き、羊皮紙に何事か記載しながら言った。
「とても良い発色ですね。
八神の恩寵が間違いなく確認できましたけれど、加護を貰った神様が分からないわ?
どなたの加護を貰いましたか?」
「あの・・・。
加護を与えてくれた神様から他人には言わないようにと告げられたのですが、ここで言わなければなりませんか?」
「うん?
加護を与えし神様から直接告げられたと言うことなの?
それは、とても珍しいのだけれど・・・。
わかりました。
ここでは言わなくても結構です。
但し、ホープランド本部に赴いた時にはきちんとお話ししてください。
加護を与えし神が誰なのかを確認することは、採掘師や加工師を育てる上で非常に重要な事項なのです。
でも、今の段階では、そこまで要求いたしません。
貴女の衣装からすると平民の町家の娘さんかしらね。
ご両親を含めたご家族の職業を聞いてもいいかしら?」
「父は宝飾加工師で、母は刺繍師です。
それと兄が居て、兄は商人見習いになっています。」
「ご家族で魔法を使える方はいらっしゃる?」
「いいえ、居ないと思います。」
「では、あなたも魔法は使えない?」
「いいえ、私は従たる職業に魔法師があり、魔法系の属性もありますので魔法は使えます。」
「実際に使ったことが有る?」
「えっと・・・。
成人の儀を終えた後で、家族には内緒で隠れて使ったことが有ります。」
「ふふっ、好奇心旺盛なのね。
で、何が使えました?」
「属性としては、光、空間、火、水、雷、氷、闇と生活魔法の威力の小さいものを試してみました。」
実は、家では怖くてできませんでしたので最寄りの空き地に行って人怪我無いことを確認して色々試したのが昨日でした。
「おや、殆どね。
魔力はどの程度あるの?」
「えっと、今は、多分320程です。」
嘘です。
昨日の夜見たら1000を超えていました。
流石に三日で十倍は拙いかと思って、三倍程度で言ったのです。
「そんなに?
凄いわね。
成人の儀が終わったばかりなのでしょう。
レベル1で、魔力が300を超えていたら大魔導士並みよ。」
あれ?
予測の斜め上でした。
300でも多かったのですね。
「うん、大体わかりました。
じゃぁ。
主たる職で魔晶石採掘師と魔晶石加工師、従たる職で魔法師。
これでいいかしら?」
「いいえ、その、従たる職はもう少しあります。」
「え?従たる職も複数なの。
それはとても珍しいわねぇ。
で、何があるの?」
「あのぅ、言っていいかどうかわかりませんが・・・。
魔法師の他に、錬金術師、鍛冶師、工芸師、声楽師、調理師、治癒師、薬師、鑑定師、真贋鑑定師、調律師、騎士、剣士、斥候があります。」
「おんやまぁ。
採掘師と加工師にとって大事な職のオンパレードだわね。
ごめんなさい。
もう一度最初からゆっくりと言ってくれるかしら。」
シルヴィはもう一度繰り返した。
「うーん、シルヴィさんはちょっと桁外れかな。
とっても良いことではあるけれど、私からも特に注意しておきます。
貴女の能力はできるだけ人には内緒にしておきなさい。
ご家族にもね。
例外は、魔晶石ギルドの職員だけ。
魔晶石ギルドの登録会員であってもギルド職員ではない者には可能な限り秘匿してください。
余り言いたくはないけれど、魔晶石ギルドの登録会員同士で派閥を作って結構足の引っ張り合いをしているから、新人さんはそれに巻き込ませたくない。
今の段階では貴女も会員ではないけれど会員になることが分かっていれば色々と手を出す輩もいるから注意してね。
特に能力が高いものほど狙われやすいの。
一言で言うなら、このギルドは魑魅魍魎の巣だから。
それと他のギルドにも知られたら駄目よ。
魔法師の職があるからって、魔法師ギルドなんかに届け出たら絶対に囲い込まれてしまいます。」
何とも成人したての者にとっては大変刺激的なお話です。
「貴女のことは本部に秘匿通知しておきます。
本来ならば学園を卒業してから仮登録するのだけれど、貴女の場合はその手間を省いて、現時点で仮登録を済ませます。
学園卒業時にこのギルドを訪ねる子が多くって、それを狙って魔法ギルドがちょっかいを掛けたり、魔晶石ギルドの会員が派閥獲得のために見張ることがあるので、その時期にはここには用事がない限り近づかないようにした方がいいわ。
学園を卒業したなら、これに記載してある必要な物を持って、ファンダレル王国の王都経由でワイオブール公国に赴き、公国のほぼ中央に在るホープランドの魔晶石ギルド本部に向かいなさい。
その際に、この仮IDカードを見せれば、交通機関や宿泊施設は全て無料で利用できるはずよ。
もしこれを拒否する者が居たなら最寄りの公的機関に通知して頂戴。
必要な処分が行われるはずだから。」
そう言ってジェシカさんは一枚の書面(羊皮紙)と白い金属製のカードを渡してくれた。
白い金属製のカードには、十八面体の水晶の平面図が中央に描かれ、下端に魔晶石ギルドの名前が彫られていた。
「あとは、貴女の疑問に答えるだけかしら?
何が聞きたいの?」
「私が、魔晶石ギルドに登録できるとして、学園卒業までにしておくべきことはありますか?」
「特には無いわ。
でもできれば身体を鍛えて、魔法も訓練しておきなさい。
但し、そのいずれも他人にはできるだけ知られないようにすること。
知られる危険性があるならば、そもそもしない方がいい。
貴女が本部に行ってからでも研修期間は十分にある。
少なくとも研修で十分な能力が身についていなかったなら現場に出されることは決してないわ。
事前に訓練なり鍛錬なりをしておけば、単に研修期間が短縮されるというだけだから。
研修を終えるのは、当人の実力次第なの。
これまで実例はないけれど、本当に力があれば研修をせずに現場へ出すこともできる制度になっているの。」
「魔晶石ギルドって学園の授業にも出てきません。
宝飾加工師の父がかろうじて魔晶石と魔晶石ギルドの存在を知っていたぐらいです。
何故、それほど知られていないのでしょうか?」
「うーん、知らせてもあまり意味がないからかしら?
そもそも魔晶石採掘師若しくは魔晶石加工師のいずれかの資格を持たないとギルドに加盟できないし、登録したにしても適性が無いとわかれば採掘師にも加工師にもなれないことがあるの。
魔晶石採掘師若しくは魔晶石加工師のいずれかの資格を有する者が存在する確率は、人口50万人に一人ぐらいかな。
その有資格者が本部で研修中に適性が無いことがわかったり、実習中に死傷することもあるからね。
本部で研修を修了して実際に採掘師若しくは加工師になれるのは、概ね7割ぐらい。
最近は事前のチェックで不適合者が概ねわかるようになっているから、確率は上がってきているけれど、それでも10人の研修者で最終的に無事に履修できるのは8人ぐらいじゃないかしら。
一旦、研修に入ると仮採用になるから、仮に履修できなくても死者やかなりの重症障害者でない限りは、ギルドの支援部門で働けることになっているのよ。」
「因みに研修中の教材費とか食費とかはいくらぐらいかかるモノなんでしょう?」
「ギルド本部に到着した時点で希望者は仮採用となるからね。
研修中は、稼ぐこともほとんどできないけれど、全ての経費をギルドが面倒みます。
但し、その費用は会員自体の借金として計上され、利息は無いけれど実際に働き出してから返済が求められる。
採掘師でも加工師でも収入の全てはギルドが取り仕切っているから、毎月収入の一割から二割を自動的に差し引かれているのよ。
仮に全く収入が無くて、ギルド内で飲み食いしているだけの状態だと借金が増えてくると同時に待遇が悪くなる。
例えば食事の質が悪くなったり、宿泊施設のサービスが低下したりすることになる。
ギルドも慈善事業をやっているわけじゃないからね。
働かない者は相応のサービスが受けられなくなるという訳なの。
因みにギルドで活動し、正常に稼いでいる間は、腕の良い採掘師なんかは王侯貴族並みの待遇を受けられるよ。」
「年を取って働けなくなるとどうなりますか?」
「ギルドに互助的なシステムは無いのよ。
不安であれば自分で稼いだ金を貯めておくか、或いは別の商売に投資するかしないと困ることがあるかもしれないわね、
でも、その心配はあまりしなくてもいいのじゃないかしら。
採掘師にしろ、加工師にしろ、魔晶石に直接関わり合う者は実は老化しにくいという体質に変化しちゃうの。
その原因は未だよくわかってはいないのだけれど、ホープランドの魔境に在る何らかの因子が魔晶石に籠り、その影響を採掘師や加工師が受けて体質が変わってしまうと考えられているわ。
一番影響を受けるのが採掘師でその次が加工師かな?
それと、老化しにくいという体質になってもいずれ寿命は訪れる。
概ね55歳から60歳程度で、いきなり老衰がはじまるようなの。
この状態に入るとどんな治療を行っても無駄で、老衰症状が発症すると凡そ二日で死に至るみたいね。
採掘師の場合で69歳、加工師の場合で63歳がこれまでの上限ね。
この上限が如何にして訪れるかを解明でき、これを伸ばすことができたなら、ギルドから大枚の報償が出ると思うわよ。
現状で徐々に減りつつある採掘師と加工師の数をいくらかでも維持できることになるからね。
魔晶石の需要は高まっているのに、採掘師も加工師も上級クラスが少ないので需要に供給が追い付かないでいるの。
ギルドが抱えている大きな問題の一つね。」
「魔晶石を採掘する場所は、そもそも魔境で通常の魔物や魔獣よりもはるかに強大な魔物や魔獣が出現すると聞きました。
そこに魔晶石を取りに行くということはそれらの魔獣や魔物と戦うことを意味しているのですか?」
「そうね。
それも、まぁ、大きな問題の一つ。
魔晶石は今のところホープランドの魔境にしか存在しない。
それを採掘するためにはどうしても魔境に入ってゆくしかないのだけれど、採掘師の場合個人的な営業活動だから、仲間で寄り集まって活動するという方式がとれないの。
大昔、試験的に共同して採掘活動をさせたことがあるのだけれど、採掘した魔晶石の配分を巡って私闘が起こり、死傷者が出たの。
それ以降、採掘師が二人以上で活動するのは極めて例外的な場合に限られることになったわ。
魔晶石は採掘師や加工師の肉体だけではなく、どうも精神にも干渉するようなの。
どちらかと言うと偏屈になり、自分の採掘した魔晶石に関してはもの凄く偏執的になる。
だから自分の魔晶石に不用意に近づくものに対しては、殺害をも厭わなくなる。
採掘師が一般人に恐れられる理由の一つなのよ。
かつて、都市結界用の魔晶石の設置のために出張する加工師が手配できず、止む無く、当該魔晶石を採掘した採掘師に出向いてもらったことがあるの。
魔晶石を所定の場所に設置して、魔法陣を起動するだけの仕事だったのだけれど、立ち会った作業員が愚かにも魔晶石に不用意に触れたの。
その行為だけでも魔晶石が正常に起動しなくなる可能性もあったのだけれど、幸いにしてそこまでの接触では無かったし、触れた者が魔力の少ない人だったのが幸いして、魔晶石の効果に問題は無かったのだけれど、採掘師が激怒して、その場でその魔晶石に触れた作業員を切り捨てたの。
後々、被害者の家族とギルドの間で揉めることになったのだけれど、・・・。
作業員はしてはならないことをしたかもしれないけれど、流石に殺すまでの必要性は無かった。
でも、採掘師の感情では不用意に自分の魔晶石に触れること自体が許されざる問題だったの。
これ以降採掘師が加工師の代わりに設置作業に携わることは無くなったわ。
将来、貴女が採掘師になったり、加工師になったりした際には十分に気を付けてね。
採掘師の許可を得ないで採掘してきた魔晶石には絶対に触れないこと。
そもそも魔晶石はものすごく繊細な代物なの。
魔晶石を採掘した者以外が触れるとその魔力で変質したり、更には別の採掘師や加工師の音声に反応してその機能を歪ませることもある。
そんなことになれば、その採掘師は絶対に許さずに、その変質の原因となった者を殺そうとする。
そんなときの採掘師は呆れるほど狂暴よ。
もともと、採掘師が冒険者ならばSランクを凌駕する力を持っているからね。
無傷で押さえることは事実上難しいの。」
そこまで話して、ふっと気をそらしたジェシカさんです。
学園がお休みなので、領都に赴き、魔晶石ギルドに事前の確認に行くことにしたのです。
魔導飛空船の運賃は高額です。
バンデルからモノブルグまでの往復運賃でお父さんの半月分の工賃収入が消えてしまいます。
ウチは母も稼いでいて二馬力ですから左程家計に影響は与えないとは思うのですけれど、それでも高い運賃を出してくれた両親には大感謝なのです。
魔導飛空船を利用する人はどちらかと言うと商人でも大手の人、貴族やお役人などがほとんどで、私の様な平民の娘が乗り込むのは極めて珍しいようです。
遠慮会釈なくじろじろと眺められるのが何となく嫌な感じでした。
そんなことなんかは、ひたすら耐えれば良いことで、流石は魔導飛空船です。
乗り込んでから2時間後には領都モノブルグの飛行場に到着していました。
地上を走る駅馬車を使っていたなら最低でも片道三日は要していたはずです。
今日の予定は、朝一番の魔道飛空船で出発し、本日の最終便で戻らなければならないのです。
私は急ぎ足で飛行場から領都中心部へ向かう辻馬車に乗り込みました。
最終便が出るまで概ね4時間(地球では6時間程度でしょうか)ほどしかないのです。
中心街区で降りてすぐのところにギルドが固まっていました。
その中でもかなり小さな建物に掲げられている看板の魔晶石ギルドの文字を頼りに、ドアを押し開けました。
中にはカウンターと思しき机がひとつだけでその脇には応接セットがありました。
カウンター席に比較的若いおばさまがいらっしゃいましたので、軽くお辞儀をしてから話しかけました。
「あの魔晶石ギルドについてお伺いしたいのですが、こちらで宜しいのでしょうか?」
「おや、まぁ、珍しい。
もしかして成人の儀で魔晶石採掘師か魔晶石加工師の職が告げられましたか?」
「はい、その両方の職のお告げがありました。
それで、未だ学園に在学中なのですが、学園を卒業したならどのような手続きをすれば宜しいのかお伺いに参りました。」
「わかりました。
私は魔晶石ギルド・モノブルグ支部のサブマスターをしている、ジェシカ・ダーレンです。
お嬢さんのお名前を聞いてもよろしいかしら?」
「はい、私はシルヴィ・デルトンと申します。」
ジェシカさんは笑みを浮かべながら頷き、すぐ脇の応接セットに私を誘った。
それから直径が20センチほどもありそうな水晶玉をカウンターの机から持ち出し、応接セットの机の上に置いた。
「シルヴィさん、これに右手を触れてもらえますか?」
シルヴィが水晶玉に触れると透明な水晶玉が淡い光を発した。
虹の様な色合いは前部で八色ありそうだった。
ジェシカさんは満足そうに頷き、羊皮紙に何事か記載しながら言った。
「とても良い発色ですね。
八神の恩寵が間違いなく確認できましたけれど、加護を貰った神様が分からないわ?
どなたの加護を貰いましたか?」
「あの・・・。
加護を与えてくれた神様から他人には言わないようにと告げられたのですが、ここで言わなければなりませんか?」
「うん?
加護を与えし神様から直接告げられたと言うことなの?
それは、とても珍しいのだけれど・・・。
わかりました。
ここでは言わなくても結構です。
但し、ホープランド本部に赴いた時にはきちんとお話ししてください。
加護を与えし神が誰なのかを確認することは、採掘師や加工師を育てる上で非常に重要な事項なのです。
でも、今の段階では、そこまで要求いたしません。
貴女の衣装からすると平民の町家の娘さんかしらね。
ご両親を含めたご家族の職業を聞いてもいいかしら?」
「父は宝飾加工師で、母は刺繍師です。
それと兄が居て、兄は商人見習いになっています。」
「ご家族で魔法を使える方はいらっしゃる?」
「いいえ、居ないと思います。」
「では、あなたも魔法は使えない?」
「いいえ、私は従たる職業に魔法師があり、魔法系の属性もありますので魔法は使えます。」
「実際に使ったことが有る?」
「えっと・・・。
成人の儀を終えた後で、家族には内緒で隠れて使ったことが有ります。」
「ふふっ、好奇心旺盛なのね。
で、何が使えました?」
「属性としては、光、空間、火、水、雷、氷、闇と生活魔法の威力の小さいものを試してみました。」
実は、家では怖くてできませんでしたので最寄りの空き地に行って人怪我無いことを確認して色々試したのが昨日でした。
「おや、殆どね。
魔力はどの程度あるの?」
「えっと、今は、多分320程です。」
嘘です。
昨日の夜見たら1000を超えていました。
流石に三日で十倍は拙いかと思って、三倍程度で言ったのです。
「そんなに?
凄いわね。
成人の儀が終わったばかりなのでしょう。
レベル1で、魔力が300を超えていたら大魔導士並みよ。」
あれ?
予測の斜め上でした。
300でも多かったのですね。
「うん、大体わかりました。
じゃぁ。
主たる職で魔晶石採掘師と魔晶石加工師、従たる職で魔法師。
これでいいかしら?」
「いいえ、その、従たる職はもう少しあります。」
「え?従たる職も複数なの。
それはとても珍しいわねぇ。
で、何があるの?」
「あのぅ、言っていいかどうかわかりませんが・・・。
魔法師の他に、錬金術師、鍛冶師、工芸師、声楽師、調理師、治癒師、薬師、鑑定師、真贋鑑定師、調律師、騎士、剣士、斥候があります。」
「おんやまぁ。
採掘師と加工師にとって大事な職のオンパレードだわね。
ごめんなさい。
もう一度最初からゆっくりと言ってくれるかしら。」
シルヴィはもう一度繰り返した。
「うーん、シルヴィさんはちょっと桁外れかな。
とっても良いことではあるけれど、私からも特に注意しておきます。
貴女の能力はできるだけ人には内緒にしておきなさい。
ご家族にもね。
例外は、魔晶石ギルドの職員だけ。
魔晶石ギルドの登録会員であってもギルド職員ではない者には可能な限り秘匿してください。
余り言いたくはないけれど、魔晶石ギルドの登録会員同士で派閥を作って結構足の引っ張り合いをしているから、新人さんはそれに巻き込ませたくない。
今の段階では貴女も会員ではないけれど会員になることが分かっていれば色々と手を出す輩もいるから注意してね。
特に能力が高いものほど狙われやすいの。
一言で言うなら、このギルドは魑魅魍魎の巣だから。
それと他のギルドにも知られたら駄目よ。
魔法師の職があるからって、魔法師ギルドなんかに届け出たら絶対に囲い込まれてしまいます。」
何とも成人したての者にとっては大変刺激的なお話です。
「貴女のことは本部に秘匿通知しておきます。
本来ならば学園を卒業してから仮登録するのだけれど、貴女の場合はその手間を省いて、現時点で仮登録を済ませます。
学園卒業時にこのギルドを訪ねる子が多くって、それを狙って魔法ギルドがちょっかいを掛けたり、魔晶石ギルドの会員が派閥獲得のために見張ることがあるので、その時期にはここには用事がない限り近づかないようにした方がいいわ。
学園を卒業したなら、これに記載してある必要な物を持って、ファンダレル王国の王都経由でワイオブール公国に赴き、公国のほぼ中央に在るホープランドの魔晶石ギルド本部に向かいなさい。
その際に、この仮IDカードを見せれば、交通機関や宿泊施設は全て無料で利用できるはずよ。
もしこれを拒否する者が居たなら最寄りの公的機関に通知して頂戴。
必要な処分が行われるはずだから。」
そう言ってジェシカさんは一枚の書面(羊皮紙)と白い金属製のカードを渡してくれた。
白い金属製のカードには、十八面体の水晶の平面図が中央に描かれ、下端に魔晶石ギルドの名前が彫られていた。
「あとは、貴女の疑問に答えるだけかしら?
何が聞きたいの?」
「私が、魔晶石ギルドに登録できるとして、学園卒業までにしておくべきことはありますか?」
「特には無いわ。
でもできれば身体を鍛えて、魔法も訓練しておきなさい。
但し、そのいずれも他人にはできるだけ知られないようにすること。
知られる危険性があるならば、そもそもしない方がいい。
貴女が本部に行ってからでも研修期間は十分にある。
少なくとも研修で十分な能力が身についていなかったなら現場に出されることは決してないわ。
事前に訓練なり鍛錬なりをしておけば、単に研修期間が短縮されるというだけだから。
研修を終えるのは、当人の実力次第なの。
これまで実例はないけれど、本当に力があれば研修をせずに現場へ出すこともできる制度になっているの。」
「魔晶石ギルドって学園の授業にも出てきません。
宝飾加工師の父がかろうじて魔晶石と魔晶石ギルドの存在を知っていたぐらいです。
何故、それほど知られていないのでしょうか?」
「うーん、知らせてもあまり意味がないからかしら?
そもそも魔晶石採掘師若しくは魔晶石加工師のいずれかの資格を持たないとギルドに加盟できないし、登録したにしても適性が無いとわかれば採掘師にも加工師にもなれないことがあるの。
魔晶石採掘師若しくは魔晶石加工師のいずれかの資格を有する者が存在する確率は、人口50万人に一人ぐらいかな。
その有資格者が本部で研修中に適性が無いことがわかったり、実習中に死傷することもあるからね。
本部で研修を修了して実際に採掘師若しくは加工師になれるのは、概ね7割ぐらい。
最近は事前のチェックで不適合者が概ねわかるようになっているから、確率は上がってきているけれど、それでも10人の研修者で最終的に無事に履修できるのは8人ぐらいじゃないかしら。
一旦、研修に入ると仮採用になるから、仮に履修できなくても死者やかなりの重症障害者でない限りは、ギルドの支援部門で働けることになっているのよ。」
「因みに研修中の教材費とか食費とかはいくらぐらいかかるモノなんでしょう?」
「ギルド本部に到着した時点で希望者は仮採用となるからね。
研修中は、稼ぐこともほとんどできないけれど、全ての経費をギルドが面倒みます。
但し、その費用は会員自体の借金として計上され、利息は無いけれど実際に働き出してから返済が求められる。
採掘師でも加工師でも収入の全てはギルドが取り仕切っているから、毎月収入の一割から二割を自動的に差し引かれているのよ。
仮に全く収入が無くて、ギルド内で飲み食いしているだけの状態だと借金が増えてくると同時に待遇が悪くなる。
例えば食事の質が悪くなったり、宿泊施設のサービスが低下したりすることになる。
ギルドも慈善事業をやっているわけじゃないからね。
働かない者は相応のサービスが受けられなくなるという訳なの。
因みにギルドで活動し、正常に稼いでいる間は、腕の良い採掘師なんかは王侯貴族並みの待遇を受けられるよ。」
「年を取って働けなくなるとどうなりますか?」
「ギルドに互助的なシステムは無いのよ。
不安であれば自分で稼いだ金を貯めておくか、或いは別の商売に投資するかしないと困ることがあるかもしれないわね、
でも、その心配はあまりしなくてもいいのじゃないかしら。
採掘師にしろ、加工師にしろ、魔晶石に直接関わり合う者は実は老化しにくいという体質に変化しちゃうの。
その原因は未だよくわかってはいないのだけれど、ホープランドの魔境に在る何らかの因子が魔晶石に籠り、その影響を採掘師や加工師が受けて体質が変わってしまうと考えられているわ。
一番影響を受けるのが採掘師でその次が加工師かな?
それと、老化しにくいという体質になってもいずれ寿命は訪れる。
概ね55歳から60歳程度で、いきなり老衰がはじまるようなの。
この状態に入るとどんな治療を行っても無駄で、老衰症状が発症すると凡そ二日で死に至るみたいね。
採掘師の場合で69歳、加工師の場合で63歳がこれまでの上限ね。
この上限が如何にして訪れるかを解明でき、これを伸ばすことができたなら、ギルドから大枚の報償が出ると思うわよ。
現状で徐々に減りつつある採掘師と加工師の数をいくらかでも維持できることになるからね。
魔晶石の需要は高まっているのに、採掘師も加工師も上級クラスが少ないので需要に供給が追い付かないでいるの。
ギルドが抱えている大きな問題の一つね。」
「魔晶石を採掘する場所は、そもそも魔境で通常の魔物や魔獣よりもはるかに強大な魔物や魔獣が出現すると聞きました。
そこに魔晶石を取りに行くということはそれらの魔獣や魔物と戦うことを意味しているのですか?」
「そうね。
それも、まぁ、大きな問題の一つ。
魔晶石は今のところホープランドの魔境にしか存在しない。
それを採掘するためにはどうしても魔境に入ってゆくしかないのだけれど、採掘師の場合個人的な営業活動だから、仲間で寄り集まって活動するという方式がとれないの。
大昔、試験的に共同して採掘活動をさせたことがあるのだけれど、採掘した魔晶石の配分を巡って私闘が起こり、死傷者が出たの。
それ以降、採掘師が二人以上で活動するのは極めて例外的な場合に限られることになったわ。
魔晶石は採掘師や加工師の肉体だけではなく、どうも精神にも干渉するようなの。
どちらかと言うと偏屈になり、自分の採掘した魔晶石に関してはもの凄く偏執的になる。
だから自分の魔晶石に不用意に近づくものに対しては、殺害をも厭わなくなる。
採掘師が一般人に恐れられる理由の一つなのよ。
かつて、都市結界用の魔晶石の設置のために出張する加工師が手配できず、止む無く、当該魔晶石を採掘した採掘師に出向いてもらったことがあるの。
魔晶石を所定の場所に設置して、魔法陣を起動するだけの仕事だったのだけれど、立ち会った作業員が愚かにも魔晶石に不用意に触れたの。
その行為だけでも魔晶石が正常に起動しなくなる可能性もあったのだけれど、幸いにしてそこまでの接触では無かったし、触れた者が魔力の少ない人だったのが幸いして、魔晶石の効果に問題は無かったのだけれど、採掘師が激怒して、その場でその魔晶石に触れた作業員を切り捨てたの。
後々、被害者の家族とギルドの間で揉めることになったのだけれど、・・・。
作業員はしてはならないことをしたかもしれないけれど、流石に殺すまでの必要性は無かった。
でも、採掘師の感情では不用意に自分の魔晶石に触れること自体が許されざる問題だったの。
これ以降採掘師が加工師の代わりに設置作業に携わることは無くなったわ。
将来、貴女が採掘師になったり、加工師になったりした際には十分に気を付けてね。
採掘師の許可を得ないで採掘してきた魔晶石には絶対に触れないこと。
そもそも魔晶石はものすごく繊細な代物なの。
魔晶石を採掘した者以外が触れるとその魔力で変質したり、更には別の採掘師や加工師の音声に反応してその機能を歪ませることもある。
そんなことになれば、その採掘師は絶対に許さずに、その変質の原因となった者を殺そうとする。
そんなときの採掘師は呆れるほど狂暴よ。
もともと、採掘師が冒険者ならばSランクを凌駕する力を持っているからね。
無傷で押さえることは事実上難しいの。」
そこまで話して、ふっと気をそらしたジェシカさんです。
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当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
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※小説家になろう様にも投稿しています
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注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。
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