魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監

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第一章 プロローグ

1-1 成人の儀 その一

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 私、シルヴィ・デルトンは、11歳の成人の儀を経て一端いっぱしの職人となる予定なのです。
 父マルコムは宝飾加工師、母エディーヌは刺繍師としていずれも有能な職人と知られ、稼ぎも良いためにシルヴィもそこそこに良い生活を送れているのです。

 私は手先が器用なので、宝飾加工師にも刺繍師にもなれると思っているのですが、全てはメダリオン教会での成人の儀で神様より「お告げ」を受ける「職業」の中身次第となります。
 仮に農民の子であっても、あきないの神ミュテナイ様の加護を得たなら商人になることを周囲から勧められます。

 またたくみの神パイテス様の加護を得たなら宝飾加工師、刺繍師を含む生産職になるでしょう。
 成人の儀では神様の加護とともに、例えば「宝飾加工師」など、その具体的職名が付与されるのです。

 これ以外の職業に全く就けないというわけではないのですが、他の職業では大成しないと言われています。
 やはり神様のお告げに合った職業に就くのが最も相応しいのです。
 
 成人の儀は一年に四回、季節の変わり目ごとに行われ、それから始まる季節に満年齢で11歳になる子が教会に集められ、成人の儀が厳かに執り行われます。
 父や母、それに行商人になっている兄にも聞いたのですが、儀式で司祭の指示に従ってお祈りを捧げていると、唐突に頭の中に得られし神の加護と職業の名前が浮かぶのだそうです。

 そうしてそれがその人の成人の儀で得られた職業となるのです。
 往々にして自らが望む職業になれないことも多いと聞いています。

 農民の子が「騎士」を望んでいても叶えられないことが多いし、騎士の子が望んでいない「農民」を職業に与えられることもあるのです。
 すべては神の思し召し次第なのです。

 神により告げられた職業を隠して別の職に就くことは可能なのですが、それぞれのギルドに備えられている特別な魔石に手を触れるとそのギルドに適性があるかどうかが分かってしまうのだそうです。
 適性が無くてもギルドで登録を受けることは可能なのですが、その場合適性がある者に比べるとギルドの対応で能力が低く見られるなど明らかな差別が横行するらしく、デメリットが多すぎるようなのです。

 勿論、登録の段階等で神から与えられた職が何なのかをギルド職員を含めて他人が知ることはできないのですが、登録手続きのために魔石に触れると当該ギルドに適性のある者はほのかに青く光るのです。
 一方で、適性の無い者が魔晶石に触れると不活性状態の赤黒い色になると聞いています。

 そうして如何なる者であっても、いずれかのギルドかそれに代わるモノに所属しなければ実質的に仕事はできないのです。
 ギルドの登録が成されていない者により生産された物の売買は原則として禁じられます。

 勿論、自ら消費するために造った家庭菜園の野菜を収穫し、家族で食べることはできますし、親しい友人におすそ分けすることぐらいは許されています。
 それは家庭菜園で野菜を造ることが仕事として見られていないからなのです。

 何れにしろ、生活のかてを得るための職業に就くためには相応のギルドに登録するという手続きが絶対に必要なのです。

 シルヴィは両親共々敬虔けいけんなメダリオン教徒なので、神のお告げで得られる職業に就くつもりでいます。
 そうして、今、シルヴィはモンゼル侯爵領立バンデル学園中等部三年生のクラスメート達と共にバンデル市内にあるメダリオン教会の聖堂でひざまづいているのです。

 いつものように祭壇背後のステンドグラスを透過した光によって、八芒星に取り付けられた輝石がとても綺麗に輝いています。
 その祭壇の上で司祭様が厳かに言いました。

「天界の神々に祈りを捧げ、その御加護を願いなさい。
 さすれば八神やつがみのいずれかの加護と適性職が汝らに告げられるであろう。
 メダリオンの八神に大いなる感謝を。」

 メダリオンの八神というのは、「智の女神アシャ」、「戦の神クライス」、「工の神パイテス」、「商の女神ミュテナイ」、「鍛冶の神ルーデス」、「芸術の女神ミゾン」、「農業の神アトル」、「治癒の女神ケルティ」のことであり、この八神のほかに天界の王である「絶対神ゼファー」がいらっしゃるのです。
 八芒星の中心にある円が絶対神を表わしていますが、加護を与えてくれるのは八神であり、ゼファー様は加護には関与しないので、加護をお願いするのは八神様だけになるのです。

 司祭様の発声で私達は一斉に目をつむって八神様にお祈りを捧げました。
 すると目を閉じていたのにまぶた越しにシルヴィの周囲にまばゆい光があふれたことに気づき、本当はいけないのかもしれませんが、私は目を開けてしまいました。

 驚いた事に周囲は真っ白な光で満ち溢れていました
 そうしてやがて眩い光に眼が慣れると、目の前には神々しい光背オーラをもった9柱の神々が見えました。

 私は跪いていましたが、あわてて両手の人差し指を床につけ、こうべを垂れて服従の最高礼を示しました。
 するとどなたかわかりませんでしたが、声が聞こえました。

「シルヴィよ、我らを恐れることなかれ。
 そなたは我らに招かれた客人じゃ。
 顔を上げなさい。」

 私が恐る恐る顔を上げると、中央に立つ方が言いました。
 先ほど聞こえた声と同じ声でした。

「我はゼファーなり。
 そなたは転生者だが、成人の儀までその知恵と記憶を封印していた。
 それを今から解き放つ。」

 その言葉と共に、私の頭の中に溢れんばかりの知識が一気に流入しました。
 一瞬、恐慌を来たしましたが、すぐに落ち着くべきところに落ち着いたようで私は思い出しました。

 私は、かつて日本人の大滝おおたき留美るみでした。
 東京にある某有名大学工学部を卒業し、IT関連の電子機器製作会社の開発部社員として就職、そこで5年を経過したアラサー女史だったのです。

 男性の友人は居ましたけれど、恋人はいませんでしたネ。
 帯に短し、たすきに長しといった感じで、恋の「ときめき」や「めぐり逢い」を感じなかったままだったのです。

 留美は、極普通の独身OL生活を満喫していたのですけれど、夏場の突然の豪雨の最中、帰宅途上の都内某所でマラカイボ湖を思い起させるような無数の落雷が発生、その一つが無防備な路上の私を襲ったのです。
 傘は差していたのですが何の防御にもならず、呆気なく私は死んだのです。

 幽界で閻魔大王の審判を受けることも無く、何故か私は和風の神様の前にいました。
 古式豊かな白衣、緋袴ひばかま千早ちはやの衣装を身に着け、綺麗に結われた長髪のおすべらかし、頭飾りは金ぴかの円盤が付けられた前天冠まえてんかんでした。

 多分この神様って、何となく天照大御神アマテラスオオミカミではないのかなと思いましたけれど、確証はありませんでした。
 その和風の神様が私に少し頭を下げて言いました。

「ゴメンナサイネ。
 スサノオが悪ふざけのオイタをしたので、ちょっと折檻のために力を発動したら、勢い余って下界にまで被害が及んでしまったの。
 私の過ちであって、貴女に責任は無いけれど、結局、「轟雷ごうらい」が貴女の命を奪ってしまいました。
 ツキヨミの話では、貴女は冥界に来る時期に至ってはいなかったそうよ。
 何とか元に戻そうとしたのだけれど、直撃を受けた貴女の身体は骨の髄まで真っ黒けで流石に修復できませんでした。
 で、私の知り合いにお願いして、貴女を別の世界に転生させてもらうことにしました。
 こっちでも輪廻りんね転生はあるのですけれど、おきてがあってすぐに人には戻れない。
 何度か転生を繰り返さねばならないし、乱数表で次の転生体を決めることになるので人の身体に転生するまでにはどの程度の時間を要するか私でもわからないの。
 まぁ、これまでの統計から言うと人に戻るまでは最も早くて十回以上の輪廻転生が必要で、最も遅いのでは千回を超えます。
 貴女の記憶をとどめられるのは精々二、三回の転生までで、その後はデジャビュとして記憶の欠片かけらは残るかもしれないけれど生前の記憶はほとんど残らないわね。
 でも私の知り合いの世界では記憶を保ったまま人への転生ができるのよ。
 あちらの世界の詳しい情報は向こうで聴いてね。
 お詫びに私からは、貴方に陰陽術おんみょうじゅつ言霊ことだまの力を授けます。
 貴女のご家族の行く末は私たちが見守っていますから安心してね。
 実は今回の轟雷の件で他にも下界でいろいろ被害が出ているので、その対応で忙しいの。
 時間が無いので、これでゴメンしてね。
 向こうの世界で貴女が活躍するのを祈っています。
 じゃぁね。」

 そう言って、目の前からポンと消えちゃいました。
 あれぇ、一気に自分の言いたいことだけ言って、サッサと逃げちゃったんじゃないの?

 自分の名前すら名のっていないしさぁ。
 これって随分な対応じゃない?

 そう思っていたら、一瞬のうちに目の前が変わりました。
 何やら白い世界から少し空色っぽい世界に変わったみたい。

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