母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監

文字の大きさ
上 下
72 / 83
第五章 サザンポール亜大陸にて

5ー24 ダーレンヴィルにて

しおりを挟む
 マルコです。
 マントンの宿場町を拠点にして、コルデニアル帝国の古代遺跡を見て回っている最中に、マルコの夢に龍が出現し、水神様の加護をいただいてしまったのですけれど、そのマントンも出立してゆっくりとではありますが、シナジル往還をひたすら東進するマルコ達一行です。

 例によって隊商の後について行く旅路であり、途中の要所要所で観光のために立ち止まり、隊商を見つけてはついてゆくということを繰り返しています。
 当然のことながら、旅の間には魔物の襲撃や野盗の襲撃もありますけれど、警護のゴーレムが居る限りマルコ達の馬車に危害を加えられることはありませんし、必要に応じてマルコが危険を排除していますけれど、それを他の者には知られないよう巧妙に隠しているのです。

 サザンポール亜大陸に到達し、秋季9ビセットに西端のケサンドラスを出立してから一年余が経ちました。
 マルコ達一行は、サザンポール亜大陸を東西に分断するバドル山脈の麓にやって来ています。

 これから上り勾配になって馬車の歩みも遅くなる上に、既に冬季11ビセットに入っていて、幾つかある峠道ではトンネルや覆いで幾分寒さをしのげるものの、この時期は大きな隊商はバドル山脈を抜けることを嫌うのです。
 マルコ達の馬車は防寒設備も十分にしてありますし、馬車も警護の者もゴーレムですので寒さには何の心配もありません。

 但し、この時期に馬車一台で山越えをするのは非常に珍しく、目立ってしまうのです。
 その上、数は少ないのですけれど急ぎ旅で無理をして山越えをする馬車が偶にあって、それを狙う盗賊団がこのバドル山脈には居るのです。

 彼らは冬場を専門にして活動しているようなのです。
 急ぎ旅で無理をする旅人ほど金に余裕があるモノと見做みなしているのかもしれません。

 マルコ達は、そんな盗賊が現れても問題なく対応できますけれど、あまり目立つことはこれからも旅が続くので避けなければなりません。
 そんなわけで10ビセット半ばから宿場町ダーレンヴィルで隊商が来るのを待っているのですけれど、生憎と今年は隊商も旅を手控えているのかもしれません。

 ここ五日ほどの間ですが東西いずれの方向へも隊商が来ないのです。
 いろいろ情報を探ってみると、どうも峠道付近での寒さが厳しく、道が凍結しているために馬車の通行が厳しいのだそうです。

 半月ほど前に、三つの隊商で続けて馬車が谷底に落ちるような事故が起きたことから、隊商の通行が止まってしまったのです。
 マルコが居れば、アイスバーンでさえも何の支障にもなりませんが、そんな凍結道をどうやって超えて来たのかと問われることになりますし、もしかすると真似をする者も出てくる恐れがありますから、マルコも無茶はできません。

 カラガンダ翁とも相談し、結局は隊商が動き出すまではダーレンヴィルで長逗留をすることにしました。
 仮に無理をする隊商が居ても、ついては行かないことにしました。

 ついて行けば、難儀した場合に助けざるを得なくなるからです。
 元々、このバドル山脈は冬季には通行が難しい場所でしたから、その昔は皆が冬場の通行を控えていたものなのです。

 やむを得ないこととは言え、予定にない逗留になってしまいましたけれど、このダーレンヴィル周辺には観光になるような場所もありません。
 カラガンダ翁、ステラ媼、マルコ達三人はそれぞれの趣味を続けるしかありませんでした。

 カラガンダ翁は陶芸と絵画を、ステラ媼は刺繍や編み物をしています。
 マルコは、魔道具の制作に余念がありません。

 おそらくは来年の冬場か、再来年の春には、マルコ達一行はサザンポール亜大陸の東端に達します。
 そこで一旦、転移魔法でカラガンダ夫妻をニルオカンへ送り届けてから、マルコは一人旅になる予定なのです。

 その時にはマルコも12歳になっていますから、サザンポール亜大陸東端の港町バウエンで、マルコは冒険者ギルドで等級を上げ、更には商業ギルド等にも登録をするつもりでいるのです。
 この世界では12歳で一応の一人前と見做されることから、大人並みに扱われることになります。

 本来であれば、そこから徒弟になったりして大人に見守られながら、商人なり、冒険者なり、薬師なりに精進するのですけれど、マルコの場合は能力的には規格外ですから、その超一流の能力を使ってどのギルドに入っても最上級の地位に就くことは可能なのです。
 但し、マルコは必ずしも周囲に能力をひけらかそうとは考えていません。

 ギルドに登録して必要な活動ができればそれで良いのであって、法外な金儲けをするつもりもありません。
 なにしろ、マルコのインベントリには、様々な財宝や武器などが多数遺されていますから、それを売るだけでも十分に生活ができるのです。

 マルコは、バウエンで登録をしたなら、辻褄つじつまが合うようにそこそこの時間をおいて、オズモール大陸に渡り、更にそこからエルドリッジ大陸へ飛ぶつもりでいます。
 そのために、今取り組んでいるのは飛行艇の開発なのです。

 既に出来上がっているグリモルデ号も素晴らしい乗り物ですけれど、長距離をこなすには速力不足なのです。
 飛行艇が有れば、グリモルデ号の数倍の速さで移動もできます。

 マルコは、静粛性の高いVTOL機の制作を考えています。
 プロペラやジェットなどを利用すると騒音が出ますけれど、重力制御の魔道具ならば騒音の発生は避けられますよね。

 環境にも優しいはずです。
 今のところ設計段階ですけれど、ワンボックスカーの形状をより平たくし、流線型を増した形?

 金谷が見知っているワゴン車等に比べるとかなり大きな機体になりそうです。
 高さは3m、幅が5m、長さが14m程になりますから、コンボイと呼ばれるトラックの二倍近い平面積があります。

 内部はグリモルデ号と同様に亜空間とも連結するつもりですけれど、原則として人には見せないタイプで考えています。
 これだけ大きくなったのは室内空間を広くとった所為ですね。

 航空機ですので、基本的にはそんなに長い時間をこの中で過ごすつもりはないのですけれど、何か必要があって留まらざるを得ない場合を考えて余裕をもって大きく作ってしまいました。
 この世界には無いはずの飛行艇が人目に触れるとまずいので最初から姿を隠蔽しますし、必要が無ければ着陸もしない仕様にしています。

 飛行艇への乗降は転移魔法で行えば良いので、わざわざ着陸はしないつもりなんです。
 但し、どうしても必要な場合は着陸して、タラップから乗降できるように設計しています。

 こうして、春季2月の終わりまで至極穏やかな日々をダーレンヴィルで過ごすことになりました。
 その間、宿場町の市場で知り合った人や、ギルドでの依頼もこなしたりしましたので、マルコ達は結構な数の住人と触れ合いました。

 そんな中にマルコ達が泊まった宿屋の隣に住む、ボスフェルト一家が居ました。
 出逢いは単なる朝のお散歩のときです。

 カラガンダ夫妻とマルコは朝食前に宿の周囲を散歩するのが慣例なのです。
 そんな時に、少し遅めに出た際に、ボスフェルト一家のお散歩と一緒になったのです。

 マルコよりも二つ年下のお嬢さんが居て、マルコに懐いてしまったことから、朝のお付き合いが始まりました。
 ボスフェルト夫妻は、ちょうどカラガンダ翁の長男夫妻ぐらいの年頃になります。

 ボスフェルトさんは陶器や食器を売る店を開いていましたので、カラガンダ翁とも話が合いました。
 奥様同士も嫁と姑の年頃ではありますが、親族のような柵がある立場ではありませんので気軽に話をしているようです。

 旅の合間にこうした触れ合いの機会があるのはとても心地よいものです。
 急ぎ旅や予定に追われる旅ではそうしたことは中々ままなりませんよね。

 12ビセットも押し迫ったこと、ボスフェルトさんの娘ルイサが熱を出してしまいました。
 マルコが密かに鑑定すると、魔力と瘴気が結びついて稀に発症するミャズマ・タヴィ・パタ症候群で有ることが分かりました。

 この症候群は、適度な魔力を有する者であって未だ魔法を発現していない者が、自然にある魔素溜まりに不用意に入った際に稀にかかる病気なのです。
 幼少の頃にかかりやすい病気ではあるのですが、百人の子供が居て一人がかかるかかからないかぐらいの発症率の低い病気なのです。

 従って、この世界ではその治療法も見つかってはいませんから、この世界の療養師や薬師では病名すらもわかってはいないので手の打ちようがないのです。
 体内魔力と瘴気が反発しながら混じりあってからおよそ三日ほどで高熱を発し、徐々に臓器不全を引き起こして死に至る恐ろしい病気なのです。

 マルコの保有する経験知識で、療養師アズマンの経験知識では不治の病だったのですが、錬金術師ユーリアの薬師能力でこの症候群に対抗する薬を見出すことができました。
 錬金術師ユーリアがその生涯の晩年に造り上げた劣化版アムリタです。

 幸いなことにマルコが持つ膨大な資材庫に必要な素材が有ったので、丸々一日をかけて劣化版アムリタを生成、これをモンテネグロ家に伝わる秘薬として服用させることができました。
 ルイサが回復したことにより、街で療養を請け負う教会関係者が当該薬品の提供を求めてきたが、ルイサに飲ませたものが残っていた最後のもので我が家にはもう残っていないと言って断りました。

 粘る教会関係者を追い返すのが結構大変でしたが、家に伝わる製法も定かではない秘薬という設定が効いて、半月も経たずに彼らも諦めたようです。
 ダーレンヴィルにいた数ビセットにおいて、目立った騒ぎはこれぐらいでしたから、比較的平穏な時間であったはずですね。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

私のアレに値が付いた!?

ネコヅキ
ファンタジー
 もしも、金のタマゴを産み落としたなら――  鮎沢佳奈は二十歳の大学生。ある日突然死んでしまった彼女は、神様の代行者を名乗る青年に異世界へと転生。という形で異世界への移住を提案され、移住を快諾した佳奈は喫茶店の看板娘である人物に助けてもらって新たな生活を始めた。  しかしその一週間後。借りたアパートの一室で、白磁の器を揺るがす事件が勃発する。振り返って見てみれば器の中で灰色の物体が鎮座し、その物体の正体を知るべく質屋に持ち込んだ事から彼女の順風満帆の歯車が狂い始める。  自身を金のタマゴを産むガチョウになぞらえ、絶対に知られてはならない秘密を一人抱え込む佳奈の運命はいかに―― ・産むのはタマゴではありません! お食事中の方はご注意下さいませ。 ・小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 ・小説家になろう様にて三十七万PVを突破。

処理中です...