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第五章 サザンポール亜大陸にて
5ー14 ベランドル温泉郷 その三
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ごみ処理場のクエストをこなしたことで、無事にマルコの実績もあげたことから冒険者ギルドのクエストは当分据え置きです。
以後は、アブレンス宿でカラガンダ夫妻との語らいや散策を楽しむだけです。
マルコは、異なる世界の六人の人生の記憶を受け継いでいますけれど、それでもこの世界で長く生きている先達二人が語る知識と経験には重みがあります。
カラガンダ夫妻にとっては至極普通のことであっても、マルコにとっては全く新たな見識と知恵になり得るのです。
マルコの亜空間にある工房でのお仕事も暇を見ては継続しています。
カラガンダ義父様向けのローション等も開発しましたし、ステラ義母様用に化粧品も各種開発している最中です。
これまでの前世の記憶の中では、地球世界の記憶にある化粧品の数が圧倒的に多いのはわかっています。
しかしながら、生憎と日本人金谷は男性でしたので、女性の化粧品に詳しいわけではありません。
他の世界でも同様なのですけれど、それでも錬金術師ユーリアと療養師アズマンの薬品や人の肌に関する知識は、化粧品の開発に大いに役立ちました。
但し、そうした知識と経験があってもマルコが新たな化粧品を生み出すには、かなりの労力とアイデアが必要だったのです。
日本人金谷の断片的な記憶を手繰って、洗浄用化粧品、化粧水、乳液やクリームなどのスキンケア用品、ファンデーション、口紅やアイメークなどのメイクアップ用品、シャンプー、トリートメントやヘアカラーなどのヘアケア用品、石けんなどのボディケア用品、歯磨き剤や香水などがあるとわかったので、ステラ義母様の肌質にあった専用の化粧品、さらにカラガンダ義父様の体質に合わせて肌や髪の手入れ用品を開発しています。
もう一つ義父様や義母様の健康にも注意するようにしました。
義父様も義母様もともに御年ですからそれなりに身体のあちらこちらに障害が発生していました。
今後一年半ほども旅をすることを考えると、壮健でいてもらわねばならないのです。
いきなり二人を若返らせるといろいろと後で問題を引き起こしますので、十年から十五年ほどの若返りを目途にして、治癒魔法をかけています。
単純に言えば、かなり落ちてきていた視力が徐々に戻り、書籍などが楽に読めるようになってきましたし、視野狭窄に陥りかけた部分も改善し始めています。
足腰は半日歩いても疲れを残さないようになりました。
これらの効果はじわじわと改善するようにしましたので、夫妻はマルコの魔法とは知りません。
いずれこの大陸の西端で別れの時が来たならば、そこからは自分の努力と精進で若さを保たねばなりませんけれど、少なくとも周囲の人達よりは健康で長生きができるのじゃないかと思います。
マルコの義父様と義母様へのお礼の一つですね。
◇◇◇◇
今日は、宿のペンホマタンから徒歩で半刻ほどの距離にあるゲレディット峡谷への散策です。
この場所は、宿の女将さんから聞き出した観光名所の一つなんです。
お供は、セバスにエマ、馬車は使いませんけれどクリシュも同道し、それに護衛の四人が少し離れた位置から警護を務めています。
七体ものアンドロイド型ゴーレムの護衛は必要もありませんが、さりとて、宿に残すことで要らぬ勘繰りを避けるためにも同行させています。
普通であれば、御者はともかくお付きの執事とメイドは同行するのが当たり前ですし、護衛もつかず離れず雇い主を警護するのが当然の話なんです。
一方、散策の先の景観というと、前にも言いましたが、あちらこちらに黄色く色づいた樹木はあれど、ほとんど紅葉は見当たりません。
峡谷までの道のりは緩やかな登りであり、自然を楽しみながらゆっくりと歩く義父様と義母様にとっても特段の支障にならない道程でした。
道端もしくは周辺に魔物の気配があると、前方警戒のゴーレムが事前に討伐もしくは追い払い、側面から近づくものは前方か後方のいずれかの護衛ゴーレムが対処します。
従って、マルコ達一行を遮るような魔物は出てきません。
峡谷に着くと峡谷を渡れる吊り橋がかかっており、対岸に渡れるようになっていました。
橋は、蔓で作られた蔓橋です。
足元がしっかりとした道板になっているわけではない上に、道板と道板の間が掌の幅以上に空いているために、上に乗ると谷底がまともに見えるような造りなので、これを渡るには相応の度胸が必要ですね。
義父様と義母様はともに遠慮しましたので、マルコも橋を渡るのはやめにしました。
そのために特に鑑定を使って安全性を調べようともしていません。
ところが、その対岸に若い男女二人が現れ、この蔓橋を渡り始めたのです。
当初は女性の方が少し怖気づいているような素振りでしたが、男性の方が手をつないで引いたので、渋々ながらも渡り始めたのです。
でも、橋の中ほどで男が道板を踏み抜いてしまいました。
あわやそのまま谷底に転落するかと思われるような展開でしたが、男は瞬時に太い蔦に腕を絡ませることができたので、男の身体は道板の下方にありますけれど、何とかぶら下がっている状態になりました。
手をつないでいた女性が引きずられて落ちていたら大変なことになっていたのでしょうけれど、とっさに手を離したので女性の方は無事です。
現状では、すぐに谷底に落ちるような状況ではないのですが、何だか男が自力で橋の上に戻るのはどうやら難しそうです。
優男というのか色男というのか、どうもかなり非力な男のようです。
仮に武人ではないにしても、普通の男ならば、ぶら下がっている蔦を手繰って自力で橋の上に戻れるはずなのですけれど・・・。
一方の女性の方は、そもそもこのような高所は苦手なのでしょうね。
男を助けようとじたばたしていますが、非力でなおかつ足場も悪いので全く対応できていません。
このまま放置すると男は転落することになります。
橋は下を流れる水面から40~45ブーツほども高さがあり、落ちてすぐに命を失うことはなさそうにも見えますけれど、水面に落下して気を失うとそのまま溺死することにもなりかねません。
マルコはため息をつきながらも、護衛のエイワに男を助け上げるように命じました。
エイワは、アンドロイド型護衛ゴーレムでも一番小柄な体格(四人の身長差は五センチ内外でほとんど一緒)をしています。
本来の体重は素材の所為でかなり重いのですけれど、反重力の魔法により普段は同程度の人の体重にしていますし、幼児程度にまでも重さを自由に調整できるのです。
あまり人目には見せられないですけれど、重さをマイナスにして空中浮揚もできるぐらいなんです。
傍目には道板を使わずに丈夫な蔦の部分を伝って渡るように見せつつ、落ちかけている男に手を貸し、無事に橋の上まで引き上げることができました。
結局、男と女は、恐れをなしてこちら側へは渡らずに元来た方角に戻って行きました。
もちろん、エイワに対してぺこぺこと頭を下げてお礼を言っていたようですが、観光地の橋が壊れているのはちょっと問題ですよね。
橋を管理している者が誰なのかはわかりませんが、宿に戻ったなら女将さんに通報してもらいましょう。
修理するまでは通行禁止等の処置をとってもらう必要もありますよね。
この峡谷自体は長さが一ケブーツ半ほどもあり、一方の終端は三段に分かれた滝になっています。
長い年月をかけて水流に削られた場所がこのような渓谷になったのでしょう。
渓谷自体は滝の部分を始点として、非常に高く峻険な崖が下流に行くに従って、徐々に崖の高さが低くなっているのが特徴です。
そのために、渓谷の終点付近を除いては、川岸に人が近づけるような場所も無いことから、おそらくは魚にとっては安住の地なのでしょうね、マルコの探知能力で大きな魚が多数この川に生育していることにも気づきました。
当然に峡谷部分の崖を降りられるような動物や魔物も稀ですので、ここに居る魚にとっては空を飛ぶ猛禽類や魔物が天敵ということでしょうか。
当初の予定通り、勇壮な水しぶきをあげる三段の滝を見物し、その日の散策を終えて無事に宿に戻ったマルコ達一行です。
明日は休養で一日宿でゴロゴロする日、その次の日は馬車を使って少し遠出の予定です。
このアブレンス宿の源泉がある場所に行く予定なのです。
この源泉は非常に温度が高いので冷やさないと人が入れる温泉にはなりません。
そのために人工的に作られた冷却用の樋と水車が多数設けられた施設があるようです。
源泉から噴き出る高温の湯気や周囲にある間欠泉も見どころの一つだそうですよ。
以後は、アブレンス宿でカラガンダ夫妻との語らいや散策を楽しむだけです。
マルコは、異なる世界の六人の人生の記憶を受け継いでいますけれど、それでもこの世界で長く生きている先達二人が語る知識と経験には重みがあります。
カラガンダ夫妻にとっては至極普通のことであっても、マルコにとっては全く新たな見識と知恵になり得るのです。
マルコの亜空間にある工房でのお仕事も暇を見ては継続しています。
カラガンダ義父様向けのローション等も開発しましたし、ステラ義母様用に化粧品も各種開発している最中です。
これまでの前世の記憶の中では、地球世界の記憶にある化粧品の数が圧倒的に多いのはわかっています。
しかしながら、生憎と日本人金谷は男性でしたので、女性の化粧品に詳しいわけではありません。
他の世界でも同様なのですけれど、それでも錬金術師ユーリアと療養師アズマンの薬品や人の肌に関する知識は、化粧品の開発に大いに役立ちました。
但し、そうした知識と経験があってもマルコが新たな化粧品を生み出すには、かなりの労力とアイデアが必要だったのです。
日本人金谷の断片的な記憶を手繰って、洗浄用化粧品、化粧水、乳液やクリームなどのスキンケア用品、ファンデーション、口紅やアイメークなどのメイクアップ用品、シャンプー、トリートメントやヘアカラーなどのヘアケア用品、石けんなどのボディケア用品、歯磨き剤や香水などがあるとわかったので、ステラ義母様の肌質にあった専用の化粧品、さらにカラガンダ義父様の体質に合わせて肌や髪の手入れ用品を開発しています。
もう一つ義父様や義母様の健康にも注意するようにしました。
義父様も義母様もともに御年ですからそれなりに身体のあちらこちらに障害が発生していました。
今後一年半ほども旅をすることを考えると、壮健でいてもらわねばならないのです。
いきなり二人を若返らせるといろいろと後で問題を引き起こしますので、十年から十五年ほどの若返りを目途にして、治癒魔法をかけています。
単純に言えば、かなり落ちてきていた視力が徐々に戻り、書籍などが楽に読めるようになってきましたし、視野狭窄に陥りかけた部分も改善し始めています。
足腰は半日歩いても疲れを残さないようになりました。
これらの効果はじわじわと改善するようにしましたので、夫妻はマルコの魔法とは知りません。
いずれこの大陸の西端で別れの時が来たならば、そこからは自分の努力と精進で若さを保たねばなりませんけれど、少なくとも周囲の人達よりは健康で長生きができるのじゃないかと思います。
マルコの義父様と義母様へのお礼の一つですね。
◇◇◇◇
今日は、宿のペンホマタンから徒歩で半刻ほどの距離にあるゲレディット峡谷への散策です。
この場所は、宿の女将さんから聞き出した観光名所の一つなんです。
お供は、セバスにエマ、馬車は使いませんけれどクリシュも同道し、それに護衛の四人が少し離れた位置から警護を務めています。
七体ものアンドロイド型ゴーレムの護衛は必要もありませんが、さりとて、宿に残すことで要らぬ勘繰りを避けるためにも同行させています。
普通であれば、御者はともかくお付きの執事とメイドは同行するのが当たり前ですし、護衛もつかず離れず雇い主を警護するのが当然の話なんです。
一方、散策の先の景観というと、前にも言いましたが、あちらこちらに黄色く色づいた樹木はあれど、ほとんど紅葉は見当たりません。
峡谷までの道のりは緩やかな登りであり、自然を楽しみながらゆっくりと歩く義父様と義母様にとっても特段の支障にならない道程でした。
道端もしくは周辺に魔物の気配があると、前方警戒のゴーレムが事前に討伐もしくは追い払い、側面から近づくものは前方か後方のいずれかの護衛ゴーレムが対処します。
従って、マルコ達一行を遮るような魔物は出てきません。
峡谷に着くと峡谷を渡れる吊り橋がかかっており、対岸に渡れるようになっていました。
橋は、蔓で作られた蔓橋です。
足元がしっかりとした道板になっているわけではない上に、道板と道板の間が掌の幅以上に空いているために、上に乗ると谷底がまともに見えるような造りなので、これを渡るには相応の度胸が必要ですね。
義父様と義母様はともに遠慮しましたので、マルコも橋を渡るのはやめにしました。
そのために特に鑑定を使って安全性を調べようともしていません。
ところが、その対岸に若い男女二人が現れ、この蔓橋を渡り始めたのです。
当初は女性の方が少し怖気づいているような素振りでしたが、男性の方が手をつないで引いたので、渋々ながらも渡り始めたのです。
でも、橋の中ほどで男が道板を踏み抜いてしまいました。
あわやそのまま谷底に転落するかと思われるような展開でしたが、男は瞬時に太い蔦に腕を絡ませることができたので、男の身体は道板の下方にありますけれど、何とかぶら下がっている状態になりました。
手をつないでいた女性が引きずられて落ちていたら大変なことになっていたのでしょうけれど、とっさに手を離したので女性の方は無事です。
現状では、すぐに谷底に落ちるような状況ではないのですが、何だか男が自力で橋の上に戻るのはどうやら難しそうです。
優男というのか色男というのか、どうもかなり非力な男のようです。
仮に武人ではないにしても、普通の男ならば、ぶら下がっている蔦を手繰って自力で橋の上に戻れるはずなのですけれど・・・。
一方の女性の方は、そもそもこのような高所は苦手なのでしょうね。
男を助けようとじたばたしていますが、非力でなおかつ足場も悪いので全く対応できていません。
このまま放置すると男は転落することになります。
橋は下を流れる水面から40~45ブーツほども高さがあり、落ちてすぐに命を失うことはなさそうにも見えますけれど、水面に落下して気を失うとそのまま溺死することにもなりかねません。
マルコはため息をつきながらも、護衛のエイワに男を助け上げるように命じました。
エイワは、アンドロイド型護衛ゴーレムでも一番小柄な体格(四人の身長差は五センチ内外でほとんど一緒)をしています。
本来の体重は素材の所為でかなり重いのですけれど、反重力の魔法により普段は同程度の人の体重にしていますし、幼児程度にまでも重さを自由に調整できるのです。
あまり人目には見せられないですけれど、重さをマイナスにして空中浮揚もできるぐらいなんです。
傍目には道板を使わずに丈夫な蔦の部分を伝って渡るように見せつつ、落ちかけている男に手を貸し、無事に橋の上まで引き上げることができました。
結局、男と女は、恐れをなしてこちら側へは渡らずに元来た方角に戻って行きました。
もちろん、エイワに対してぺこぺこと頭を下げてお礼を言っていたようですが、観光地の橋が壊れているのはちょっと問題ですよね。
橋を管理している者が誰なのかはわかりませんが、宿に戻ったなら女将さんに通報してもらいましょう。
修理するまでは通行禁止等の処置をとってもらう必要もありますよね。
この峡谷自体は長さが一ケブーツ半ほどもあり、一方の終端は三段に分かれた滝になっています。
長い年月をかけて水流に削られた場所がこのような渓谷になったのでしょう。
渓谷自体は滝の部分を始点として、非常に高く峻険な崖が下流に行くに従って、徐々に崖の高さが低くなっているのが特徴です。
そのために、渓谷の終点付近を除いては、川岸に人が近づけるような場所も無いことから、おそらくは魚にとっては安住の地なのでしょうね、マルコの探知能力で大きな魚が多数この川に生育していることにも気づきました。
当然に峡谷部分の崖を降りられるような動物や魔物も稀ですので、ここに居る魚にとっては空を飛ぶ猛禽類や魔物が天敵ということでしょうか。
当初の予定通り、勇壮な水しぶきをあげる三段の滝を見物し、その日の散策を終えて無事に宿に戻ったマルコ達一行です。
明日は休養で一日宿でゴロゴロする日、その次の日は馬車を使って少し遠出の予定です。
このアブレンス宿の源泉がある場所に行く予定なのです。
この源泉は非常に温度が高いので冷やさないと人が入れる温泉にはなりません。
そのために人工的に作られた冷却用の樋と水車が多数設けられた施設があるようです。
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