母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監

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第五章 サザンポール亜大陸にて

5-8 騒動の余波

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 一応ヴェルコフを発つことはできたのですが、一連の騒動で重要な役割を果たした謝礼として、バウマン子爵家から多大の金銭を褒美として受け取る羽目になってしまいました。
 この褒美は、主としてマルコ達の護衛6名の活躍に対して支払われたものなのですが、子爵のご息女ハンナ様がマルコの弓による攻撃を見ていたために、マルコにも少なくない金額が褒美として下されたのでした。

 マルコは未成年ということもあって一生懸命にお断りしたのですけれど、ハンネ様、子爵夫人それに前子爵夫人の攻勢に押し負けた感じですね。
 護衛6名の功績は確かに一軍にも匹敵するものでしたし、特に、ヴェルコフにおけるマッセリング伯爵軍の夜襲に際しては完璧に騎士団駐屯地を救ったわけなので、その功績はとても大きいものなのです。

 仮に6人の護衛達の活躍が無ければ、騎士団駐屯地は灰塵に帰していたでしょうし、証人となるべき者達は消されるか奪い返されていたでしょう。
 その上で当夜駐屯地内でいた審問官が害されてでもいたなら、一切が無かったことになりかねない状況でした。

 駐屯地60名足らずの騎士に対して百名を超える正規騎士団が当たれば、子爵の騎士団は壊滅したでしょう。
 その上で、子爵邸まで襲撃されて皆殺しにされていたなら、王家に対しての上申ができなくなるのです。

 また、護衛六人とマルコのお陰で生きた捕虜を捕らえることができたからこそ、審問官の協力を得て、マッセリング伯爵の陰謀を明らかにすることができたのです。
 関係者が死亡していれば、いかに審問官と言えども事件の全貌を明らかにすることはできませんでした。

 それゆえに、子爵は大盤振る舞いに近い褒美を下されたのです。
 護衛6名に対してそれぞれ金貨200枚、そうしてマルコに対しても金貨百枚を下し置かれたのです。

 護衛6名は、アンドロイド型ゴーレムですから、金をもらってもほとんど使い道はありません。
 止むを得ず、マルコがその褒美の金を預かるしかありませんでしたが、そのおかげで金貨1300枚もの臨時収入を得たことになりますね。

 子爵邸を辞去するに際してもなんだかんだとありましたけれど、何とかバウマン子爵一家の盛大な謝意と見送りを受け得ながら、マルコ達一行は、ヴェルコフを無事に発って、ラトック、クリドヴェル、アンドネスを経て、二日目の夕刻にはコロネル男爵領のルカに到達しました。
 但し、マルコ達の馬車がルカに到達した頃には、バウマン子爵領における一連の騒動が噂話として伝わっていました。

 更に、マルコ達がルカを発った三日後には、コロネル男爵領にも王都からの早馬が到来し、マッセリング伯爵領との境界線に軍を出して越境する者を監視するようにとの指令が来たようです。
 マッセリング伯爵家所縁ゆかりの者の逃亡を防ぐための措置の様で、この時点でマッセリング伯爵家の者は領内から出られなくなったはずです。

 商人等の場合は、関所で厳しい詮議を受けた上で境界線を越えられますけれど、その分手間暇がかかります。
 コロネル男爵領の場合、南東部の狭い地域でしかマッセリング伯爵領と境界を接してはいませんので、街道一つと支道二つを抑えるだけで、人の出入りはほぼ制御できるようです。

 勿論、道なき道を通ってコロネル領内に潜り込むのは、理屈としてはできますけれど、道を一歩踏み外せばそこは魔物の領域ですし、そのような場所に宿場町などはありませんから、野営自体が非常に危険な場所になります。
 上級者の冒険者パーティでもそんな無茶はしないものなんです。

 では軍の将兵ならばどうなのか?
 軍人は必要とあれば兵力で押し切ろうとするでしょうけれど、生憎と魔物を倒せばその血が周辺の魔物を呼び込みますので、生半可な兵力では道路の無いような場所を通ること自体が部隊の壊滅を招きます。

 ケサンドラスの図書館で閲覧した書籍には、サザンポール亜大陸でも中央部に所在したとある国が魔物平定のために2万もの兵力を繰り出して魔物生息地を掃討しようとしましたが、血の匂いを嗅いで凶暴化した魔物集団によって、僅か三日間で、半数以上の兵力を失い、撤退した歴史が綴られていました。
 軍団というものは、4割以上もの死傷者を出した時点で壊滅状態と判定され、継戦能力はないものと見做さなければなりません。

 多くの国の将兵は、魔物とも戦えますけれど、魔物専用の騎士団や領軍というのは通常は存在しないものなのです。
 軍の将兵は、同族であるヒト族との戦いをメインにしており、その点で冒険者の連中の方が魔物に特化しているだけ、魔物に対しては有効と言えます。

 尤も、冒険者と軍人が戦えば、軍人の方が有利ですよ。
 要は魔物との戦いに長けているのが冒険者であり、対人戦闘に長けているのが軍人ということになるでしょうか。

 いずれにせよマッセリング伯爵の陰謀は審問官により暴かれ、その調書等が早馬等により王都に届けられた時点で、マッセリング伯爵家の行く末は決まったも同然なのです。
 王家から直属の審問官がマッセリング伯爵領に派遣され、伯爵一門はおろか、伯爵家の騎士、従者の類全てが審問を受け、罪ある者は裁かれることになります。

 審問官と一緒に、断罪官と呼ばれる裁判官も同行しており、このような場合、即決で刑罰を与えることができるようになっているのです。
 王家の律法に違背した行為を行った貴族は、最悪毒杯による死を賜ります。

 当該死刑に関しては、往々にして直系三親等までの親族が連座させられます。
 首謀者である者の祖父から孫までが死罪になり得るということです。

 単純に禍根を残させないための中世的な処罰手法ですが、かなり厳しいですよね。
 マルコの見たところでは、マッセリング伯爵の死刑は免れないでしょう。

 マルコ達は、マッセリング子爵の噂で持ちきりのルカで一泊、その翌朝には東に向けて発ちました。
 これから先も国内各地に噂話は広まるでしょうけれど、6人の護衛の活躍話が周辺に広まる前にできるだけ、ヴェルコフから離れていることが重要なのです。

 この為にヴェルコフからの旅路は通常よりも速度を増して、宿場町は一つ置きに飛び越えることにしました。
 コルネル男爵領の隣であるタンパル子爵領を越えるまでは、ずっと山がちの街道なんですけれど、とにかく急ぎ旅をしました。

 例によって、義父様とうさま義母様かあさま達については、亜空間内の居間に滞在していれば、馬車が相当に揺れても全く影響を受けることはありません。
 これほど急ぐのは、カタヒ達6名の護衛を含むマルコ達一行の噂話が周辺に広まると、貴族たちが護衛の力に目をつける恐れもあるからです。

 仮に無理強いするような話が有っても一切跳ねのけるつもりですし、場合によっては、一気に隣国までテレポートして逃亡することも考えているんです。
 貴族というのは厄介ですよね。

 何れにしろ、コルネル男爵領に入る直前から6名の護衛は別の4名に変えましたし、馬車についていたモンテネグロ家の小さな家紋も外しました。
 馬車の車体の色も黒っぽい色から少し明かる目の茶色に変えました。

 馬車の外形はほとんど変わってはいないのですけれど、見た目が変わりましたので雰囲気が違いますよね。
 曳いている馬も少し小さめのゴーレムにし、護衛達の乗っているゴーレム馬も小さめにしました。

 マルコ達一行の場合は、とにかくお馬さんと護衛達が目立ちましたので、お馬さんと護衛についても体型を小型に縮小したものを新たに生み出したのです。
 新たに生み出した体型の小さなアンドロイド型ゴーレムは、2mの身長を175センチほどにしましたので、これまでの護衛とは全く違った印象になるんです。

 衣装も少し変えて冒険者風のバラバラの衣装から統一された制服のような傭兵風にしましたよ。
 どうせやるなら偽装も完璧にです。

 新たなアンドロイド型ゴーレムは、ウィツ(七)、ワル(八)、エィワ(九)、テカウ(十)という名前をつけてあげました。
 隣国か若しくはもう一つ先の国に行ったら、元の6名に戻すかもしれませんが、カタヒ達6名のゴーレムは亜空間内で船員三名らと共に暫しの休憩ですね。

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