母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監

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第五章 サザンポール亜大陸にて

5ー1 ケサンドラス

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 リーベンのツロンを出て10日目の昼過ぎに、グリモルデ号は無事にサザンポール亜大陸の商港都市ケサンドラスに入港することができました。
 サザンポール亜大陸での旅は陸路を予定しています。

 一般の船と違って、グリモルデ号を使っての海路の旅の方が間違いなく早いし、安全ではあるのですが、一方で旅のほとんどを船内で過ごすことになるために、旅の楽しみというか醍醐味が味わいにくくなります。
 当初からマルコが12歳になって成人するまでの一緒の旅とカラガンダ夫妻も割り切っていますから、その意味でも残り二年足らずを、あちらこちらと特段に当てもない遊興の旅と決めていたのです。

 マルコにしても、お世話になったカラガンダ夫妻ですからできる限り孝行をしてあげたいので、夫妻の希望に沿って動くことにしています。
 従って、サザンポール亜大陸を東西に横断するまでは、夫妻と一緒の旅になるのです。

 サザンポール亜大陸の東端まで達する頃にはマルコも12歳の成人を迎えそうですから、その時点でカラガンダ夫妻についてはマルコが転移魔法でニオルカンの屋敷まで送り届けるつもりでいるのです。
 カラガンダ夫妻もそこが三人の旅路の終焉と割り切っています。

 それ以降もマルコと一緒に旅を続けるのはできますが、老いてゆく者が余りマルコのような少年の荷物になってはいけないとも思っているのです。
 マルコが12歳になれば冒険者ギルドもそうですけれど、商業ギルドも含めて種々のギルドに所属できる年齢になります。

 そうなってからは一人前と見做されますから、カラガンダ夫妻はあまり口を挟まない方が良いのです。
 増してマルコの場合は腕利きの魔法使いで錬金術師でもあります。

 カラガンダ夫妻という負担が無ければより簡単に郷里にも戻れるはずなのです。
 それゆえに、せめてサザンポール亜大陸までは我が子マルコと一緒に旅をしたいという老人の我儘わがままということを重々承知しているのです。

 ケサンドラスに入港して、一行は市内の宿に入りました。
 グリモルデ号の方は、明日には船員三名が乗ってケサンドラスを出港し、沖合でマルコが亜空間に収容することにしています。

 そうして十日程は、ケサンドラス市内若しくは周辺地で主として観光に費やす予定なのです。
 その間に、マルコは少なくとも一度は冒険者ギルドでのクエストもこなして、会員証の有効期間を三ヶ月ほど伸ばすことになります。

 ケサンドラス第一日目は、種々の手続きを行うだけで終わりました。
 第二日目は、マルコは冒険者ギルドへ、カラガンダ夫妻は、セバスとエマを連れて市内の名所観光巡りです。

 マルコはクエストとして市内の雑用を請け負いました。
 今回は配送業務です。

 本来は町の様子を知らないとできないクエストなのですけれど、マルコは一般の人には真似できない様な特殊能力を持っていますから、簡単に片づけて3か月間の有効期間延長を勝ち取りました。
 ケサンドラスでのクエスト受注は、この一回だけの予定です。

 次回はケサンドラスからサザンポール東端の港イタロールまでの旅の途中で、それぞれの地域のギルドでクエストの受注を図る予定です。
 単純に二ヶ月に一度くらいの頻度でクエストを受注しておけば問題ありません。

 第三日目からは、カラガンダ翁やステラ媼と一緒にケサンドラス市内の観光に行きました。
 カラガンダ老がケサンドラスを訪問したのは二十年以上も前のことだそうで、最近はケサンドラスよりも南にあるザール港での交易が多かったようです。

 一行には、護衛を兼ねてセバスとエマがついています。
 クリシュとアッシュは宿で留守番、ビルを含む船員三名はグリモルデ号と共にマルコの亜空間で待機中です。

 市内観光では由緒ある寺院や建造物などを見て歩きましたが、途中でチンピラ三人に絡まれました。
 この時に活躍したのはセバスではなくエマでした。

 ヒトと見間違うほどの美少女アンドロイドのエマが、大通りで大立ち回りを演じてチンピラ三人を撃退したときには周囲の見物人から拍手が湧きました。

 エマの能力からすれば赤子の手をひねる様なもので、如何に手加減をするかが面倒だったはずです。
 チンピラ三人が絡んできて若干の口論となり、向こうが殴りかかるまでに二分ほどかかりましたけれど、その直後数秒で地面に叩きつけられて伸びていた三人組でした。

 彼らが伸びてから五分ほどしてから警備隊の兵士がやって来て事情を聴かれましたけれど、僕たち五人にはお咎め無し、チンピラ三人組は屯所に連れて行かれたようですが、その後は知りません。
 その後7日程、ケサンドラス若しくはその周辺に居たわけですけれど、彼らから報復などはありませんでした。

 仮に報復などに出てくれば、命までは取りませんけれど相応の怪我は覚悟してもらおうと思っていたのですけれど、そのようなことはありませんでした。
 むしろ、そのような兆候が出る前に警備隊の方で厳重な注意をしていたようです。

 確かにお礼参りなんぞを許していては町の治安は守れませんよね。
 その意味でケサンドラスの町は警備隊に良く守られているようですね

 第4日目からは馬車を出してケサンドラス周辺部の観光地巡りです。
 今日は宿の留守番もなしですけれど、ケサンドラスの宿には夕刻には戻って来て宿泊するパターンを繰り返しています。

 ケサンドラス出発までこれを繰り返していましたが、観光の最中は何事も起こらず、緩やかに時は流れて行きました。
 9ビセット下旬にケサンドラスを出て、陸路イタロールに向けてシナシル往還を東進し始めました。

 サザンポール亜大陸は、どちらかと云うと亜熱帯に近い気候であり、冬場でも寒くない地域が多いのです。
 但し、東西に横切るシナジル往還の中ほどにはサザンポール大陸を南北に貫くようなバドル山脈が存在し、ここだけは一年中雪と氷に閉ざされた地域もあります。

 この山岳地帯は難所の一つでしたが、今ではこうした寒冷高地にかかる往還の大部分がトンネルもしくは屋根のついた道路となっており、寒ささえ凌げば往来は可能となっているのです。
 バドル山脈にまで到達するには、1年程度は優にかかる見込みなのです。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 今回は少し短いですが、これで勘弁してツカァさい。
 風邪気味で鼻水が止まりません。

  By サクラ近衛将監
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