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第二章 大草原の旅路
2-1 バンナの異変
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マイジロン大陸の主街道は、往々にして危険地帯を跨いでいることが多い。
バンナと呼ばれる大草原も広大な魔境とも言える地域である。
このためにこのバンナの隊商警護を任務とする冒険者や傭兵を大草原の東外れの都市アケロンで新たに雇ったカラガンダである。
元々傭兵団や冒険者達は、自らの根城を持っていて、そこを根拠地に活動している。
そのためにあまり遠距離の旅の警護は請け負わないのだが、一定の範囲の護衛任務は地域を知り尽くしているがゆえに頼りになる存在だった。
カラガンダ老の率いる隊商の護衛を請け負っていた傭兵団と冒険者たちは、パランティア山系専属の者達でアケロンまでの護衛契約だったのである。
長年の隊商暮らしは要所要所での警護に必要な人材を見極める能力も身に着けており、これまで一度として外れはなかったのだが、今回だけは時期が悪かった。
頼みとしていた知己の冒険者パーティと傭兵団のいずれもが人材不足に陥っていたのである。
たまたま10日前にレッドバッファローの大群が十幾つもの隊商を襲い、その警護についていた冒険者パーティと傭兵団のいずれもが多数の重傷者を抱えてしまって、カラガンダ老の依頼に応えられなくなっていたのである。
彼らの回復を待っていたなら、無為に1か月はアケロンに滞在しなければならない。
カラガンダ老は止むを得ず本来ならば力不足と思われる冒険者パーティとこれまで使ったことのない傭兵団を雇わざるを得なくなったのである。
冒険者パーティは、いずれも若手のCランクの5パーティであり、それなりの実績はあるものの、これまで雇っていたBランク以上の冒険者と比較するといかにも頼りないものであった。
また、傭兵団も全く未知という訳ではなく、これまでよく使っていた傭兵団の一員が独立して新たに編成した傭兵団であったが、いかにも新人が目立つ構成であった。
幸いにして隊長と副隊長達がカラガンダ老の知る古参であったことのみが喜ばしいことであった。
バンナ大草原を踏破するには概ね一月足らずを要するが、途中の宿場町等で多少の人員補充はできても余り当てにはできないうえに信用の上から言っても好ましくない。
種々不安の芽はあるもののカラガンダ老は出立を決意した。
雇った冒険者パーティは、「バンナの黒狼」、「アケロンの土竜」、「蒼炎のフェリナ」、「平原の雷猿」、「東バンナの旋風」、「疾風怒涛」であり、中でも「蒼炎のフェリナ」は女性ばかりのパーティで異彩を放っていた。
傭兵団は、アケロンでは中堅処ではあるが、ランク的には中の下にランクされる傭兵団で、「アケロン十字傭兵団」25名と「赤旗傭兵団」23名の二隊である。
準備が整ったところでカラガンダ老の隊商集団はアケロンの大門前を出立した。
例によって小規模の隊商がカラガンダ老の隊商の最後尾についてくる。
大規模な隊商の背後には、小規模の隊商がへばりつくことがよくある。
旅の危険は小規模な隊商ほど狙われやすいから、寄らば大樹の陰とばかりに大きな隊商に続くことで反射的に危険が少なくなることが有るのだ。
山賊などは巨大な隊商ほど襲撃は避ける。
無論大きな隊商ほど襲撃が成功すれば利益は大きいのだが護衛の者が多いというリスクがある。
余程豪胆な山賊でない限り、仲間の数が護衛の数の5割増し以上でなければ襲撃は控えるのだ。
カラガンダ老の隊商の護衛は、冒険者パーティと傭兵団を併せて100名ほどになる。
その場合襲撃を考える山賊は150名規模でなければならないということで、実際問題としてはそのような大規模な陣容を抱える山賊はない。
従って、仮に護衛が数人しかいない小規模隊商であっても、カラガンダ老の隊商に付いて行くだけで山賊の被害から免れる可能性が高いということである。
一方で、小規模の隊商に追尾される大きな隊商の方にも、例え少数でも護衛の数が見かけ上増えることになる分、襲撃の可能性が減るというメリットがある。
魔物や魔獣などについてもその理屈が当てはまる場合もあるが、逆にワイバーンなど非常に強力な魔物の場合、小規模な隊商よりも大規模な隊商を狙うため危険性は増してしまうことがある。
また、スタンピードなどの場合、魔物等が狂気に陥っているために数の大小にかかわらず進路にあるもの全てを襲う習性があるので、このメリットは無くなってしまう。
アケロンを出て二十里ほども進んだ頃、カラガンダ老はマルコから警告を受けた。
「養父上様、最後尾についている12名ほどの陣容の隊商は、山賊の可能性があります。
馬車の荷物に見せかけているモノに鑑定を掛けましたが、荷は単なるガラクタでした。
あのように価値のないモノを交易に使う商人がいるとは到底思えません。
或いは寝込みを襲うとか、毒を使うとかの非道な手段をとる可能性もありますのでご注意をしてください。
それと、もう一つ、はるか前方の草原の雰囲気がざわざわとしております。
今のところは脅威があるのかどうかも不明ですが、もしかすると何らかの異変の前兆の可能性があります。
仮に危険があるようであれば事前にお知らせいたします。」
マルタが鑑定能力までも身に着けていることを知って驚いたが、最後部についている隊商は確かに12名ほどの陣容、仮に疑わしいとしてもよほどのことがなければ現状の警護体制に揺らぎはないだろうとカラガンダ老は判断した。
それよりも斯様に不思議な能力を持つマルコが気にかけている異変の方が気になった。
「ふむ、はるか前方と言うのはどれぐらいの距離かわかるかな?」
「曖昧とはしておりますが、百里から百五十里程かと思います。
気配からして動物若しくは魔物等動くものの可能性が高いと思われます。」
「フム、あるいはレッドバッファローの大群が未だに脅威を与えているのかもしれない。」
「レッドバッファローが居るにしても、この感覚は単独の種ではないように思えるのです。
或いはそれらを従える上位種の存在があるかもしれません。」
そうして夕刻に差し掛かり、隊商は野営地を定めて動きを止めた。
いつもの如く近習の者と天幕を張る作業を行い、ほぼ完了したところでマルコが近づいてきた。
「養父上様、西方向から動きがございます。
一つは、50名ほどの騎馬集団、ここから三十里西北西にあってゆっくりとこちらに向かって移動中です。
おそらく夜襲をしかけてくるものと思われます。
最後尾の仲間らしき隊商が、先ほどから炊事を装って火を使っていますが、狼煙に使えるような燻し方をしており、しかも水を少量かけるなどして煙の調節をしています。
近くからではよくわかりませんが、遠目には煙は三つの塊に分かれて見えるでしょう。
位置を知らせるための合図の可能性があります。
彼らが何らかの形で隊商の護衛達に近づくようであれば、一切の飲食物は受け取ってはなりませんし、急襲される恐れもあります。
警戒を厳にするよう至急警備の者達にお知らせください。」
カラガンダ老はすぐに近習の伝令を走らせ警戒態勢を強化させた。
その差配を見届けてすぐにマルコが畳みかける。
「特に最後尾にいる賊の仲間と思しき彼らが、目に見える行動で動き始めた場合、魔法等で阻止する包括的許可を頂けましょうか?」
「できるだけ、警護の者に任せるようになさい。
しかしながら警護の者を含め我が隊商に危険が迫る恐れがあるならば魔法を使ってもよろしい。
出来ればそなたが使ったとわからぬようにしてもらえばなお良いのだが・・・。」
「はい、襲撃してくる賊については出来る限り養父上のお心に沿うようにいたします。
そうして今一つ、こちらの脅威の方がはるかに大きいのですが、西南西八十里から百二十里にかけて魔物の集団が蠢いています。
じっくりと集中して気配を探ってようやくわかったのですが、中心付近にいるのは多分オーガで恐らく百を超えた数がいます。
その中心からさらにこちらに十里ほどずれたところを中心に200から300程度のオークが集団でいます。
そのさらに前面にコボルト、ゴブリン等雑多な雑魚魔物が、ボア、バッファロー種と混ざりあって数えきれないほど多数存在していますので、或いはゴブリンなどがボアなどに騎乗している可能性もあります。
未だ明確な動きはありませんが、徐々にこちらへ、と言うよりアケロン方面へと近づいているようです。
更にその後方には大型のマストドン、地竜が続いているようです。
これらが一斉に襲い始めればアケロンの周囲を囲む城壁でも防げるかどうかわかりません。
それで、万一の場合は、おそらく我が方の護衛達ではたとえ一瞬でも支えることは無理でしょうから、私が広域殲滅魔法を使います。
さもなくば、隊商は全滅、アケロンも蹂躙される可能性が高いと思います。」
カラガンダ老は一瞬で血の気が引いた。
マルコの言うことが事実ならば、これはスタンピードなのだ。
しかもオーガが百匹以上であれば、キング・オーガ若しくはカイザー・オーガがいるのはほぼ確実である。
オーク、コボルト、ゴブリンも同様だろう。
そのすべてをオーガの王若しくは皇帝が統率している可能性が極めて高いのだ。
それに加えて、マストドンや地竜がいるのであれば、もはや一国の軍隊でも止められない。
カラガンダの雇った護衛達では何の役にも立たないだろう。
カラガンダ老は、唖然としたが、何とか声を絞り出す。
「何と・・・。
じゃが、広域殲滅魔法など使って我が方に被害が及ぶようなことはないのか?」
本来ならばスタンピードで自分たちが全滅することを恐れるべきなのに、マルコが魔法を使うことで隊商に被害が出ないかどうかを心配しているのは明らかに矛盾した考えなのだが、焦っているカラガンダ老はそのことに気づかない。
「私を中心に殲滅魔法を使うわけではありませんから、被害がまともに及ぶようなことはありませんが、例えば大きな音に驚いて馬がおびえたり暴れたりすることはあり得ます。
それと、広域殲滅魔法を使う際には私はひそかに隊商を離れます。
そのうえで魔法を使うことになるので、あまり心配はいらないかと。」
「いやいや、そのマルコが一番心配なのじゃよ。
そなたが魔法を使えることはわかっていても、そなたは未だ幼子なのじゃぞ。
それが大人を差し置いて魔物退治?
いやスタンピードを阻止するなどと言うて、こんな時に心配せずしていつ心配するのじゃ?」
妙なところで憤っているカラガンダ老だが、魔法の使う見極めはマルコに任せてもらうことで了解をもらった。
周囲の気配も感じ取れないカラガンダ老では全体指揮さえままならないだろう。
こんな場合はむしろ傭兵団の団長たちに任せる方がいいのだが、今回に限って言えば、彼らも役には立ちそうにない。
カラガンダ老はため息をつくしかなかった。
バンナと呼ばれる大草原も広大な魔境とも言える地域である。
このためにこのバンナの隊商警護を任務とする冒険者や傭兵を大草原の東外れの都市アケロンで新たに雇ったカラガンダである。
元々傭兵団や冒険者達は、自らの根城を持っていて、そこを根拠地に活動している。
そのためにあまり遠距離の旅の警護は請け負わないのだが、一定の範囲の護衛任務は地域を知り尽くしているがゆえに頼りになる存在だった。
カラガンダ老の率いる隊商の護衛を請け負っていた傭兵団と冒険者たちは、パランティア山系専属の者達でアケロンまでの護衛契約だったのである。
長年の隊商暮らしは要所要所での警護に必要な人材を見極める能力も身に着けており、これまで一度として外れはなかったのだが、今回だけは時期が悪かった。
頼みとしていた知己の冒険者パーティと傭兵団のいずれもが人材不足に陥っていたのである。
たまたま10日前にレッドバッファローの大群が十幾つもの隊商を襲い、その警護についていた冒険者パーティと傭兵団のいずれもが多数の重傷者を抱えてしまって、カラガンダ老の依頼に応えられなくなっていたのである。
彼らの回復を待っていたなら、無為に1か月はアケロンに滞在しなければならない。
カラガンダ老は止むを得ず本来ならば力不足と思われる冒険者パーティとこれまで使ったことのない傭兵団を雇わざるを得なくなったのである。
冒険者パーティは、いずれも若手のCランクの5パーティであり、それなりの実績はあるものの、これまで雇っていたBランク以上の冒険者と比較するといかにも頼りないものであった。
また、傭兵団も全く未知という訳ではなく、これまでよく使っていた傭兵団の一員が独立して新たに編成した傭兵団であったが、いかにも新人が目立つ構成であった。
幸いにして隊長と副隊長達がカラガンダ老の知る古参であったことのみが喜ばしいことであった。
バンナ大草原を踏破するには概ね一月足らずを要するが、途中の宿場町等で多少の人員補充はできても余り当てにはできないうえに信用の上から言っても好ましくない。
種々不安の芽はあるもののカラガンダ老は出立を決意した。
雇った冒険者パーティは、「バンナの黒狼」、「アケロンの土竜」、「蒼炎のフェリナ」、「平原の雷猿」、「東バンナの旋風」、「疾風怒涛」であり、中でも「蒼炎のフェリナ」は女性ばかりのパーティで異彩を放っていた。
傭兵団は、アケロンでは中堅処ではあるが、ランク的には中の下にランクされる傭兵団で、「アケロン十字傭兵団」25名と「赤旗傭兵団」23名の二隊である。
準備が整ったところでカラガンダ老の隊商集団はアケロンの大門前を出立した。
例によって小規模の隊商がカラガンダ老の隊商の最後尾についてくる。
大規模な隊商の背後には、小規模の隊商がへばりつくことがよくある。
旅の危険は小規模な隊商ほど狙われやすいから、寄らば大樹の陰とばかりに大きな隊商に続くことで反射的に危険が少なくなることが有るのだ。
山賊などは巨大な隊商ほど襲撃は避ける。
無論大きな隊商ほど襲撃が成功すれば利益は大きいのだが護衛の者が多いというリスクがある。
余程豪胆な山賊でない限り、仲間の数が護衛の数の5割増し以上でなければ襲撃は控えるのだ。
カラガンダ老の隊商の護衛は、冒険者パーティと傭兵団を併せて100名ほどになる。
その場合襲撃を考える山賊は150名規模でなければならないということで、実際問題としてはそのような大規模な陣容を抱える山賊はない。
従って、仮に護衛が数人しかいない小規模隊商であっても、カラガンダ老の隊商に付いて行くだけで山賊の被害から免れる可能性が高いということである。
一方で、小規模の隊商に追尾される大きな隊商の方にも、例え少数でも護衛の数が見かけ上増えることになる分、襲撃の可能性が減るというメリットがある。
魔物や魔獣などについてもその理屈が当てはまる場合もあるが、逆にワイバーンなど非常に強力な魔物の場合、小規模な隊商よりも大規模な隊商を狙うため危険性は増してしまうことがある。
また、スタンピードなどの場合、魔物等が狂気に陥っているために数の大小にかかわらず進路にあるもの全てを襲う習性があるので、このメリットは無くなってしまう。
アケロンを出て二十里ほども進んだ頃、カラガンダ老はマルコから警告を受けた。
「養父上様、最後尾についている12名ほどの陣容の隊商は、山賊の可能性があります。
馬車の荷物に見せかけているモノに鑑定を掛けましたが、荷は単なるガラクタでした。
あのように価値のないモノを交易に使う商人がいるとは到底思えません。
或いは寝込みを襲うとか、毒を使うとかの非道な手段をとる可能性もありますのでご注意をしてください。
それと、もう一つ、はるか前方の草原の雰囲気がざわざわとしております。
今のところは脅威があるのかどうかも不明ですが、もしかすると何らかの異変の前兆の可能性があります。
仮に危険があるようであれば事前にお知らせいたします。」
マルタが鑑定能力までも身に着けていることを知って驚いたが、最後部についている隊商は確かに12名ほどの陣容、仮に疑わしいとしてもよほどのことがなければ現状の警護体制に揺らぎはないだろうとカラガンダ老は判断した。
それよりも斯様に不思議な能力を持つマルコが気にかけている異変の方が気になった。
「ふむ、はるか前方と言うのはどれぐらいの距離かわかるかな?」
「曖昧とはしておりますが、百里から百五十里程かと思います。
気配からして動物若しくは魔物等動くものの可能性が高いと思われます。」
「フム、あるいはレッドバッファローの大群が未だに脅威を与えているのかもしれない。」
「レッドバッファローが居るにしても、この感覚は単独の種ではないように思えるのです。
或いはそれらを従える上位種の存在があるかもしれません。」
そうして夕刻に差し掛かり、隊商は野営地を定めて動きを止めた。
いつもの如く近習の者と天幕を張る作業を行い、ほぼ完了したところでマルコが近づいてきた。
「養父上様、西方向から動きがございます。
一つは、50名ほどの騎馬集団、ここから三十里西北西にあってゆっくりとこちらに向かって移動中です。
おそらく夜襲をしかけてくるものと思われます。
最後尾の仲間らしき隊商が、先ほどから炊事を装って火を使っていますが、狼煙に使えるような燻し方をしており、しかも水を少量かけるなどして煙の調節をしています。
近くからではよくわかりませんが、遠目には煙は三つの塊に分かれて見えるでしょう。
位置を知らせるための合図の可能性があります。
彼らが何らかの形で隊商の護衛達に近づくようであれば、一切の飲食物は受け取ってはなりませんし、急襲される恐れもあります。
警戒を厳にするよう至急警備の者達にお知らせください。」
カラガンダ老はすぐに近習の伝令を走らせ警戒態勢を強化させた。
その差配を見届けてすぐにマルコが畳みかける。
「特に最後尾にいる賊の仲間と思しき彼らが、目に見える行動で動き始めた場合、魔法等で阻止する包括的許可を頂けましょうか?」
「できるだけ、警護の者に任せるようになさい。
しかしながら警護の者を含め我が隊商に危険が迫る恐れがあるならば魔法を使ってもよろしい。
出来ればそなたが使ったとわからぬようにしてもらえばなお良いのだが・・・。」
「はい、襲撃してくる賊については出来る限り養父上のお心に沿うようにいたします。
そうして今一つ、こちらの脅威の方がはるかに大きいのですが、西南西八十里から百二十里にかけて魔物の集団が蠢いています。
じっくりと集中して気配を探ってようやくわかったのですが、中心付近にいるのは多分オーガで恐らく百を超えた数がいます。
その中心からさらにこちらに十里ほどずれたところを中心に200から300程度のオークが集団でいます。
そのさらに前面にコボルト、ゴブリン等雑多な雑魚魔物が、ボア、バッファロー種と混ざりあって数えきれないほど多数存在していますので、或いはゴブリンなどがボアなどに騎乗している可能性もあります。
未だ明確な動きはありませんが、徐々にこちらへ、と言うよりアケロン方面へと近づいているようです。
更にその後方には大型のマストドン、地竜が続いているようです。
これらが一斉に襲い始めればアケロンの周囲を囲む城壁でも防げるかどうかわかりません。
それで、万一の場合は、おそらく我が方の護衛達ではたとえ一瞬でも支えることは無理でしょうから、私が広域殲滅魔法を使います。
さもなくば、隊商は全滅、アケロンも蹂躙される可能性が高いと思います。」
カラガンダ老は一瞬で血の気が引いた。
マルコの言うことが事実ならば、これはスタンピードなのだ。
しかもオーガが百匹以上であれば、キング・オーガ若しくはカイザー・オーガがいるのはほぼ確実である。
オーク、コボルト、ゴブリンも同様だろう。
そのすべてをオーガの王若しくは皇帝が統率している可能性が極めて高いのだ。
それに加えて、マストドンや地竜がいるのであれば、もはや一国の軍隊でも止められない。
カラガンダの雇った護衛達では何の役にも立たないだろう。
カラガンダ老は、唖然としたが、何とか声を絞り出す。
「何と・・・。
じゃが、広域殲滅魔法など使って我が方に被害が及ぶようなことはないのか?」
本来ならばスタンピードで自分たちが全滅することを恐れるべきなのに、マルコが魔法を使うことで隊商に被害が出ないかどうかを心配しているのは明らかに矛盾した考えなのだが、焦っているカラガンダ老はそのことに気づかない。
「私を中心に殲滅魔法を使うわけではありませんから、被害がまともに及ぶようなことはありませんが、例えば大きな音に驚いて馬がおびえたり暴れたりすることはあり得ます。
それと、広域殲滅魔法を使う際には私はひそかに隊商を離れます。
そのうえで魔法を使うことになるので、あまり心配はいらないかと。」
「いやいや、そのマルコが一番心配なのじゃよ。
そなたが魔法を使えることはわかっていても、そなたは未だ幼子なのじゃぞ。
それが大人を差し置いて魔物退治?
いやスタンピードを阻止するなどと言うて、こんな時に心配せずしていつ心配するのじゃ?」
妙なところで憤っているカラガンダ老だが、魔法の使う見極めはマルコに任せてもらうことで了解をもらった。
周囲の気配も感じ取れないカラガンダ老では全体指揮さえままならないだろう。
こんな場合はむしろ傭兵団の団長たちに任せる方がいいのだが、今回に限って言えば、彼らも役には立ちそうにない。
カラガンダ老はため息をつくしかなかった。
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