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第一章 マルコ
1-5 カラガンダ老との面談(2)
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カラガンダ老から飛び出た愚痴を聞いてマルコは一応の釈明をした。
「申し訳ございません。
但し、私が自分の能力に気づいたのは三日前のことなのです。
三日前、私はどうやら6歳の誕生日を迎えたようで、そのことがどう作用したのかわかりませんが、私は魔法を含む多くの能力を持っていることが分かったのです。
例えば、私が生まれたのはエルドリッジ大陸のハレニシアというエルフの里です。
三日前まで私はその名も覚えてはおりませんでした。
その里には私の両親それに兄と妹が住んでいるはずです。
私が三歳の時、人攫いに誘拐され、隣のオズモール大陸に運ばれ、そこで子のない夫婦に売られました。
しかしながら4歳の折にその仮親が強盗に襲われ亡くなったために、私は孤児院へ引き取られ、さらに半年後旅商人に引き取られ、その商人に連れられてサザンポール亜大陸に向かいましたが、途中で船が難破し、リーベンに別の若い商人の方と共に漂着しました。
そうして出会ったのが養父上様で実は三人目の養父となります。
正直なところ、子供故の記憶かどうか、三日前までは即物的でして、すぐに忘れてしまっていたために、ここまで詳しい過去の記憶を持っていたわけではなかったのすが、三日前の夜を境に詳しい私の経歴と能力を知ることができるようになりました。
残念ながら体力的には6歳児のままですが、魔力についてはおそらく王宮の魔法師に決して引けを取らない力がございます。
かくなる上は、養父上さまに仮親となっていただいた恩返しをした後で、いずれ私は故郷のエルドリッジ大陸へ旅立ちたいと存じています。」
初めて聞くマルコの凄まじいまでの身の上話の内容にも驚いたが、それ以上に、その大人びた話しぶりに驚くカラガンダ老であった。
しかしながらそれを顔には出さず言葉を紡いだ。
「エルドリッジとな・・・・。
遠いのぉ。
あちらこちらと交易に渡り歩いた儂でさえ、サザンポール東岸までじゃ。
それより東への道などこれまで訪れようとも思わなかったわ。
お前の希望は分かった。
なれど6歳になったばかりのお前を今一人で旅立たせるわけには行かぬ。
せめて儂の住むマーモット王国で成人となる12歳までは儂の元で過ごすがよい。
12歳になったなら商人になるなり、冒険者になるなりして旅に出るがよかろう。
冒険者ならば10歳で登録だけはできるでな。
商業ギルドは12歳の成人にならねば登録をさせてくれんし、登録できても大人の庇護が無ければまともな商売はできぬじゃろう。
じゃから、それまでは妻のステラの側で、ステラの寂寥感を慰めてはくれぬか?」
「養父上様の望みは分かりました。
なれど、先ほど申した通り、権力者から横やりが入った際には即座に養子縁組を解除ください。
さもなければ、私が困ります。」
「ふむ・・・。
要は、儂らが足手まといになるということかな?
そんな場合は儂らを気遣わずに捨てて行けばよい。
儂らはどうせ老い先短い命じゃ、いつお迎えが来ても構わぬでな。」
「知己となった親しい人々を切り捨てるのは難しいと思います。
此度もワイバーン二匹を見かけたときには迷いました。
あるいは雇われた冒険者たちで撃退できるかもしれないとささやかな希望もあったからです。
でも五匹になったときに、その希望が潰え、見捨てられなくなりました。
私が何もせずにいることもできましたが、その方法は取りたくありませんでした。
そうして、将来起こりえることとして私が養子のままでは養父上さまに迷惑のかかる行為はできません。
一方で、養子縁組を切り、私が当該権力者の手の中にあれば、その権力者が私を抑えられないのはその権力者の責任にしかなりません。
まぁ、理屈がそうでも、無茶を言うのが権力者なのでしょうが、仮に養父上さまに危害を及ぼしそうな場合は、その権力者そのものを脅し若しくは抹殺します。
但し、これは最後の手段でしかありません。」
女児と間違えるほど可愛いわずかに6歳のマルコが口にする恐ろしい言葉を唖然として聞いていたカラガンダ老だが、この子ならば実際にやりかねないと感じていた。
大人に臆さない豪胆なところを何とはなしに感じていたカラガンダ老の直感は当たっていた。
大人どころか王家でさえ何の感慨もなく切り捨てられる意志の強さを持っているのである。
そうして、例え他人ではあろうとも、その命の大切さを知っている者でもある。
カラガンダは、どのような教育を受けたらこのような子に育つのかと不思議に思った。
先ほど聞いた限りでは左程の教育機会があったわけでは無いはずなのだ。
「マルコは、魔法について誰かに習ったわけではないのかな?」
マルコは真実の全てをカラガンダ老に告げることを回避した。
マルコの秘密を開示することは、権力者から睨まれることになりかねないからである。
「誰かから私が直接に魔法を習ったことはありません。
ですが、おそらく過去に生きた魔法師の方の記憶を受け継いでいるのではないかと思います。
ですから、これまで一度も使ったことのない魔法を使えました。」
「ほう、生まれ変わり?のようなものかな?」
「そうかもしれません。
いずれにしろ6歳の私では本来覚えきれない数の魔法を知っているのです。」
「生まれ変わりであれば、元の名を知らぬのか?」
「名ですか?
うーん、合っているかどうかはわかりませんが・・・。
クロジアのプラトーンという人の様です。」
「クロジア?プラトーン?
ウーム、いずれも聞いたことがないな。
そもそも年代がわからねば調べようもないか・・・。」
「そうですね。
この人物を追いかけることで得ることは余りないと思います。
そもそも、この世界の人だったかどうかも分かりませんので。」
「何と・・・。
別の世界の人物の生まれ変わり?
そんな話など・・・。
いや、生まれ変わりそのものがあまり聞いたことのない話ではあるな。
リーベンのお伽噺に、とある国守が生まれ変わってリーベンの天子の世継ぎになった話はあるようだが、そもそも文字さえあったかどうか不確かな時代の話で、真実だったという証拠はない。
むしろ伝えられている話が神話じみていて、どれ一つとして信用に足る話では無い。
雲に乗って天孫が大地に降臨した話や、大きな岩を綱引きして生まれた国造りの話、さらには、天に輝くお日様が岩戸に隠れたために世界は闇に包まれたとか、聖人が虐待をされた奴隷を引き連れてとある苛烈な王の領地を離れる際に、聖人の祈りに応えて海が割れ、海底に道ができた等々、奇想天外な話の中にある話の一つだから飽くまで寓話と捉えるべきと考えてはおるのだが・・・。
実際に身近に生まれ変わりかもしれないと言う者が居り、その者が只者ではない力を示したとあれば信じざるを得ないかも知れぬなぁ。」
そう言ってまじまじとカラガンダ老はマルコの顔を見るのだった。
翌日以降の下りの行程では、他の隊商とのいざこざなど多少の揉め事はあったものの、概ね無事に日程をこなし、一月後にはカラガンダ老が率いる隊商はマイジロン大陸中東部域の東端に当たるバンナと呼ばれる大草原地帯に足を踏み入れていた。
「申し訳ございません。
但し、私が自分の能力に気づいたのは三日前のことなのです。
三日前、私はどうやら6歳の誕生日を迎えたようで、そのことがどう作用したのかわかりませんが、私は魔法を含む多くの能力を持っていることが分かったのです。
例えば、私が生まれたのはエルドリッジ大陸のハレニシアというエルフの里です。
三日前まで私はその名も覚えてはおりませんでした。
その里には私の両親それに兄と妹が住んでいるはずです。
私が三歳の時、人攫いに誘拐され、隣のオズモール大陸に運ばれ、そこで子のない夫婦に売られました。
しかしながら4歳の折にその仮親が強盗に襲われ亡くなったために、私は孤児院へ引き取られ、さらに半年後旅商人に引き取られ、その商人に連れられてサザンポール亜大陸に向かいましたが、途中で船が難破し、リーベンに別の若い商人の方と共に漂着しました。
そうして出会ったのが養父上様で実は三人目の養父となります。
正直なところ、子供故の記憶かどうか、三日前までは即物的でして、すぐに忘れてしまっていたために、ここまで詳しい過去の記憶を持っていたわけではなかったのすが、三日前の夜を境に詳しい私の経歴と能力を知ることができるようになりました。
残念ながら体力的には6歳児のままですが、魔力についてはおそらく王宮の魔法師に決して引けを取らない力がございます。
かくなる上は、養父上さまに仮親となっていただいた恩返しをした後で、いずれ私は故郷のエルドリッジ大陸へ旅立ちたいと存じています。」
初めて聞くマルコの凄まじいまでの身の上話の内容にも驚いたが、それ以上に、その大人びた話しぶりに驚くカラガンダ老であった。
しかしながらそれを顔には出さず言葉を紡いだ。
「エルドリッジとな・・・・。
遠いのぉ。
あちらこちらと交易に渡り歩いた儂でさえ、サザンポール東岸までじゃ。
それより東への道などこれまで訪れようとも思わなかったわ。
お前の希望は分かった。
なれど6歳になったばかりのお前を今一人で旅立たせるわけには行かぬ。
せめて儂の住むマーモット王国で成人となる12歳までは儂の元で過ごすがよい。
12歳になったなら商人になるなり、冒険者になるなりして旅に出るがよかろう。
冒険者ならば10歳で登録だけはできるでな。
商業ギルドは12歳の成人にならねば登録をさせてくれんし、登録できても大人の庇護が無ければまともな商売はできぬじゃろう。
じゃから、それまでは妻のステラの側で、ステラの寂寥感を慰めてはくれぬか?」
「養父上様の望みは分かりました。
なれど、先ほど申した通り、権力者から横やりが入った際には即座に養子縁組を解除ください。
さもなければ、私が困ります。」
「ふむ・・・。
要は、儂らが足手まといになるということかな?
そんな場合は儂らを気遣わずに捨てて行けばよい。
儂らはどうせ老い先短い命じゃ、いつお迎えが来ても構わぬでな。」
「知己となった親しい人々を切り捨てるのは難しいと思います。
此度もワイバーン二匹を見かけたときには迷いました。
あるいは雇われた冒険者たちで撃退できるかもしれないとささやかな希望もあったからです。
でも五匹になったときに、その希望が潰え、見捨てられなくなりました。
私が何もせずにいることもできましたが、その方法は取りたくありませんでした。
そうして、将来起こりえることとして私が養子のままでは養父上さまに迷惑のかかる行為はできません。
一方で、養子縁組を切り、私が当該権力者の手の中にあれば、その権力者が私を抑えられないのはその権力者の責任にしかなりません。
まぁ、理屈がそうでも、無茶を言うのが権力者なのでしょうが、仮に養父上さまに危害を及ぼしそうな場合は、その権力者そのものを脅し若しくは抹殺します。
但し、これは最後の手段でしかありません。」
女児と間違えるほど可愛いわずかに6歳のマルコが口にする恐ろしい言葉を唖然として聞いていたカラガンダ老だが、この子ならば実際にやりかねないと感じていた。
大人に臆さない豪胆なところを何とはなしに感じていたカラガンダ老の直感は当たっていた。
大人どころか王家でさえ何の感慨もなく切り捨てられる意志の強さを持っているのである。
そうして、例え他人ではあろうとも、その命の大切さを知っている者でもある。
カラガンダは、どのような教育を受けたらこのような子に育つのかと不思議に思った。
先ほど聞いた限りでは左程の教育機会があったわけでは無いはずなのだ。
「マルコは、魔法について誰かに習ったわけではないのかな?」
マルコは真実の全てをカラガンダ老に告げることを回避した。
マルコの秘密を開示することは、権力者から睨まれることになりかねないからである。
「誰かから私が直接に魔法を習ったことはありません。
ですが、おそらく過去に生きた魔法師の方の記憶を受け継いでいるのではないかと思います。
ですから、これまで一度も使ったことのない魔法を使えました。」
「ほう、生まれ変わり?のようなものかな?」
「そうかもしれません。
いずれにしろ6歳の私では本来覚えきれない数の魔法を知っているのです。」
「生まれ変わりであれば、元の名を知らぬのか?」
「名ですか?
うーん、合っているかどうかはわかりませんが・・・。
クロジアのプラトーンという人の様です。」
「クロジア?プラトーン?
ウーム、いずれも聞いたことがないな。
そもそも年代がわからねば調べようもないか・・・。」
「そうですね。
この人物を追いかけることで得ることは余りないと思います。
そもそも、この世界の人だったかどうかも分かりませんので。」
「何と・・・。
別の世界の人物の生まれ変わり?
そんな話など・・・。
いや、生まれ変わりそのものがあまり聞いたことのない話ではあるな。
リーベンのお伽噺に、とある国守が生まれ変わってリーベンの天子の世継ぎになった話はあるようだが、そもそも文字さえあったかどうか不確かな時代の話で、真実だったという証拠はない。
むしろ伝えられている話が神話じみていて、どれ一つとして信用に足る話では無い。
雲に乗って天孫が大地に降臨した話や、大きな岩を綱引きして生まれた国造りの話、さらには、天に輝くお日様が岩戸に隠れたために世界は闇に包まれたとか、聖人が虐待をされた奴隷を引き連れてとある苛烈な王の領地を離れる際に、聖人の祈りに応えて海が割れ、海底に道ができた等々、奇想天外な話の中にある話の一つだから飽くまで寓話と捉えるべきと考えてはおるのだが・・・。
実際に身近に生まれ変わりかもしれないと言う者が居り、その者が只者ではない力を示したとあれば信じざるを得ないかも知れぬなぁ。」
そう言ってまじまじとカラガンダ老はマルコの顔を見るのだった。
翌日以降の下りの行程では、他の隊商とのいざこざなど多少の揉め事はあったものの、概ね無事に日程をこなし、一月後にはカラガンダ老が率いる隊商はマイジロン大陸中東部域の東端に当たるバンナと呼ばれる大草原地帯に足を踏み入れていた。
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